蜘蛛
ウルフは静かに、だが熱を帯びた口調で言った。
「魂を生み出すって事は倫理的には命の軽視という事で、禁忌とされている。そんな倫理に逆らう『反骨心』なども必要だ。」
ーー反骨心。
成程。確かにその通りだ。
魂を生み出すというのは倫理に逆らう行為。
歩む事が許されない道。
だからこそ、歩む為には大きな「覚悟」が必要になる。
ネラは胸の奥で静かに頷いた。
湖のほとりの風が、彼女の髪を軽く揺らす。
「反骨心のイメージは闇属性だ。だから、お前は無意識的に闇属性も根源の力に複合させている」
ーー何かがおかしい。
ウルフの言っている言葉は正しい。
それなのに、心に響いて来ない。
何故、今、自分はこんな気持ちになっているのだろう。
ーー蜘蛛だ。
ーー何処かに蜘蛛がいる。
この心の部屋に、小さき存在ではあるが、大きな毒を持つ蜘蛛が紛れ込んでいる。
「貴方は森に帰りなさい。ここは私の部屋なの」
優しく問いかけても、蜘蛛が答える事はない。
細い糸のようなものが、まだ心の奥に絡みついている。
「闇属性……そう、私の中の暗い感情も、確かに力の源になっていたのね……」
ネラは静かに言葉を発した。
発する事で、余計な物を排除し、整理をする。
水晶……魔導書……フラスコ……インクの瓶……羽ペン……
今、そんな物は何一つ必要ない。
ーー毒蜘蛛は何処に隠れている。
ネラの指が震える。
ウルフの言葉は正しいはずだ。
なのに、なぜ心がざわつくのか。
この蜘蛛の糸は、どこから伸びてきたのか。




