二人の違い
ウルフは大きく息を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出した。
ネラはただ静かに待つ。
ーーきっと言葉を纏めているのだろう。
彼の研究室が整うのを、ただ、黙って待つ。
霧が残る森の空気が、二人の間に静かに満ちていた。
「……最初に言っておくぞ。お前は最高に優秀だ。自分の生成プロセスを理解していないのなんてどうでもいい。『感覚』でそれを生み出せたんだからな? 探究者の見本だ」
ウルフは落ち着いた、抑揚のない声で話し始めた。
その言葉に、ネラの水瓶を抱える手が小刻みに震える。
ーー彼はまだ研究室の整理中だ。
だからこそ、こんな研究と関係のない話が出る。
だが、それこそが彼の本心。ありのままの心。
ウルフは自分の事をそこまで……
ネラはウルフの抑揚のない言葉に強く惹きつけられる。
胸の奥で、青白い光が静かに灯る。
「そんな……褒めすぎよ。でも、あなたの言葉が嬉しいわ」
ーーだからこそ、声に出す。口にする。鎮火させる。
言葉と同時に、思考を散らす余計な物を外へと放り出す。
次に彼から出てくる言葉は恐らく研究に関する物。
彼と同じように、自分の研究室も整えておかなければならない。
ネラは静かに息を整え、水瓶をそっと地面に置いた。
ウルフはゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
どうやら、彼の部屋は整ったようだ。
ーー私も整った。大丈夫。
「さて、前回の解析では『根源の力』とは『大地の生命力』と『光の命そのもの』と『水のような形のない物』が複合されて出来ていると結論づけたな? だが、ここにネラの『無意識の感覚』も当然混ざってる。二つ解析出来たぜ」
ーー感覚と解析。
成程。彼と私の違いはそこだったのか。
彼が行なっているのは、森の地図を正確に描き、今辿り着いているまでの道筋を解析して、より確かな道筋を切り開くもの。
それに対して私は逆だ。
森の奥に「行きたい場所」があると信じて、感覚で木々を掻き分けるだけ。
道は、後からできる。
そこが完全なる彼と私の違いだ。
彼が私の辿り着いた「水のような形のないもの」という場所までの地図を描いた。
ネラは息を飲んだ。
きっと今、自分の瞳は輝いているのだろうと感じる。
他にも何か混ざっていたのか。
ーー知りたい。
自分自身がこれまで歩んできた道。
そこに気づいていない物があるなんて、許す事が出来ない。
ウルフの次の言葉をただただ、待つ。
森の木々は、静かに葉ずれを立てる。




