再会
「ウルフ、ここよ」
水瓶を抱えながら、ネラは声の元に姿を見せた。
霧が残る木々の間から、ゆっくりと歩み出る。
「あぁ、いたか……」
ネラの姿を確認したウルフは、安堵したかのように肩を落とした。
黒い外套が軽く揺れ、メイニヤックが低く鼻を鳴らす。
「ほら、やっぱりいるじゃねぇかよ。そんなに慌てなくて大丈夫だったんだよ……」
肩に乗っていた鳥が、飛び上がり、羽をなびかせながら空中で待機し、ウルフに向かって言っている。
滑空するその姿は、風に遊ぶ葉のように軽やかだ。
ネラは溢れ出そうになる笑いを堪えた。
確か、あの鳥はウルフの召喚獣のはずだ。
使い魔が主に向かって、あのような言葉を放つなどという事もあるのか。
確かに、あの鳥は「迂回経路」以上の何かを秘めていそうだ。
ーー彼は確か、アルクと言っていたかな?
確認してみよう。
「アルク……で、大丈夫かしら……? また会いに来てくれてありがとう」
少し、優しい笑みを作り、礼の言葉を言ってみる。
柔らかく、落ち着いた響きを帯びさせて。
「アレ? 前に来た時に、自己紹介してなかったか……? そうだぜ、俺はアルクだ! しっかり覚えておいてくれよ!?」
ーーこれは厄介な返事だ。
前に来た時には、自己紹介はして貰っていない。
今、自分が遠くから聞こえて来たウルフ達の声で知ったのだ。
ネラは必死に笑いそうになる想いを押し殺す。
彼女は心を静める為に、改めてウルフ達を眺める。
鮮やかな緑と赤の羽を持つアルク。
闇を凝縮したような黒犬のメイニヤック。
そして主のウルフ。
この三人で彼らは平原を旅しているのだろう。
果てしない風の平原を、自由に、気ままに。
「ええ。しっかり覚えさせてもらうわ」
ネラは再び、笑顔を作ってアルクに答えた。
その笑みは、半分は作った物。だがもう半分は作っていない物。
ウルフが冷淡に、だが力強い声で言った。
「アルクとの話なんてどうでもいい。この前、お前と話した後にゆっくり頭の中を整理したら『根源の力』の解析が足りてなかった事に気付いた事がある。」
ネラは驚いた。
「まさか……私の理論について、もっと深く考えてくれたの?」
前にウルフと話したのは何日前の出来事だ?
少なくても、まだ一ヶ月は経っていないはずだ。
それなのに、彼は新しい物を見つけたのか?
ネラの胸に、静かな波が広がる。
それは、湖面に落ちた石の波紋のように、ゆっくりと、しかし確実に広がっていった。




