最後の魔法
「お前、森に篭った変わり者と言われてるみたいだけど、俺は全くそうは思わねぇ。俺は色んな場所を旅して強い人間に喧嘩吹っかけて、ソイツの使う発想を頂いてるんだよ。同じ探究者だ」
ーー予想は出来ていた言葉。
きっと彼は私にこういった言葉を投げるのだろうとは、わかっていた。
だけど、自然と視界が滲む。
これは彼の魔法なのだろうか?
いや、そんなわけはないな。
どうでもいい考えが、ネラの頭を過ぎる。
ただ、ゆっくりと胸の奥で何かが溶けていく。
「初めて……私の研究を否定せずに、理解してくれる人に出会えた……」
言葉が自然と漏れる。
何も考えず、何も計算せず、ただただ自然に。
ネラの声は、震えながらも、どこか柔らかかった。
「俺は学会に一撃加えれそうな所まで辿りついたぜ。アンタも頑張れよ。俺の名前はウルフだ。また発想に悩む事になったら遊びに来るぜ」
ウルフは背を向け、メイニヤックと肩に乗る鳥と共に研究室から出ていく。
扉が閉まる音が、静かに響いた。
ーーウルフ。
彼の名前。
この名前は記憶に刻まなければならない。
禁忌の研究は権威や地位で始まるのではない。
「真理の追求」から始まる事だ。
この言葉は自分の中では忘れる事がない、強く刻まれた言葉。
だから、それと同じように彼の名も刻もう。
彼もまた根源の力のように大きな何かを生み出せるだろう。
ネラはそっと自分の胸に手を当てる。
心臓の鼓動が、静かに、しかし確かに響く。
「ウルフ……ありがとう。次は私の新しい理論も聞いてね……」
新しい理論を伝える為には、再びあの森に戻る事になる。
だが、そこは暗い森ではない。
微かにだが、青白い光が差し込み、柔らかな風が吹く事もある森。
その森で、新たな何かを探そう。
孤独な魔女は小さな微笑みを浮かべ、強い決意をした。
研究室の隅で、青白い光が優しく揺らめく。
背後の道は、確かに灯っている。
前方はまだ闇のまま。
だが、今、風が吹き始めた。
それは、平原の風のように、自由で、果てしない。




