孤独な魔女
男は続ける。
その声は、暗い。だが、何処か温かみを感じる。
「俺は禁忌じゃないけど、ほら……召喚魔法は暴走の危険があるとかで、使えない魔法扱いされてただろ?」
ーーあぁ、そうか。その通りだ。
彼の言う通り、召喚魔法には古くから「暴走の危険」が叫ばれている。
古代の記録に残る、制御を失った竜が一つの街を灰にした逸話すら、今も語り継がれている。
それに、私も何かの書物で見た。
「火を操る召喚獣を創出する労力を費やすのであれば、最初から火の魔法を極限まで高め、誘導弾を自在に操る術等を完成させるべきである」
召喚魔法とは「迂回経路の一つ」である、と。
男は膝を落とす。
そして、隣に寄り添う黒犬の首に腕を回しながら言った。
「それにムカついて、暴走もしないすげぇヤツ作ってやるって反骨心でメイニヤック生んだの」
ーーその通りだ。
黒犬は真っ直ぐな瞳で私を見つめている。
肩に乗る鳥も首を左右に振りながら私を見つめている。
あれは誂っているのか……?
だが、その瞳もまた真っ直ぐだ。
彼らに暴走の気配などは微塵も感じない。
それどころか、彼らには迂回経路以上の何かを感じる。
「そう……私達って似てるのね。既存の理論に縛られない研究者同士……もっと語り合いたいわ」
自然と自分の口から言葉が漏れる。
きっと、私の瞳も今、彼らと同じように真っ直ぐに輝いているのだろう。
「いや、俺はもう満足した。とりあえず、今日勉強になったわ」
しかし、男の口からは出たのは、拒否の言葉。
ネラの胸に、微かな痛みが走る。
「もう……帰ってしまうの? まだ話したいことが……」
ーーわかっている。
彼はそういう選択をする男だというのはもうわかっている。
あの選択は覆る事はないだろう。
ーーそれでも。
そっと魔法の書を閉じ 、
弱々しい言葉で、
寂しさを含め、
切ない想いに押し潰されそうな孤独な魔女を演じて言ってみる。
これは駆け引きだ。




