森の迷い子
異物は燃え続ける。
男の口調は落ち着いている。
しかし、何処か強い。
言葉の端に、静かな何かが宿っている。
ネラは感じた。
ーー敵意。
いや、少し違う。
言葉にするなら「怒り」が一番近いような気がする。
「そこを細かく解析出来てないヤツが、魂を操作するなんて道徳的にどうたらこうたらって言って禁忌扱いにしてんだろ?」
ーーそう。その通り。
彼らは理解出来ていないだけ。
私は理解出来ている。
理解出来ているから『禁忌』ではなく『根源の力』へと辿り着いた。
暗い森の中に佇む、孤独な自分自身。
その背後に、青白い光がまるで道のように灯る。
ネラは魔導書を握り締め、声を振り絞った。
「そう……彼らは理解できないから、恐れて禁忌にしたのね。でも私は……」
ーー信じて、森の中へと入る事を決めた。
自分がここに、新たな道を作れると信じて。
誰もが恐れた森。
誰もが拒んだ森。
人も、鳥も、虫すらいない孤独な森。
目を覚ませば時の感覚すら失っている。
目の前はずっと暗闇だった。
後ろもずっと暗闇だと思っていた。
それでも、ただただ歩いた。
孤独の木々が立ち並ぶ中を、己だけを、信じて。
男が再び、口を開く。
それは柔らかい。
「だから、俺、お前みたいなヤツ大好きなんだよ。俺も同じだったの」
ーー怒りではない。
だが、理解でもないような気がする。
ネラの瞳に、自然と涙が浮かび上がる。
それは、炉の火が一瞬だけ揺らぎ、薪の隙間から零れ落ちる雫のように。
涙は頰を伝い、静かに落ちた。
「同じ……?あなたも、禁忌とされた研究を……?」
ーー彼もまた「迷い子」なのか?
永遠に感じてしまうような孤独な森で、出口を見つけられない迷い子。
誰もが恐れた森を、誰もが拒んだ森を、それでも己を信じて入ってしまった迷い子。
ネラは魔導書を胸に押し当て、息を詰めた。
部屋の空気が、初めて温かくなった気がした。
もう彼の事は異物には見えてはいない。
きっと彼の炎は私の炉と共鳴し始めているだろう。
背後に光る灯火が、少しだけ前にも伸びたような――そんな錯覚が、胸を満たした。
研究室の隅で、青白い光が微かに揺らめく。
次の言葉を、待つように。




