土曜の午後、~水の中で~
全面的に自己責任でお願いします。
土曜日。
午前中は、普通に学校。
平日より少し短い授業やけど、国語と算数はしっかりある。
(昔は土曜授業、当たり前やったな)
チャイムが鳴って、終わりの会。
「「起立、気を付け、礼!さようなら!」」
「はーい、気ぃつけて帰りや」
教室を出ると、すぐに武が寄ってきた。
「有利、今日スイミングやんな?」
「うん、午後から」
「俺もや」
二人で昇降口へ向かう。
学童に行って、昼ごはんを皆で食べる。
家に帰り、少し休んでから、スイミングバッグを持つ。
「行ってきます」
プールは、午後の方が人が多い。
学校帰りの子どもたちで、少しにぎやかや。
「おっす」
団地の前でバスを待っていると、武が声をかけてくる。
「おつかれー。」
バスに乗り、スイミングへ向かうあいだアニメの話で笑い合う。
服を着替えて水に入ると、身体が一気に切り替わる。
午前中、机に向かってた感覚が抜けていく。
(切り替え、早なってる)
呼吸。 姿勢。 リズム。
金曜の空手で意識してることが、そのまま泳ぎに出てくる。
力を入れすぎない。
軸をぶらさない。
(あ、これや)
前より、疲れにくい。
ターン後も、落ち着いてる。
「有利、今日なんか安定してへん?」
練習後、武が言った。
「そう?」
「うん。なんか……無駄がない」
「それ、空手のおかげかも」
「また空手か」
武は苦笑する。
「そんな違うん?」
「全然ちゃうで」
有利はタオルで髪を拭きながら言う。
「呼吸とか、姿勢とか、スイミングと似てる」
「へぇ……」
「水の中でバタバタせんくなった」
「それ、めっちゃ分かるわ」
武は少し考えてから言った。
「なあ、有利」
「ん?」
「俺さ……空手、ちょっと興味出てきた」
「まじで?」
「うん。強くなりたいっていうよりさ……」
一瞬、言葉を探してる。
「落ち着きたい」
その言葉に、有利は小さくうなずいた。
「それなら、向いてると思うで」 「ほんま?」
「派手ちゃうし、地味やけど」
「地味でええわ」
武は笑った。
「今度、見学行ってもええ?」 「先生に聞いてみよか?」
「うん!」
即決やった。
家に帰る道。
忙しいけど、しんどくない。 身体も、気持ちも、ちゃんとついてきてる。
(前の人生とは、全然ちゃう)
無理してへん。
逃げてもあらへん。
ただ、積み上げてるだけ。
それが、一番強い。
金曜日の夕方。
家で道着に着替え、帯を結ぶ。
白い布が肌に触れる感覚にも、もう慣れた。
鏡の前で、帯がちゃんと結べているかだけ確認する。
(よし)
玄関を出ると、ちょうど武も道着姿で自転車を押してきた。
「お、今日も白いな」
「そっちもな」
二人で笑い、自転車にまたがる。
夕方の風が、道着の袖をぱたぱた揺らす。
すれ違う人が、ちらっと見るのも、もう気にならへん。
「最初、道着で外出るん恥ずかしかったよな」
「分かる。でも、今は別に」
「慣れってすごいな」
道場までは二十分。
信号も坂もあるけど、二人で並んで走るにはちょうどええ距離や。
走り出してしばらくすると、自然と息が整ってくる。
脚も、心肺も、前より確実に強くなっているのが分かる。
(スイミングの効果、ここでも出てるな)
「有利さ、全然息上がらんよな」
「武もやろ」
「まぁな。でも前より楽やわ」
道着で自転車をこぐこの二十分が、
もう稽古の一部みたいになっていた。
~三年生の身体~
三年生になって、ふと気づいた。
(……あれ?)
朝、服を着替えるとき。
道着の袖が、前より少しだけ短く感じる。
「こんなんやったっけ?」
母に言うほどでもない。
けど、確実に身体は変わってきていた。
体重も、それなりに増えた。
前の人生みたいに、ぶくぶくっと丸くなる感じもない。
その代わり、肩が少し張ってきて、腕や脚がしっかりしてきた。
スイミング素晴らしい。
(これは、将来細マッチョまっしぐらやな!ニヤニヤ)
少しニヤつく顔をほぐす。
水に入った瞬間の冷たさに、もう身構えなくなった。
息が苦しくならない。
長い距離を泳いでも、腕が重くならない。
(あ、これ…この前より速い)
タイムを測らんでも分かる。
水をかく感覚が【前に進む】感覚だ。
更衣室で、武は言う。
「有利、最近フォームきれいになってない?」
「そう?」
「うん。無駄にバシャバシャしてへん」
それが、妙に嬉しかった。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




