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『逆行転生~新しい自分と人生~』  作者: 椿 有利


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14/17

~二日目変わらぬ日々~~

全面的に自己責任でお願いします。


「……にゃんとちゅうとにゃんとな、残念ですけど朝ですよ〜」


またや。


容赦なく、あの間の抜けた電子音が鳴り響く。


(残念て言うな言うてるろ……)


半分寝ぼけたまま手を伸ばし、目覚ましを止める。


手を見てグーパーグーパー。


(夢とちゃうな。)


身体を起こすと、どこも痛くない。

息も苦しくない。

胸の奥にあった、あの重たい塊もない。


それだけで、今日はええ日やと分かる。


のそのそと起き出して布団をたたみ、着替える。


パンをトースターに入れポットで湯を沸かす。

その間に洗面所で顔を洗う、冷たい水が眠気を流してくれた。


鏡に映る男の子。

椿 有利。


(うん。今日も、ちゃんと小学生男児や!)


歯を磨き、終えてキッチンへ行きラジオをつける。


父は昼過ぎに帰ってくるだろう。今日は、休みだから。


この家の朝は、いつもこうや。


昨日と同じ音、同じ匂い。

(この「同じ」が、こんなに安心するもんやとはな)


パンが焼けるころ、襖がすっと開く。


「……おはよ」


昨日と同じ、少し眠たそうな母の声。


「おはよう」


それだけのやりとり。

でも、胸の奥があったかい。


コーヒーの匂いが広がる中、パンをかじる。


(昨日も思ったけど……朝が、怖くない)


それだけで、前の人生とはまるで違う。


登校、二日目


分団登校の集合場所には、もう見慣れた顔が集まっていた。


「おはよう、有利」

「おはようございます」


昨日より、声が自然に出る。


武もいた。


「有利!おはよー!今日もよろしくな。」

「おはよー!うん。よろしく!」


列が動き出す。

昨日より足取りが軽い。


(慣れるって、こういうことなんやな)


学校が近づくにつれて、胸がきゅっとする感じもない。

嫌な予感も、身構えもない。


(今日は、今日はでええ)


それう思って歩く。



教室・二日目


机の上にはもう教科書が並んでいる。


「なあ有利、昨日の宿題や4か?」


武が小声で聞いてくる。


「やったで!武もやってきたやろ?」

「まぁな!」


笑う。

軽い。


二日目の授業は、少しだけテンポが上がる。

算数も国語も、昨日より当てられる回数が増えた。

でも、有利は手を挙げすぎない。


(全部取らんでええ)


前に出るのは、必要な時だけ。

「できるやつ」になりすぎない。

でも、「できないふり」もしない。


そのバランスを、ちゃんと守る。


給食の時間


給食当番の子が、白衣を着て配膳を始める。


(今日休みおらんから、牛乳は余らんやろうな)


牛乳。

ごはん。

今日のおかずは、煮物と焼き魚。


「魚かぁ」


誰かがぼそっと言う。


「俺、魚好きやで」


有利が言うと、


「渋いな」


と笑われる。

でも、馬鹿にした感じじゃない。


(こういうのが、ええ)


「いただきます」


みんなで声をそろえる。

温かい。

ちゃんとしたごはん。

ちゃんとした昼。


(前は……食べることすら、しんどい時期もあったな)


そう思っても、今は引きずらない。


魚を食べる。

普通に、おいしい。


(「普通」が、ちゃんと「おいしい」)


それが、今は何より嬉しかった。


放課後へ向けて


午後の授業も、特別な事件は起きなかった。


でも、有利は分かっている。

何も起きない一日こそ、積み重ねる価値があるってことを。


チャイムが鳴る。


「はい、今日もよくがんばりました。終わりの会をおわります。」


先生の声。


「「起立、気お付け、礼「さようなら」」」


「さようなら。気お付けて帰えるのよ」


椅子を引く音。

ランドセルを背負う音。


「また明日な!」

「うん、またな!」


そのやりとりを交わしながら、有利は思った。


「武ー帰ろー!」

「おう!帰ろー!」


(この人生は、ちゃんと「続いていく」)


一日一日。

逃げずに。

無理せずに。

そして、確実に――

前とは違う未来へ。



~水の中の自分~


土曜日が来た!

久しぶりのスイミングだ。


スイミングバッグを肩にかける。

午前中は、学校だった。

この時代は、まだ土曜日は学校があったんだ。

昼を学童で食べて、家に帰り、スイミングのバスに乗る。


バスは、団地の前に止まるから、オレはラッキーだ。


濡れたタオルと塩素の匂いと、ビニールの音。


(懐かしいな……)


前の人生でも、スイミングは好きやった。

水に入る感覚も、泳ぐこと自体も、好きやった。


ただ――続けられへんかった。


(すぐ、体調崩してた)


泳いだ次の日に、熱。

少し無理をすると、風邪からの喘息発作で入院。


周りは元気でも、自分だけが、布団の中。


「体弱いな」

「無理せんほうがええんちゃう?」


そんな言葉が、だんだん重なっていって、気づいたら、やめていた。


(根性が足りんかったわけやない)


体が、ついてこんかっただけや。


(今回は……)


今の体を、ゆっくり感じる。


息。

心臓の音。

足の感覚。


(ちゃんと様子見ながらや)


無理はせえへん。

頑張りすぎへん。


更衣室で服を脱ぎ、スイミングパンツに着替える。

鏡に映るのは、前よりずっと小さい体。


(この体は、まだ弱い)


せやけど。


(前みたいに壊れた体やない)


プールサイドに立つ。

塩素の匂い。

水の揺れ。

足を入れる。

冷たい。


(今日は、少しでもええ)


水中にいること自体を、目標にする。


「今日はクロールの基本なー」


コーチの声。


有利は、深呼吸してから、水に入る。


バタ足。

腕のかき。

息継ぎ。


(……しんどくない)


前みたいに、胸が苦しくならへん。


頭が、ふらつかへん。


(あ、いける)


体が、ちゃんとついてきてる。


「椿くん、フォーム安定してるな」

「ありがとうございます」


淡々と返す。

浮かれへん。


(調子に乗ったら、あかん)


前は、

「できる」=「もっとやる」

で、潰れてきた。


今回は違う。


泳ぎ終わると、少し疲れている。

でも、嫌なだるさやない。


(この疲れなら、大丈夫)


プールから上がり、タオルで体を拭く。


寒気はない。

震えもない。


(今日は、熱出えへんやろ)


それだけで、少し安心する。



無理せず、今回は六年生まで続けるつもりだ。


有利は、スイミングバッグを持ち直しバスへと向かった。



読み終わってのクレームは、お止めください。

自己責任です。

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