陽だまりの羅針盤

駅前の静かなカフェの窓際で、分厚い心理学の専門誌を広げていた。外は初夏の強い日差しがアスファルトを照らしているが、店内に漂うコーヒー豆の深煎りの匂いと、古いジャズのかすかな旋律は、穏やかな静寂を提供していた。

専門誌のページには、「限定的な向社会的感情（LPE）を伴う行為障害の長期予後」という論文が掲載されていた。彼はそのタイトルを指でなぞりながら、過去に自分自身を縛っていた「冷たい眼差し」を思い出していた。

冷たい心は、何も感じない。何も求めない。ただ、世界のすべてが、自分の要求を満たすための道具に過ぎない――。

かつて、彼の心は、外部の痛みや悲しみを感知できない、凍てついた石だった。しかし、今は違う。論文に書かれた抽象的な概念は、彼にとって生々しい記憶と、肉体的な熱さを伴っていた。

向かいの席には、一人の女性が座っていた。彼女は、静かにハードカバーの本を読んでおり、時折、ページをめくる繊細な音だけが聞こえた。彼女の存在は、店内の喧騒の中でも、まるで声なき静けさを纏っているかのようだった。