第一三話:ム テ キ ジ リ ウ ム 光 線 っ て、知 っ て る ?
*——章題の文字数制限(上限255バイト)に引っ掛かって居る様で全文字を表示出来て居りませんでしたが、正式な第二章の章題は、
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第二章:【これはハートフルネスですか?】【ムテキジリウム光線】
(@^*_*)☞——➝✹❤︎ドカアン…☆スキル[壊し屋〈ハートフルクラッシャー〉]の電波少女は青春生活の夢を見るか?〜邪魔過ぎるとひとり生物部から追放された私、偶然捕まえた生徒と共に理想〈ハートフル〉な部活動〈パーティー〉で青春生活〈スローライフ〉を送る事にしました。今更帰って来いと言われてももう遅い〜
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*——です。
購買部の惣菜パン一個買って辿り着かんとする先は、三階。当校舎の階段を登って居た。
俺が、あれからワザワザ渡り廊下を通って、この校舎の三階に来たのは、便所飯をしに行く為では無い。
然し飯を食う為ではある。
全校舎にとって最上階である筈の三階、それ迄の階段を上り切った俺は、更に廊下を歩き‥‥男子厠の隣にある、狭くて暗い階段へと進んで行った。この階段の二〇段かそこらを上った俺は、まるで当然の様にポケットから鍵を取り出す。これをドアノブに差し込んで回し、固く閉ざされたその扉をこじ開ける。やがてキイと音が鳴って扉は開いた‥‥。
こうして着いたのは屋上。朧に陽が射す外は、まこと涙が出そうな程、世にも美しい幻想の様な、ヒカリの光景が広がって居た。
後ろの扉を音の立たぬ様に閉めて、今一度目に入って来たのは‥‥校舎の屋根、白色塗装の混凝土と芝生。そしてニワカに出出した陽射し。
活発に幸い輝く、無数のヒカリのミタマが飛び違って居るかの様な、雨上がりの屋上の景色が‥‥俺を歓迎して居た。‥‥流石にこう思うのはひどく自意識過剰かな。でも、やけに美しく感じられた。
‥‥何故か居る様な気がして上を向いたが、給水塔の上で景色を眺めて居る、カラスを擬人化した様な少女は居なかった。『コンドルは飛んで行く』を三拍子にした様な曲も、「さよなら」も、聞こえない。俺は、責務を全うする教育実習生でも無いので、煙草もライターも持って居ない。因みに今は夕暮れ時でも無い。昼休みの中頃だ‥‥。
屋上から立って見る、高所の景色は良い。ズッとこうして居られる。雄大な山。景色。海。ビル群。頭の中で出来事を整理するにはもってこいの時間。
こっそりと屋上に上がって、パンを持ち込んで食べる‥‥何と優雅な午後の時なのでしょう!これも偏えにぼっち故に可能な事なのだ。何故かって?‥‥複数人で同時に行くと、バレ易い、から‥‥?
‥‥と、とにかく学校でぼっちで過ごすのは最高なんだッ!これは事実、事実だから!うん。
‥‥所で、きっとこう思ったろう。
「ナンデ、一般男子生徒の俺が、屋上に出入り出来るの‥‥?」
と。
それは‥‥俺が勝手に、屋上の鍵を複製したからだ。
‥‥こうする事を思い付いたのは一年生の時の秋だった。
ドンドン、冬に近づくにつれ‥‥乾燥して厠が不衛生になって行くのを目の当たりにした俺は、何とかこれを解決しようと試みたのである。
それに、厠に弁当箱を持ちながら入るのを、他人から見られたくなかった‥‥というのもある。厠で弁当を食べるというのが先づ情け無いし、その上、御弁当箱を持ちながらそこへ入れば一目で便所飯だと分かる。
当然、それを若し見られれば、飛び降りたくなる位恥づかしくなる‥‥というか、俺は二、三度はそうなった。
そんな‥‥大恥をかいたある日の昼休み。良い解決策は無いものか‥‥と、これまた厠で弁当を食いながら考えて居る時に考え付いて仕舞ったのが『そうだ、屋上への鍵、複製しよう。そうして自由に屋上に行き来出来る様にして、そこで昼御飯を食おう』という、インポッシブルなミッションであった。
これを思い付いてからの行動は早かった。早速その週には行動に移した。
俺は何と勤勉な事に、日曜日も自習の為に開いて居る我が学校へ行き、そこで体育服を着た上で、自主練習に来た部活動生を装った。そうして職員室に入ると‥‥弓道部員でも無いのに、何食わぬ顔をして弓道場の鍵を借りると同時に、屋上の鍵をこっそり拝借したのである。
それから俺は職員室の男子厠の個室に引き籠もってひと通りの作業を行った。
元鍵無しに合鍵を作る為に、端末を用いて鍵の立体的な表面全体をスキャンし、撮影。
加えて鍵屋で複製出来無かった時の為に、準備して置いた【少々『特殊』な】粘土で型を取った。
ガリウムか何か、最悪鉛かレジン何かを溶かしてその型に注ぎ込めば何とかなるだろう‥‥と思っての事である。実際には‥‥「使える」実用的な鍵を複製するのには、相当厳密な精度が要求されるから、精々素人程度の技能では、先づこういう風に型を使って巧く複製するのは‥‥かなり無理があるらしいが(——因みに、「かなり無理」とは言っても、「完全に不可能」、という訳では無い。果て無い根気と、数百回以上の試行錯誤を重ねるチャンスを同時に必要とする)。
作業を終えたら、復た直ぐ職員室に向かい「鍵を間違えて借りて居りました」等と言って、持って居るふたつの鍵を戻した。因みにこの後、俺は部活動生では無いのでそのまま帰った。
こうしてやっと、俺はシルバーウィークに帰省したついでに、地元の合鍵屋に寄って、端末の情報から難無く屋上の合鍵を作る事に成功した、という訳だ。
だから、俺はこの屋上の合鍵を持って居る。勿論周りに知られては面倒事になる為、人目に付かない様にこっそり行って居る。
‥‥コミュ障ぼっちには、この位の普通は思い付かない‥‥誰もやろうともしない事を躊躇い無くやってのける力と、活路を求めるガッツ(コレ重要)が必要。で無いと‥‥ぼっちという孤立無援の状態ではマトモにやっていけない。必ず、何処かで支障を来たす。
‥‥ナニかに支障を来たして居るからこそ、ぼっちになったのになぁ‥‥。この世は兎角、生き難い。
‥‥振り返りも終わったので、思考を現実の光景に引き戻した。
相変わらず、目の前の景色、市街地向こうの海——主にカルデラの瀲鴻湾——を麓の前景として、どっぽり鎮まる雄大な山——玞詞之島よ‥‥幾度観ても、その巨大さと、名画に描かれた様な稜線の美しさと、山を囲んで照り輝く、滄海の壮大さに‥‥只々畏敬の念を感じざるを得ない。玞詞之島の青海原の前景として陽に照らされる、人の営み、山を分けた平地に大量に、微小な直方体の玩具の様に並んだ、凡そ地味な色の建物と、ちっぽけな幹線の道筋。
雄大過ぎる自然と対置しても尚活発な人々の栄え。ここ迄良く、発展して来たなぁ‥‥という、過度に俯瞰的な視点から見た感情が込み上げて来る‥‥。やはり、見る者を拒まない美しい風景に、泣きたくなった。
尚、どんなに目を凝らしても‥‥「ツイの空」や「宙に浮かぶ目ん玉」なんてモノは見えない。もっと上を見上げても、「終わりの空」や「縁の空」も勿論当然俺には見えない。ぼっち過ぎて悟りを開き掛けて居るという意味で、見えないモノが見えそうな程には、俺も「到ってる」けど‥‥。後、俺の実の妹(義理も含めて「妹たち」?)はお兄ちゃん好きぢゃ無い。
そんな、視差によって、本来無い空間を見せ上げて輝く立体ホログラムの様な眺望に‥‥俺は、眼を何処迄も奪われつつ、手で持つ衣揚げ芋パンを丁度食べ終わる所であった。
ああ‥‥相変わらず、吸い込まれそうな程に青い、空、綺麗、だ——
————————。
—————ザッ。
——?
「いてっ」
不意に後ろ首に手刀らしきものを食らった。静かに背後から忍び寄った「それ」によって、続け様に又た後頭部に手刀が叩き込まれた。
「いってぇえ!!!!!」
「気絶しなかった。‥‥ド✪ゴンボ✪ルに書いてあるのは嘘、だった‥‥」
「誰だお前はッ!!?」
余りにも強かった二度目の衝撃に、直ぐ様後ろに振り向く。‥‥勿論、コミュ障ぼっち特有の無表情で。
‥‥目の前に現れたのは、雑に着崩した黒い冬セーラー服に、これ又た着崩した白衣姿の女子生徒。下に穿いて居る黒のスカートも、「公然ワイセツ扱いにならん様、最低限社会的に許容される長さであれば問題無いだろ精神」でも持って居ない限りやらかさない様な短さ‥‥。総じて‥‥その辺に転がった碁石みたいに雑な白黒色調が——「ハッキリしない中庸」の色を女子生徒の前面に見せて居る。
けれども‥‥こうして正しく「丁度良い」「中途半端な」「目立たない」「良く言えばシックな」色遣いをして居るのにも関わらず‥‥何処かひとが惹かれて仕舞う様な、独特な魅力を感じさせる出で立ち、をした‥‥ひとりの女子生徒が、俺の後ろに立って居た。全く、彼女が白衣を着て居る事を、不自然だとか奇妙だとかとは思わなかった。馴れた恰好に見えた。
何故か崩れて居るのにやけに様になる彼女の服装と、華奢と言って良い程細身で、かつ何処かあどけない感じがする、その手や首元、足や脚、そしてカラダ全体‥‥如何にも、ライトノベル等の二次元イラストに落とし込めば、その儘美少女になる様な見た目である。こんなキャラクターがゲームやアニメにでも居れば、実にその筋のひと——(俺みたいな)思春期のオタク少年——には好まれる、と思う。少なくとも熱烈に俺はそう。
然し、現実に、三次元の者としてイザ目の前で見てみると‥‥このコンマ何秒かの瞬間でも、何か、こう‥‥そのまんま二次元を無理矢理三次元に再現した、みたいなこの姿に‥‥さっきこの人間に頭を打たれたのも含めて‥‥色々な意味でビックリした。
——因みに、無防備な白衣からはみ出してチョコっと見える、赤のリボンとかも何処か地味な発色だった。胸チラ‥‥等々は見たけど見なかった事にする。チラチラ見てないですよ‥‥!
ここで振り向いてから経過したのは、実に二秒強であった。
これでも白衣の彼女には、未だ、話し始める気配が無い。
そんな彼女に、コミュ障である俺は、どう反応して良いか分からなかった。
それでも精一杯の顧みに、『相手の顔を見ないでコミュニケーションをする』、というコミュ障の悪い癖が発動して仕舞って居るのに自覚した俺が、彼女の首から上、そして頭の天辺、髪の毛の方を見れば‥‥やたら大きな洗濯バサミに似た、赤い髪留めをふたつして居るのに気付いた。但し、髪が十分に束ねられて居ない。意味が分からない。総じて‥‥ツーサイドアップかツインテールの成れの果て‥‥か?
一体その髪留めに何の意味があるんだ‥‥どうにも解せねぇ。出来損なった『借り暮らしのアリ○ッティ』のコスプレみたいな有り様である。
‥‥まだ話し出そうともしない彼女の方を、ぼんやり見れば‥‥風に靡くスカートと白衣をその儘にして佇む、妙に様になった不思議そうな顔をして居る。それはどちらかというと、カワイイ系では無くって、セカイ系に似合う表情だ。いや、どちらにしても結構かわいらしい顔だと思うけど。
そして、俺が名前を問うてから、四秒強の馬鹿らしい、容姿品評の妄想を、終えて漸く経った間に‥‥雨が止んだのにも関わらず、何故か強く吹いて来る、不自然下品な春風に、顔が刺戟されたのか、口に左の手を添えて、「くちゅん!」と小さなくしゃみする、かわいい白衣の美少女。結構かわいい。
「ヒ エ ブレ ッ ドイ カ ? ! ?」
目の前に居る女子生徒は、さっきしたくしゃみの小ささには全く吊り合わない、大きなリアクションをして見せた。
くしゃみによって大事な事を思い出した‥‥ああ、余りに突然の事にビックリしてて暫く失念してたけど、確か——『いつでも何処でも白衣着る凄い女子が居る』って、去年‥‥教室の机で、俺が突っ伏して寝た振りしてる時に聞こえて来た話として、何か聞いた事があった。俺でも、強烈な噂過ぎて耳に残って居る。
『見た目は学年一、若しかすると校内一位には良いのにも関わらず‥‥余りにも行動のクセが強過ぎて、やたら浮きまくってる‥‥残念な、白衣の天才女子生徒が居る』
って‥‥。
確か、体育の授業以外はずっと制服に白衣を身に付けて居るという話だ‥‥(然も最初は体育でも白衣着たままやろうとしてたらしい)。流石にここ迄個性が突き抜けてると、こんな限界コミュ障ぼっちの俺でも知って居る。
奇特な事に、この学校には、こういう何処か頭のネジが抜けた‥‥相対的に変な行動をする人が大勢集まって来て居る‥‥そんなきらいがある。
と、いうか、大概皆な何処か変。中央値のひとも、平均値のひとも、最大値のひとも最小値のひとも、皆な変。この学校のひとを取り出して見れば、そのガワがどんなにマトモに見えたって、確かに学校外集団‥‥世の中の平均値のひとや中央値のひとと比べて見れば、やはり変なひと。‥‥そういうひとがここにひとりひとり集まって、この上楠高校の全校生徒は出来てるのです。なのです、にぱぁ〜‥‥。
もう一度マジマジと制服白衣の美少女を見返す。改めて見て居るとやたら親近感湧くな‥‥。何でか知らんが、最初から、彼女は余り女子生徒特有の恐ろしさを持ってない様に思える。全く安全な男子みたいに感じる。俺はさっきから全く緊張感を抱いて居ない。
‥‥学校で浮いて居る人間として、俺と彼女が同類だからか?とにかく俺は彼女に親しみを感じた。何か大丈夫な気がした。‥‥少なくとも心の中では。
俺が振り向いてから六秒経った頃に、ようやく、コミュ障同士の睨み合いは終わり、白衣の少女は俺に質問して来た。
「‥‥あなた、何してた、の‥‥?ここは基本立ち入り禁止、目的の許可をもらった人しか、入れない‥‥はず、‥‥だよ?よよよ?」
「そっちこそ何で来たんだ。ていうか、さっき訊いてたけど、御前は誰だ‥‥」
制服白衣のこの少女は、俺たちの居る所から少し離れた、そこの下の辺りに向かって指差した。その先には‥‥栽培されたナニカ妙な植物——ラッパみたいなアサガオみたいな何かの花?——の植木鉢や草の断片、根の様なものの上に、透明なビニールを被せて天日干しして居るのが見えた。
「‥‥コレって何?良く分からんが、御前はコレの世話をしに来てたのか?」
と言ってると、チラシを白衣から取り出して俺に手渡して来た。
「‥‥何でそんなチラシ持ってるの?」
「ぬん?一年生に配る、ため‥‥クラブ勧誘の‥‥資料」
チラシには、ケバケバしいドギツイ配色で謎の電波的な内容が書いてある。エネルギー線か何かのメカニズムの説明か?
然も、下部八センチ程度にはでかでかと『私が部長です』と小綺麗に化粧した自分のすまし顔を貼っ付けて居た。『高村文道』という名前らしい。
‥‥目の前の彼女は何か質問して欲しそうな顔をしてたので、俺は怪訝になりそうな自分の頭を精一杯手で抑えて、チラシ下部に書いてある部活動の名前を尋ねた。
「‥‥T、H、C部??」
「‥‥あたいは、ね、ねぇ??この部活のために、先生から許可をもらって、屋上に、入ってる‥‥。のですがなにか‥‥?部長の高村ですが‥‥?」
「‥‥‥‥。この奇特な植物を育てるって申し出てか?わざわざ屋上で?通る訳無いだろ、常識的に考えて」
常識知らずのぼっちちゃんが常識を語った。
「‥‥もっとも、これとは適当にでっち上げた別の理由でだから関係無いけど‥‥あと、部活の名前‥‥それ、THC部という‥‥」
「てっく部?」
「そう‥‥てっく部。テック・フォー・ヘルスケアァ、部。てぃー、¡えっチ!すぃー、部。アルファベットわかる?」
「‥‥なんかやたら真ん中だけ発音がデカかった気がするが‥‥それ、ヘルステック部とか、ヘルスケアテック部ぢゃだめだったのか‥‥?」
「あぇ?‥‥言いにくいん‥‥じゃない?てっく部の方が語呂が良い‥‥けど、だからなんですね」
この電波美少女は続けて、聞いてないのに又た語り始めた。
「そして‥‥ちなみに‥‥ふふ、THC部のTHC、真ん中だけ取り出して言えばえっち部。‥‥ふふふ」
「‥‥そうか‥‥」
「‥‥そしてよ、今の所、幽霊部員を除いて‥‥この部活にはあたい、ひとりしか居ない‥‥。つまりひとり部活の部長、‥‥」
‥‥と、いう事は、何はともあれ‥‥彼女も確かにぼっちって訳か。やけに俺が同類だと感じた訳だ。まぁ、でも恐らく、卒業とかして部員が部活から抜けて行ってひとり部活になったんだろうなぁ‥‥。彼女が生粋のぼっちかどうかに就ては、論を俟った方が良い。
「そういや、この学校、多分、科学系‥‥?ってったら他にも自然科学部、地学部とか生物部とかもあったぢゃ無いか?同じ理科系?クラブが色々あるのに、何であたいさんは、態々ひとり部活なんかに入ってるんだ?」
彼女は俺を指差して答えた。
「ないすクエスチョン‥‥。それは、あたいが、部活から‥‥追い出されたから‥‥なの、です。もともと、一年生の時には生物部員だった。そして、あたいは楽しく実験やったり、‥‥ラボで合成ったアナログ飲んでたり、あと、ちょっと、友達を†文明の妨害者†かスクリーニングしてる、だけ‥‥なのに、追い出された。追い出されたのだよ?実は†文明の妨害者†だった、あたい以外の部員たち全員が、苦情を顧問に申し出して‥‥」
「待て、御前一体何をひとにやったんだ」
「‥‥で、そんなやるせない部員たちの肩持つ‥‥見かねた顧問の先生が、あたいを差し置いて部活を分割した‥‥。御蔭で晴れてあたいは部長に昇格‥‥。ぴーす、いぇい‥‥」
「‥‥」
「‥‥色々聞きたい事はあるが、えぇっと、つまり‥‥高村は、もともと入って居た生物部から、部員たちの働き掛けによって追い出されたって事‥‥なんだよな?」
「‥‥いぇす」
高村は、チョッとしょぼくれたダブルピースをしながら返事をした。
‥‥はあ。恐らく、この高村とかいう電波少女、部活動内で滅茶苦茶な事をしたから追い出されたのだろうけど‥‥同じく色々排斥された経験のあるぼっちの俺、不意に同情されて来て、なんか可愛そうになってきた‥‥。話題、変えとこう‥‥。それに‥‥屋上に無断侵入した俺の話題に移らせたく無いし‥‥。
「‥‥で、いつも白衣着てるらしいけどそれって何でか?」
待ってましたとばかりに、彼女は滔々と語り出した。
「‥‥それは神々(=霊的に優れた神の器、たる魂たち、の宿っていた大昔の地球人-宇宙同胞飛来人)の」
「あー、長い?」
「‥‥ながい」
「出来れば三行で頼む」
- あたい選ばれた
- でも代理宇宙文明的侵略勢力†文明の妨害者†が地上人の肉体に降りて来てる
- だから白衣で防禦してる
- ……ずっぱし
「いや、だからどういう事だってばよ‥‥」
頭が痛くなりそうな位に良く分からない。
「‥‥取り敢えずさっきのを続けてくれ」
「‥‥それは神々(=霊的に優れた魂たち、の宿っていた大昔の地球人-宇宙同胞飛来人)の正統な後裔たる日本人とかの‥‥その地球上ではあまり少ない特殊なヒトゲノムの保全、と、あと医療科学の発展の為に‥‥〈この方〉の太陽系総督統括機関が、〈セントラル〉の宇宙文明諸連合理事の方に働きかけて、そしてあたいは〈正規の手続き〉でこの地球に生まれて来た。そう、〈正規の手続き〉で。〈正規の手続き〉って強調しないといけない意味、理解出来る‥‥よね?」
「ああ‥‥残念ながら俺も何と無く解ってしまう」
本当に解って仕舞って居る。恐らく、不適正な入域者達が、文道の謂う所の『†文明の妨害者†』辺りの策略によって、本来の地球神霊文明システムの対応処理能力を大幅に越える形で流入して来て居るとか、そんな所だろう。ソリャア、俺も高村と同じく〈持って居るモノ〉があり、弥栄える電波な世界を観て居るから、解る。高村とも張り合える位には十分俺も電波な思考をして居る。
‥‥直接知覚の経験は唯無分別に非ずして有分別の可能性を持つモノでもあり、この世は幻影であるし{[この世は幻影だ]という事自体も幻影である}。こうして背後にある物事が見えて来る。人格と理知、愛と嬉び、弥栄への観方・やり方等を澄み切らせて素晴らしい幸える神霊になる為の輪廻と、それこそ場合によったら星系レベルから人々、動物、草木の一本一本、山川草木に至るまで広く、(本来なら)この世の隅々迄手を繋いで歓喜を掌り、そして和合する、各々の沢山の神霊次元のセカイが見えて来る。そしてその上の次元にも‥‥イチイチ説明すると長くなるのでどうでも良いが、タンカンにいうととにかく一即多即汎、この世の弥栄だけが生き残る。つまり、愛です。愛ですよナ○チ‥‥。んなぁ〜。
いや、今はどのぐらい電波かを張り合ってる場合ぢゃねぇ。今はちゃんと高村の話を聞いとこう‥‥。
「‥‥この、腐り切った‥‥現代物質搾取中心主義文明に於いて、神の存在は一般には否定も肯定も出来無いとしてる‥‥。科学的に否定も証明も、人間の学識ではしようがないから。‥‥ぶっちゃけ神々や三次元世界を除くこの世について語る時、大体本質的にはそうで、少なくとも魂の高次元世界と切り離して独立的に三次元世界を感じ取る様な態度で居るココの愚劣極まりない地上人〈思考主体〉の大多数に於いては‥‥難しい。事実だけど、かなり愚昧な事に、主体が世界をそう思うか否かに在り方は完全に自って立っている。‥‥‥‥とにかく、宇宙文明諸連合理事会の措置としてあたいに遺伝子医療を研究させる為に異星系から送り込まれて来た‥‥使命感とかは人一倍ある」
参った。彼女は本物だ。これは完全にすごい電波少女だ。
「素数の声が聞こえる」とか「統合思念体が‥‥云々」とぶつぶつ言ってるただ痛いだけの、軽めの電波気取りなら居たけど‥‥俺ここまで飛ばしてる電波人間は初めて見たなぁ。
‥‥まあ、さっきのふたつは全部俺の事なんですけどね。諸見さん。楽しいけど後で物凄く恥づかしくなるやつ。
そうして俺が自分の黒歴史を思い出して悶々として居ると、高村はまた急に話し出して来た。
「ムテキジリウム光線って、知ってる‥‥?一部の放射線と電波、可視光線が合わさった殺人光線なんだけど」
「知らないよっ!急にどうした‥‥まっ、その、で、ええと‥‥そのムテキ光線、と、妨害勢力、と、白衣とに、何の関係があるんだっ!」
「あなたは焦り過ぎ。ちゃんと説明するから‥‥。‥‥説明しよう‥‥!ムテキジリウム光線とは、哺乳類の心臓部に特異的に作用する殺人光線の事‥‥である。ムテキジリウム光線が対象の心臓部を貫くと、四〇秒以内に心臓麻痺で倒れる。‥‥でも、この特殊な化学繊維で作られた白衣なら、身を守る事が出来る。ただし、その化学的性質により人を寄せ付けない副作用も出る‥‥。‥‥そして、何故この白衣程度で守れるのかというと‥‥大抵壁や地面にムテキジリウム光線は吸収されて、無力化されるという性質があるから‥‥基本的に、下から光が反射して飛んで来る道理は無い‥‥。だから防護服みたいにする必要は無い。となると‥‥基本的に横とか斜め横とか、丘の上とかからしか光線は飛んで来ない。胴体の肝心なトコを守れるからこの白衣で必要十分な鉄壁の防備‥‥。そして、黒い制服の上に、この白い白衣をきると——」
「着ると‥‥?」
「闇と光が具わり最強に見える‥‥これはかくていてきにあきらか」
「‥‥」
「‥‥」
そう言い放ってから、高村はすまし顔でこちらを見る‥‥。
まるでこれはふざけて居る。‥‥いや、ふざけているのは最初からか?今更になって初めて意識した。
——だが、そんな事はどうでも良い。俺は、この電波人間に‥‥何故自分が屋上にシンニュウ出来たのか、その手段を知られると、不味い事になる。だからこの事を訊かれない内に、高村には帰って貰わなくちゃならない。この場をやり過ごして‥‥この場から早く、それも自然な形で離れるんだ!
その為にはどうする‥‥?
‥‥思えば、この人間は明らかに俺をおちょくって‥‥いや、どちらかと言うと、自分から喋るのを楽しんで居るように見える。
そうだ‥‥今迄の話題は、全てこの人間からぢゃ無いか。俺から質問したのもあるかも知れないが‥‥ほぼ、間違い無くそうだ。決定だ。
だったら‥‥適当に相槌を打って、高村の話題を可能な限り掘り下げる事で、かれの意識を俺から逸らそう。出来る限り高村に就ての会話を続けるんだ。そうして自分の事を話したかれが、満足してくれれば‥‥勝手に帰って行く‥‥筈‥‥なのか?いや、そうに違いない。
‥‥‥‥。
‥‥‥‥抑々‥‥良く考えて見たら、鍵の事を訊かれても、何も答えなければ良いだけぢゃ無いか。帰ってくれたらラッキーで、若使訊かれても‥‥。こうして‥‥俺に損は無い以上、この可能性に賭けて見るか。
俺は、高村が言った最後の理由を無視して、話を進める事にした。
「‥‥なるほど。まあ胴体は盤石の守りなのはわかった。地面から飛んで来る事がほぼ無いのもわかった。でも‥‥その、『ムテキジリウム光線』ってやつ、もし頭上から飛んで来たらどうするんだ?」
「‥‥安心して。‥‥上を見て。この辺り何も飛んで来ない‥‥。だから照らして来ない。よ。だから‥‥ほら、なにも無い、でしょ?」
白衣の高村が上を指差した丁度その時、離島からの急患を超特急で運んで居るのであろう、紅白塗装のドクターヘリが頭上を通り過ぎて行った。
「‥‥あるぢゃあ無いか」
「‥‥」
「‥‥れいせいに考えて。しって。いつも命を救う為に働いて、離島医療を懸命にささえて下さってるドクターヘリが、あたい達に殺人光線なんて放って来る‥‥わけなんて、無い‥‥」
「‥‥」
「というのに‥‥ドクターヘリ、まで‥‥そうあげつらって来るのって‥‥ドコであっても尊い生命を救う為に、ほんとうのほんとに志持って、懸命に搬送して下さってる医療従事者の方々に‥‥失礼だと思わないの、あなた‥‥?」
「はぁ‥‥‥‥御免なさい」
疲れた。頭おかしくなるで。
「‥‥そうだ‥‥。所で、こっちもあなたに訊きたい事ある‥‥よ。流された最初の質問。あたいが‥‥この屋上に入る為のただひとつしか無い鍵を持って居るのに‥‥あなたは、なんでここに入れた‥‥?」
君の様な勘の良い少女は嫌いだよ‥‥!
「ぼっち飯の為です‥‥もっといえば昼休みは極力独りになりたかったからです‥‥」
「‥‥そんな事は訊いて居ない。あなたは何で入れたの?ここに?何の手段以て?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
コミュ障過ぎて、言葉でどう誤魔化そうかも分からなかった俺は、遂に、何も出来無かった。そのまま黙って帰ろうにも、この電波少女が後で教師に無断侵入した事を報告するかも知れない。身元が特定されない事に賭けるにしても、こんな高校、数百人の生徒の内のひとり、こうして相手に顔が見られて居るのだから、簡単に人物は特定されるだろうし、そうなれば始末書を書かされて、最悪の場合停学処分でも食らう。すると、俺の唯一の取り柄である「†綺麗な内申書†」が汚れて仕舞うから、大学の御受験が殆うくなって仕舞う。
それならば‥‥。
‥‥俺は、しぶしぶながら‥‥学ランの懐に隠して居た、屋上の合鍵を取り出して見せた。
「はぁ‥‥」
俺が鍵を持って居るのを、高村は解せない様子であった。
「‥‥それは、僕、いや俺‥‥が屋上の合鍵を持って居てこれを使用したからです。この鍵は一年生の秋に俺が複製した奴です」
「あえぇ‥‥?‥‥あんたさは、どうやってやってのけたの‥‥?というか‥‥この学校のセキュリティはどうなってるの‥‥よ?」
————。
「‥‥鍵を複製した事は内緒だ。御願いだから、先生にはバラさないでくれ!」
俺は、高村に最敬礼をして必死に頼み込んだ。
「‥‥そう‥‥?だったらね‥‥なんでもいう事聞いてくれるんだったらおっけー‥‥よ?」
「ん、『何でも』って‥‥?え、それは何を‥‥すればよろしいのでしょうか?」
「‥‥あたいの部活、THC部に入って‥‥?あたい以外にひとりも部員が居ない‥‥部員ゼロ人なのは‥‥ちょっとさみしい」
高村は妙にアンニュイな顔をして、つぶやく。
‥‥ああ、俺、高校生活二年目にして、部活に入らなきゃいけないのか‥‥。けれども、嫌いな運動部ぢゃ無いし、どうせ学校帰ってから暇だったから、処分を回避する為に‥‥この部活に入っても、別に良いか‥‥。
‥‥それに、ふたり部活なら、休んだりサボったりしても色々融通利き易そう。高村、俺と同類っぽいし。多分話通ずる。
でも、THC部って、一体何やるんだろう‥‥。まさか、さっき言ったみたいに、何かをラボで合成しに行くのだろうか‥‥?
「あたい‥‥入部届をいま、何枚か持ってるから、いま‥‥ここで書いて。このクリアファイルを濡れた地面に敷いて良い。あたいに敷いてもいいけど。だから‥‥とにかく早く書いて。はい、ボールペン」
「‥‥随分用意の良い白衣さんが居たもんだなぁ‥‥」
事実上選択肢の無い俺は、迷わず入部届に必要事項を書き込んだ。
印鑑欄は無く、サインだけで良いらしい。前迄こうした書類で必須だったはんこ、最近結構リストラされて来てるよなぁ‥‥。
一応、書き終わったので、高村に見せてみた。
「‥‥入る上で名前とクラスの紹介。あたいは、二年八組の高村文道。‥‥そのチラシに書いてある通り、アヤの道と書いて文道。呼ぶ時は、文道、でいい‥‥。あなたは‥‥?」
「‥‥二年一組の片峠步。歩くと書いて步、だ」




