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妹なんてお断り!  作者: 白井夢子


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15/22

15.兄と妹


『剣士と治癒師には相性があり、その絆が深いほど、治癒はより強く働く』


これは学園の教科書にも載っている言葉だ。


ティニアは最近、(あの言葉は本当だったのね)と、体感として感じられていた。



もちろん、今までも知識の上では知っていた。

だけどこれまで、それを実感したことはなかった。

家族やロイクへの治癒魔法は、同じように効いていたし、『魔法の効き方が人によって差がある』なんて思えなかったのだ。



それでも――ヴァルドの家の演習場で、実習訓練を重ねているうちに、なんとなくそれが肌で感じてきている。


カーディン騎士団の騎士たちに、訓練に付き合ってくれたお礼として、訓練後に治癒をするのだが、治癒魔法の効き方がこれまでと違うのだ。


大地から水を汲み上げるように、皆に降り注ぐ魔法は同じだ。

けれど騎士たちの傷の治りが、とてもゆっくりしている。


最初は、(気のせいかな)と思っていた。

礼儀正しく親切な騎士たちを、ティニアは拒絶する気持ちは微塵もない。

(治癒魔法が弱まってるの……?)と不安にもなった。


だけど――

「ティニア、見てよ!兄さん、こんなひどい怪我をヴァルドに負わされたんだよ?!

早く兄さんに、ヴァルドよりたくさんの治癒魔法をかけてくれないか?」


そう言って重症者を装う兄のオリオンへの効き目には、代わりが見られない。


むしろ、ヴァルドへの治癒効果は、上がっているくらいだ。

わざわざ大地から汲み上げることを意識しなくても、彼に軽く魔力を流すだけで、スッと傷が癒えている。


それはペアとしての絆が深まっているから、としか考えられなかった。


(初めて会った時に、ヴァルドさんの治癒が家族と同じだったのは、オリオン兄さんの友達として紹介されたからかしら……?)


初めての兄の友達だったから、最初から家族のように思えていたのかもしれない。


だけどそう考えると、それまでのロイクの治癒の効き目が、家族と同じだったことに疑問が残る。


(私は――ロイクのことを、『婚約者として好き』だと思っていたけど、あの想いは『家族に対する好き』と同じだったのかしら……?)



ティニアのいない学園で、ロイクはティニアの存在を「妹」だとみんなに話していた。

それは学園という広い世界を見て、『婚約者だと思っていたティニアは、家族と同じ存在だった』と、彼は気づいたからなのかもしれない。


ティニアにそれを話さなかったのは、『ティニアも広い世界を見れば分かる』と考えて、ティニアを傷つけないために、何も言わなかったのではないだろうか。

――それこそ兄のような優しさを見せて。



ティニアが、ロイクの隣に並ぶエリシアを見て、とても悲しくなったのは、大好きな兄を取られた寂しさだったのかもしれない。


普段は『本当にオリオン兄さんは……!』と苛立つことが多い兄だが、もし兄オリオンにも、ティニアより大切にする誰か他の女性が現れたら、「よかったね、兄さん」と言いながらも、とても寂しく思うだろう。


「ロイク……兄さんだったんだわ」


「ロイク兄さん」と口にして、(ああ、そうだったんだ)と、何かがストンと胸に落ちた。



とても慌ただしい日々の中、ロイクとはすれ違いばかりで、挨拶をすることもなくなっていた。

以前は毎週会っていた休日も、今は兄オリオンとヴァルドと過ごしている。


朝は三人で登校する。

授業が始まると「そこの二人!やる気がないなら、他の生徒の邪魔になるから、出ていけ!ティニア、二人を見ててくれ」と言われて教室を出て、ベンチでアイスを食べる。

午後の授業は、「危険だから」と、クラスの皆から隔離されて、三人で対戦する。

そして放課後は訓練することもなく、早々に三人で帰宅する。


そんな毎日を繰り返していた。



あれだけ毎日ロイクのことを考えていたのに、今は兄オリオンと――ヴァルドとの日々で頭がいっぱいになっている。

ロイクのことを思い出しても、もう胸が痛むことはなくなっていた。






そして最近、ティニアが知ったことがある。


それはヴァルドが実は、女生徒に人気があるということだ。

体が大きく鋭い目をした彼を、女生徒たちは避けているのだと思っていたが、実はそうではないらしい。


お近づきになりたいと願う女生徒たちは、無愛想なヴァルドに話しかけられないでいるだけのようだった。




それを知ったのは、たまたまの偶然だった。


「ねえ、今日のオリオン様とヴァルド様の対戦見た?」

「見た見た!すごく素敵だったわ〜」

「以前はオリオン様の圧勝だったけど、最近は互角って噂よ?」


「あんなにお強いのに、あんな経験不足の子とペアを組まされるなんて、ヴァルド様も気の毒ね」

「オリオン様の妹だから、断れなかったのよ、きっと」

「でもあの子、オリオン様と全然違うじゃない?すごく地味な子よね」

「確かに平凡よね」



そんな賑やかな声が聞こえてきて、ティニアはお手洗いの個室から出られなかった。


兄オリオンと比べられるのはいつものことだ。

天才と言われる兄は、高い魔力を表すかのように、煌めく銀髪と銀の瞳を持っている。

平凡な茶髪と、平凡な緑色の目のティニアとは違う。


認めたくはないが――どことなく顔立ちは似ているものの、同じ血を引く兄妹には見えない。


別に兄オリオンのように、天才になりたいわけではないけれど、「お兄さんと似てないのね」「()()オリオン様の妹さんなの?!」とかけられる言葉には、どこか同情が含まれているようで好きではない。



ティニアは、賑やかな声が立ち去るまで待って、静かになってからそっと扉を開けた。


鏡に映るティニアは、いつもと同じく、茶髪に緑色の瞳――平凡な女の子だった。


(あーあ。もう少しくらい特別な色だったらよかったのにな……。そうしたら、ヴァルドさんと並んで、「地味な子」なんて言われないかもしれないのに)


少し面白くない気持ちになって、ぷいと鏡から顔を背けた。





「ティニア!どうした?お腹が痛いのか?アイスが冷たかったのか?!」


長いお手洗いを、外で待っていたらしい兄オリオンに騒がれて、「違うわよ!」とティニアは怒る。

勝手に治癒魔法をたくさんかけられて、面白くない気持ちも、苛々する気持ちも治っていったが、心配そうに、少し離れた場所でこちらを見るヴァルドの目に、いたたまれない思いになる。


(お腹を壊していたんじゃないです!)と言いわけしたいけれど、言うような言葉でもなく、ティニアは口をつぐんだ。



陽の光に、兄オリオンの銀髪が、キラキラと煌めいている。

その見た目は、遠目に見ているだけなら、特別な人に見えなくもない。


(本当にデリカシーがないんだから。そんなんだから、オリオン兄さんは、女の子に騒いでもらえないのよ)


――そう言ってやりたかった。



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