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妹なんてお断り!  作者: 白井夢子


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12/22

12.ヴァルドの家


そして迎えた休日の昼下がり。

今回二度目の訪問となるカーディン家の門をくぐるとき、ティニアは以前のように、固く緊張することはなかった。


前回は、その威厳と静かさをたたえた屋敷に圧倒されて、門の前でしばらく足を止めてしまった。

「オリオン兄さん、どうしよう……」

――あの時は隣に立つ兄に、思わずそう呟いてしまったほどだ。


高い門の上には、カーディン騎士団の紋章旗が風にひるがえっていた。

その紋章旗を見て初めて、ヴァルドの家こそが、「カーディン騎士団」を率いる、あの名門カーディン家だと知ったのだ。


(そういえば……)と、ヴァルドの言葉を思い出したのは、その時だった。


確かにヴァルドは、仮ペアが決まった日に「俺の進路は、家の騎士団に入るだけだ」と言っていた。

だけどあの時は、ヴァルドの降級の話の方に気を取られていて、その言葉の意味を深く考えていなかったのだ。


友達の家に遊びに行くような気軽さで、家の裏で摘んだ花と、母と焼いたクッキーを手土産にした自分が、場違いに思えてならなかった。


ケロッとした顔で、兄オリオンは「もう帰っちゃう?このまま兄さんと遊びに行こうか?」と聞いてきたが、そんなことできるはずがない。

「何言ってるのよ」と言いながら、勇気を振り絞って渡した手土産だったが、ヴァルドの母は、その素朴な手土産を心から喜んでくれた。


目の前でおいしそうにパクパクと食べてくれて――気がつけば、ヴァルドが席についた頃には、もうほとんど残っていなかった。

けれどそれが、ティニアはたまらなく嬉しかったのだ。





カーディン騎士団は、この地方でも屈指の歴史を誇る騎士団だ。

アストラ学園からの入隊希望者も多いと聞く。


団を率いるのはヴァルドの母――団長のアデラ・カーディン。

アストラ学園の卒業生でもある彼女の実力は、今も学園史に名を残しているほどだという。


その傍らで副団長を務めるのが、婿養子でカーディン家に入った、ヴァルドの父、エルド・カーディン。

かつては元王国騎士の位にあったという、名だたる人物だ。


治癒学ばかりを学んできたティニアでも、名前を聞いただけで、どれほどすごい人たちか分かるほどだった。




「いらっしゃい、ティニアさん。待ってたわよ。さあ、一緒にお茶にしましょう?

オリオンくんもいらっしゃい。演習場で、うちの騎士たちが待ってるわよ。今日も気合いを入れるように言ってるから、みんなにしっかり稽古を付けてちょうだいね。

さあ、ヴァルドも一緒に行ってらっしゃい」


玄関で、ヴァルドの母がにこやかに迎えてくれた。

ヴァルドの母アデラ団長は、ヴァルドに似た鋭い目元を持ち、とても凛々しくて格好いい人だ。

笑顔からは温かさが溢れているけれど、その背筋の伸びた立ち姿からは、威厳も自然に伝わってくる。



「こんにちは、アデラお母様、ヴァルドさん。――あの、これ、前と同じものなんですけど……よかったら召し上がってください。

それに、これもまた裏庭で摘んだお花なんです。

今回は治癒魔法をたっぷり振りかけてみました。少しでも良い効果があるといいのですが……」


そう言ってティニアはアデラに、大きなクッキーの箱と花束を手渡した。


最初は「ヴァルドさんのお母様」と呼んでいたのだが、「それじゃあ呼びにくいでしょう?アデラ団長、って呼び方に慣れてるから、アデラでいいわよ」と言われた。さすがに「アデラさん」とは呼べず、「アデラ団長」と呼ぶのも違う気がして、結局「アデラお母様」と呼ぶことにしたのだ。



「まあ――嬉しいわ。お花は部屋に飾らせてもらうわね。クッキーも、早速いただきましょうか。さあ、こっちよ」


「――母さん。それはないだろ。なんで学生の俺たちが、騎士の訓練しなきゃいけないんだよ。ティニアは、俺と実戦訓練するためにここに来てんだよ。

それに前もそう言って、俺が訓練から戻った時には、ほとんど一人で食べちまっただろ?ふざけんなよ」


ヴァルドの言葉に、母アデラは静かに首を振り、はあっと大きくため息をついた。


「ヴァルド、あなた何も分かってないわね。ティニアさんは私に会いに来てくれたのよ。

それにティニアさんの実力は、私が分かっているわ。

もし――訓練評価試験や、現地実習で成績が振るわなかったら、それはヴァルドの能力不足よ。ティニアさんの足を引っ張らないよう、しっかり鍛錬に励みなさい」




「えっ……。あ、あの、アデラお母様。私の方がご迷惑をおかけしてる方なんですけど……」


ヴァルドの母が誤解していた。

確かにティニアは、一年早く飛び入学したし、入学直後に二年飛び級もした。


だけどそれは、たまたま体質的に、ニ年生までの学習を身につけていただけのことだ。

実地での経験を問われる訓練に関しては、ティニアの経験値はほとんどゼロに等しい。

努力すべきは、ティニアの方なのだ。


オロオロして、(オリオン兄さんからも、何か言ってよ)と兄を見る。

ティニアの助けを求める視線に気がついて――


「ティニアの才能の高さを見抜くとは、さすが名だたるアデラ団長ですね。うちのティニアは、可愛い上にすごく才能があるんですよ!」


そう話しながら、兄オリオンは輝く笑顔を見せていた。


「もう本当に止めてよ、兄さん……」


身を小さくしながら、ティニアはそう呟くことしかできなかった。





結局―――舌打ちをしながらも、ヴァルドは兄オリオンと共に、演習場へと向かっていった。


母アデラが案内してくれた部屋には、ヴァルドの父エルドもいて、兄オリオンがいない中での対面に、ティニアはものすごく緊張した。

けれど、ヴァルドの父もアデラと同じく、優しく温かな人だった。


いつの間にか緊張もほどけて、三人で和やかに話をする中、ヴァルドと兄が戻って来た。

そして気がつけば―――その頃にはやっぱり手土産のクッキーはほとんど残っていなかった。


ヴァルドは相変わらずブツブツ言っていたけれど、それでもやっぱりティニアは嬉しかった。


「母さんも親父もふざけんなよ」と不機嫌そうなヴァルドを横目に見ながら、ティニアは(ヴァルドさんには、学園でこっそり渡そうかしら)と心の中で考えていた。



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