表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

続・たいした話じゃないけれど

作者: 狩衣旅兎

 そういえば、こんな事もあったのよ。

これも大した話じゃないんだけど、聞いてくれる?

 上階へ上るには受付前の内階段とエレベーターに、奥まって誰も寄りつかない場所にある非常階段があると言ったけど、実はもう一つ内階段があってさ。

 非常階段よりは奥まってない場所にあるのね。

 その階段では最上階手前の元看護師寮フロアにも上がれないんだ。

 非常階段にある窓が、その階段には無くて照明を点けないと日中でも真っ暗でさ。誰も使わないのさ。


 冬だったか春だったか。早い時間に日が落ちる季節のことよ。

 例によって懐中電灯片手に真っ暗な院内の巡回をしてたのね。

 真っ暗だと気持ち悪さが増すからさ。心に余裕のある内にと、真っ先に最上階までエレベーターで上がって。元看護師寮フロアに降りたらエレベーターを1階に戻して、フロアを巡回しては受付前内階段で下の階に降りてたの。

 照明一つ灯ってないなかを、足元を歩くゴギブリに声掛けながら巡るのよ(笑)

 

 でね。あと数階で巡回も終わるって時よ。

 奥まった内階段へ続く廊下の角を曲がったら、廊下の先のどん詰まり辺りがボンヤリ明るいのよ。

 土曜日以外の17時30分に巡回し続けて約1年。そんな事初めてでさ。

「あそこ、何があった?」と頭を捻るわけよ。

 どん詰まり手前に先の窓なし内階段があるんだけど、「その奥に廊下に面したドアがあったわ!」と。

 誰も使わない階だし施錠されていると教えられたから、ドアノブに触れたこともない部屋よ。

 ドアに嵌め込まれた磨りガラスの向こうは、いつも真っ暗でね。

 気持ち悪いけど確認しないわけにはいかなくてさ。何か分からないけど気づかれないように、すぐに駆け戻れるように気を張って、懐中電灯を床に向けて忍び足で近づいたのさ。


 うん?うんうん。違うの。階段に発行体があったんじゃなくて、ドアの中から発光してたの。

 いつもはピッタリ締め切られたドアが薄く開いてんのよ。

 ほら。霊が人を招き入れる為か姿を見せつける為に、ドアを開くとか光るとか音を立てるとか聞くでしょ?

 それなんじゃねーかな?走って逃げ切れるかな?とか一歩踏み出す毎に考えたよ。

 心臓バクバクしたかって?

 不思議とそれは無かったね。緊張してんだからバクバクしてもいいんだけど。ほら、緊張したら交感神経優位になってバクバクするでしょ。

 なのにバクバクはしなかった……。忘れただけで、してたのかな(笑)

 ドアの傍まで近づいてさ、ボンヤリ光るだけで物音一つ聞こえない室内を薄く開いた隙間から覗いたのよ。そしたらさ……

 想像していた以上に幅と奥行きのある室内にポツンと一つ、ドアに向かって置かれたデスクで勤務医が書き物してんのよ。

 中程で折れ曲がるデスクライトあるじゃない?

 天井の蛍光灯は消えてるのに、そのデスクライトだけ灯して何か書いてんの。

 その姿をしばらく見たあとは、ゆっくり後ずさって巡回に戻ったのさ。


 でね。不思議なのが、なんでそんな場所にデスク置いて、何してたのかなんだよね。

 医師が待機する医局室は2階にちゃんとあるのよ。そこなら色々と資料があるんだから。

 他の医師は退勤済みだから遠慮なく作業できるのに、ろくに掃除もしない場所で資料も無いのに何を書いてんのよ?


 


放置されたままで掃除もしてない階で、彼は一体何を書いてたんだろうね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ