二節 猜疑心2
◇
イムさんが暮らしている小屋は、診療所や他の掘っ立て小屋と比べてもずっと手狭なものだった。
それは俗に言う狩猟小屋と言う建物だから、と言うのもあるが、村を取り囲う森の外周に最も近く、更には建物の一部が生命力溢れる森の木々に浸食されているからと言うのが大きいだろう。
「ウェイド殿。おひさしぶりでございます」
「……」
そんな自然の力溢るる小屋の前で、俺とメアはウォルマンと落ち合う。
迎えてくれた彼に「ああ」と返事をすると、彼の横に並び立つもう一人の姿に目をやる。俺たちの到来を見るからに良く思っていない風貌の彼は、この小屋でイムさんと暮らしているという、呪い人の男である。
なぜ精神干渉系魔法の後遺症を抱えるイムさんが診療所ではなく村の中でも片隅で療養しているのかと言うと、彼の存在が欠かせないから、と言うのが大きいらしい。
「……チッ。ウォルマン、俺は時間を潰してくるから、終わったら声を掛けろ」
そんな彼は挨拶だけを交わした後にそう言って去って行こうとするが、メアがそれを引き留める。
「いや、今回はウォルマンと一緒に、君にも同席してもらいたくてね。構わないかい、エディ君?」
「……何、企んでやがる」
「何も? 少なくとも、君が聞いても損が無い話をしようと思っているからね」
「……チッ」
男の名は、エディ。
イムさんと同じ獣人で、彼は強靭な縞模様の尻尾と全身を覆う深い体毛が特徴のモンテ族にして、止まらぬ悪態を吐く男性であった。
「おっと、手は出さないでくれよ。僕は喧嘩しに来たんじゃないんだ。あくまでも話をしに来た。この意味が分かるかい?」
「女は殴らねぇ。そう決めてんだ」
「女?」
「…………ドヤ顔をやめろ。ウザい。あぁ、こいつはこう見えても男なんだ。だから殴っても構わない」
「……は?」
「ちょっとウェイド! それは話が違うでしょ! 僕の可愛さが人種の垣根を超えた瞬間だよ! 歴史的快挙の瞬間をどうしてそうドライでいられるのかね君は。そして君は良い目をしているよ。褒めて遣わす」
「……チッ。なよなよした見た目しやがって、女男が」
「ささっ、中に入りましょう。イム殿がお待ちですよ」
同じ呪い人だとしても、生活様式や習慣の異なる獣人の世話は難しいようで、周りとの互助関係は上手く築けていないのは帝都でもこの村でも変わらない。
帝都では各地に小規模ながら獣人区画のようなものが出来ていて、そこでは一風変わった品物を見ることが出来たが、この村ではそう上手くはいかないらしい。
それも当然と言えば当然で。
この村に住まう獣人は十名といない。その内で男性と言うのはイムさんとエディの二人のみで、残る獣人はもれなく全員女性であった。その女性たちも、俺たちへの糾弾に忙しかったようで、誰もイムさんを顧みる余裕はなかったらしい。元より獣人は人間のみならず他種族には排他的である節が見られるが、まさか不満や非難をぶつけるのには団結して傷付いた同じ獣人を労わることもしないとは思ってもみなかった。人が仲良くなるには悪口が最適である、と言うのを風の噂で聞いたことがあるが、まさかそれが垣根を越えるとは、俺もメアも呆れて物が言えなくなるほどだった。
そんなイムさんを見かねてメアは彼らに診療所で面倒を見ようかと申し出ていたらしいが、イムさんはそれを断ってこの場所で療養しているとのこと。
そしてその身の回りの世話はエディ以外に出来る人物が居なかった、と言うのが今の状況であった。
背後から突き刺すような視線を浴びながら、俺とメアは小屋へと踏み入れる。その後、間隔を開けてウォルマンとエディが続いて小屋の中に入った。
成人男性が四人も入れば小屋の中はより狭く感じるが、身動きが取れない程ではない。
「ウォルマン、もう少しそちらに寄ったらどうだ?」
「いえ……、いえ。そうですね。では、失礼して」
全員が小屋の中に収まると、ベッドの上で横になっていたイムさんがエディの手を借りて上体を起こした。その動きは緩慢ではあったが、調子が悪いのではなく、筋力が落ちているだけに見えた。
彼の瞳には、しっかりとした生気が宿っていたから。
「お久しぶりです、ウェイドさん。私など、あなたに会わせる顔など無いと言うのに、こうしてお越しいただき、ありがとうございす……」
「い、いえ」
──それはこちらの台詞です。
そう思っても口に出せない程、イムさんの様子は想定外のものだった。
そこで本来のイム・ウィ・アルルサップという人物は常識人で心穏やかな人物であることを知り、俺はすかさず頭を振る。今までの彼の姿は、精神的に追い詰められていたことに加え、デゲントールによる思想への干渉もあった。ゆえにあのような過激で苛烈な行動を強いられていたのだ。
現在の温厚な様子こそ、彼の本来の性格なのだろう。
「俺の方こそ、本来であればすぐにでもあなたの身を案じ、この場に馳せ参じるべきでした。軽んじられていると取られてもおかしくない真似をしました。本当に、申し訳ございません。……謝って済むことではないことは分かっていますが、謝罪をお許しください」
椅子から立ち上がり頭を下げると、和やかな声で「顔を上げて下さい」と返ってくる。
「……やはり、娘から聞いていた通りの御方だ」
「えっ……」
「ウェイドさん。あなたならそう言うと思っていました。試した訳ではありません。ただ、娘が言っていたあなたならそうするだろうと、思っていただけです」
壁にもたれる形で遠い目をするイムさんの瞳には、何が映っているのか。
しばらくその様子を見守っていると、彼は細く短い息を吐いて、告げる。
「こうしてもっと早く、きちんと君と向き合うべきだった。娘の言葉を信じていれば……。エディにも負担をかけることは無かった。こんなにも重たい罪悪感に、苛まれることも無かったのにな……。今にして思えば、と言う奴だ。慙愧に堪えぬ思いだ……」
「い、いいえ! 悪いのは、全て俺です。イムさんは、何も悪くありません。あなたの行動は正しかった。俺の目には、あなたは紛れもなくシャーリィの父親として映っていました。とても立派な、父親の姿でしたよ。それは、誇るべきことだと思います」
彼の行動原理にデゲントールからの横槍が入ったことで目的と手段が入れ替えられてしまったとは言え、あの時イムさんが俺の前に立ちはだかったのはシャーリィの父親としてであることに間違いない。
人のために、娘のために怒り、ただ我を忘れていただけ。
それは決して間違ったことじゃない、ということだけは、彼にどうしても伝えたかった。
「そうか。……そうか」
彼の目の端にキラリと光るものが見えたとて、俺の言葉が彼の心に届いたかどうかは分からない。
「それじゃあ、次は建設的な話といこうか」
しばらくの間、小屋の中には沈黙が流れていたものの、それを断ち切るかのようにメアが言う。
「お前は……破壊的だな」
メアの発言で悪い意味で静寂が取り戻される中で素直な感想を口にすると、メアは「そんな褒めないでよ」と微笑み返す。褒めてはいないのだが。
「丁度良いのではございませんか? 昨日の話をお二方はここに居てまだ知らないのですから、そのすり合わせもしておかねばなりませんし。それに……私も色々と聞きたいことがありましたので」
「そうそう。いつまでもクヨクヨしてないで、ウォルマンみたいに前を向きなって話だよ。ここに足を運んだ目的はそっちが本題なんだからさ。彼は食事も水分もしっかり摂れてるって報告は上がってるし、経過は良好みたいだから心配もない。彼は彼で、君と話をしたかったみたいだけど、満足したみたいだし本題に移るのさ。僕が欲しかったのは、こうして密談が出来る場の確保って訳だ」
「いいから、さっさと話せよ」
どうやら主目的について知らなかったのはこの場で俺だけのようで、初対面のエディにだってメアの考えは見透かしていたらしい。
俺達は診療所の一角をスペースとして占有しているとは言え、あの場所はただ仕切り板で区切っただけの空間である。ある程度の秘密は保証されるが、それも完璧とは言い難い場所だ。
その点、村の片隅にあるこの狩猟小屋であれば秘密の保持は保証される。となれば、元よりこの場所に俺を連れて来たのはイムさんに会わせる目的ではなく、メアが秘密を共有するべきだと判断したからだと言うことになる。
初めからそれに考え及ぶに至るだけのヒントはあったはずだが、イムさんに会うと言うだけで緊張していた俺にはそこまで考え及ばなかったのが悔やまれる。そこまで汲み取ってこそ、相棒と呼べる間柄なのに。
「まずは二人に、昨日話したことを簡単に説明するとね──」
昨日の場に居なかった俺も耳を傾けるべきなのだが、メアの考えを汲み取れなかったのが余りにも悔しくて残るメアの目的を探ろうと思考は横に逸れていく。
この空間で共有する秘密と言えば、思い至るのは一つだけである。
リリスがこの場に居ないことから分かる通り、一週間にも及んだ右目の制御と、その目的についての話。それ以外に考えられない。
それを打ち明ける面子に関してはメアの判断とは言え疑問が残らないでもないが、メアの判断を疑う必要は無い。
「──と、言う訳で、この村の人たちには選択肢を与えた訳なんだ。期限は昨日の時点で五日後……つまり、四日後までに答えを出してもらうように設定しておいたから」
「質問、よろしいですか?」
「挙手制とはいやに律儀じゃないか。そういうところ、嫌いじゃないよ。さて、それではどうしたんだい、ウォルマン君」
「ありがたきお言葉。では質問なのですが、なぜ、四日後なのでしょうか」
「おや、驚いた。てっきり条件の方を聞かれるかと思っていたからね」
「条件については、四日後に明確にしてくださるとメア殿が仰ったではありませんか。であれば、問うべきは期限の方です。四日というのは、あまりにも、その……短すぎる、ので」
「ハハハ、言葉を選ぶねぇ。安心しなよ、条件に付いてもこの場で君たちに開示するつもりだし、期限について問われても僕は機嫌を損ねたりしないからさ」
ばちこん、とウインクをこちらに向けてくるメアに返すのは、呆れ果てた溜め息だ。上手くもない洒落は場を凍らせるだけである。
「まぁぶっちゃけると、期限については僕の方ではどうしようもないことなんだ。そう、つまり、外的要因によってこの期限は設定されている」
「もしや、また魔物が……?!」
「違うねぇ。そんな不確定要素ではない。残念ながらこれに関しては、条件そのものが直接的に関与してくるものなんだ」
期限に関してはブランの元でも聞いた話だが、俺もその中身まで走り得ない。
しかし、ウォルマンが大人しく引き下がったのを見てメアが愉快げに口元を緩める。
ニヒルと呼ぶにはまだ幼く、クールと呼ぶには邪悪さの混じるその笑みは、メアの興味をそそるものが目の前にあるときだけに見せるものだ。
メアは一拍の沈黙を置いて俺たちの視線を集めた後、表情から笑みを消して告げた。
「……今から早ければ九日後、ここに帝国からの追手が来る」
「ッ?!」
弛んだ口元を引き締め、神妙な面持ちで告げられたメアの言葉に体を跳ねさせ立ち上がったのは、俺だけだった。
「ウェイド殿……? メア殿、帝国の追手とは、何事ですか。もしや、我々を追って? もしくは……」
「ご想像の通り、君たち呪い人ではなく、僕たち一行を殺すために派遣された追手で間違いないよ。近衛から報告があってね。追手が引き揚げていくのと入れ替わるようにしてこのメトロジア大森林に別の集団が入って来たみたい。今度は少数精鋭らしい。手紙が書かれた時期と参照すると、最短で十日。今日の時点で九日にまで迫っている。それまでに僕たちはここを離れなくちゃいけなくなったのさ」
「それは何故かと、尋ねてもよろしいですか」
「そこで出てくるのが、僕たちに同行することを決断した者に課せられる条件だよ。……まぁ、ここまで話すつもりだったし、これ以上隠す必要もないから言っちゃうけどね」
言いながらメアは席を立ち、イムさんのベッドの縁に腰掛け、不遜に足を組んだ。
「──帝国の歴史上最も悲惨で、最も痛ましい事件。被害者総数不明とすらされている未曽有の大災害……、その名を、紫晶災害と呼ぶ」
メアはまるで、酒場で注目を浴びる吟遊詩人の如く雄大に語り出す。
雄大かつ、壮大に。そして、紛れもない現実を。
「──前代未聞の大災害。それを引き起こした人物こそ、君らの隣にいる男だ」
メアの指先が俺を指し、その言葉に半信半疑と言った視線が右のエディ、左のウォルマンから刺さる。
「……ウェイド。セナ村の、ウェイド。そこの男こそが、紫晶災害のトリガーを引いた真犯人。僕とリリスちゃんは、その巻き添えさ。もちろん、帝国からの追手はウェイドだけじゃない。僕たちにも追手がかかってるんでね」
「本当、なのですか、ウェイド殿」
「だとすれば、俺たちがこんな体になったのも……ッ!」
半信半疑の二人に確信を持たせるようにそう言うと、メアはその内容に無関心な様子のイムさんに向くが、彼は一度目を伏せただけで、驚いた様子は微塵も見せていなかった。
俺はこの事実に関して、逃げも隠れもしない。
そう決めていた。
だから。
「メアの言っていることは全て、真実だ。紫晶災害は、俺がやったことだ。俺の所為で引き起こされた。そのせいでこの村の人達がどれだけ大変な目に逢ったか……その責任は全て、俺にある。だから、詫びさせて欲しい。……本当に、申し訳ない」
椅子から降りた俺が行きつく先は、床の上だ。
両膝を付き、手のひらと額を床に擦り付ける謝罪の形。俺の知る中で最上級の謝罪の形。
それは決して形だけの謝罪ではなく、心を砕き、誠心誠意の謝罪の気持ちを乗せたものでなければならない。その思いが届いたのかは不明だが、ウォルマンがたじろぎ息を飲んだ音だけが聞こえた、刹那。俺の体は、いとも容易く持ち上げられた。
「──ふざけるなッ!」
俺の胸倉を掴んでその体を軽々と持ち上げ、怒髪冠を衝いた勢いで怒号を上げたのは、エディだった。
深い毛に覆われた両腕が逆立ち、激昂しているのが一目でわかる。エディの手に胸元を掴まれたものの、俺は一切の抵抗はせずに彼の怒りを真正面から受け止める。
「お前のせいで……お前のせいで、俺は仲間からも、共同体からも排除されたんだ! 謝れば済むとでも思っているのか……?! 孤独になった獣人の行き着く先を知らないでは済まさんぞ、この──」
「──落ち着け、エディ」
しかし、その怒りを宥めたのは押し黙って眺めていたウォルマン──、ではなく、ベッドの上から身を乗り出した、イムさんだった。
彼はメアの手を借り、本調子ではない体を引きずってでもエディの肩に手を置くと、彼の目をしっかりと覗き込んだ後、もう一度「落ち着け」と声を掛けるのだった。
「彼……ウェイド君に当たったところで、現状は変わらないよ。怒りで我を忘れてはならない。怒りに身を任せては、大切な物まで失ってしまうから……」
「っ、イムさん、あんただって!」
「そうさ。あの夜に全部無くなった。全部、奪われた。私は一足早く、知っていた。だからそのことで彼を責めたさ。自分でも収拾付かなくなる程にね。でも、それで取り返せるものは、何も無かった。……何も、無いんだよ。エディ」
「……」
「その末に、私はむしろ大切な物まで手放そうとしてしまった。……それを止めてくれたのが、ウェイド君だ。……怒りを覚えるのはいい。だが、怒りに飲まれるな、エディ。君はまだ若い。私と同じ失敗は、するべきじゃない」
イムさんの言葉に、エディは自分の中で葛藤を繰り返した様子を見せたあと、やがて肩で息をしていたエディの手から力が抜けて、俺は息苦しさから解放されるのだった。
「ウォルマンさんも、ほら、座りなさって。……まだ、話は終わっていないのだろう?」
こちらを向いたイムさんは穏やかな面持ちのまま微笑んだだけで、メアの手を借りてベッドの元の位置に戻って行く。その細やかな心配りが優しさの形となって降り注ぎ、心に染みた俺は唇を固く引き結ぶのだった。
「条件と言うのは、今の話を聞いても、付いてくる覚悟があるかどうか、と言うだけのものさ。もちろん、無理ならそのままこの村に残ってもらうけど」
「……追手と言うのは、勝手に廃村に住み着いた呪い人を見過ごすとお考えで?」
「さぁね? そこまでは責任は取れないよ。ただ一つ言えるとすれば、そんな希望は持たない方がいい。もちろん、それが危惧の可能性だってある。もしかしたら力になってくれるかもしれない。でも、この村から一歩外に出た君たちがどう扱われたのかを、忘れた訳じゃないだろう? せめて、僕たちが発った後でもいいからこの場所から離れるべきだ……、というアドバイスだけはしてあげるよ」
それはつまり、追手の連中は呪い人にも容赦がないことを意味しているのだろう。たちまちウォルマンの顔色が悪くなる。
「ハッ……、今の話を聞いてあんた達に付いて行くって言うやつがいると思っているのか? そんで、残った連中はその追手とやらに始末されればいい、と? とんだ巻き添えじゃないか! 俺は行かないぞ。俺たちを受け入れてくれる土地なんて、もうここにしか無いんだからな!」
「だとしても九日後……僕らはここを発つ。これは決定事項だ。何も君たちを説得したい訳じゃない。自由意思を尊重するよ。それに、帝国の追手だって、君たちに構う方が時間の無駄だと思うかもしれない。例えその希望が虚構だったとしてもね。二の舞いを繰り返すだけだとしてもね」
「……そうさせてもらうよ。この話は、今すぐに共有してやる。四日と言わず、今すぐにでもお前たちをこの村から追い出してやるよ」
「──エディ」
「止めてくれるなよ、イムさん。俺はもう」
「最後まで、話を聞け」
「なっ……! あんたまでそんなことを──」
「これは、最後まで聞かねば分からないことだ。早まるな」
「…………………………チッ!」
「……メアさんも、エディで遊ばないでもらいたい。彼は素直じゃないが、いい子なんだ」
扉の方へと歩いて行ったエディだったが、イムさんに引き留められ、長い逡巡を経た後で肩を落とすと、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。自分の感情より、イムさんの言葉を優先したのだ。
イムさんもまた、彼が冷静になってくれたことでホッと胸を撫で下ろしていた。
イムさんはエディを、エディはイムさんを、それぞれ尊敬しているのだろう。そんな間柄が見て取れる瞬間でもあった。
それに対してメアは肩を竦めただけで、本当に分かっているのか、いないのか。
「それじゃあご要望に応じて、本題へと移ろうか」
今度は先程とは異なり、ゆったりと、漫然とした動きで立ち上がったメアは、狭い小屋の中をまるでダンスのステップを踏むかのような歩調で歩き回る。
そうして全員の視線を集めて大仰に、こう言った。
「──付いてくる者、全員を、再覚醒させる」
メアの言葉に、今度は俺が仰天する番だった。
補完という名の、言語解説。
【モンテ族】
獣人の種族の一種。
全身を深い体毛で覆われていて、長くは無いがされども強靭な尻尾が特徴の獣人。
身体強化を施すと全身の毛が逆立ち、体毛が紅く染まる。獣人の中でも膂力に秀でた存在。
エディはモンテ族のジャンガル部族の出身で、帝国によって住処を領地にされるまではスキウ族とも縄張りを共有していたことがあるため、イム・ウィ・アルルサップとはすぐに打ち解けていた。エディにとってイムはずっと小柄ながら父のように思っており、逆にイムはまだ年若いエディを友人のように思っている。




