天は私に味方する。
◇
「──リーダー! 大変です! 救世主様を騙った連中が、リーダーの小屋に押し入ってきて……!」
「……あなたでしたか。余り驚かさないで下さい。緊急時ゆえに、今回は目を瞑りますが」
突如として開け放たれた扉に肩を跳ねさせたのも束の間。扉を勢いよく開けたのが協力者である呪い人だと分かるや否や、冷静沈着を取り戻す。
一瞬、絶対にバレるはずの無いこの場所が警戒する彼らに見つかったのかと最悪が過り、背中を冷たいものが這うものの、決してそれをおくびにも出さずに応対する。私は冷静沈着さが売りの神父を名乗っているのだから、協力者の前で弱みを晒すわけにはいかない。
すぐに向かいます、とだけ告げて彼を下がらせ、これから抱こうと思っていた無力に喘ぐだけの女が伸ばした手を下ろさせる。
この女にはもう既にほぼ意識は無いはずなのだが……それだけ自我が強いということか。
「……救世主なんて、いるわけ無いだろう。愚かな娘だ。体は極上なのに、おつむが緩いのがもったいないな」
ハリと弾力のある女体を一撫でした後、私を司祭たらしめる祭服を素肌の上に着る。
少し時間を置いただけで冷たく感じるのは、もう冬が近いからか。それとも、私の体が火照っていたからか。
この場所は、村から離れた場所にある、私と、私の支配する協力者しか知り得ない秘密の隠れ家。
……もしも相手の方が一枚上手でこの場所がバレたとしたら、その時は私の敗北は必至。戦闘能力皆無の私にできることは、精々が無様な命乞いくらいのもの。
そんな弱点たるこの場所を捨てずに保有している理由は、言うまでもありませんね。
「すぐに向かう、と言った手前……行かないわけにはいきませんよね」
先程までの高揚を置き去りにしなければならないことに鬱屈とした気分を抱きながら、外から鍵をかける。
この部屋には、トイレもシャワーも無い、ワンルームの手狭な部屋。ですが、部屋の中には、使い古した大きなベッドとソファと申し訳程度のローテーブルが置かれただけのシンプルなインテリアだが、私からすれば贅沢な一室と呼べる。
更には、中を見回せばあの頃の私では手の届かなかったと言えるような全裸の女が七名、堕落した様子で転がっている。この場に居るのは全員石付きの呪い人だ。けれども、抱いた心地は今までのどの女性よりも心地良く、例えその行為によって呪いが己の体に感染ろうがどうなろうが、私にとってはどうでも良かった。貧相で病気持ちの女しかいない私娼を有り金を叩いて憎悪と快感に揺れる屈辱と比べれば、余程出世したと言えるだろう。
……思えばあの時、聖神教の女神様の教えに従って正解だった。
女神様の言う通り、神父を殺してその立場を乗っ取ったことは、私の人生におけるターニングポイント。……いいや、世界を一変させた紫晶災害こそがそう呼ぶに相応しいか。
巷では紫晶災害は厄災、などと呼ばれているが、元より生活の破綻していた私のような正真正銘のはぐれ者にとっては、転機と言う他無いでしょう。人生をやり直すには、最適のタイミングだった。
何せ──世界そのものが私の味方をしてくれたようなものなのですから。
『ただいま……』
世界が変革の時を迎える以前の私は、街を転々としながらあばら家で一人生きるしがない詐欺師でした。いや、あの時は私と同じように、痩せ細った野良犬が勝手に住み着いていましたから、一人では無かったやもしれません。まあ、彼も長生きできずに野垂れ死んでいましたが。
私には、生まれながらに手にした詐欺師としての才能、「催眠魔法」という生得魔法が備わっていて、その生得魔法から考えれば、詐欺師とは私の転職でした。
話術を頼りに虚構を真実に作り替える。そうやって信じ込ませた嘘で金を拝借するのが詐欺師の仕事。
私の催眠魔法は相手の判断力を多少奪う程度でしたが、ある程度信じ込ませた後なら、私の魔法でありもしない契約を結ばせることは簡単でした。後は金銭を頂戴して去るだけ。去った後で詐欺に気が付いても、私の名乗っていた名前も身分も、初めからこの世に存在しないのですから追われることもありません。若い日頃は、そうして仕事を繰り返していく内に、徐々に裏社会で自分の名が知れ渡っていくことに快感を覚えていました。
私も、いっぱしの悪党になれたのだと。この世界で、認められていくのだと。
ですが、その道は突如として途絶えるのです。
数年前、実の無い投資詐欺を持ちかけ、貴族を騙す事になりました。成功すれば、一攫千金。更に名が広く知れ渡るとあって、意気揚々と勇んでいきました。しかし、肝心の催眠魔法に頼る以前に、話術によって乗り気にさせることすらままならずに失敗してしまったのです。私の詐欺師人生は催眠魔法に頼り切りで、そもそも海千山千の貴族相手に私程度の話術では相手の興味を惹くことすら出来ず、無様に捕まってしまったのです。
そうして五年もの長い時間を経て強制労働から解放されたは良いものの、一度捕まった男は国からマークされているも同義であり、再び裏社会の仲間入りを果たすことは出来ないまま、老い先短い老人や若い商人を相手に細々と詐欺を繰り返して生き繋いでいたところに、紫光の祝福が降り注いだのです。
あの夜を切っ掛けに街中がパニックに陥り、常識が一変したのです。
その中で目に付けたのは、呪い人と呼ばれる、体の全身ではなく、一部が石化した人種。世界から爪弾きにされた者達を目に付けたのは、彼らが皆総じて絶望の表情を浮かべていたから。絶望の淵に立たされた者は、救いを差し伸べる手に極めて警戒心が薄れるもの。それは詐欺師として学んだ、人を騙す上で不可欠な要素でした。それが勝手に出来上がっているのですから、詐欺師からすれば入れ食い状態とよべる好機。
これを私への祝福と呼ばずして、なんと言うか。
ですが、一度失敗を味わっている私は同じ失敗を繰り返さないために慎重を期します。人は勉強するのです。入念に準備を施しました。そうして辿り着いた結果が、神父を騙るというもの。
貧困を窮めていた頃、幾度となく配給で世話になった恩のある神父を言葉巧みに操り、この手で殺しました。首を絞められている際に催眠魔法で、「私に殺されることが神の教えだ」と信じ込ませると、神父は喜んで抵抗を止め、痩せ細った私でも簡単に殺せるようになりました。抵抗を止めた神父は、白目を剥いて死に至りました。
彼には常日頃から様々な神の教えを聞かされていたので、神父の役目を全うすることになんら不安はなく、むしろ、声を掛けた呪い人の集団の中にはある程度聖神教の信者も混ざっていたため、勝手に解釈してくれて非常に助かりました。流石は世界最大の宗教。信頼度が段違いでした。
そこからは誰もが知る通り、神父の名を借りて「デゲントール」という名を名乗り、呪い人を率いて森の奥深くにまで逃げ延びてきた次第。
そこで、私は楽園を作り上げるのです。もう二度と揺るがぬ、確約された地位を築き上げる。そのために世界から見放された呪い人を利用するのです。彼らが何を勘違いしているのかは知りません。大方、私なら救ってくれるとでも思っているのでしょうが、彼らが信じている神父様や誇り高き聖職者など、どこにもいないのです。救いなど、どこにもありません。私は詐欺師。人を騙すのが仕事なので。
「……はぁ、彼らですか。気が重たいですが、参りますか」
居心地の良い地下室から離れ、階段を上っていく最中、あの女の名はなんと言ったか、と考える。ですが結局、思い出せないままで。
呪い人という不名誉な蔑称ですが、彼らはただ体の一部が石化しただけの人間にしか見えませんし、多くの人々は何を怖がっているのでしょう。
感染する呪いであれば分からなくもないですが、この村に来てから毎日のように体を重ねていても私の体に異変はありません。そう思うと、やはり多くの人間は頭の悪い猿ばかりだと言わざるを得ません。ですが、そんなバカな人たちのお陰で、私は楽して楽園を作り上げられたのですから、感謝しかありませんね。
「確か、報告にあったのは、彼らを排除し切れない、というものでしたね……。それにしても、フフッ。救世主擬きが篭城、ですか。実に小賢しくて、そして……、厄介極まりないですねえ」
徐々に完成に近づいている、私の、私による、私のための楽園。そんな楽園に突如として現れた外部の存在。
呪い人の中にいた私の楽園を邪魔しかねない存在をようやく消せたばかりなのに、喜びに打ち震える間も与えられずに現れた、救世主を名乗る人物。
もちろんそれを利用しない手は無かったのですが、彼らはつけ上がるどころか、むしろ自ら評判を落とす始末。なんですか「紫晶災害を起こした男」なんて。どう考えてもでまかせでしかないものを、呪い人の彼らは信じて疑わず、むしろ数日前まで「救世主様だ」なんだと騒いでいたにもかかわらず揃って言葉と言う名の暴力を振るう始末。実に度し難い愚かな存在です。
だから、騙される。
ですが、私には彼らの目的が理解ません。
どうしてそんな嘘をつくのか。そんな嘘を信じ込ませるのか。
私には理解できない。理解できないからこそ、恐ろしい。
ゆえに、後手に回るしかなく、気が付いた時には彼らを追い出すことが困難な状況が作り上げられているではありませんか。
そんな彼らが遂に動きを見せた。
かと思えば、私の小屋に乗り込んでくるとは、ますます何を考えているのか分からなくなる。
とにかく、私の手元に情報が少なすぎるのが後手に回っている所以です。何とかして彼らの目的を探るべく情報をかき集めねばと考えあぐねていると、気が付けば森を踏破し、村の入り口に辿り着いていました。
「リーダー! こちらです!」
信徒に案内された先では、多くの村人たちが何事かと私の小屋の周りに集まっておりました。咄嗟に困ったときの表情を作って「何事ですか」と呟くと、最後方に居た村人の一人が私に気が付き、更に横の村人が気が付き……それを繰り返すうちに瞬く間に人垣が割れて、小屋への一本道が出来上がるではありませんか。
聖典にも海を割った印導者の話がありましたが、正しくそれの体現、と言ったところでしょうか。まぁ、海なんて話に聞いたことがあるだけで、実際に見たことなど無いのですが。
「や、奴らが、救世主を騙る不届き者の連中が、リーダーの小屋を調べさせろと押し入ってきて……!」
「それで、押し返せなかったと」
「も、申し訳ございません……!」
「いえ。見られて困るものがある訳では、ありませんので」
正確には、見ても分かるはずの無いものがあるだけだ。
私も、見つけた時には驚いたものです。まさかこの小屋に、あんなものが隠されているとは。教えて下さったあの御方には、感謝しかありません。聞くに堪えない老人の妄言であっても聞き逃さない。情報収集は詐欺師にとって地道な努力ですから。
だからアレを見られたところで、彼らには何か分かるはずが無い。
アレは、この国でも限られたごく一部の人間にしか理解できないものだと知っているからこそ、落ち着き払った態度で小屋の中に入る。
私はただ、自分の家に帰って来ただけ。何もやましいことなどございませんから、胸を張って玄関を潜るのです。
「どうして、今更……?」
「……デゲントール」
「お三方がお揃いでお目見えとは、私に何か御用でしたか? お茶の一つも出さず、申し訳ございません。どうやら……随分とお待たせしたご様子ですし」
私を出迎えたのは、救世主から一転して裏切り者扱い、村人から呪いの仇とまで謳われている幸の薄い顔をした男と、日中常に私の行動を窓の外から見張っていた女の二人でした。両者ともに、名前は覚えていません。
私からすれば、この両名は恐るるに値しない。救世主だからと聞いて初対面の時に身構えたのですが、二人からは私を警戒する素振りが無かったからです。彼らは初対面時、私を警戒していなかった。詐欺師として長いこと生きてきた私にはわかるのです。第六感と言う奴でしょうか。自分に対して一定以上の危機感を抱いている相手には、話術も催眠魔法も効果が薄い。その牙城をいかに崩すかが詐欺師としての腕の見せ所なのですが、彼らにはその必要を感じなかったのです。これも神父と言う皮のお陰でしょうか。
人は、先入観で人を見る。詐欺師にとって神父と言う隠れ蓑は最も優秀だと知った瞬間でした。
だと言うのに。
次に見かけた際には、彼らは私を警戒していた。
それはつまり、残る一人、医療知識を持ったもう一人の仲間が入れ知恵をしたということに他なりません。真に警戒すべきは、今も姿が見えないもう一人の人物。診療所に根を張った、彼らの頭脳と言える存在でしょう。完璧な偽装を施した私を疑っていて、人々の心を動かすことが出来、自らの意見に圧倒的な自信を有する者こそ、詐欺師の天敵なのです。
聞く耳を持たないのであればむしろ会話を誘導することができれば突破口なり得るのですが、会話をする余裕がある者ほど、恐ろしい。話術を仕事にする私たちが、いつの間にか相手に手玉に取られている、なんてこともあると聞いたことがある。
ですから、真に警戒すべきは三人目なのです。
例え二人が私を警戒していようとも、他人の言葉で揺れる人物なら私の話術で崩せると踏んでいます。人の言葉を借りている程度の人間など、詐欺師の敵ではないので。
「ウェイド~、リリスちゃ~ん。そっちはなんか、見つかったぁ? ……っと。これはこれは神父様。初めまして」
噂をすれば影、とでも言うべきか。真の敵は悠然とした歩みで二階からの階段を降りてやって来る。
侵入者だと言うのに、一切悪びれる様子のない態度。それはこちらを舐め腐っているのと同意で、相手の感情の発露を誘う手立ての一つ。感情的になるということは、弱点をさらけ出すのと同じ。私達詐欺師が使う、会話の主導権を握る技術。それを意図して知らずか使っている男こそが、私の天敵であります。彼の前で隙を晒したが最後、私は骨までしゃぶられるのが目に見えている。
だからこそ、私は余裕を振る舞うのです。
ここでは挑戦者はあなた。私はそれを、迎え討たねばなる側ですので。
「……探し物は見つかりましたか?」
「残念ながらね。僕たちの探してるものは見つからなかったよ。余程周到に隠しているんだろうね?」
「はてさて、あなた方が望むようなものがこの家にあるのでしょうか? 金目の物など置いていないのですが」
「そんなことはどうだっていいのさ。僕たちが探しているのは、いなくなった住人だからね」
「……おや、ご存知でしたか。お客様の耳には入れないようにと努めていたのですが、どこから漏れたのやら。私共も捜索範囲を拡げてはいるのですが、生憎と人手が足りておらず。よろしければ、皆様のお力をお貸しいただけませんか?」
「だからこうして調べているのさ。一番怪しい場所をね? でも、てっきり君のお城のどこかに隠しているのかと思っていたけど、どうやら見当違いだったみたいだ。お邪魔したね」
「おや、お茶も飲まずに帰られるのですか?」
「悪いけど、神様のもてなしを受けるわけにはいかないのでね。……そうだ。帰る前に一つ聞いてもいいかな? いや、神父様なら、迷える子羊の悩みから耳を閉ざすなんて真似、しないか。だから一方的に語らせてもらおうかな」
「もちろんです。ど──」
「僕たちは君の理想郷の邪魔をするつもりは無かったんだ。でもね、君らの方から僕たちの邪魔をするって言うなら、話は変わってくるよ。それだけは覚えておきたまえ」
「……」
「神父様、顔が怖いよ? じゃあね?」
どうぞ、と私の言葉が終わる前に語り出した軽薄そうな男は、それだけ言って家を後にしていく。残された男女も、その男に続いていって。
彼らが去った後、残された私の耳には家の外で待ち構えていた信徒たちからの罵声が彼らに向けられているでしょうが、気休めにもならない。そもそも、そんな気概があるのなら、彼らの侵入を阻むように動けよ、と思わなくもありません。信徒など、所詮は口だけで動かされる薄っぺらな信念しか持ち得ない連中。そんなことを期待するだけ無駄ということでしょう。
「……どこまで気づかれているのやら」
あの軽薄そうな男。彼があの三人の頭脳を担っているのでしょう。
診療所という要を手中に収め、彼らを追い出しにくくした。その手際は見事という他無く、もしも彼らを追い出した場合、診療所に残された傷病者らを、私は救う手立てを持っていない。それはつまり、見捨てる他無いということに繋がり、結果として私の求心力が落ちることに繋がる。疑心が募れば、催眠魔法の利きも悪くなる。そうなると新たな玩具が手に入りづらくなり、楽園が遠のく……。
実に、実に厄介極まりない。
鼻持ちならない存在とは、正にあの男のことです。目の上のたんこぶのような男は始末するしかないのですが、それも簡単にはいかなさそうで。
「あの魔物の群れを撃破する程の実力の持ち主ですからね。事は慎重を期さねばなりませんね」
始末する方向で、丁寧に荒らされた室内を歩き回っていると、扉を叩く音が聞こえ、入室を許可する声に続いて信者の一人が入ってきました。
「どうなりましたか?」
「連中は診療所に戻って行きました。……リーダー! これ以上、奴らに好き勝手させるわけには、いきませんよ! ただでさえ奴らには救世主を騙られ、希望を嘲笑されているのです! 我々は、戦う覚悟が出来ています!」
「……血の気の多いことを我らが神は望んでいませんよ」
これまで私は、村人たちに対して救世主を騙った愚か者への姿勢は静観を示していました。ただし、村人連中には攻勢を仕掛けるよう仕向けた上で。ですが、彼らがこうも直接的な行動を仕掛けてきた以上、ここで私が取るべき行動は、介入。
今再び、求心力を上げるべき時で。
私はハーブティーの茶葉が詰まった壺を覗き込み、枯れ枝のような指先で茶葉をほじくり返す。
茶葉が零れて床を汚すのも厭わず、中から引っ張り出した小瓶を見て、静かに目を開くのです。
「……ですが、これ以上彼らに私たちの楽園を汚させるわけには参りません」
「リーダー……!」
「彼らにも考えを改めさせる機会が必要です。確か、彼らに恨みを持つ人物が居ましたね。彼を呼んでください。策を伝えましょう」
「それでこそ我らがリーダーです! ただいまお呼びしてまいります!」
詐欺師の仕事はたった一度きりなのに対して、神父の振りは一生かけて続けなければならない。期待に応え続けなければならないというのは精神に負荷が掛かりますが、これを乗り越えた先に私の楽園が待っているのです。
どうせ最後には、全ての住人を私の催眠支配下に置くのですから、身を繕う必要もなくなるわけです。計画は既に最終段階を迎えています。今更誰かに邪魔されるなど、あっていいはずがないのですよ。邪魔をするなら話が変わる? 戯言を。先に邪魔したのはそちらです、と正直に返すべきだったでしょうかね。
「し、神父様、お呼びでしょうか……」
「ようこそ。お待ちしておりましたよ。さぁ、こちらに掛けてどうぞ」
尻尾の大きな獣人を椅子に掛けさせ、いつもの穏やかな笑みを湛えるのです。
なぜなら、私は詐欺師。人を騙すのが仕事。
騙された先で誰がどうなろうと、知ったことでは無いのですから。
だからまずは、一人ずつ排除していくことにしましょうか──。
補完と言う名の、言語解説。
【デゲントール(?)】
年齢不明。
身長170cm。体重46kg。
生得魔法【催眠魔法】。
北方のスラムで生まれた男は、人を騙して生きてきた。親を、友を、恋人を、仲間を、師匠を騙して、裏切って、一人で生き延びてきた。貴族への詐欺が失敗に終わり逮捕された後、強制労働を経ても尚その性格は直ることはなく、生得魔法頼りで中途半端な技術しか持ち得ていない詐欺を生業にして生きてきた、どうしようもない人間である。そんな人間が神父を殺害し、その身分を騙るなど聖神教としても求心力に直接関わってくることのため、見過ごせるはずが無い事件。未だに彼が生き延びているのは何故なのか。そんな彼は自分の身の回りの情報しか取り揃えられておらず、ウェイドやメアの名前を聞いたことが無かった。聞いたことがあっても、忘れるようにしていた。それは彼が貴族にしてやられたことが一種のトラウマとなっており、金輪際関わりたくないと思い込んで無意識に避けていたから。そんな彼の腐った性根こそが、仇になるとは知らず……。




