四節 暗闇6
◇
帝都ならどこでも買えるようなサザクの実のジュースがそんなに好きなのか、と思えるほどに食いついたエリカと共に、その味に舌鼓を打つ。
服を着せたエリカは、右腕にもたれかかりながら静かに口を開く。
「もう、戻ってこないかと思った」
「そんな冷たい人間に見えるか?」
「ううん、そうじゃなくて。なんだか、急にいなくなってしまいそうで、怖くて……」
眠りの浅い俺に付き合わせるのは酷だろうと思い、人目を避けるという意味合いも込めて早朝に動いたのだが、それが却ってエリカの不安を煽ったのだろう。
だとしても俺は、その不安を解消させるわけにはいかない。それくらいの線引きは、出来るつもりだ。
一緒に寝ておいて何を今更、と言われようが、俺は客としてエリカに価値を見出してお金を払って対価を得た。それが例えエリカからの誘いだったとしても、俺にとっては一つの体験に過ぎない。
だから右隣から送られてくる明らかに好意が混じった視線を、見て見ぬ振りをしなければならない。それを心苦しいと思うのは、烏滸がましいことだろうか。
返す言葉が出てこないまま沈黙が広がっていると突然、家の鍵が回る音が沈黙を裂いて響く。その音に俺とエリカが揃って肩を跳ねさせたのも束の間、人影が一つ、家に飛び込んでくるのであった。
「──おっはよ~! よく眠れたかな? ちなみに僕は、ばっちり六時間睡眠さ! 見てよこの肌艶! 睡眠は美容の友だからね。今日も肌の調子は最高潮をキープしたままさ! 化粧の乗りだって完の璧だよ! 褒めてくれていいんだよ! とりあえず、交渉と言う名の一方的な押し付けを決めてきた僕が君に今後のことを伝えにやってきてあげたわけさ──って……、おやおやおやぁ?」
朝っぱらから耳を塞ぎたくなるくらい騒がしいのは、上機嫌の証。
そもそも、この家に鍵を開けて入って来られる人物なんて一人しかいない。それも、俺がいると確信して入って来られるような人物なんて。
「メア……その顔は止めてくれ」
「止めろ、だってぇ? ……まさか冗談で言ったことを実現するとは思ってもみなくて興味深くてねぇ。それも、まさか君が、だよ。ワーグナーに言ったら一晩中お祭り騒ぎさ。だからついつい珍妙なものを見る目を向けてしまうのは許しておくれよ。女っ気のなかった君の祝うべき日だ。祝福の思いが止まらないのさ! ……というか。普通、僕が冗談でも言ったとは言え、人から借りてる家で、ベッドで、よくもまあ情事に至れるね。僕には無い神経だったものだから、驚いて止まない、って言うのが本音だよ」
「それを言われると何も言い返せないのが腹立つな」
「心の声のつもりだろうけど、ばっちり聞こえてるからね?」
家の鍵を指先でくるくると回しながら部屋の中を練り歩くメアは、言葉とは裏腹にどこか感心したような目を向けてくる。それに反して、エリカには頭の先から爪先まで視線を這わせて一人頷き繰り返す。
その奇妙な闖入者に怯えた様子で俺の背に隠れるエリカが、奇妙な人物と知り合いな風体を取る俺に何者かと問うてくる。
「だ、誰……? 私、殺される……?」
「殺させない。この家の、持ち主……ってところか?」
「おいおい、ウェイド。君の大親友、って説明が抜けてるだろ?」
「どの口が言ってるんだか。話をする前に、この子を返してくるから待っていてくれ」
ウィンク付きで冗談めかして言うメアを見て鳥肌が立つ。
これから話す内容は無関係のエリカに聞かせられるものではないためそう言うと、エリカが服を掴む力が増す。
「もう少しだけ、一緒に居たい……。駄目?」
「……悪いが、これ以上は」
「何も聞かない。誰にも言わないから、せめて、お昼まで一緒に居させて……。そしたら、全部忘れて、帰るから……」
不安そうに上目遣いで訴えてくるエリカを俺が振り払えないでいると、代わりにメアが動いた。
「僕はウェイドみたいに優しくないから言うけど……たかだか娼婦の分際で、図々しいことこの上ない。自分の立場を自覚してるのかい?」
「おい、メア。そんな言い方──」
「君は口を挟む権利は無いよ。そもそも君は、彼女のことを良く知っているの? たった一晩繋がっただけで、全てわかっているつもり? それこそ、頭が童貞のままだよ。この娘が奴らの手の者ではないと言い切れない以上、話を聞かせるわけにはいかない。そうでなくても、話が漏れる可能性がある限り、出て行ってもらわないといけない。君は、その娘が絶対に裏切らないと確信を持って信頼していると言えるの?」
「……」
「私は、そんなつもりじゃなくて──」
「だとすれば、君はとんだ素人だ。君とウェイドは、娼婦と客。それ以上でも以下でもない、ただの金銭が結んだだけの関係。それは友人でも恋人でもない、ただの契約上の関係だよ。些か出しゃばり過ぎじゃないかな?」
「う、うぅ……!」
エリカは見ての通り、我の強いタイプではない。
それがゆえに、メアの言葉に言い返すことも出来なくて強く歯噛みするばかり。
ここでもし俺が口を挟もうものなら、メアは増々調子づくに違いない。そうなればエリカの立場は増々追い詰められ、果てには人間性まで否定し始めるだろう。それが古式ゆかしい帝国貴族のやり方である。
「ウェイドってば、良い男だろ? 一晩だけの関係とは言え、君も良い夢を見られたんじゃないのかな? ああ、それとも、お金かい? 見たところ、お金に困っているみたいだ。彼に近付いたのもどうせ、丸見えの財布から金貨でも見えたからだろう? 彼なら手易く盗めるとでも思ったのかな? でもまあ、正解だよ。僕たちには秘密が多いからね。ここで見聞きしたことを忘れるための手間賃だ。受け取ると良いさ」
「バカにしないで! 私は……私は……っ!」
メアは何の気も無しにテーブルの上から金貨の詰め込まれた革袋を手に取り、エリカに向かって投げ渡す。そんなメアの態度や言葉がエリカの逆鱗に触れたのか、彼女はそれを一瞬の躊躇いの後、地面に叩き付けて立ち上がる。
「……っ!」
そのまま外へと繋がる扉まで歩いて行くと、エリカは一瞬だけ振り返った後に、その身を外へと飛び出して行ってしまう。
「なんだい、その目は。まさか君まで僕を非難するのかい? 君の為を想ってのことなのに……。娼婦は恋を売る商売だ。それも、偽物のね。愛は売ってくれないのさ。君が入れ込み過ぎないようしてあげたんだから」
「なんとなく分かっていたさ。……それに、だ。お前はああいう娘、嫌いじゃないのも知っているからな」
「そうだねえ。もし次会えたら、助けてあげてもいいかな。覚えていればの話だけど」
メアは賢い人間と、お金や貴族に靡かない人間を好む。メア曰く、実力主義の帝国ではそんな人はかなり貴重らしいが。
「それで、君は何をぼさっとしてるのかな? さっさと追うんだよ」
「分かってるよ」
「君も、罪な男だねぇ」
「すぐ戻る」
「すぐじゃなくてもいいさ。実行は今夜を予定しているからね。別れを惜しむといい。……こんな世界だ。別れを告げられるのは幸運なことだよ。存分に、噛み締めておいで」
「それも……そうかもな」
「あとついでに、ネタばらしもよろしくね?」
「お前はいつか、刺されても知らないぞ」
「それ、君が言う~?」
足を引きずったエリカを追って、俺は家を飛び出して行くのだった。
◇
「──おい! こいつ、呪い人だぞぉ!」
「兵士たちが探してるやつは男って噂だったが、女でも呪い人なら構わないだろ。おら、暴れるんじゃねえ!」
「いや! 離して!」
家を飛び出して間もなくのところで、そんな言い合いが聞こえてきた。
喧騒の聞こえる先は路地裏だったが、人気の少ない十三区では路地裏の喧嘩でさえも目立って聞こえてしまう。これが中心街に近い十一区の方だったなら、誰にも聞き届けられずに流されていたことだろう。
十三区は治安の良さが売りだったはずなのに。世界が変わってしまったことを、罪悪感と共にヒシヒシと感じる。
「そんな薄着じゃあ、襲ってくれって言ってるようなもんだろぉ。へへっ、ちょっとくれえ味見しても文句は言われねえだろ」
「げぇ。お前、呪い人抱くのかよ。しかもこんな醜女を? こんなの丸太と変わらねえっての」
「石の部分を触らなきゃ問題ねぇって。手頃な娼婦はもうどこにも残っちゃいねえからなぁ。こんなのでも発散できるなら構わねえさ。むしろ、抱いてもらえることに感謝してほしいくらいだぁ。へへへっ、押さえておけよ──」
下衆以下の連中の声とエリカの悲鳴を辿って行けばすぐに現場へと辿り着くわけで。
しかし、俺が辿り着いた頃には男の一人の手が自分のズボンにまで伸びていて、後一歩でも遅れていたら男の下着が露呈していたことだろう。
「……そいつは、俺の女だ」
「ウェイドっ?!」
「……なんだぁ、お前? ここは通行止めだぁ。別の道、通んなぁ」
「その手を、放せ」
「おい、良く見ろよ! そいつも呪い人だ! しかも、こいつの男だってよ! 今からショーを見せてやるから、黙って見てな。うひひ、余計滾って来たぜ」
「へへっ、蚯蚓で大蠍を釣るってかぁ? 俺たちにもいよいよツキが回って来たってことかよ!」
包帯を巻くのを忘れていたか。
今更フードを深く被っても、意味は無いだろう。
男は懐からナイフを取り出し、脅すようにそれをチラつかせる。
「おっと、動くんじゃねえ。見た感じ、お前がそれなりに動けるの、分かるぜぇ。でもなあ、お前が動くより先に俺たちがこいつを殺す方が速い……それくらい、分かっているだろう? えぇ?」
「ひっ……!」
「待っていろ、エリカ。すぐに、助けるからな──」
「はっ! 呪い人風情が、恋愛ごっこか──よ……ッ?!」
「っ?!」
有言実行を成すべくナイフを構えた男を通り抜け、エリカを捕まえていた男の前に現れる。
驚愕する男に向かって腕を突き出し、トン、と胸を突く。
「ガ、ハッ……!」
瞬間、胸を突かれた男が白目を剥き、エリカを押さえていた手が緩む。
「ウェイド……っ!」
「お、お前……、一体、何をしやがった!」
「……何もかも忘れて去るか、同じように気絶させられるか、どっちか選べ」
「俺は銀等級だぞッ! 舐め腐りやがって、この……! ぶっ殺してやる!」
「その銀等級とやらが何かは知らないが、見抜けないようでは程度が知れるというものだ」
ナイフを構え、脇を締めて突き進んでくる男を見るとその肩書に恥じぬ実力を有しているのがわかる。だけど、それだけ。この程度であれば、士官学校を卒業したばかりの士官兵の方が強い。
だから片方の男を倒した時と同じ方法で、その男を押し倒す。
「カ、ハ……ッ!」
胸を押し潰され、肺の中身を全部吐き出した男は、路地裏の壁に叩き付けられて気を失う。
「エリカ、無事か? 何もされてないか?」
「ウェイド……! 私は無事だけど……今の、何をしたの……?」
何をしたかと言われても、膝を抜いて彼らの視界から姿を消したまま、横を通り過ぎるだけ。師匠の裏を取るために何度も練習した結果、一度も通用することのなかった小手先の技術だ。胸を突いたのも、相手の肺を押し潰すためのことだ。いっぱしの実力があれば、意識を刈り取るのみならず内臓を破壊し尽くす威力を叩き出せたのだが、俺にはそんな力も無い。
結局のところ、そんなものばかりを極めたところで俺は所詮、同期は疎か、卒業したての士官兵にも劣る実力でしかない。俺が特別騎兵として選ばれたのは、実力ではなく機竜との相性だけ。それも、努力の過程など一切関係のない、生得魔法が全て。
ゆえに、今の一連の出来事には何も誇れることなど無いことをエリカに伝えると、彼女は「そんなことない!」と泣き叫ぶ。
「今こうして助けてくれたじゃない! あなたの過去が、私を助けてくれたの……! あなたの努力は、無駄なんかじゃなかった。卑下しないでいいの……。自身を持っていいの。だから、言わせてちょうだい。……助けてくれてありがとう、って」
「……エリカは、優しいな」
「ウェイドも、優しいでしょ。たった一晩寝ただけの私を、こうして追ってきてくれたもの」
「……何とも思わない相手と、寝たりしない」
自分でも思っていなかった言葉が吐き出され、エリカの目が瞬く。
照れ隠しに頬をかくと、彼女の頬も赤く染まる。
「……立てるか? 送っていくよ」
「……うん」
家から持ち出した外套を被せ、外を歩き出す。フードを目深にかぶって二人並んで歩く姿は人目に奇妙に映るだろうが、今だけは人の視線など気にならない。
二人の間に流れる緊張が静寂を生むが、互いの心拍音が奏でる音楽がやけにうるさく感じて、互いに言葉を紡ぐ事すらできないまま歩き続ける。そして、
「……ここで、平気。送ってくれて、ありがと」
そう言いながら、エリカは繋いだ手を離そうとしない。
それがなんだか微笑ましくて俺がフッと笑うと、エリカは見上げて顔を寄せてくる。
「ねえ……好きって言ったら、迷惑?」
「俺は、エリカが思っているような男じゃないぞ」
「ううん、きっと合ってる。だから──」
困ったように笑みを見せたエリカが、背伸びして唇を触れ合わせる。挨拶のような、軽いキスだ。エリカが離れていくことを惜しく思うのは、気の迷いではないだろうか。
繋いだ手を引き戻したい。それが俺に許されていない事は俺が一番良く分かっているはずなのに。
そんな感情から目を逸らすように空いた手を懐に入れて、話題を逸らす。
「これだけは受け取ってほしくて」
「これって……、お金……?! 要らないって、言ったのに……!」
「これは俺が渡したいんだ。施しだと思われても……仕方ない。それでも俺は、昨日の夜、確かにエリカに救われた。エリカの言葉が、温かさが、俺の心を救ってくれたんだ。それだけは、間違いじゃないから。……それに、エリカの夢の背中を押したいんだ。感謝のしるしとして、受け取ってくれないか」
じゃり、と金属音を立てる革袋の中を覗き込んで、エリカが目を瞠る。
中身は帝国金貨十数枚。
金貨二枚が帝国人の平均年収だとすれば、その額の多さが分かるだろう。
しかし、俺は昨夜、確かに彼女の言葉と行為によって救われた。少なくとも、生きていてもいいんだと思えた。それを教えてくれた彼女にそれだけの価値を見出したというのが本音だが、それが彼女にとって重たく感じるのであれば旅路には荷物になるからと適当な言い訳を並べればいいだろうか。
「それなら、私は……」
彼女は何度も逡巡を繰り返し、口を開いては閉じてを繰り返す。
その果てに、彼女はその革袋を自分の身に抱き寄せ、困ったように眉根を下げた。
「あぁ……あの子の言う通り。本当に……。私は結局、娼婦なの。恋で体を売って、お金を稼ぐの。本物の愛は、見せてあげられない。売れば売るほど、愛は遠のくの。だからお金を求める。お金があれば、人が寄ってくるから。そこには嘘でも、愛が生まれるかもしれないから。どれだけ虚しくても、そうすしかないの。ここで断ったらきっと……いいえ、間違いなく、後になって後悔するわ。これが、別れの手付金だとしても、私には断ることが出来ないもの。本当に、あの子の言う通りね」
彼女の目尻に光るものを、俺には拭う権利は無い。
だから、と口を開こうとした時、今度は唇ではなく、エリカの指先で塞がれる。
その先の言葉を聞きたくない、とでも言うかのように。
「でも、そんなことにはさせない。させたくない。この気持ちが嘘だって、認めたくない。これは……そう、ただの、売り上げ金。ウェイドが私に値段を付けただけ。お別れなんて言わないで。……だから、これだけは許して欲しい。次に会うまで、あなたのことを好きでいて良い、って」
涙目で訴える彼女の願いを、どうして断れようか。
俺は彼女の頬に手を伸ばすのを諦め、小さくうなずく。
「ああ。……次に、会えたら、また──」
「次に会った時! あなたの傍に、もし……誰も居なかったら、その時は……」
ぐっ、と言葉を飲み込んだエリカが、長い沈黙を経て、言葉を吐き出す。
「──あなたの方から、キスしてほしい」
ようやく聞けた彼女の願いは、恐らく本心では無いだろう。
本心だったなら、そんな悲し気な目はしないだろう。悔やむような目は、しないだろうから。
「……もちろんだ。また会おう、エリカ」
「ちゃんと言えて、良かった」
そう言って踵を返して去って行くエリカの背を、俺は見えなくなるまで見つめていた。その背が見えなくなってから、未だに感触が、熱が残る手のひらに視線を落として、肩を落とす。
彼女の気持ちに応えられないことくらい、分かり切っているのに。
それなのに俺は……と唇を噛んだところで、伝え忘れたことを思い出す。
「あ、メアが男だって言うの、忘れてた……」
次に会えたら、伝えよう。
メアの言う通り、俺とエリカはたった一度寝ただけの関係。たった一度だけ肌を重ね合っただけの関係に過ぎない。人肌の温もりを知って手放したくないと思えているのが彼女の売り方なのだとしても、この胸の高鳴りが勘違いや偽物だったとしも、もう一度信じてみたいと強く思わせてくれたことは紛れもない事実で。
彼女になら騙されてもいいのかもしれない。そう思わせてくれたことは、どん底の人生の中で一際輝く宝石のようであって。
浮かれ気分のままフッ、と弛んだ口元で俺もまた来た道を引き返すべく踵を返していく──その時だった。
「……ウェイドさん?」
気が緩んでいた。
俺は今、追われる立場なのだということが、すっかり頭の中から抜け落ちていた。
俺を呼ぶ声が聞こえて、頭の天辺から足の先まで、一瞬にして緊張が走った。今更フードを被り直しても、もう遅かった。
ハッと、振り返った先にいたのは、ゆらゆらと揺れ動くもふもふの尻尾で。
「やっぱり、ウェイドさんじゃないですか!」
大きな尻尾を揺らすのは、懐かしい顔。整備士のシャーリィの姿が、そこにはあった。
追われる身分ゆえに、突然かけられた声に俺は止まった心臓が再び動き出したかのようにドッ、と汗を噴き出させると、シャーリィは少しばかり反省した顔で微笑むのであった。
「す、凄い顔ですね、ちょっと……驚かせ過ぎましたか?」
補完と言う名の、言語解説。
【十四区貧民街】
十三区から連なりに続く十四区にある、貧民街。
帝都の中でも比較的有数の大きさを誇る貧民街。そこには雑多に町が形成されており、多くの貧民が住まう場所として長らく放置されていた。
しかし、道路一つを隔てれば区画整理された衛生的な区画が広がっている。シャンティタウンとも名高いその一帯を帝国が放置している理由は、貧民街に住まう人々の生活を保障できない、というのが理由の一つ。例えこの場所を潰したとしても、また別の場所に貧民街ができる。そうしていたちごっこを繰り返す果ては、貧民層の排除。それだけは避けなければならないとロベリア陛下は考えた結果、貧民街を暗黒街にさせない、犯罪の温床を防ぐための最低限の支援のみに留まることにしたのであった。
貧民層の彼らも、帝都の運営には欠かせない労働力と考えられていたのだろう。貧民街だからと言って、そこに住まう彼らが不幸であるとは限らないのだ。




