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二節 帰還3

 

 ◇


 貴族街、十区。

 平民区と隣接するこの区画は、平民でもちょっとした小金持ちが遊びに来る歓楽街としても有名で、俺も弟妹たちへのお土産を選びに何度もお世話になっている場所だ。

 その十区にあるのが、『機竜小隊統括本部』。

 限られた人物しか立ち入れないその場所に、俺は空腹を訴えるカタリナと共にやって来ていた。こうして約束を果たせるだけの余裕が生まれたのも、陛下の手回しのお陰である。もう陛下に足を向けて寝られないよ。


「……誰、あの人?」

「初代皇帝様だよ」


 ここは帝国を現在の形にまで押し上げるきっかけ、人類史におけるターニングポイントとなるアーティファクトが初めて発掘された跡地。その上に帝国の都は作られている。

 帝国民であれば誰もが知る常識であり、アーティファクトを活用して帝国を築き上げた初代皇帝を称える石碑が建立されている。帝都における有数の観光スポットとして有名な場所だ。

 この場所が帝国の有名観光地の一つであると同時に、この場所は機竜小隊にとっても重要拠点と言える場所であった。

 一般人には立ち入りが禁止となっている地下に、全部で三つある機竜小隊を統括する本部が設置されているのである。


「相変わらず、ポータルってのは不思議だよな」

「……お腹、空いた」

「おうおう。後少しだから待ってくれよ」


 少しだけ腹を立てているのが声音で分かるカタリナを宥めていると、そこにいた兵士が見かねたのか、軽く摘まめるお菓子を差し出してくれたお陰でなんとかご機嫌を保つことに成功する。さっきまで機竜ごっこではしゃいでいたというのに。

 子供の気ままな性格に振り回されるのを溜め息交じりに受け止め、俺は伝言を託した兵士が消えて行った魔方陣に目線を移す。



 ──長距離輸送転移魔方陣。通称、ポータル。



 帝都の地下が統括本部とは言ったものの、実際にあるのは地下にあるのは光り輝く三つの魔方陣のみである。

 その三つの魔方陣はそれぞれ機竜を発掘した場所へと繋がっていて、機竜と共に発掘された連絡拠点こそが機竜を運用する上で欠かせない連絡拠点である。

 長い年月を土の下で過ごしたにもかかわらず一切の損耗の無い状態で発掘された機竜各七機と、連絡拠点。耳飾り(インカム)もそこで発掘された一品である。その連絡拠点こそが、機竜を運用する上で欠かせない施設となっている。しかし、肝心の連絡拠点は帝都から離れた土地にあるため、オペレーターをその土地に縛り付けなければ機竜の運用が出来ないという制限があった。だが、この目の前で輝く三つの魔方陣。ポータルの発見によって、帝都と連絡拠点は結ばれ、機竜は実働段階にまでこぎつけたのであった。このポータル無くして、帝国の発展は有り得ない。当然、ポータルの存在は国家機密であり、厳重に守られなければならない古代文明の一つであった。

 この統括本部とは名ばかりの帝都の地下は、機竜を運用するに当たって欠かせない連絡拠点と繋がるポータルを守るための場所であった。


「あ、おいカタリナ! あんまそれに近寄るな!」

「……?」


 ポータルの周辺は厳重な警備が敷かれているため、カタリナが間違えて踏み入ってしまうということはまず無いが、俺としては近寄るだけでも恐怖を覚える。

 俺は実際にポータルで移動したことは、無い。それは単純に機竜の操縦士が連絡拠点に赴く必要が無いからというのもあるが、一番の理由は、怖いからだ。

 現時点でこのポータルは、連絡拠点と『最初の遺跡(始まりの地)』と呼ばれるこの帝都の地下にしか繋がっていない。しかし、その利便性と可能性を秘めたポータルは研究塔が長年にわたって解析に勤しんでいた。もしも実現が可能になれば、帝都から俺の故郷まで、馬車で二週間かかる距離を一瞬で移動できるかもしれないのだ。流通革命が起こるかもしれないとのこと。しかし、その解析は十年近くが経過してもなお、実用に至っておらず、過去にはしびれを切らした貴族が解析用の魔方陣に乗ったところ、移動先の魔方陣に右手だけを残して行方不明になったという話を聞いてから、俺はポータルに乗って移動するのに恐怖を抱いていた。


 オペレーター各位や、今しがた消えて行った連絡用の兵士はよくもまあその話を聞いても何の躊躇もなく光に巻かれて消えて行けるものだ、と感心してしまう。その点だけは軍人として命を懸けて戦う俺たちよりも勇敢であると、脱帽を禁じ得ない。

 そう思ってカタリナを抱き寄せていると、静かだったポータルに光が灯る。


「──ウェイドさん!」

「うぉっ、危ないだろ。きちんとポータルの光が消えるまでは魔方陣の中でだな……」

「そんなことどうだっていいです! 話を聞かせて下さい! 連絡が取れなくてもう、私、気が狂いそうだったんですからね!? 包み隠さず、全て話してください! 今、すぐに!」

「お、落ち着け、リリス……」


 俺の些末な感心も彼方に蹴り飛ばす勢いでポータルから飛び出して来た人影は、リリスだった。


 リリス・アルバート。


 アルバート男爵家の四女にして、機竜のオペレーターという貴族でも一握りの役職を得た才女。

 平民と貴族の間にはどれだけ背伸びをしようとも超えることのできない壁があるとは言え、爵位の中では最低の男爵家ということで、たった一人の平民として肩身の狭かった士官学校の頃から、彼女は何かと俺の面倒を見てくれることが多かった。

 二年弱に渡った学生生活の縁なのか、学園卒業後には特別騎兵として機竜の操縦士になった俺と、機竜をサポートするオペレーターとして組むことになったのは偶然の産物だろう。リリス自身も口酸っぱく「偶然だから!」と言っていたことから、貴族社会特有の根回しとかがあったとか、そういうわけではないのだろう。だが目を血走らせてまで否定してくるリリスの姿に「そこまで言わなくても……」と影ながら落ち込んだのは秘密だ。

 夏空のようにどこまでも澄み切った青の髪に、無垢さが残る紫紺の瞳が光を反射させて、眩しく輝く。彼女の愛らしく整った顔に微笑みかけられれば、シスターフィオナという心に決めた女性がいるにもかかわらず、多感な俺の心は辛抱堪らずにどきりと胸を跳ねさずにはいられない。

 ましてや、彼女は人一倍、距離が近いのだ。

 今だってそうだ。振れるか触れないかの距離にまで接近され、彼女の纏う香水に混じってほのかに香る勤務後の汗のにおいだって気にせずに身を寄せてくるのだ。彼女に伝言を託して共に戻って来た兵士も、カタリナにお菓子をくれた兵士も、守衛の兵士も、どこか微笑ましいものをみるような目で俺たちを見ている。


 勘違いしないで下さいよ。俺とリリスは付き合ってませんから! 男女の関係ではありません! 平民と、貴族ですから! どう足掻いたって付き合えませんから!


「……約束通り話すから、一旦、離れてくれ」

「絶対ですよ! 絶対ですからね! あと私、耳飾り【インカム】無視したの怒ってますからね!」

「分かった、分かったから。なんでもいいから早く離れてくれ。その……、近い」

「あっ……」


 俺が指摘すると、途端に顔を朱に染めてすすす、と離れていくリリス。自分でも貴族としての振る舞いじゃないと、はしたない行いだと気が付いたのだろう。上目遣いにこちらを窺うリリスは、急にしおらしくなってポツリと呟く。


「……に、臭わなかったですか? あ、汗かいてたので……」


 今更になって自分の匂いを確認して焦り出すリリスになんて言ったらいいのか分からない俺は、意識を逸らすべく足にしがみついて頭突きを繰り返すカタリナを抱き上げる。地味に痛かったのだ。


「こいつのことも話さないといけないし、とにかく場所を移そう。腹が減って、レオ殿下みたいに八つ当たり散らかしてるんだ」

「この子が、例の……」

「あぁ、カタリナだ。店はどこにする? 決まっていないなら俺の馴染みの場所でもいいけど」

「安心してください。ばっちり予約済みなので」

「リリスの安心してくださいは、安心できないんだよなぁ」

「こ、今度は貴族専用のお店じゃないですから! ウェイドさんの前であんな失態、もう、二度と……」

「んぅ。お腹、空いた」

「分かった。分かったから頭ぐりぐりするな、っての。って、あぁ! 我慢できなくて服をしゃぶるな! 食うな! おい、バカ!」


 待たせ過ぎた弊害か、カタリナは食欲が赴くままに俺の服を口に含み始める。

 咄嗟に引き剥がしたお陰で服を破られることはなかったものの、襟元が涎塗れで気分は最悪だ。カタリナと同じくらいの年でも既に弟妹たちはもう少し分別はあったように思えるが、森で拾った少女だと思えば笑って過ごせる。その笑みは引き攣っているけども。

 結局、見かねた門番の兵士が再び食べ物を渡してくれて事なきを得たが、お陰で俺の首回りはカタリナの食べカスで汚れたままリリスの案内する飲食店に入って行くことになるのであった。



 ◇



「十区でもかなり格式高いところじゃねぇか……」


 リリスが俺を案内した店は、ドレスコードは必要の無い店の中でも最上級のレストランだった。

 店構えを見て愕然とする俺が冷静になる間も与えられずに案内された個室で俺が放った第一声がそれだった。

 以前リリスに店選びを任せた先で、男爵家でも滅多に利用しない最高級のレストランに連れて行かれて、テーブルマナー以前にドレスコードが不足していた俺だけ門前払いを食らったのを思い出すとここはまだリリスにしては常識的な範疇なのだろう。

 それでも平民の俺にとっては敷居が高いことこの上ないのだが。

 面食らったままの俺を引き連れて、俺とリリスは個室に案内される。


「ウェイドさんは確か、スパイシーなものが苦手でしたよね。軽く注文はしておきましたので、食前酒でも飲んで待っていましょうか。さ、乾杯しましょう?」

「あ、あぁ。乾杯」

「……ん、ちょーだい」

「子供に酒は駄目だ。ジュース頼むから待ってろ」


 何故か俺の好みを把握しているリリスに違和感を覚える間もなく食前酒が喉を潤し、体を温めてくれる。酒を寄越せと隣に座ったカタリナが催促してくるのを制するも、依然手を伸ばすのを止めないカタリナ。

 注文してすぐにカタリナの分のジュースが来たから良かったが、こいつの食欲は留まるところを知らないかの如く見境が無い。その内そこら辺の虫でも捕まえて食べていてもおかしくないだろうから躾はちゃんとしないと。


「それで、これからウェイドさんはどうするつもりなんですか」

「どうする、って言ってもな。カタリナの面倒を見ながら俺も生きて行かなくちゃいけないからな」

「……私が知りたいのはその子のことじゃなくて、ウェイドさんのことです! 全部、話してくれ約束でしたよね?」

「……軽蔑するなよ」

「しませんよ。私を誰だと思っているんですか。私はウェイドさんのことなら──……ッ!」


 リリスの返答を待たずして、俺は中途半端にまとめていた髪を耳にかけ、明るい光の下に右耳を晒す。


 ……半分欠けた、罪人の耳だ。


 それを目の当たりにした途端、意気揚々と言葉を振るっていたリリスは言葉を失い、ガタンと椅子を引いて立ち上がる。彼女の紫色の目に宿るのは驚きか、それとも怒りか悲しみか。彼女の言葉通り、侮蔑ではないことだけは分かるのは、長年の信頼だろう。


「殿下は、何故……どうして、こんな惨い真似を……」

「さあな。だが、軍規違反を犯したのは俺だ。そもそも殿下の決定に異を唱えられるわけもないしな。ああそれと、特別騎兵、クビになったから」

「なるほど。それと、特別騎兵をクビに……く、クビですか?!」


 店中に響き渡るかの如き声量にカタリナは両耳を押さえる。流石に大声が過ぎたのか店員に注意されているリリスの姿は滑稽に映るが、店側に俺の耳を見られるとリリスに醜聞が纏わり付く羽目になるため不必要に晒す必要は無いとそそくさと耳を隠した。

 店員が去った後に居住まいを正したリリスだが、取り乱した様子は変わらずに問い詰めてくる。


「と、特別騎兵をクビになったってことは、第三機竜小隊を辞めるってことですか?!そ、そんなの私、許しませんよ! 折角これまで一緒に頑張って来たのに……」

「リリスが許さなくても、これは陛下の決定だからな。お前にも俺にも、どうしようもないことだ。近く、俺はどこかに異動になるらしい。軍を追われなかっただけ喜ぶべきだろうな。陛下の温情だよ」

「そんな……っ! だって、特別騎兵で戦果を挙げれば、ウェイドさんは一代限りとは言え爵位を得ることだって可能だったのに……! そうすれば、もっと多くのお子さんを……ウェイドさんの夢が、叶うはずだったのに……! ウェイドさんは、本当にそれで良いんですか?!」

「良いも悪いもない。これはもう、決定事項だ。ひっくり返すことなんて出来ないよ。だが、敢えてリリスの疑問に答えるとするなら……。そうだな、俺は、後悔していない、と答えさせてもらうよ」


 そう言って口に含んだ葡萄酒の味は、高いということしか分からなかった。

 リリスの言う通り、あのまま特別騎兵として従順なまま戦果を積み上げて行けば、一代限りの爵位を賜る未来もあったかもしれない。そうすれば、平民のままじゃ出来なかったことが出来るようになる。孤児を救いたいという俺の小さな願いに、手が届いたかもしれないのだ。

 確かにそう考えると勿体ない事をしたと思わなくもないが、そのために目の前の小さな命を見捨てられるほど俺は割り切れなかった。

 陛下に啖呵切ったように、そうなる未来が確約されていたとしても俺は、軍規違反を犯していた。今の居場所を失うと分かっていても、カタリナを助けただろう。それが俺の願いだからだ。

 運ばれてきた食事を取ってくれ、と「ん」の一言で俺を使うカタリナの頭をぐしぐしと撫でると、何も分かっていない顔のカタリナと目が合う。


「……っ」


 対して、俺の答えを聞いたリリスは、俯いたまま肩を震わせている。

 続々と運び込まれてくる料理がテーブルに所狭しと並べられていく光景に興奮した様子のカタリナの声だけが響く個室で、ようやく上がったリリスの顔には、濃い色の後悔が滲んでいた。


「私は……、私は、後悔してます……っ! 勝手に期待して、勝手に傷付くくらいなら、好きになんてならなきゃよかった、って!」

「……悪い」


 彼女の涙が、テーブルに落ちてクロスに染みを広げる。


 リリスが俺に好意を寄せていたことは、気付いていた。というより、メアやワーグナー、オペレーター各位には周知の事実ともいえるくらい明け透けな好意の向け方であり、それが外堀から埋めていくものだと知った時には時すでに遅く、俺は都会の女性の毒牙の餌食になりかけていた。

 毒牙、とは言ったが、何もリリスの好意が嫌だったわけじゃない。こんな美人で可愛い子に言い寄られて嫌な気持ちになる男なんていないだろう。

 ただ、俺には心に決めた女性がいた、というだけの話。

 それに、平民の俺と貴族のリリスとでは、文字通り格が違う。仮に俺がリリスに好意を向けて互いに思い合っていたとしても、それは決して叶わぬ恋路であった。

 ……俺が、貴族として爵位を得ない限りは。


「私も、ウェイドさんと同じ部隊に異動を願い出ます」

「バカなことを言うな。リリスは機竜のオペレーターになりたくてなったんじゃないのか。その優秀な経歴は誇りじゃなかったのか。短絡的なことは考えるな。……俺みたいになるぞ」

「それでいいんです! 私は栄えある機竜のオペレーターなんかじゃなくて、ウェイドさんの……あなたのオペレーターになりたかったんです! あなただけの……。頑張れば、あなたが褒めてくれるから。あなたが私を見てくれるから……! だから、私は──」

「……んま、んま」


 聞いているこちらの胸が苦しくなるようなリリスの独白。

 それを遮るのは、無神経なカタリナの声。けれども、このままリリスに語らせ続けても着地点を見失うだけだ。


「悪い」


 俺は様々な意味を込めた謝罪の言葉を一つしてから、目の前のテーブルに並んだ湯気の立つ料理に手を伸ばした。

 リリスもそれが分かっているからか、一度だけカタリナに目を向けた後、強く目元を拭い、酒を呷った。


「……私、ウェイドさんが好きです。この世で誰よりも、あなたのことが好きです」

「……嬉しいが、俺にはもう」

「分かっています。でも、断らないで下さい。振らないで下さい。……このまま、私の気が済むまで、あなたのことを好きでいさせてください」

「それは、お互いにとって良くない関係だろ。だから、もう──」

「俺のことは忘れてくれ、ですか?」

「……そうだ」

「嫌です。絶対忘れません」

「お前もいつかは結婚するだろ。その気持ちは、その時の相手に取っておけ。俺はお前に、幸せになって欲しいんだよ。リリスは、俺の大切な同期だからな」

「それを言うくらいなら、俺がお前を幸せにしてやるって、言ってくださいよ! それくらい……言ってくださいよ……。……そもそも、男爵家の四女なんかに政治としての使い道はありません。だから、政略結婚を申し込んでくる相手もいませんから!」


 普通の人であればこの空気の中、黙々と食べ進めることなんて出来ないような重苦しい空気であるが、カタリナは普通の人では無いから俺たちの痴話喧嘩の最中も関係なく食事を続ける。たくさんの美味なる料理を前に目を輝かせて見えるのは気のせいじゃないはずだ。

 そんなカタリナに触発されたのか、リリスは自暴自棄とばかりに酒を呷っていく。

 彼女も流石は貴族の端くれ。酒は俺より強い。


「……もし、もしですよ。もしも私が結婚するってなったら、ウェイドさんは花嫁を奪いに来てくれますか?」

「そんなことしたら、俺とお前は一生帝国に追われる身になるな」

「それでも、私はウェイドさんと一緒にいられるなら気にしません。例え国に追われようと、死が二人の間を裂いたとしても、あなたと一緒なら、何も怖くありません」

「縁起でも無いことを言うな。それに、そんなことになったらまず真っ先に家族が狙われる。……そのときは普通に祝福するよ」

「嫌です! ウェイドさんに祝福されるくらいなら、私がその相手を殺します。だから、絶対奪いに来てくださいよ! 奪われる準備は、いつでもしておきますからね!」


 酔い過ぎだ、と言うにはまだ早すぎて。

 自信満々にそう言い張るリリスに、俺は何も言えなかった。

 そこまで一途に思ってくれることは、素直に嬉しく思う。もし仮にシスターフィオナに出会っていなければ、俺は彼女の想いに応えたいと強く思えただろう。

 けれども、俺とリリスの間にある平民と貴族の壁はどうやったって越えられない。超えるためには、爵位を送るに相応しいだけの論功行賞を得るしかない。そのためには機竜に乗り続けるしかない。特別騎兵として在り続けるためには、カタリナを見捨てなければならない──……、堂々巡りである。

 もしも、なんて考えるだけ無駄で、俺も、リリスも、自分で選んだ道を後悔の無いよう生きるしかないのだ。そのためにも俺は、彼女の人生の邪魔をする訳にも、汚点になる訳にもいかなかった。

 だから俺は、口元が汚れているのも気にせずに食べ進めるカタリナの口元を拭った後に、リリスの真似をするように酒を呷る。


「──っぷはぁ。今日は付き合うぜ、リリス。俺が奢るから、好きなだけ飲んでくれ」

「ちゃんと朝までついてきてくださいよ。寝かせませんからね。カタリナちゃんも、いっぱい食べていいからね」

「……んむ」


 お互いに少しだけ赤くなった顔でもう一度乾杯する俺たちの間で、カタリナは次から次へとその小さな口をパンパンに膨らませて食べ進める。正に一心不乱。既に一皿平らげたカタリナを見るとその小さな体のどこに入って行くのか不思議でたまらなくなるが、俺はリリスと同じペースで酒を飲み干していく。それが今の俺に出来る精一杯の誠意の表し方だったからだ。


 だが、しかし。


「まら、まらのめるぞぉ……」


 酒の強さに明確な違いがある以上、俺が先に潰れるのは自明の理であり、それ以降の記憶の一切合切を吹き飛ばして、俺はいつの間にか意識を失うのであった。






補完と言う名の、言語解説。


【機竜小隊統括本部】


その正体は、長距離輸送転移魔方陣を守護する地下施設。

アーティファクトが生成された過去も、オリア帝国首都オーレリアのこの場所に都かもしくは重要施設でもあったのか。または、この地下施設自体が重要なものだったのか。歴史の解明にはまだまだ時間が掛かるが、その三つのポータルを守る施設としてオリア帝国が築いたのが、機竜小隊統括本部である。

何故わざわざオペレーター各位がポータルに乗って出勤しなければならないのかと言うと、機竜とオペレーターを繋ぐ耳飾りの関係性が原因。それらは同じ発掘場所で発見された物同士でなければ繋がらないため、第二機竜小隊と第三機竜小隊が連絡を取り合うことは出来ず、ポータルの先にある発掘された遺跡からでしか通信を飛ばせないからである。しかし、そんな使い勝手の悪さを差し引きしても尚余りある有用性を秘めた耳飾り。圧倒的すぎる戦力の機竜。帝国がそれらを有用に使わない手は無く、研究塔には急ぎそれらの解明に当たってもらい、将来的には機竜整備場にオペレーター室、及び通信の中継器を作り、全国各地と情報を交わすという将来設計が出来ていた。あとはただ帝国随一の頭脳を誇る研究塔の面々がそれらを詳らかにするだけなのだが、数世代、下手したら数十世代先の技術を解明するのは困難を極めていた。

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