プロローグ
「──来たぞ、『死神』だ! 向かい撃て!」
『アハハッ! エルフの連中、ウェイドのこと死神って呼んでるよ! おっかしいんだぁ!』
「なんだよそれ……」
『おっとウェイド。心当たりがないとは言わせないぜ? 奴らの飛行部隊を一番多く狩っているのは他ならぬお前なんだからな。エルフからすれば、間違っちゃいないだろ』
「職務に忠実、と言ってほしいものだけどな……」
耳飾りから聞こえてくる笑い声に辟易としながら、俺は空を駆る。
どこまでも遠く広がる青い空。その海原を流れる白い雲より低く、大地に根を張る大樹よりも高い場所を悠々と飛行する鉄の塊。俺はそれに跨り、戦争の最前線に駆り出されていた。
──帝国軍所属、第三機竜小隊遊撃隊特別騎兵。
俺に与えられたのはそんな肩書のみならず、俺が今跨っている『機竜』もまた、帝国の軍備である。大空を縦横無尽に動き回る機竜と、遠方から声を届ける通信道具、耳飾り。
それら二つが備わってこそ、俺は真価を発揮する。
俺の体の何倍も重たい金属の塊が一体全体どのような原理で飛行しているかは知らないし、耳飾りがどうやって声を届けてくれているのかも分からない。
それでも、それらは帝国に繁栄をもたらし、帝国の剣にも、盾にもなる。
そんな現代の人智を遥かに超えた技術によって造られた『アーティファクト』こそが、我が帝国を世界最大の国に押し広げた立役者であり、「アーティファクト無くして帝国は無し」、と謳われる程に帝国の日常生活にまでもアーティファクトと言う存在は生活に溶け込んでいる。
だが、機竜もそのうちの一つ……とは口が裂けても言えない。軍用機が生活の一部など、物騒過ぎて街の人も堪らないだろう。
「フォーメーションは?」
『いつものでいいんじゃない? どうせ、うちの死神が突っ走って最終的には陣形なんて崩れるんだし』
『それもそうだな。撤退の指示はオペレーターに任せて、好きに暴れてこい、死神』
「お前ら、馬鹿にしてないか? それ」
たった三人きりの遊撃隊で、二人は聞いたばかりの言葉を愉快げに口にする。
俺が声のトーンを一つ落として聞き返すと、なんのことやら、ととぼける二人に挟まって、耳飾りから「カッコいいと思います!」と女の声が聞こえてくる。
鼓膜を突き破りそうな声に一瞬眉をしかめるが、彼女は大切なオペレーターである。後方部隊との情報を共有したり、帝都に置かれた司令部からの命令を逐一送るのが仕事なのだが、俺のオペレーターは何かと雑談に興じることが多かった。
『後方部隊、作戦地点に到達しました! 作戦、開始です!』
「──機竜二式、八型。出る」
湛えていた笑みを消し、操縦席で四つん這いのような姿勢を取る。
機竜二式八型。機竜の中でも極めて機動力に優れたそれは非常に小型であるため、操縦者はそういった苦しい姿勢を取らねば高速機動の反動に身体が耐えられない。滞空状態と同じ姿勢で高速機動をしてみろ。風圧で容易く首の骨が折れてしまう。
そんな危険な騎乗兵器に、俺たち騎兵は目を守るゴーグル一つで搭乗している。安全確保はどうなっているんだと訴えたくなるが、識者によれば、この『機竜二式八型』は元来、人が乗るために造られたわけではないらしい。それに乗せられている俺たちはどんな気持ちで乗ればいいのだろう。
とは言え、この機竜の発掘によって帝国が一気に力を持ったのは事実。ゆえに俺は、帝国の栄華の一端を担っているという栄誉さえ感じていればいいのだ。兵士らしく、駒らしく。
操舵に手をかけ、特別騎兵に選ばれた所以とも言うべき俺の魔法を発動させるや否や、機竜は自然な動作で空を駆る。
『今日も良い風だね! どこまでも飛んで行けそうだよ!』
『任務に集中しろ。ほら、我らが死神様が接敵するぞ』
「目標接敵まで、三、二……一」
動き出してからものの数秒と経たずして最高速度に到達した機竜は、眼前に迫るエルフの飛竜部隊の間を突き抜ける。
森林国家における主力部隊、飛竜を使役するエルフの飛行部隊には帝国も長年苦しめられていたのだが、機竜の発掘と主力としての起用により、その脅威であった飛行部隊も今では互角に戦うことが出来るようになっていた。
機竜と、飛竜。
現代の技術では生成不可能な特殊な金属による武骨で繊細な機竜と、骨格に張り付いた鱗が織り成す滑らかな曲線日の体躯を持つ飛竜とでは、戦闘力や機動力に関してはさしたる差は無い。
ゆえに、この二つの対峙において差を生むのは、搭乗者の技量のみ。
竜騎兵と、機竜騎兵。
どちらが操縦者として優れているかが、この空の戦場での勝敗を分けるのだ。
「速いッ……!」
「ど、どこに行った?!」
「う、上だ! くっ、見えん……! 散れ、散れぇッ!」
風を切って空へと舞い上がった機竜は大きく縦に旋回し、空が下に、頭上に大地が来る。無理な軌道に押し潰されそうになって身体が悲鳴を上げるが、この程度で気絶できる程軟な体はしていない。
ゴーグル越しに見える小さな影が散っていくのが見える。正しい判断だ。しかし、俺の方が、速い。眼下に見据えた獲物目掛けて急転直下。気分はさながら、猛禽類である。
「遅い」
空中に漂う塵でさえ肌が傷付けるような、高速下降。
けたたましい駆動音を鳴らして落ちていく機竜の爪が逃げ遅れた飛竜の体を捉え、騎乗するエルフを振り落とす。
悲鳴を上げて落ちていくエルフに対しては何の感情も湧かないが、体を抉られてやがて絶命していく飛竜が苦しむ様には心を痛める。
『ボーっとしてないで、早く動きなよ、死神さん?』
『ウェイド、メア! 動きを止めるな! 敵の攻撃、来るぞ!』
「っ、あぁ!」
『ちょっとワーグナー! 僕は違うでしょ!』
他の二機から声が掛かり目線をそちらに向けると、散った飛竜部隊を追い詰めに掛かっているのが見えた。しかしそれも束の間、それぞれの機竜に向かって光が走った。
魔法だ。エルフの攻撃魔法。
そしてその光は、俺の方にも迫る訳で。
「リリス。後方主力部隊の準備完了まで、あと何秒掛かる?」
『はい! あなたのリリスです! 準備完了まで、あと三分ほどとのこと!』
「三分か……。持ち堪えられると思うか? これ」
飛来する魔法と耳飾りから聞こえてくる声を華麗に回避しつつ、遊撃隊の仲間に共有する。
『長すぎだろ……。遠巻きに死ねと言われているようなものだろう、これは』
『うちの死神は殿下に嫌われてるからね~。って言うか、相手ばっかり魔法使い放題なのはいくら考えてもずるいよね』
飛竜部隊の脅威は、飛竜という凶暴な魔物を手懐けそれを操れるというだけでなく、こちらの攻撃が届かない中空から一方的に攻撃が出来るという圧倒的な殲滅力こそが真に恐れるべき脅威。
エルフの飛竜部隊には、帝国も幾度となく苦渋を飲まされたという。
それを実現させるのは、人間とエルフという種族格差。
人間にはおよそ、生涯に使うことのできる魔法は一生に一度与えられる生得魔法の一種類のみであるのに対して、エルフはその長い寿命を生かして魔法を極める種族であるため、行使する魔法の種類は多岐に渡る。
ゆえに、人間はエルフの飛竜部隊に対抗する手段として機竜という対抗策を得たものの、人間はエルフの主力とも呼べる魔法の攻撃に対しては未だに対抗する術を持ち得ることはおろか、その術を見出すことすらできていないのが現状であった。
『ここままじゃジリ貧だぞ! 三分後には、俺たちは揃って地面の染みになるぞ!』
「巻き込んでしまっていつも悪いな、二人とも」
『ちょっと、何諦めた感じ出してるのさ。僕たちが任されてるのは、その名の通りの遊撃と時間稼ぎ。何もあのエルフの本隊を全滅させろって言われてるわけじゃないんだから、もっと気楽にいこうよ』
飛来する魔法の数々。思考のリソースの大半を割いてそれら全てを回避しながら会話に興じるのは困難を極める。だと言うのに、同僚のメアからは気楽な声が返ってくる。もう一人の同僚がそれに噛み付く間に、俺はメアに問いかける。
「……その言い分だと、何か、妙案があるんじゃないのか?」
『あるよー。時間稼ぎだけなら、本隊に突っ込んでかき回してやればいい。そうすれば三分なんて余裕で稼げる』
『稼げたとしても、それを実行に移せば俺たちは無事に帰って来れないだろうがな……ッて、おい! ウェイド! 勝手に行くな──』
「二人は援護を頼む! 直前になれば、主力の砲撃に気が付くエルフも出てくるだろうから、そいつらを逃がさないようにしてくれ!」
ワーグナーのみならず、耳飾りからはリリスも「引き返せ」との旨の制止の声を上げるが、それしか手段のない俺は声を無視して突貫していく。
当然、それを止めるためにエルフたちは魔法を組むため、俺の視界は一瞬にして魔法の弾幕によって埋め尽くされる。
「ハッ……! これで生き残ったら、長期休暇を貰ってもいいよなぁ──」
奥歯を噛んで、腹に力を入れ、息を止める。
機体に張り付くように身を屈め、機竜の操作に全ての神経を集中させる。一瞬でも気を緩めれば魔法が直撃して、俺は即死と言う名の長期休暇に入らざるを得なくなるのだ。だから耳元で聞こえた「それいいね!」などと宣うメアの声は耳に入らない。
何せ、飛来する魔法を避けたとてすぐ傍で爆発し、閃光と熱が振り撒かれる。弾幕の嵐の中を、右に、左に、上に下にと、縦横無尽に回避しても尚、エルフの魔法は機竜を撃ち落とさんばかりに襲い来る。
無限に思えるエルフの魔法。
エルフと言う種族が悠久の時を生きるとしても、エルフの魔法は永遠ではない。
彼らが生物である以上、必ずどこかに息継ぎをする瞬間はあって。
「──抜け、た……?」
数え切れない量の弾幕を置き去りにしたかのように、弾幕の切れ間に見えた青い空に、俺と機竜は投げ出される。
空の青さは、頑張った俺を祝福してくれているかのようであり、目を奪われる。だがそれも束の間。ぎゅるん、と大きく世界を回し、エルフの本隊を睨み付ける。
「手が……、届く!」
身を乗り出してそちらに視線を向けると、無数のエルフの本隊が見える。この数から放たれる魔法を俺は捌いたのかと思うと、沸き上がる達成感に思わず笑みが零れそうになる。
一方で、耳の奥でキンキンと鳴り響く音のせいで自分の声すら上手く聞き取れないのは、音で耳がイかれたのだろう。先ほどから耳飾りも静かなのは、ただ聞き取れないだけか。
目線を移動させ、機竜の体躯に目に見える範囲での損傷はないことを確認する。た少女塗装が剥げているくらいのもので、相棒が動くのになんの支障もない。
「であれば……次は、こっちの番──んンッ?!」
変則軌道を描いて飛行した先で、彼我の距離は詰められている。
この距離であれば、先のような広範囲に散らす弾幕は不用意に放てないはず。味方に当たる可能性が出てくるから、と予見して攻めに転じようとした俺は、眼下に見えた光景に目を剥き、防御姿勢を取らざるを得なくなる。
「──っ、お構い、無しかよ……!」
だと言うのに、エルフの飛竜部隊は構わず弾幕を展開する。こちらが攻めに転じる隙すら、与えてくれないらしい。流石は歴戦のエルフの飛竜部隊。伊達に長年帝国軍を苦しめてきたわけではない。
迫り来る、二度目の魔法の嵐。
冷や汗を拭う暇もなく再び身を屈め、変則軌道に集中する。一瞬の油断が命取りだ。
しかし、今度は先程とは違って彼我の距離を詰め多分だけ、敵の魔法の精度が上がっている。それら全てを避けるには、より高度な操縦技術が求められる。そうなる必然的に、肉体に、精神に強い負荷が掛かる。
縦に、横に、時には機体を大きく回転させ、隙間を縫う。
それがどれだけ操縦者に負担がかかるか知る人は少ない。その代償として、俺はいつ気絶してもおかしくない状態で、気力だけで操縦桿から手を離さずに、魔力を切らさずに空を舞っていた。
恐らく、この弾幕を抜けた後で俺はそう間もない時間で気を失うだろう。今だって歯を食い縛っていないと簡単に気を失える瀬戸際で空を舞っているくらいだから。
でも、もしも俺がこの魔法を切り抜けたとしたら、ただそれだけで、エルフの連中には相当なプレッシャーを与えることができるのではないだろうか。
ただそこに飛竜がいるだけで脅威を覚えるのと同じように、機竜もまた、空に佇んでいるだけで抑止力に繋がるというもの。魔法の嵐を生きて切り抜けた存在として、敵に畏怖を与えられる。
例え中の俺が気絶しようとも、この場を切り抜けることにはそれだけの価値がある。
だからなんとしてでも、生きて子の嵐を抜けなければならなかった。
「ぐっ、ぎ……っ! だぁぁぁぁあああああああ!」
全力を振り絞り、気力を使い果たしても尚、足りない。限界のその先、生命に関わる何かを差し出して、ようやく乗り越えられるだろうと言ったような、試練。
そう、これは極限を求める試練に他ならない。これを生きて切り抜けた先で待っているのは、思い描く最良の未来。田舎で待っている家族たちと、初恋のあの人と過ごす、未来だった。
「こんな、ところで……っ、死んでたまるかぁあぁぁぁぁああぁぁっ、ぁあああああ!」
──誰かが言った。「止まない雨は無い」、と。
その言葉通り、俺は──永遠に思える瞬間を、耐え抜いた。
魔法の嵐を、俺は、乗り越えたのだ。
手指に血が滲み、口の中に鉄錆の味が広がり、魔力が枯渇して頭が沸騰するような激しい頭痛に見舞われながらも弾幕を抜けた俺は、達成感に見舞われるよりも早く、蒼天の下で大きく叫んだ。
「──メア! ワーグナー!」
耳飾りを通さなくても聞こえるような、十里先にも届きそうな声を張り上げると、次の瞬間。眼下を二つの影が通り過ぎる。
『ハハッ! やりやがった! やりやがったぜ、ウェイドの奴! どうだ、見たか、俺たちの死神様の力をよ!』
『あと一分半耐えればいいだけ。ウェイドはいい仕事してくれたね。後は僕たちに任せて離れていなよ。第三機竜小隊は死神だけじゃない、ってことを、耳長たちに教えてあげなくちゃ』
「ぐぅうぇ……頭が、割れるぅ……」
耳飾りから二人の声が聞こえてくるが、音として認識できない。いつもならキンキンうるさいオペレーターの声が未だに聞こえてこないのも、聴力が戻っていないからだろうか。
それでも気絶だけはすまい、と根性だけで意識を繋ぎ止め、眼下で動く第三機竜小隊遊撃部隊の行動をその目に収める。
左右から追い込むようにメアとワーグナー、同僚の二機がエルフの飛竜部隊を追い立てていく。もしもここで頭上に見える俺に手を割こうものなら、すかさず二人が邪魔をする。下手をすれば狩られるかもしれない。絶対数で劣るエルフも馬鹿ではないのか、身を削る覚悟をしてまでも頭上に佇む俺を狙いには来ない。警戒しつつも、二機の対処に追われている様子だった。
「くそっ、姿勢制御がイかれたか……」
その一方で、俺は機竜の制御に手を焼いていた。
放たれた魔法の全てを掻い潜り、避け切ってみせた、とはお世辞にも言えず、幾らかの被弾を許してしまったせいか、ぐらつく機体の上で息を整えることすらままならない。
更には、急激に襲い来る疲労感から、脈打つ心臓は口から零れ落ちそうな程速い鼓動を刻み、自らの視野を狭窄させる。
『悪い、ウェイド! そっちに二体流れた!』
しかし、そんな状態の俺に通信が入る。少しずつ音として認識できるようになってきたお陰で、それが忠告であることを理解し視線を外に向けると、二体の竜騎兵がこちらに迫っていることに気が付いた。
「くそっ……!」
姿勢制御が壊れているお陰で、些細な動きでも大きく機体が揺れ、必要以上に神経をすり減らす。一瞬でも制御以外のことに気を取られれば、このまま地面まで真っ逆さまだ。
「今のを避けるか。死神というのは、貴様だな?」
「あ~……、悪いが、俺はエルフの言葉は分からないんだ。他を当たってくれるか?」
「やはり、言葉は通用しないか。だがここで貴様を……帝国の死神を消すことができれば我らエルフには光明が──ッ?! な、なんだ……、この魔力は?!」
「は……?」
言葉は分からずとも、エルフの反応さえ見れば分かる。ボディランゲージは全世界で共通だろうから。エルフが途中で言葉を切ったかと思えば、その視線は俺ではなく、更にその背後を示していることに気付き、俺は急いで耳飾りに呼びかけた。
「おい! 三分掛かるんじゃなかったのか?!」
『──や、やっと繋がりました! 今すぐ、その場から、撤退して下さいッ!』
『不味いね。このままじゃ巻き込まれる。ウェイド、ワーグナー、早急に退避だ』
『チッ。あの殿下……俺たちごと巻き添えにするつもりかよ。ウェイド、逃げられるか? ……ウェイド?』
向こうの反応が俺にも読めたように、こちらの反応も向こうには筒抜けらしく、対峙するエルフの竜騎兵は即座に判断を下したようだった。
「退避命令だ! 即座に伝えて来い!」
「お前は、どうするつもりだ……!」
「死神をみすみす逃すわけには、いかない!」
こちらと同様に短い会話を挟んだ後に竜騎兵の一体が離脱。しかし、残る一体は俺から視線を外そうとせずにこの場から離れようとはしない。
それどころか、飛竜の体で機竜の機体を押さえにかかってくる。
「どうした、避けないのか? いや、避けれなかったんだろう?」
「その手を、放せ! 死にたいのか、お前! このままじゃ、俺と心中だぞ!」
「俺は死なない。俺には、森の加護が付いている。神獣様が、見守ってくれているのだからな」
「クソッ、話が通じない!」
姿勢制御が利かなければ、空中で纏わり付いてくる敵を振り払う事も出来ない。
俺とエルフは、縺れ合って地面に向かって落ちていく。
『メア! 俺は助けに行くぞ!』
『駄目だよワーグナー。これは命令だ。君まで失うことになる。……悪く思わないでくれよ、ウェイド。恨むなら、僕たちに報告も連絡も相談も無しに砲撃を決めた殿下のことを恨んでよね』
「あんの、クソ殿下ぁぁぁあああああああああ!」
瞬間、遠くから聞こえてくる、空気を焼く音。
機竜二式八型には無い、膨大な魔力を圧縮し、遠方より一帯を焼き払うブレス機能が搭載された、大型機竜。機竜一式三型の超極大砲を、第三機竜小隊を統べる王太子殿下は使ったのだ。俺たち遊撃隊がまだ残っているにもかかわらず。俺たちが命を削ってエルフの飛竜部隊を留めておいたと言うにも、かかわらず。独断専行にて、俺たちごとエルフを焼き払う事を決めたのだ。
それを叫ばずにいられるか。
それを恨まずにいられるか。
機竜の翼が、焼け落ちる。全身が、燃えるように熱くなる──
それが、俺が意識を失う直前に感じたこと。
直後。俺はそれ以上の恨み言を吐く間もなく、白に飲まれていくのだった。
補完と言う名の、言語解説。
【アーティファクト】
世界各国の遺跡から発掘される品々。
それは時に富や繁栄をもたらし、時に不幸と破滅をもたらすとされている。
国や種族によって扱いは様々であり、大半はそのオーバーテクノロジーに忌避されることが多い。