聖女じゃないのに正常じゃない日常7-聖女じゃない私と空を裂く嵐の謎
私はレイラ。
聖女じゃないけど、なんか最近「聖女扱い」されることが増えている。
魔法が少しだけ使えるだけの田舎の平民なのに、なんでだろうね?
「レイラ!また大変なことが起きた!」
畑で作業していた私のところへ、村長の息子ロバートが息せき切って駆け込んできた。彼の慌てた様子に、何が起きたのか嫌な予感がする。
「今度は何?また山の向こうにドラゴンでも現れた?」
「違う!東の平原で空を裂く嵐が起きてるんだ!突然現れて、村の作物を吹き飛ばしたらしい!」
「嵐が?それってただの天気の問題じゃないの?」
「違うんだ、空に亀裂が走ったって話だよ!あんなの、普通じゃない!」
空に亀裂……?嫌な予感がした。どうせ村人たちが「聖女様」なんて言い出して、私に何とかしろと言う流れになるのだろう。
案の定、村長が神妙な顔で私を見つめてきた。
「レイラ、頼む。このままだと隣村も巻き込まれてしまう。あなただけが頼りだ」
「だから私は聖女じゃないんですってば!」
でも、困っている人を放っておけない性分の私は、結局「様子を見るだけ」という条件で嵐の中心地へ向かうことになった。
東の平原に着くと、そこには確かに異様な光景が広がっていた。空は真っ黒な雲に覆われ、その中央に亀裂のような光が走っている。嵐は強く、地面には無数の焦げた跡が残っていた。
「これは……ただの嵐じゃない」
風に巻き上げられる土埃の中、私は耳を澄ませた。微かに、低い唸り声のような音が聞こえる。それは風や雷とは違う、不気味で生き物のような響きだった。
「誰かがいるの……?」
嵐の中心に進むと、そこにはぼんやりと光る人影が浮かんでいた。全身が青白く輝き、その目は空と同じく裂けた光を宿している。
「お前は誰だ?」
声をかけると、その影は私をじっと見つめた。
「私は風を司る者。この地の均衡を守る存在だ」
「均衡を守る……?じゃあ、どうしてこんな嵐を起こしてるの?」
影は静かに答えた。
「均衡を崩したのは人間だ。この地に余計な干渉をした結果、風が狂ったのだ」
影の話によると、平原の地下にある封印が人間の手によって破られたらしい。それは古代に作られた風の神殿で、自然の力を保つ役割を果たしていたという。
「人間たちは封印を壊し、その力を奪おうとした。その代償として、この地は狂気に包まれている」
「封印を壊した人間……?」
私は村人たちにそんな話を聞いたことがない。でも、誰かが何かをした結果であるなら、放っておくわけにはいかない。
「どうすれば嵐を止められるの?」
影は風に乗せて答えた。
「封印を修復せよ。ただし、それは容易ではない。風の神殿の力を呼び戻す者が必要だ」
「力を呼び戻す者……私?」
影は静かに頷いた。
影に導かれ、私は嵐の中心からさらに奥へと進んだ。そこには地面にぽっかりと口を開けた地下への入口があり、その中に風の神殿が眠っているらしい。
中へ入ると、そこは冷たい空気に満ちていた。壁には古い刻印が刻まれ、風が吹き抜けるたびに不思議な音を響かせる。
「これが……風の神殿?」
奥へ進むと、中央に巨大な祭壇が鎮座していた。その表面には無数のひび割れがあり、まるで長い間眠っていた何かが目を覚ましたような痕跡があった。
祭壇に触れると、突如として風が渦を巻き、私を包み込んだ。目の前に浮かび上がったのは、光の矢のような模様だった。
「封印を修復するには、風を操る力が必要だ。試練に打ち勝て」
「また試練……?」
私は目を閉じ、風に意識を集中させた。風は私に語りかけてくるようで、その中からいくつかの「声」が浮かび上がる。
「均衡を保つとは、力をどう使うかを知ること」
「真実の風を見極めよ」
風の声に導かれながら、私は風の流れを整えるイメージを頭に描いた。渦巻く風を静かに沈め、再び祭壇のひび割れに力を注ぎ込む。
「これで……どう?」
風が収まり、祭壇が静かに光り始めた。その光は神殿全体に広がり、まるで風そのものが鎮まっていくようだった。
神殿を出ると、空に走っていた亀裂が消え、嵐が嘘のように晴れていた。平原には暖かな陽光が差し込み、穏やかな風が吹き抜けている。
「これで元に戻った……?」
影が再び現れ、静かに頷いた。
「均衡は保たれた。お前の働きに感謝する」
「いえ、私はただ……村を守りたかっただけです」
影は微かに微笑むように見えた後、風と共に消えていった。
村に戻ると、村人たちは嵐が収まったことに驚き、安堵していた。
「レイラ、またお前がやったのか! やっぱり聖女様だな!」
「だから聖女じゃないんですってば!」
村人たちの称賛にうんざりしながらも、彼らの笑顔を見ると少しだけ報われた気がした。
こうして平原の嵐は消え、村と隣村に平穏が戻った。神殿の封印を修復する中で、私は自然の力の大切さを改めて感じた。
「次はどんな事件が来るんだろう……」
そう呟きながら、私は再び日常に戻っていった。