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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備
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 テリトリーの構想を練りながら魔力の回復に努め、結論を急かすガストを誤魔化しながらなんとか日々を過ごしてきた。

 ガストの態度や視線は変わらず良いものではく、それに疲れてしまいそうだがリツとナイとヨルがあたしを支えて庇ってくれるので助かる。


 なぜかガストはテリトリーの中でも王の間に拘りがあるようで、さっさと創れ、と言ってくるがそれこそ最終防衛地点だからしっかり考えて創るべきだ、と言い考えてますよアピールは忘れない。そしてそのフォローもありがとう、リツ、ナイ、ヨル。


 そうやって時間稼ぎという魔力回復に努めながらもしっかりと頭は働かせて仕事、考えは止めずに三人と話し合いを重ねた。

 三人は与えた自我と知識をしっかりと有効に使い、あたしの考えに対しての理解も早く、そして各自で考え応えてくれる。

 おかげでテリトリーの構想は進み、様々な要素を取り入れながらあたし自身楽しくなってきた。

 導き手、創造の魔法、テリトリー自体がこの世界になかったものだ。自由度の高い、けれどどこまで有効かわからないもの。考えるだけなら自由だと様々な案を出しては四人で研ぎ澄ませていく。


 そんなことを繰り返していれば自然と三人との距離も縮まったように思う。見せてくれる姿も気安いものになり自然体に思えたから。

 あたしがしていることなんて、ただ三人をちゃんとした個人と捉え認識して向き合うことだけ。そこに上下関係など挟む気は最初からない。

 三人にもそれは最初にしっかりと伝えた。言いたいことを言い思うことを言えば良い、と。その通りにしてくれている三人のおかげで色々と考えは纏まり関係も良くなっているんじゃないかと勝手に思ってはいる。

 三人の感情まであたしには分からないけど、見せてくれる笑顔や気遣いは本物だと思うから。


 たぶんそのうち立場上無理を言うこともあるだろう。命令することもあるだろう。それでもできる限り三人には同じ立場のようでいてほしかった。そんな残酷なお願いししてしまった。

 けれど三人は顔を見合わせ苦笑する。何故だ。


 あたしに創られた三人はあたしに絶対の服従であるが、それにも抜け道はある。

 言い方を変えたり選択肢を与えたり、断ることができる前提で話をすればいい。意見を聞くという前提にすれば三人も好きに言えるし答えれるわけだ。

 ガストがどこまで気づいているのか知らないが、今のところこちらに関してそこまで興味がないのかあたし達の関係にはそこまで口を挟んでこない。

 ただあたしからしたら気安い、ガスト曰く馴れ馴れしい態度で接するのはどうか、と文句は言われる。

 けれどそれを望んでいるのはあたしだし、これからも気にする気もない。


 そうやってある程度形になってきたテリトリーの構想。あとは……、とぼんやり考えていたら声を掛けられた。


「嬢ちゃん、そろそろ外に行こうと思ってるんだが」


 そう言ってくるナイの目が考えるのはほとんど終わっただろ? と言ってくる。

 ナイは早い段階であたしのことを嬢ちゃん、と呼び始めた。それは元居た世界の若く見られやすい人種(じんしゅ)のせいじゃないだろうか。

 それに今更不満もないが、だけれどもその言葉に、意味に、一瞬止まってしまう。けれどナイはそんなあたしを分かっていたように言葉を続ける。


「保護する魔物によって環境も弄るなら確認も必要だし、出来れば生息している生物も入れるんだろ? 細かい生息地の確認も必要だ」

「それに近くの街にもそろそろ顔を出しておきたいわね。縁は情報だけじゃなく、実際の生活状況や道具なんかも知りたいんでしょ?」


 そう広くない部屋の中だ。ナイとの会話にヨルもすぐに加わる。


「情報のことも考えるとハンター登録もして、顔繋ぎは早めに作ってる方が良いわ」

「ヨルの言う通り怪しまれないように繋ぎは早い方が良いだろうな」


 二人の言葉に確かにそうなんだけどなあ、と考える。二人が言っていることもわかるが感情がどうしても納得しない。

 まだ短い時間とはいえこの部屋の中で共に居て会話をして過ごしていれば情もあるし感情も湧く。それに二人は言葉通りにあたしに向き合って接してくれた。それも優しく暖かく。

 そんな二人を本当にテリトリーの外に出しても良いのか、本当の意味で危険の度合いがわからない場に出してしまってもいいのか、それがあたしを止めている。


「嬢ちゃん、俺達は理解して納得していくんだ」

「そうよ、あたし達自身が必要だと思ってるのよ」


 そんなあたしの感情を読んだように二人が優しく笑う。


「俺達はどう調べたって人間族と森人族だ。それなりに力もある」

「ええ、魔法もちゃんと調べたじゃない?」

「そうだけどさあ」


 三人を創ってからそれなりに戦う力は確認した。まあガストの前だから本気は出さずだったけど、知識から考えるとこの世界では中の上ってところぐらいだろう。本気を出せばもっと上になるだろうが。それにこれからの経験でまた成長していく。それは分かっている。


「縁、俺も二人に賛成だ。実際に見てからじゃないとテリトリー内のことも決めれないことはある。二人をテリトリーへ導く役目をさせるなら横の繋がりは持たせるべきだろ?」

「リツの言い分もわかってるよー」

「二人も危険はわかっている。それでも二人が必要だと思って決めたことだ」


 微笑みを浮かべながらリツが言う。そこには二人を信じている絆のようなものが見える気がした。


「わかった。あたしも二人を信じてないわけじゃない。ただ危険だと思ったらさっさと戻って来てね」

「ああ、わかってる」

「ええ、縁に寂しい思いはさせないわ」


 そう言ってナイが頭を乱暴に撫ぜてきて、ヨルは微笑んで抱きしめてくる。

 いつの間にかリツは優しくも厳しく諭す兄でナイは少し乱暴な兄、そしてヨルは優しく包み込むような姉か母、という感じで立場ができてしまっている。


 あたしが望むとおりに三人は自我を出し三人が思うままに接してくれた。言葉をくれた。

 その空気が温かく心地良いからどうしても燻ぶる不安は尽きない。だけど決めていたこと。その為に二人はいると笑う。だからあたしも信じないわけないはいかない。あたしこそ信じなくてはいけない。


「漸く動き出すんですか。やっとですか」


 そうやって温かい空気に冷たい風が吹くような声。まあ出所はいつもガストなんだけども。

 それにも慣れたもので苦笑して返す。


「なかなか構想が決まらなくてね」

「それで結局は情報収集ですか」


 会話を聞いていたんであろうガストが溜息を吐くがそれも見慣れた光景だ。


「魔物の保護もあるし、何より人が何を欲しているかも知りたいからね」

「知識があるのにこれ以上人の生活など知って何の役立つというんですかね」


 どこか嘲り含むガストの言葉に苦笑で返す。

 あたしにだって知識としてはこの世界の事はある。けれども実際の生活、細かい部分やリアルを知っているわけじゃない。それを知らなければあたしの考えるテリトリーは完成できないのだ。

 まだガストには詳しい構想など伝えてはいないからこういった反応をすることは分かっていた。だからと言って説明する気にもなれずあたしはナイとヨルを見る。


「二人にはこれを渡しておくから、言ってた通りに自由に使って」


 そう言って布袋をナイとヨルに渡す。その中にはこの周辺で使える貨幣と様々な道具が入れられている。

 それら全てはあたしが創り出した物だ。旅人と言って街に行くにしても何も持っていないのはおかしいから。


「ハンターとして増やしてくる」

「そうね。縁にお土産を買って帰れるように頑張らなくちゃ」

「お土産とか良いから、無理なく無事に帰ってきてね」


 最初の予定通り二人は街に行きハンター登録をしてそのまま暫くは活動する予定だ。

 ハンターとして依頼を受けながら街の様子や周辺の森や村なども調べることになっている。それと他にも植物なんかの採取もお願いしている。


「通信の魔道具があるけど、暫く帰って来れないから無理しちゃダメよ?」

「わかってるよ。二人も本当に無理しないでね」

「食事と睡眠も忘れちゃダメよ?」

「嬢ちゃんはほっとくとすぐ忘れるからなあ」

「大丈夫、俺がちゃんと見ておくから」

「はあ、なんでそんなものが必要なんですかねえ」


 リツがあたしの頭にぽんぽんと手を置いて、ガストが侮蔑と軽蔑を含んだ視線であたしを見てくる。


 そう、不思議なことにあたしの体は睡眠と食事を必要としたのである。ガスト曰くは必要ないはずな行為であるにもかかわらず、徹夜二日目にぶっ倒れた。うん、不思議。

 たぶん前の意識が残り過ぎていて、不必要にもかかわらず習慣的に残っているんだろうということらしい。

 感覚的にも食べて寝たほうが魔力の回復が早い気がするから助かるんだけど。


 ガストとリツは魔人の為、睡眠も食事も必要とはしなかったがリツは思考が鮮明になると眠ることもある。

 ナイとヨルは人間ということもあり両方を必要とした。種族差でヨルはそう多く必要とはしなかったが。

 その為に何度か二人は外に出ていくつかの果実や茸、他にも狩猟し肉などの食べれる物を採取してきてくれている。あたしはそれを分けてもらっているんだ。

 何度かリツも食べるか勧めたがそう多くの量もないため断られた。いつか多くの食料が手に入るようになったら一緒に食べようと約束している。

 魔力で食料も創り出すことはできるが今はできる限り魔力は温存して回復させたいからもう暫くは難しいだろうけど。


「食料はそれなりに備蓄しているが少なくなったら連絡してくれ」

「ああ、その時は頼んだ」

「ナイ達に頼まなくともリツ、貴方が行けばいいんじゃないですか?」

「ガスト様の言う通りではありますが、まだテリトリー自体できてはいませんし縁を一人にするわけにはまいりませんから。ガスト様の手を煩わしてもいけませんし」


 ガストに微笑みを浮かべ口にするリツ。リツとヨルはガストに対して上位者として丁寧に接している。まあ一応は立場的にも力的にも間違ってはいないが。

 ナイも多少丁寧にはなるが如何せん性格上の問題か、あまり得意ではないようだ。その為ガストとの接触を避けているようにも見える。


「じゃあさっさと行くか」

「そうね。縁のことはお願いねリツ」

「ああ、わかっている。二人も気を付けて」

「行ってらっしゃい」


 そう言ってナイとヨルはいつも通りに変わらず、外に繋がった転移陣に足を進め緩やかに手を振って行ってしまった。あっさりと。


「これで少しは静かになりますね」


 その姿を見てガストが言う。

 そこに心配など微塵もなく、あたしの心とは真逆を示している声色。


「縁、これからの事なんだが」

「ん?」


 どこか冷たくなる心を暖めるようにリツが明るく声を掛けて来る。

 消えた二人の姿を追うように見つめていた転移陣から目を離してリツを見れば、あたしはどんな表情をしていたのか苦笑された。

 けれどリツはそこに何か言うこともなくすぐに次の話へと切り替える。そこに何か気付いたようにガストまで加わった。


「それで二人が動き出したということは王の間やテリトリーが決まったということですね」

「保護する種族や数、今後の繁殖なんかを考えれば広さはいるよね。それに種に合う適応環境も整えるべきだし、保護するからには堅牢なものじゃないと駄目」

「ふむ、それなりに考えているんですね」

「そりゃあね。それでいてあたしの命が守られる場所」


 微笑み言えばガストが意味深ににっこりと笑った。その笑みがどこか胡散臭く見えたのはあたしの偏見のせいだろうか。

 ガストにとってのあたしとは。それを今は考えるだけ無駄だろう。それこそ労力も時間も無駄な気がする。

 一先ずはガストに邪魔されない、危険視されない、その程度の距離感を保つべきだ。


 まだテリトリーすら創らず世界に顕現すらしていない今、ガストがあたしに何かしてくるとも思えないが、それでも気を付けといて損はない。

 ガストはあたしを軽視するような発言もあるし、その視線が口よりも雄弁に語っている。侮蔑、侮辱、軽視。信用すべきではない、と。

 だからこそ、あたしはできるだけ笑顔をガストに向ける。


「そこまで考えていらっしゃるならさっそく創りましょう」

「あ、それは二人の情報待ちかな」

「は?」


 ガストが心底驚いた嫌そうな声を出した。それを見てつい苦笑してしまう。


「まあ色々と理由はあるんだけど、何よりも連れてくる数の問題だよね」


 現状ではこの世界で魔物は人間に押されその数を減らしている。そんな者を保護したところで最初は弱すぎてぶっちゃけなんの役にも立たないだろう。そうなるとテリトリーの防衛をどうするのか、それに矛盾して魔石も必要だ。

 今の世界の人種たちは魔石=魔物と考えて襲ってくる。そうなるとやはり戦わせないといけないしどうにかして魔物が必要になってくる。

 その為にも生物創造で補うことも必要になってくるが、今現在のあたしの魔力残量はまだ少ない。ガストには内緒ではあるが。

 創ろうと思っているテリトリーを考えればたぶん赤字に近いだろう。むしろ大赤字かも。だからと言ってあたしは三人に費やしたことに後悔はしてないが。

 それにそこもちゃんと考えてはいるんだよね。


「骨や血、他にも何かしらの素材、媒体がある方が生物創造するときに使用する魔力削減になるでしょ? 二人にはそこも頼んでるから、節約を考えても二人が戻って来てからのほうが良いんだ」


 ほう、とガストが少し驚いた顔をする。


「保護するにしても最初は数が少ないだろうし、魔石の供給を考えれば魔物の数も安定させた方が良い。そうなると最初は生物創造は必要になるでしょ?」

「確かにそうですねえ」

「魔力だって無限ではないし、それを考えても媒体になる物が手元に来てからのほうがいい」

「それでも先にテリトリーを創っていた方が良いのではないですか?」

「それも考えたけど、保護に応じる魔物の適応環境によって各エリアの広さを考えきゃいけないし、種族とその数によっても変わるでしょ?」


 あたしは笑みを作りガストに向ける。ちゃんと考えてますとアピールだ。それに納得したのかガストも笑みを深くして、それと同時に安心したようにも見えた。


「そこまで考えておられるとは。しっかりとした計画があるのであれば私は何も言うことは御座いません。今は」

「心配かけて悪いね」


 頭を下げたガストはいえ、と言うだけだ。それでもその声からは納得がみれる。

 これで暫くは文句もなく時間稼ぎができる。あたしはリツと目を合わせて笑みを浮かべた。



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