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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備
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 この世界に導き手や魔王なる役割などそれらしい者はいなかった。それは知識として知っているしわかっている。

 だから神は自ら力有る者を作り導かせ、君臨者(まおう)として君臨させることで世界の調和を取ろうとした。


 神の考えではどの種が強いだけでは駄目。種族同士の特性を考慮しながらもバランスの取れた世界、それが望みだ。

 種同士の特性などを活かし勢力を拮抗させ、世界を安定させることが望み。


 だからこそただ保護をして守り、数を増やさせるだけではいけない。


 それを自分でやれよ、とはっきり言ってやりたいが、そんなことをこのガストしかいない場で言うわけにもいかない。

 今のところはそれなりに納得させないといけないんだから。


 しかしどの世界も世知辛い。

 魔物と呼ばれる者達も魔石だけじゃなくその体、爪や外殻や皮などの体自身も素材と見なされ活用されている。

 元居た世界でだって同じだ。牛一匹見たところで食べれる部位は全て食べ、骨からも出汁を取り皮すらも利用する。

 それはこの世界でも同じ。利用できるところは全て利用しているだけ。そしてそのおかげで絶滅危惧種が出てくることも同じ。


 そしてそれを許さないために呼ばれた他の世界からの魂。

 (おまえ)がやれよ。


「ただ保護し守り数を増やすだけではいけない。魔石の提供も必要。その為には様々な方向から物事を考え情報を得ることが必要になってくる」

「確かに、必要なことではあるようにも聞こえますが……」

「それを不自然でなく自然と見えるようにするためにも、あたしの考えを理解し意を酌む存在が必要」

「しかし、魔物から見ると人種は敵ではありませんか」

「保護だけなら別の方法も考えられるけど、世界の安定のためには一つの種族だけを見てちゃ駄目なんだよ」


 世界の安定のために確実に導き手が動くように神の定めた理。世界の異物として、世界の敵と見なされる設定もある。

 あたしがどうしようが世界はそうやって動き出すことも考えなくてはいけない。

 その為にはただテリトリーや保護だけを考えていては駄目だ。


「それにあたしは戦うことなんてできない。戦い方なんて知らない。あたしに魔物を強くすることもできなければ守ることもできないんだよ?」

「そ、れは」

「そしてできる限りの保護、その数を考えればガストだけでは手に余る。どの方向から考えても人手は他にも必要なんだ」

「確かに数多くの魔物と考えると難しいことではありますが、その為に主様は主神様よりお力を授けられたのではないですか?」

「確かにそうかもしれない。だからといって今までしたことないことをすぐできるわけがない。なら確実性を高めるために人手を増やすことは有効だよ。その為の力だから生物創造もできるようになってるんだ」


 にこりと笑えばガストはまだ戸惑いながらもそれでも納得できてしまった様子で、その様子を逃さずにあたしは微笑む。


「ガストの納得も得られたようだし、それじゃあさっそくやってみようか」


 軽い口調で敢えて言えばガストは戸惑いを隠せない様子だが言葉は出ない。

 ならば、とあたしは時間も惜しいことですしとさっそく始める。


 念じればすぐに頭に浮かぶ様々な情報。それを選択しながらいくつか調節し、最後に右手を前に出し魔力を注げばそこには光を放ちながら複雑な様々な記号のようなものが描かれた円陣、魔方陣が浮かび上がる。

 魔法陣が均一に光を帯び、魔力が十分に送り込まれたのを感じて願いのままに言葉にする。


「生物創造」

「なっ!」


 言葉にした瞬間、強い光を放ち視界が白で埋め尽くされる。それと共にガストの驚く声が聞こえたが聞こえないフリだ。

 強い風が辺りを包み、穏やかになってくると同時に光も収まってゆく。そして目の前には三人の姿。片膝をつき頭を下げている。


「頭を上げて立って。これからよろしくね、リツ、ナイ、ヨル」

「よろしくお願い致します、縁様」


 そうあたしが言えば三人は立ち上がり真っ直ぐにあたしを見た。最初に声を上げたのはリツだ。

 薄い青みを帯びた銀の髪に血を思わせるような深く濃い紅色の瞳は少し鋭い。無表情の今は少し冷たい、鋭利な印象を持たせる。

 顔の創りは考えていなかったが予想だにせずに美形な男前が出来てしまって驚いた。


「縁って呼んで、あと敬語も要らない。色々お願いすると思うけどよろしくね」


 言いながら右手を差し出せばリツは嬉しそうに口角を上げ右手を握ってくれた。


 リツは補佐や秘書をイメージして創り上げた男性で、戦闘もこなせるように万能型を考えた。

 すらりと伸びた手足に細面な美丈夫。ガストより良い男に見えるのはあたしの好みが勝手に反映でもされたんだろうか。


「よろしくな、縁」

「ナイにも面倒掛けると思うけど、お願いね」


 ニカッと力強い笑顔でしっかりとした挨拶をしてくるナイ。ナイにも右手を差し出せばその大きくて武骨な手が優しく握り返してくれる。その手の温かさがになぜか安心した。


 ナイも顔など考えていなかったがこちらもリツとは違うタイプの男前。男らしい体躯の良さに高い身長。戦いに重きを置いて設定した男らしい純粋な人間族の男性だ。

 短めの髪は鮮やかで朝日を思わせるような橙色、快活いに笑う瞳は若葉を思わせる青緑で夏の朝を思わせる爽やかさがあった。


「縁様、長き時をどうぞ、よろしくお願いします」

「ヨルも縁って呼んで。こっちこそ出来る限り長くお願いね」


 二人を見ていたからかヨルは先に自ら右手を差し出してきた。その柔らかで細い手を右手で握り返す。

 ヨルは人種の中で森人族、俗にエルフと呼ばれる種だ。細身のすらりとしたスタイルに長く尖った耳が特徴。長い輝く金の髪にアーモンド形の紺碧の瞳。森人族は基本設定がほとんど美形でヨルも例にも漏れず見惚れるような美貌。あたしよりも身長は高いのにその線は細く女神像のようだ。


「ナイとヨルは外用に人型にしたんだけど、ヨルが美人過ぎて外に出しても大丈夫かな」

「あら縁、それなりに私も強くってよ? 縁がそう創ってくれたんだもの」


 嬉しそうに誇らしげに微笑むヨル。その姿にあたしも微笑む。


「それに俺もいるしな」


 そう言いながらヨルの肩に腕を回すナイ。その姿にまたあたしの微笑みが浮かぶ。


「ナイとヨルは恋人設定にはなってるけど、その辺りはある程度経ったら好きにしていいからね。あたしは三人を家族だと思ってるから」


 三人を見ながら言えば嬉しそうに顔を綻ばせる三人。

 ちゃんと最初のイメージは設定され適用されたようだ。後はあたし次第だろう。そんなことを考えていれば叫びのような怒声が響く。


「な、なぜ三人もっ! それにあのような強烈な光、どれだけの魔力を注いだんですか!?」


 激しく慌て、怒りを含ませるガスト。こうなるとわかっていたがどうするべきか。


「三人ともこれからの為に必要だからだよ」

「だからといって人種が二人も必要ですか!? それも一人は魔力を多く必要とするエルフ! なによりそこの貴方っ! その瞳を考えれば魔人!?」


 ヨルを睨んだかと思えば今度はリツを指差し叫びのように怒鳴るガスト。元気だなあ。

 けれどそんなこと気にした様子もなくリツは胸に右手を当て頭を下げた。


「ガスト様、同じ魔人として創られたリツと申します。私などガスト様には及ばぬことは理解しておりますが、これから縁様のため宜しくお願い致します」

「先ほどまでといいその態度、言葉……。主様っ!!」


 怒髪天とはこのことかな? そう思わせるほどのガストの激しい怒りがあたしに向けられる。

 けれど鋭く射貫きそうな視線を遮るようにナイがあたしの少し前に体を入れ、その視線から守ろうとしてくれる。

 その姿に少し浮かれそうになるが今はそうも言ってられないな、と敢えてナイに「大丈夫」と言って前に出る。


「ガストの予想通りに三人には自我を持たせてるよ」

「っ!! 貴女のお遊びのために魔力は授けられたわけではないのですよっ」

「わかってるよ。これからの世界のために使ったんだから」

「それが貴女の言う家族と言うものなんですか!? あれだけの強い光、どれだけの魔力を! それに自我まで!! これならば魔物を創られた方がマシです。いったいどれほどの魔力を」


 怒りと侮辱、愚かだと言わんばかりのガストの視線があたしを責める。けれど気付かぬふりしてあたしは笑う。

 ガストが怒るだろうことは最初から、三人を創る前からわかっていた。

実際かなりの魔力を注ぎ三人を創り出したから。

 何より自我の有無。これを持たせるだけでもかなりの魔力を必要とし、他にもまあ少し三人は特殊個体なんだけど、そこはまだガストにはバレやしないだろう。うん。

 けれどガストからすればテリトリーが重要で、そこに魔力を多く使うべきだという考えだ。


「これからのテリトリーに対してあたしの意を酌んで、考えを理解して動ける者が必要なんだよ」

「それが三人だと?」

「うん。リツは内向きを、ナイとヨルは外向きをお願いする」

「それでも三人も必要ないはずです。それに魔人など多くの魔力を必要とする者。そんな者が本当に必要でしょうか!?」

「これからここで保護するにあたってあたしは魔力はあっても力弱い者だ。だからこそ分かりやすく強い者が必要になる」

「そのために私がいるのですが?」

「ガストだけじゃ手に負えなくなってくるよ。数で攻められたらそれこそ大変だ」


 それにガストだけでは本当の意味であたしの考えを理解し意を酌むことはできないだろう。だからこその三人だ。

 けれどもまだ納得しきれない顔をでガストはあたしを睨む。


「貴女の体が弱いことは認めましょう。しかしだからと言って外向きに二人も人種が必要でしょうか!? 何よりなぜ三人に自我を! それこそ不必要な」

「そんなことないよ。これから三人には色々お願いすることになるし、その時に自分で考えて動けるようになってもらわないと困る。特に外向きのナイとヨルには」


 にこりと笑みを強めガストと真っ直ぐに向き合う。

 まだ、勝負は終わっていない。





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