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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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 戸惑いから抜け出て動き出したハンターたちを見ながら思う。これからどうなるのか、とどこか物語を見るような気持で画面を見る。

 画面越しのせいか思った以上に感情が揺れることもなく、肘掛けに肘を置きその手に頭を乗せて傍観する。


「あたしは配置も知らないからな」

「その方が楽しめるだろ?」

「ゲームでも映画でもないんだけどな」


 苦笑を漏らしリツに言う。

 今回全て皆にお任せだ。あたしは本当に何もしてない。画面設置をしたぐらいだ。

 あたし抜きにしてどこまでダンジョンを動かせるのかリツ達がやってみたいと言い始めたから任せてみた。そんなリツは余裕顔で、あたしの後ろで画面を見ている。


「さあ、お手並み拝見だ」

「楽しめたらいいがな」


 二組目のハンターは二人組だ。盾と剣を持った男と槍を持った女。そちらも何とか動き出したようだ。


 今回王の間の画面の音声は切ってある。だから何を喋っているかまではわからない。その動きでもって様子を確認することしかできない。


「さあ、最初はどっちが当たるかな」

「見てのお楽しみだな」


 これは映画だ。スプラッター映画だ。娯楽だ。そう自分に言い聞かせながら画面を見る。

 あたしが確認しないわけにはいかない。今日の結果でまたダンジョンを改善しなければいけない。だからこそ、結果を見続けなくてはいけない。

 わかっているからここにいる。そして平然としていなくてはならない。

 これは、娯楽だ。これから長い長い、娯楽の時間だ。



 先に動きがあったのは一階層、一組目の人たち。少し移動した先で宝箱を見つけたようだ。


「凄いところに送り込んで来たね」

「宝箱を見つけた冒険者の様子の確認がしたかったからな」


 さらりと言われたリツの言葉に納得する。

 この世界にはダンジョンなんてない。道端に宝箱なんて置かれてることもない。そんな奇妙なものを前にハンターはどう動くのか、リツはそれを知りたかったようだ。きっとナイ達に言って送ってくる場所をある程度指定していたんだろう。


 そしてハンターたちは訝しがりながらも、その箱を開けることにしたようだ。

 一階層なので見た目はただの木箱な宝箱。中に入っているのは……。


「金のネックレスとは、また奮発したね」

「今回は欲に目がくらんででも動いてほしいからな」


 活発になる人の姿が見たかったのか、と納得する。それは実際に画面の先で喜び辺りを見渡して先へと動き出す人の姿で正解とわかる。

 それにそのネックレスも今回は回収が可能だ。だってこの人達の先は決まっている。

 それに、ダンジョンとはそう甘いものではない。


 高価な金のネックレスを手に入れ他にもないかと警戒心も薄そうに辺りを見回しながら進む人の姿。

 そこに一本の線が走る。それは武器を持った二人のすぐ後ろ、杖を持っていた女の肩に刺さった。


「弓か。岩場に隠れてるのかな?」


 画面を見つめながらどこにいるのか探してみる。上手く隠れながら一人のゴブリンが矢を当てたようだ。訓練の成果は出ているだろう。


「この短期間でよく習得したね」

「人間たちが欲に目が眩みすぎて見落としてた可能性も高いがな」

「確かにね」


 苦笑しながら画面を見る。武器を構えてもなかった人たち。魔物がいるだなんて、攻撃を受けるだなんて想像していなかったようで驚きから混乱状態だ。その姿にガストは目を開き驚いている様子だった。

 その混乱に乗じて剣やナイフを持ったゴブリンが三人飛び出した。そして後ろからはまた矢が射られる。


「主様、凄いですよ! あの魔物達がこのような」


 魔物の成長を素直に喜んでいるガスト。しかしあたしは全く違う感想を持った。


「うん、実験になってない気がする」

「そうだな、これじゃあ意味がないかもな」


 小さく息を吐きながら画面を眺め今回の魔物側への指示を思い出す。

 今回ダンジョンでは四人一組として配置している。ある程度の範囲を巡回するように指示している。

 そして出会った人は殺せ、と命じている。


 混乱状態のところに魔物が飛び出してきて余計に混乱が起こるハンターたち。音がなくてもその様子がよくわかる。慌てふためき正常な判断などできていないように思えるその姿。


「人は不意打ちに弱いからね」

「それは魔物も同じだろ」

「そうだね」

「しかしあの魔物達が人に対してああも動けるとは」


 興奮気味で喜ぶガスト。慌てふためく人たちは手に持つ武器を振り回すだけで連携など皆無。逆に心構えができていたゴブリンたちは冷静に振り回された武器を躱し人を傷つけ追い詰めてゆく。

 その様子を見てあたしははっきりと溜息を吐く。


「二階層に期待したいけど」

「二階層はジャングルでの動きだな」


 そのためにあの場所に転移されたのかと今回も納得する。

 草木が生い茂り足場も悪く少し湿度の高いあの場所。普段よりも動き辛い人の様子を知りたかったんだろう。


「けど次は魔物がいることをちゃんと言ったうえで送り込んでもらった方がいいかもね」

「この分じゃ今回はそこは何も言っていない可能性が高いな」


 二階層では洞窟を抜けジャングルに驚きながらも踏み込んだ人の姿。そこで薬草を見つけたようでしゃがみ込んだところを魔物に背後から狙われ呆気なく終わった。


「凄い、凄い結果ですよ主様! 魔物の圧勝ではございませんか」


 素直に喜ぶガストを気にすることなくあたしは画面を見続ける。

 確かに結果だけ見れば圧勝だ。良い結果もあたしにはもたらしたがそれでも問題だらけだ。見方を変えたら問題しかない。


「この世界では魔物がああして襲ってくるとは思わないのかな?」

「これまで魔物は狩られる存在、追われる者でしたからね」


 興奮気味に返されたガストの言葉はあたしの知識としてもそれはある。

 魔物は狩られる者であり、狩る側ではなかった。

 探され追い詰められ、そして殺される。弱者だと思われている者。

 だからこそ人は油断している。だからこそ人は余裕をもってこんな場所でも簡単に進む。


「最初いいけどすぐに危険になるね」

「縁?」

「あと数回は様子を見たいところだけど、村長会議も必要かも」

「主様には何か懸念があると?」


 画面を見つめながら静かに頷く。

 今日の結果だけ見ればきっとこれを見ている者達は大盛り上がりで喜んでいることだろう。

 それはかなり危険な事だ。これはかなり梃入れが必要になる。気持ちの上で。


「ナイ達は今日はこれで終わりって?」

「今一組見つけたようだ」

「わかった。それを送ったら一度戻ってもらって」


 リツに指示を出しあたしは画面を見つめる。今のままじゃダンジョンはすぐに駄目になると予想しながら。


「リツ、悪いけど応接室の準備をお願い。あたしはもう移動する。ガストは念のために最後まで見ておいて、終わったら応接室に」

「わかった」

「承知いたしました」


 次の組など見る価値もない。あたしは玉座から立ち上がりその先へと動き出す。



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