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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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 リツとガストがヨルと連絡を取りながら明日の算段をつけ、 全ての準備が整い落ち着いたと報告を受けた深夜、あたしはリツとナイとヨルをあたしの部屋へ呼び出した。

 部屋の明かりは付けず、カーテンを開ければ偽物の月光が差し込み部屋の中を薄暗く照らす。


「縁、俺たちに用ってなんだ?」

「ガスト様は呼ばなくていいのか?」


 リツが少し心配そうに、そしてナイは不思議そうに言ってくる。そして悲しそうな目のままのヨル。


「うん、三人に話が合ったんだ」

「俺たち三人だけにか」

「うん、()()()()()()()三人に」


 あたしの言葉でリツの眉が少し寄りナイが困惑した表情を浮かべヨルの綺麗な瞳が揺れた。


「三人にはね、始まる前に言っておきたいことがあったんだ」


 俯くなと、せめて前を見続けろと自分を叱咤する。


「あたしの我儘で、三人を創り出してごめんね。特にナイとヨル、その辛い役目を背負わせてごめん」


 ナイとヨルは人種だ。人側だ。例え情報収集のために創ったとはいえ、まだ短くとも街にいれば知り合いや縁を深くする者も現れたことだろう。


「リツも、いつも面倒な仕事ばかりさせてごめん。三人を創り出したのは確かに補佐する者も欲しかった。けどそれ以上にあたしの我儘だ」

「縁、俺たちはそう思ってない」

「そうだ嬢ちゃん、俺たちは納得してる」

「そうよ。私は言ったわ、貴女を選んだのは私よ」


 三人の言葉にあたしは首を振る。


「三人は、あたしの願いからできてる。あたしが一人では耐えられないと思ったから。特に最初はガストも味方とは言い切れなかったからね、余計にだね」

「なんだ、ガスト様が味方になったから俺たちはいらないってか?」

「違うよ、そうじゃない。……これからも、三人にはいてほしい。家族だと言った言葉に嘘はない」


 首を振りそれは違うと否定する。

 けれどもだ。


「あたしはこれからもダンジョンを広げ、人を殺める場所を広げるだろう。そしてそれは、あたしの常識では許されないこと」


 三人を見つめて事実だけを言う。

 三人の痛ましげな瞳がただ静かにあたしを見ている。


「あたしは神の望みを叶え、神に与えられた役割を全うしなければならない、そんな存在だ。そんな存在に、なってしまった。この世界で意識を持ったとき、そのことに絶望した」


 常識なんて簡単に覆るものではない。当たり前を否定することは難しい。


「耐えられないと、耐えれるわけがないと思った。それでもあの神のいいようにされて、使い捨てのように知識を奪われて、壮絶な痛みをもって死にたくなんてなかった」


 それが本音。

 紛れもない、あの時のあたしの、そして今も、あたしの本音。


「だからこそ支えが欲しかった。だからこそ、側に寄り添ってくれる者が欲しかった」


 だから三人を創り出した。すぐに。


「そして三人はあたしの願い通りになってくれた」

「それは縁がそう接してくれたからだ」

「嬢ちゃんが俺たち自身を見て、俺たちを人として扱ってくれたからだろ」

「関係を築けたのは縁のおかげよ。縁が自我を持たせ、選ぶことを許してくれたから。その上で私たちは選んでいるの」

「それでも根底にあるのは隠しきれないあたしの願望だ」


 魔法とはイメージ、想像力が物を言う。特にナイとヨルを創ったときにそれを痛感した。恋人設定が上手く定着したから。

 だったら、あの時あったあたしの願望は?

 奥底にあったはずの、あたしの感情は?


「リツはね、律するって言葉からきている。あたしが間違った時、あたしが踏み外そうとしているときに正してくれるように」


 リツを見つめ言う。


「ナイはね、騎士、ナイトって言葉から。あたしを守ってくれるものが欲しくて付けた」


 ナイを見つめ言う。


「ヨルはね、頼るって言葉。頼らせてほしい、寄りかからせてほしい、そんな願いがあった」


 リツは万能型の補佐を目指し、それでいてあたしに忠言できる存在として。ナイはその名の通り強くあたしを守る者。ヨルはあたしを甘やかせ、ときに厳しい言葉をくれるように。

 それぞれの根底にはあたしの願いがあって、願望があった。それは同じ時を過ごせば各自の性格に顕著に表れていることがわかった。


「だからね、特にナイとヨルは、もし辛いと思うのであれば、世界に顕現した後は三人とも好きにしてくれていい」


 本音を言えばもう少し、ダンジョンが安定してからであってほしい。けれどもそれでは特に人の街で生活もしているナイとヨルには辛いことも多いだろう。


「……嬢ちゃん、それはもう、俺らはいらないってことか?」


 どこか棘のある、少し威圧めいたナイの言葉。強い瞳の問いかけにあたしは首を振る。


「そんなわけない。そんなわけ、あるはずもない。だからと言って三人には自由な自我がある。ダンジョンの外であれば()()の人生で終わりだ」


 ガストにはまだ打ち明けていない、残酷な三人の仕様。創造魔法とはどこまでも暴虐だ。


 領域魔法もそうだが生物創造だけでも神と見間違うほどの強力な魔法だ。自分の思う通りの命を創りだせる。新しい命を創り出せる。

 ガストが神によって創られたように、あたしは三人を創り出した。

 できるだけ長く、できるだけずっと、あたしが終わるその瞬間まで共に……。

 そんな願望はガストへの知識のおかげで芽吹いてしまった。


 生物創造にはいくつもの設定と呼べるようなことができる。その一つが消耗型か継続型。

 消耗型とはその名の通りに創り出しても何かで死んでしまえばそれで終わり。普通の生物と変わらずに死を迎えれる。

 継続型は消耗型よりも創り出すときに魔力は多く必要とされるが名の通りに継続、それまでの知識、記憶、経験を全て持って同じ個体として蘇る。

 受けた傷は癒えた状態で、ただし、その最期の瞬間の記憶まである状態で蘇る。

 ただしそれが適用されるのはあたし領域、テリトリー内であればの話。

 けれど逆に言えばダンジョンにいる限り、ダンジョン内であれば何度でも蘇る三人。それは何度痛みを経験しても終わることのない地獄だ。

 自分がされて嫌だと言うのに、命への冒涜だ。


「あたしは、あたし自身が壮絶な痛みをもって死にたくないから三人を創り出した。そのくせ三人には、その痛みを何度も味合わせるように設定して」

「それは死ななければいい話だ」

「それに壮絶な痛みってわけじゃねえだろ」

「そうよ、縁のように決められているわけではないわ」

「それでも死ぬときは痛いだろうね、辛いだろうね。きっと、怖いよ」


 どんな死に方だろうと、ダンジョンという場所で安らかな死なんてないだろう。そうでなくともそう、何度も味わいたくなんてないだろう。


「間違うな、嬢ちゃん。死ななきゃいいだけの話だ」

「そうだ、ナイの言うとおりだ」

「ええ、そうよ。私たち自身がしっかりしていれば」


 ナイが呆気らかんと言った雰囲気で言う。それにリツとヨルも続く。けれどもあたしは。


「……絶対はないよ。それにこれからは特に」


 ダンジョンが世界に顕現してしまえば様々な人間がやって来るだろう。そのときに絶対の安全なんてあるんだろうか?

 お金のため、物のため、ダンジョン内で人を殺す人すらやって来る可能性があるだろう。

 そのときあたしは、三人を守ることは何一つできない。逆にあたしは、守ってもらうばかりだ。


 最初に三人を創り出したとき、本当に支えが欲しくて隠し切れない願望があることを知っていた。それが我儘で、冒涜であると知ってそう創った。

 消えてほしくなかった。いなくならないで欲しかった。最後まで、側に居て欲しかった。

 けれども三人と共に暮らして、三人を知れば知るだけ、その願いの我儘さに、凶悪な冒涜さに、あの神と、同じだと気が付いた。

 いや、わかっていて目を瞑っていたんだ。

 無意識を装い、奥深くに隠した利己的な考えに、目を瞑り素知らぬ顔をしていたんだ。




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