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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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 静まり返った部屋の中、ルカの顔は苦いものを噛み締めているようだった。

 あたしの言葉を理解しわかってしまったから、考えてしまうんだろう。それでも一口コーヒーを飲んで顔を上げれば苦笑しながら口を開いた。


「本当に悪かったな」

「気にしないで、本気で悩んでる証拠でしょ」


 ルカは具体的なダンジョンのことは何一つ知らない。だからこそダンジョンと言う場所で保護できないか考えたんだ。あたしと言う人がいる場所として。

 ルカがあたしを軽んじたとは思わない。ダンジョンを軽んじたととも。

 何も知らないから夢を見た、あたしという人がいるからこそ夢を見た。本気で、考えただけ。その子を思っただけ。

 だからこそ明るい声を出した。


「けどそんな状態なら店なんてやってられないかな?」

「いや、安定収入に繋がるのは正直助かる。アルフが外に行く機会も減るしな」

「そのアルフって人が纏め役?」

「ああ、俺を拾った張本人だ」


 信頼しているんだろう。その名前を呼ぶときルカの声が優しくなった。


「みんなそのアルフって人を慕ってるんだね」

「ああ、ガキ共はアルフを好いてる。だから余計にな」

「親を取られちゃったような気分なんだろうね」

「自分たちもそうゆう時があったんだけどな」


 ルカが苦笑しながらそう言った。


「アルフが拾ってくるガキはなんだかんだと問題だらけだ。血の濃い者であったり欠陥品であったり」

「だから余計になんじゃない?」

「ああ、そうゆうこともあんのか」


 子供の嫉妬は馬鹿にできない。赤ちゃん返りって言葉があるぐらいだ。人とは欲深い生き物だ。それに自分を認めて受け入れてほしい生き物。

 愛情を知らなかった者ほど、それは強く出てくる。


「ルカとしてはどうしたい?」

「あ? 店のことか?」

「そうだね」


 あの話を聞いた後だ、安定収入は欲しいだろうけど難しいこともわかっている。


「店はともかく稼ぎは欲しいな。でもそれじゃあ縁にメリットがないだろ?」

「ないわけでもないよ」


 きっとルカは仲間を危険に晒したくないんだ。そしてそのアルフって人が仲間の側にいれるように、その子の側にいて上げれるようにしたいんだ。


「ルカの知った情報だけでも役立つし、ダンジョンの宣伝活動してくれるなら助かるのは助かる。それに……」

「それに、なんだよ」

「無理ならいい、出来ないなら断って欲しいんだけど」

「前置きは言い。言うだけ言ってみろよ」


 「さっきのお前のセリフだろ」そう言ってルカは笑った。けれどあたしは笑えずに表情が硬くなる。


「消えてもいい、街から居なくなっても誰も気にしないようなハンターを紹介してほしい」

「それは……」

「ダンジョンが顕現するまでもう一週間もない。そろそろ試しておくべきだから」


 言葉は多くなくともそれがあたしの本音。最終確認ってやつだ。そして皆に自信を付けさせるための最後の仕上げ。


「少数でもいい。できればそれなりの数が欲しいけど」


 一度に全てを呼ぶわけでもない。そんなことすればすぐに怪しまれてしまうだろう。だから少数ずつ、少しずつダンジョンに送り込み、実際ハンターがどう動くのか、そして皆はどう対応するのか、確認したいんだ。


「……いないわけじゃねえ。あんな街だ、厄介な奴もいる」

「連れ出してほしいとまでは言わない。ナイ達に教えてくれるだけでいい」

「俺の方が誘い出しやすいだろ」

「ルカが疑われるのは避けたほうがいい」

「ばれないように上手くはやる。それに森で同業者と会うこともあるから、そいつらでもいいんだろ?」

「ルカ、無理する必要は……」

「俺だって、恨んでる奴だっている。それでも悩まないわけでもない。けど縁は俺に報酬をくれんだろ?」


 笑えていないルカの顔。それでも笑おうと無理する顔。それをさせてしまってるのは、あたしだ。


「ルカ、ルカは人側だ。それを間違う気はない」

「それでも俺は守りたい者がある。その為にできることはやりたい」

「それをしなくても、他の協力はあるんだよ?」

「疲労手当はくれんだろ?」


 そう言って笑ったルカの表情は硬い。

 説明せずとも頼んだハンターたちがどうなるのかわかっているルカ。想像だけでなく、本当にそうなるとわかっているルカ。

 その事実がまた重かった。


 この世界で、命の重さとはどれほどなんだろうか。


「ごめん、忘れて」

「いや、俺たちにとって邪魔な奴でもいいんだろ?」

「ルカ達にとって?」

「ああ、俺の仲間にちょっかい掛けて来る奴らもいるからな」


 ルカは弱いコミュニティーに所属していると言っていた。孤児や欠陥品、戦えない者が大半のコミュニティーと。


「俺から見て、居なくなって欲しい奴はいる。それでもいいか?」

「……ルカ」

「この世界に来て生死観なんて変わった。殺されかけたことだって、なんとか殺したことだって……」


 ルカの目が怪しく光る。


「俺がこの世界に来て四年、何もなかったと思うか?」


 ルカはここに来た最初に殺すのか、と問いかけてきた。それは実際にそう言った場面にあったことがあるからだ。


「直接じゃないだけマシだ。送り込めばいいんだろ?」

「うん、ナイ達と連携して送り込んでほしい」

「俺はダンジョンに行けないのか?」

「ルカに魔物を殺されるのは困る、今は特に。それにまだナイ達以外の協力者がいることを皆は知らない」


 ルカの答えはわからなかったがその下地は作ってある。後はタイミングと打ち明ける内容だ。

 それにはルカが協力者にならなかったとしても関係が続く可能性があるなら、ルカに魔物を、ダンジョンに貢献する者を殺させるわけにはいかない。


「……縁は、大丈夫なのか?」


 それは意外な言葉だった。不意を突くような言葉。


「え?」

「お前は人を殺したことも殺されかけたこともねえだろ」


 真剣な目、真剣な声、それがあたしに突き刺さる。

 それでも、それでも怯んでなどいられない。


「正直言えば、わからない。けれど、必要なこと」


 本当は魔物よりあたしに必要なことなのかもしれない。この最終確認は。

 ダンジョンに人を入れ、そして魔物に殺させる。その全てを見届け、確認することが。

 俯くな、と頭で思う。強い目をルカに向け、あたしは言いきる。


「あたしはダンジョンマスターだから。それが、役目だから」


 ルカの目が、あたしの心の隅まで見逃さないように真剣な目で見てくる。あたしはそれを真正面から受け止める。


「……わかった。ナイ達とやればいいんだな」

「うん、お願い」

「俺もいつかはダンジョンに入れるか?」

「それは考えてるつもり。協力してくれるならダンジョンを知らないと外で言うこともできないでしょ?」


 ダンジョンが顕現される前に一度ダンジョンを見てもらうべきだろうか。それとも顕現された後にでもナイ達の案内で見てもらう方法を取るべきか。ダンジョンの状態にもよるな。


「ダンジョン内にいる魔物も色々あるんだよ」

「それはいつか教えてくれんのか?」

「そうだね、ルカが協力者だと確信ができたら」


 今はまだ時期早々だ。今はまだ、全てを話すことはできない。世界に顕現していないダンジョン。その情報を話すにはリスクが大きすぎる。

 苦笑気味になってしまったのは仕方がない。それでもあたしが守るべきはダンジョンで、ルカが守りたいのはルカの仲間だ。そこを間違う気はない。



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