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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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 そうして幾日が立ち、ガストはあれからあたしをただ見るだけではなく最近ではリツによく話を聞いているところを見かけるようになった。

 リツだけでなく戻ってきたところのナイやヨルにも話しかけている姿も見かけた。なのにあたしには聞いてこない。解せませんことに。

 まぁあたしには話しかけにくいのはしょうがないとして、三人には嘘を言う理由はないと、聞きたいことは聞かせてやれと言ってある。あとはガストと三人の関係次第だろう。ガスト自身の問題となる。


 誰だって自分の大切なものを軽視するものを大切にはできない。関係を作らなければ、与えられるものも少なくなるのが道理。それをガストは今学んでいるところだろう。

 それでも三人もガスト次第ではあたしがガストを受け入れる気でいることも理解はしている。だから話すし答えるし、今まさに関係を構築していっている最中だ。


 そしてまたダンジョン内はまた活気づいている。

 アインスが名前を貰い剣を貰ったことから他の者達のやる気は鰻登りだ。予想していた以上にいい動きとなっている。

 ただそれもいい方向ばかりではない。


 また自分たちの体の一部の献上などが始まり、そして魔物同士の諍いなどが増えてきた。

 元々魔物同士、種族によっては差はあれど血気盛んで、それでもその報告の数は一段と増えた。自分たちこそが選ばれる者に相応しいと、それだけの力があると言わんばかりに争うことが増えた。

 今はそのことで頭を悩ませているところだ。


「可能性はあると思っていたけど……」

「それにしても増えたな」

「うん。それじゃあ意味がないんだけどな。アインスはどう?」

「上手く捌いてはいるがやっかみから村にちょっかいを掛けられることは増えている」

「長としてはやりづらい状況か」

「アンユ達自我持ちがが上手く立ち回ろうとはしているが」

「それでも収まらないってことだよね」

「ああ、力の示し方を勘違いする輩は増える一方だろう。アインスはそれでも魔物同士で争うのは避けている」


 ふむ、と考える。

 多少なりとも出てくるとは思ったが、思った以上にみんな好戦的で直情型だ。それにしてもアインスはよく理解し我慢していると言うことだろう。


「移住組はどんな感じ?」

「今のところは静観と言うところか? ただアインスの武器を気にしてはいるようだ」

「他の物とは違うからね」

「ああ、それを与えられる縁の存在は気になるのだろう」


 移住組はどう足掻いたって王の階層、それ以降に入ってくることはできない。

 今のところ王の階層に来るには基本的に自我持ちの案内かあたしが自ら与えた指輪がないと入れない、来ることはできない。そして自我持ちと移住組は接する事もなければその指輪を見たこともない。

 それに移住組の階層越えは禁止としているし、他にも禁止区域は設けている。それを守れないのであればダンジョンからの追放は言い渡している。

 けれどもその禁止区域に貢献組の魔物は関係ない。移住組の領域にも貢献者組は自由に行き来できる。全く交流がないわけでもない。


「情報は流れるわけだ」

「それも見越してはいただろ?」

「うん。ただ今は少し厄介かもね。とりあえず貢献組を抑えなきゃ」


 さあどうするべきか、と考える。

 やる気になるのはいいことだが、その方向性が少し悪い。このダンジョンに住まう者同士の争いをあたしは望んではいない。


「一度、村長会議でもしようか?」

「一同を会すると言うのか?」

「このままじゃ潰し合いになってしまう。ダンジョンが始まる前にそれは一番最悪なことだ」


 せっかく魔物が増える環境が整い実際に増え始めた今、無駄に減るのは頂けない。それこそ本当に無駄でしかない。


「魔物素材も有難いっちゃ有難いけど、安直だなあ」


 今は自分達自身で食料を賄うこともできている。自分たちの身を削ってまで素材を献上する理由なんて本来ならない。けれどそれをしてくる理由とは、それこそ貢献と言う意味だろう。


「今は力を蓄えてほしいんだけどな」


 刻一刻と近づくその時に、その為に力を蓄え強くなってほしい。


「うん、村長会議をやろうか」

「ナイとリツも呼ぶか?」

「そうだね、全体の把握はしておいてほしいし」

「わかった。明日には整えておく」

「よろしく頼むね」


 思い付きとはいえ、常に判断を任されるこの役割において決断と行動は早いほうがいい。

 リツに任せておけば万全だと、あたしは笑みを向けてお茶を飲んだ。




 そしてその時はやって来る。

 王の間にて、あたしが座る玉座の前には整然と並べられて椅子たち。各村長の座る椅子だ。

 本当であればもう少し見栄えを気にするべきなのかもしれないが、今のあたしの魔力にそこまでの余裕はない。けれどきっと短い話で終わる物でもないので一先ずの措置として椅子を準備した。

 そして念のためという意味も込めて、今回は自我持ち達は王の間の両側に並び立ち様子を見ることになっている。

 リツとガストはまた玉座の少し前に左右に離れて立ち、ナイとヨルは玉座の後ろに控え立つ。


 そしてその自我持ち達に連れられて各村長たちが一礼して王の間へとやってきた。

 あのアインスは玉座に一番近い椅子へとアンユに勧められて座った。そこに向けられるほかの者の視線は様々であるが、いいものばかりでないことはわかっていたことだ。

 けれど見える感じ怪我もなくこの間と変わりなさそうで少しほっとした。


 けどこうやって見ると大きな会議室も今後必要になってくるだろうか。

 村長会議など最初は想定してなかったのでこれだけが入る場所を作ってはなかったんだ。だから今回は仕方なく王の間での会議となる。

 その辺りも魔力の様子を見ながら創っていかないとなあ。


「それでは、これより主様よりお言葉がある」


 静かな空間にリツの声が良く通る。その言葉を聞いて目の前の目があたしへと向けられる。


「ここのところ、貢献者同士での争いが増えていると聞いている。どうゆうことかな?」


 あたしの発言で少しざわつく王の間。それでも誰もはっきりとした言葉にしようとはしない。

 あたしはそれを一瞥して真っ直ぐに言葉を続ける。


「あたしは貢献者同士の諍いを望んではいない。争うことを許す気はない」


 はっきりと明言する。それだけで騒めきは大きくなった。そのときガーウィルと言う種族の者が手を上げた。黒い蝙蝠翼を持った長い嘴の魔物だ。

 あたしがそれに頷き促すとガーウィルは立ち上がり一礼し話始める。


「魔王様はダンジョンに貢献する者を優遇し恩恵を与えると仰いました。力を示すのは当然ではないのでしょうか?」

「皆も同じ意見なのかな?」


 その言葉を聞いてあたしはそこにいる者を見渡す。

 村長ばかりと言っても今となってはかなりの数になっている。ゴブリン一つ見ても十二、三はいるだろう。他の種族も含めればかなりの数だ。

 そしてその反応はと言うと様々で、力の弱い種族や好戦的でない種族は不快な顔を。逆に力があり好戦的な魔物ほど頷いている。


「今回はね、勘違いを正そうと思ってこの場を設けた。あたしは貢献者同士で争うことを良しとしない」


 先ほどよりも強いざわめきが場に満ちる。それも想定内のこと。すぐに手を上げ場を大人しくさせる。


「あたしはね、ダンジョンに敵意を持って来る者との争いならいくらでもやって構わないと思っている。けれど、ダンジョン内で暮らす貢献者同士は争ってはならないと思ってる」


 そこで言葉を区切り、強い目を向けた。


「逆に協力し合えるのならば、協力するべきだと思っている」


 その言葉で一際大きくざわめきが強まる。それでもそれを気にする気はない。


「なぜアインスに名を与え剣を与えたか、考えた者はいる?」


 静かに問いかければ様々な目が行きかい、戸惑いを表す者すらいる。全く考えていなかったと一目でわかる者すらいる。それでは駄目だろう。

 その中で先ほどのガーウィルがまた手を上げた。


「私としましては知能も低く戦闘能力も低いゴブリンに、何故魔王様がそこまでのことをしたのか見当もつきません。きっと魔王様付のゴブリンが上手くやったことでしょう」


 そう言ってどこか嘲るように嘲笑を含む口調でガーウィルはアンユをちらりと見て言う。けれどだ、それを許す気はないとあたしは蔑むように目を細めそのガーウィルを見据える。


「お前はあたしが自分で用意した者に騙された、と言いたいのか」


 静かに、感情を殺した声。

 それは王の間に響き、圧となる。


「あたしが決断したことは愚かであった、と言いたいのか?」


 ガーウィルが先ほどまでの表情から一転、青褪め慌てたように口を開く。


「め、滅相もございません。しかし、あのゴブリンが魔王様の恩恵に預かるならば、私どもとて」

「お前はそれだけのことをしてると言えるのか?」




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