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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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  数日かかると思われていた準備もダンジョン内だから、とリツにかかれば数時間で終わらせることができたようだ。さすがリツ。

 あたしは準備ができたと王の間に呼ばれ、その玉座へと腰を下ろす。


「偉そうだね」

「実際にここの王は縁だ」


 正確には核、本体なだけだ。

 あたしがいなくなればこのダンジョンが崩れ去るだけ。そしてあたしに創られたものも、全てが消えるだけ。

 それをわかっているからこそ何とも言えない苦笑が漏れた。


 そしてそんなことをしていればガストが扉から入ってきて、少し硬い表情であたしに一礼するとあたしの少し前の右手を陣取り立った。左側にはリツが立つ。

 そして閉じられた扉から聞こえてきた声。


「魔王様のお呼びと聞き、アンユがゴブリンを連れてまいりました」

「入れ」


 リツがいつもと違った真面目な厳しい声で答える。ゆっくりと両開きの豪奢な扉が開き、少し緊張した様子でアンユ、その後ろにゴブリンが続き、そして他の自我持ちとそれに連れられてきた者達が続く。


 アンユが玉座の少し前、段の少し前まで一人のゴブリンを連れてやって来て腰を落とす。それに倣いゴブリンも不慣れながらに何とか腰を落とししゃがんだ。

 残された者達は自我持ち達に先導され少し離れた両脇へと並ばされていくのをぼんやりと見てしまう。


「魔王様、ご拝謁有難う御座います」


 その言葉に眉がぴくりと動いたが今は駄目だ。

 なんとか表情を崩すことなく柔らかな笑みで迎える。


「アンユの働きは聞いているよ。いつも有難う」

「いえ、滅相もないお言葉。本日はお目に掛けたい者がおります」

「ああ、聞いている」


 そう言ってアンユの体からずらした後ろ、そこに控えるゴブリンに目を向ける。


「ゴブリンの群れを持つ長の一人になります」

「直答でいいよ。貴方は名前はあるのかな?」


 意味がわからなかったのか、不安そうにあたしとアンユを見るゴブリン。それに気づいてアンユが言葉を繋げる。


「名はあるのかと、魔王様がお聞きだ」

「名は、ない、です」

「そうか、名前はないのか。それでもいい働きをしていると聞いている」


 魔物達の中でも群れや集落の長などはないと不便なため名を持つこともあると知識で知っていた。他にも何かしらの栄誉を誇った英雄やその群れに貢献したものなどは名を持つことがあると。

 このゴブリンの群れはそこまで大きくもなく名を必要としなかったのか、それともそんな暇がないほどに大変だったのか、どちらかだろう。


「だったらあたしが名前をやろう。このダンジョンの始まりのゴブリンへ」


 笑みを深め大業な言い方でわざと声を強める。その瞬間に王の間がざわついた。


「嫌か、ゴブリン」

「いいえ、いいえ、有難い、です」


 たどたどしくも丁寧に、それでいて驚きながらも頭を深く下げるその姿。その姿にも好感が浮かぶ。そしてあたしに対する畏怖の念も好意も見える。だったらあたしのするべきことは決まっている。使えるものはなんでも使わなくては。


「群れや集落と言う呼び方はややこしい。これからは各場を村としよう。そしてお前、お前は始まりのゴブリンとしてアインスと名乗れ。アインスの村、村長(むらおさ)としてこの剣を授けよう」


 そう言ってリツから一本の剣を受け取る。

 それは鞘に入ったゴブリンでも使いやすい小ぶりの何の変哲もない両手剣。ただし、まだどの魔物も手にしたことのない輝きをほこる両手剣。

 魔物達に渡している武器などは雑な作りな物が多い。数を揃えるためにも魔力の節約のためにもそうなっている。

 しかしこの剣はそれを上回るほどいい剣だ。


 あたしは立ち上がり自らの足で段を降りアインスの前に立つ。


「アインス、この剣を使い、このダンジョンのために働いてほしい」

「は、はいっ! 有難いです」


 驚愕しながらも感極まったようにゴブリン、アインスはその目を輝かせあたしから両手で剣を受け取る。


「アインス、ダンジョンに報いればそれだけの恩恵をお前にやろう。これからの働きも期待している」

「ははあっ!このアインス、魔王様のため働く!!」

「ああ、頑張ってくれ」


 そう言ってあたしは玉座に戻る。


「みんなも見ていた通りに、その働きや貢献によってあたしは恩恵を与えよう。それはただ人を殺すことだけじゃない。あたしに忠義を、臣下として示せるかもある」


 声を大きくして、王の間に響くように聞かせる。


「様々な形でそれを表すことができるだろう。ダンジョンが顕現するまであと少し。各村長にも頑張ってもらいたい」

「「「はいっ!」」」


 幾つもの眼差し、期待、希望、羨望、それに伴い幾つもの熱い声が王の間に響き、それはあたしを呑み込むように聞こえてくる。

 それでも表情を崩してはならない。この場で威厳を持ち、最上位であるあたしが呑まれてはいけない。


「ああ、皆の頑張りに期待している」


 追い付かない感情は気にせずに強気な笑みを意識的にしっかりと作り、王の間に響くその思いに応えるように見せる。

 この場にいるということはアインスのように推薦される可能性があるということだ。だからこそわかりやすく見せることは重要だ。その効果はしっかりとありそうだ。

 あたしは仕事が終わったと立ち上がる。そしてその場で王の間に集まった魔物達を見渡す。


「アインス、それにみんなも、もうすぐダンジョンには沢山の人がお前たちを狙ってやって来るだろう。それに対抗しうる力は今身に付けさせている。それを十分に発揮してほしい。あたしはそれを願う」


 それだけを言ってあたしは微笑む。すぐにリツが魔物達に退出を促した。

 アインスもアンユに促され立ち上げるとあたしを真っ直ぐに見つめ深く頭を下げてからしっかりとした足取りで扉の奥へと進んで行った。

 残されたのはあたしとリツと、そしてガスト。

 全てが去ったその扉をまだ見つめるガスト。


「ガスト、今日のところの感想はある?」

「……魔物達の、主様への敬意の念が見えました」

「そうだね、あたしは何もしていないのに」

「ダンジョンと言う場を与え、生活環境を良くし、戦う力を身に着けさせようとされている」

「ああ、それでもほぼ他人任せだ。それでも神輿として担がれる者にはなれる」

「あのゴブリンは……、主様の為にも働くでしょうね」

「アインスだ、ガスト」

「失礼致しました。あのアインスは主様の駒となり兵となり、働くでしょう」

「誰かさんのように、そうなってくれるだろうね」


 苦境の中、差し伸べられた手。そしてまだ拾い上げようとする者。それだけでその感情は好意を持ち敬愛へと変化する。そして力を与えることで、あたしのために働いてくれる。


「あたしはここの者達を使い潰すだけの駒だとは思っていない。その役目は、その役目の者に補ってもらおう」

「そんな者が、ここにいると?」


 ガストの目が疑心と不安で揺れる。


「ガストじゃないよ。安心して、これからもあたしを観察すればいい」


 その言葉に目を開くガスト。その胸中の揺れはまだ収まってはいないんだろう。

 それでも時は待ってくれない、止まることはない。刻一刻と時を刻み、ダンジョンは必ず世界に顕現する。あたしを敵として。




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