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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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 ぱたん、と扉が閉まる音がすれば部屋の中には静寂と重い空気。それがなぜかなんて考えなくてもわかる。


「ガスト、前に座って」

「……主様の前に座るのは」

「そうゆうのは今はいい。王の間でするような話でもないでしょ。ガストも言いたいことが()()はあるだろうし」


 そう言ってルカが座っていたソファーを勧めると渋々ながら動くガスト。

 リツはあたしの飲み物を淹れなおそうと動き出した。


「苦い話だし、紅茶がいいな」

「わかった。甘めにしよう」


 そう言って微笑むリツの顔も少しだけ固くなってる気がするのはあたしの感情からくる錯覚だろうか。

 リツが紅茶を二人分準備しあたしの背後に着く気配であたしは息を吐く。


「それで、まずはガストの言い分から聞こうか?」

「それではなぜ、人にあそこまでの情報を?」

「それは誠意を見せるべきだと思った。ルカは完全なる被害者だ」

「だからと言って必要のないことまで!」

「帰れるかも、元居た世界がどうなってるかも伝えることのできない現状、伝えられるのはあたし自身の立場とダンジョンのことだ。それでも何より重要な核についてはまだ話していない」


 あたしは最後に壮絶な死を迎えると話はした。だからと言ってそれがダンジョンにどう関係しているのかは話していない。

 あたしと似たような、元の世界の知識があるルカなら、それだけであたしがダンジョン核だと気付く可能性もある、けどあの場でルカは何も言わなかった。情報の多さのせいもあるかもしれないが。


「それでも人に協力するだなんて、それこそ主神様のご意思に反しています!」

「そうかな? ガストはダンジョンをどう思った?」


 あたしの質問に一瞬瞳を揺らすガスト。突然変わった話に訝しがるようにすぐその目を鋭いものにした。


「地下迷宮、ダンジョン。魔物を保護し繁殖させる場としては適している。そして戦闘訓練を積ませ、少数ずつで人と相対できる場を整えてあげ経験を積ませてあげる。まだ実践できていないとは言え悪い手ではなかったでしょ?」

「まあ、確かに悪い手ではないことは認めます」


 渋々、と言う感じで言葉を返すガスト。その姿に溜息が零れる。


「あたしはね、ガスト。貴方と対立したいわけでも敵対したいわけでもない。それでも壮絶な痛みをもって簡単に死にたいわけでもないんだ」


 ガストの目を強く見て言う。


「貴方から見てあたしは初代だ。モデルケースだ。それも刹那的、すぐに死ぬと思われるような」


 その言葉でガストの目が開かれる。


「気づかれてないと思ってた? こんな小娘に何ができると思ってたんでしょ? それも黒を纏うあたしに」


 嫌でも皮肉気になってしまう。それに気づいて苦笑が漏れた。


「あたしだって戦いなんて知らない、戦う術も知らない、誰かを統率したこともないあたしだけならすぐに死んでしまうことなんてわかってる。だからこそ三人をすぐに創り出した。我儘と知って」

「我儘ですか。補佐と言うのは名目ですか?」

「いや、それも本当だし実際に三人にはダンジョン運営で動いてもらってるのは知ってるよね?」


 基本ダンジョン内の魔物の統括などはリツが、そして外向きなことをナイとヨルに任せてはいるが今はまだ魔物の訓練などもしてもらっている。


「それでもまだ始まってもいないダンジョンなのに、魔物を呼んだ今は足りないこともガストはわかっているはずだ。だからこそ少しばかり自我のある魔物を増やしダンジョンは回している」


 戦闘訓練だけでなく魔物の生活状況などの環境確認。魔物が増えればそれだけ仕事が増える。そしてまだ魔物は増えていく予定だ。ダンジョンが広がるにつれて。


「予定では強くなった魔物の中からエリア長や階層長なんかも選ぶ気ではいるけど、それでもすぐには動けるわけがない。あたしの知識を持たない者に簡単に運営できるほどダンジョンは甘くない」


 あたしの知識があるからと言って簡単にダンジョンが運営できるわけでもない。それを補うためにもリツ達三人には確固たる強い自我を与え余すことなく知識を与えた。

 神から与えられたこの世界の知識、それだけではなくガストすら持っていない知識、あたしの知識の全て。()()世界のあたしの全ての知識も三人には与えたのはその為だ。

 自分で考えられるように、あたしの穴を埋めるように。それは確実に上手くいっている。


「ダンジョンの中でさえこうなんだ。それじゃあ外のことはどうなんだろうか? 神の知識が万能ではないと明確になってしまった今では」

「それはっ」

「神の知識は万能ではない。大まかな事柄や時代の流れ、それらはあっても細かい所までは抜けている。特に生活に紐づいていることなど特にね。きっと神の興味にもよるんでしょ」


 ガストもわかっているはずだ。そして何よりルカと言う決定打の存在。


「神を崇拝し妄信するのは構わない。神に創られそう創られた存在だ。だからと言って、こちらを蔑ろにするのは違うんじゃない?」

「蔑ろにしているつもりなど……」

「でも、受け入れてもないよね? さっきも言った通りこんな黒を纏う小娘なんて」


 はっきりと、その目を見つめ言葉にする。それだけでガストは一瞬詰まったように息を飲んだ。


「ガストにこれまで歩み寄らなかったあたしにも非はあるだろう。何も相談せずに決めてきたのはガストがあたしを甘く見ていたから。ここまでのことを考え、できるとは思ってない様子だったから」


 ガストの中ではあたしはすぐ死ぬ、ほんの一例としてすぐ終わる存在だと認識していただろう。それは態度からも言葉からも軽視していることは見え隠れしていた。

 けれどあたしは。


「そう簡単に死んでやる気もそう簡単に終わってやる気もないんだ。あの神に報いるだけの理由もない」

「っしかし、それでは主様がここに来られた理由に反します」

「だから本気でダンジョンを創っている。神の意思に反してはいない」

「ではなぜ、人の味方など!」

「人にじゃない、ルカに、だ。それにあたしにしてもダンジョンに対してもメリットは有る。さっきも言ったけどナイとヨル以外にも最悪奴隷を買うことも考えてはいた」


 この世界では奴隷制度は普通のことだ。様々な理由、借金奴隷や犯罪奴隷、そして攫われてきたりした愛玩奴隷や見世物奴隷、様々な奴隷がいる。


「情報源はまだ足りない。神の知識に情報がないのであれば、神の知識がアップデートされないのであれば、自分でする必要がある」


 神の知識は確かに与えらえた。それはもう様々に。

 しかしこれからはどうなるのだろうか? この先で神の知識があたしに与えられることはあるのだろうか?

 いや、ないだろう。この知識は一度与えられただけ、神と会う機会など生きている間はもうないと思う。昼寝するような神だし。


「ハンターだけじゃなく、ダンジョンには様々な人がやって来るだろう。そしてどこを狩場にし何を狙ってくるのか、それがわかるだけでもダンジョン運営は変わってくる」

「それでは奴隷でも良かったではないですか?」

「奴隷だとね、最初から蔑まれてしまうんだ。外で。それに奴隷解放は簡単ではないし使えるようになるまで時間がかかる。ルカの仲間たちならすでに動いているし、ルカを通せばいいい情報源になる」


 善意だけ、それだけで動き決めれるのならば簡単だろう。けれどあたしはもうそれを許されてはいない。

 ダンジョンマスターとして、ダンジョン核として、あたしはあたしのテリトリーを守らなければならない。あたしの為に。


「先行投資するにしても、回収は早い方がいい」


 嫌になる。それでもそれが事実だ。

 ルカに寄り添うようなことを言いながら、あたしはあたしの利を考えていた。残していた。ずっと。


「ルカに言ったことは全て事実だ。そこに嘘はない。けれども言ってないこともある。それが重要なんじゃない?」

「っつ、……主様にはまだ、考えがあると?」

「上手くいく保証は確かにない。けれども上手くいかせるために考え続けることはできる」

「私に何も仰らないのは……?」

「それは自分でももうわかってるでしょ? ガストがあたしを甘く見すぎなんだよ」


 その言葉でガストの目が見開いたと思うと顔が大きく俯く。絹糸のように輝く金の髪が前に流れ、艶やかな深紅の瞳を隠す。


「ガスト、あたしはさっきも言ったけど貴方と敵対したいわけではない。できれば仲良くしたいと思ってるよ。けれど一方的な歩み寄りはできない」





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