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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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25

 


 ルカの目はすぐ開き、その口から疲れたような息が吐かれた。


「正直、有難いっちゃ有難い。けど考えてえって本音もある。俺以外の仲間になんて言うかもあるしな」

「あー、そこだよね」

「俺が協力する場合、ダンジョン内で魔物を倒したら駄目になんのか?」

「考えてなかった」

「おい」


 どうしよう、と考えればルカの苦笑が聞こえた。


「できれば殺してほしくないなあ、面倒なことになるし。そうなるとルカの仲間をどうするか、か」

「俺も俺の仲間を殺されたくねえ」

「そりゃそうだ。ルカがダンジョンに行くとしたらその仲間と行くの?」

「その時によるだろうな。俺は色を除けば人にしか見えねえ。そんな俺だから組めるパーティーもあるからな」

「ルカの仲間は獣人が多いんだっけ?」

「ほぼ獣人、それも血が濃いものが多い」


 血が濃いものと言うのは獣に近い身形と言うことだ。


「ほぼってことは人もいるの?」

「ああ、欠陥品と呼ばれたりする奴らがな」

「欠陥品?」

「体の一部がなかったり奇形だったりってことだ」


 ハンターなんて荒事仕事があるような世界だ。腕であったり足であったり欠損する人はいるだろう。その上この世界は元居た世界より遥かに文明は遅れている。医療技術何てどれほど遅れていることだろうか。

 その上に多種多様な人種、亜人と呼ばれる者たちとの交配によって様々な形で生まれてくる子供たちがいる。俗に言うダブルであるがそれがいい形だけで出てくるとは限らない。そしてそれは代を経て現れることもある。


「大人でも戦える人ばかりじゃないってことか」

「ああ、子供も入れて戦えない奴もいる。だからこそまだ人と組みやすい俺は人とパーティーを組むこともある」


 訳有りが集まりやすいミタルナであっても偏見や差別がないわけでもない。逆にだからこそ弱者に強い当たりが向かうこともある。

 ルカ達の生活はいつも厳しいものだろう。


「んー、うん。ねえ、ルカの仲間で商売ってできないの?」

「は? 何言ってんだ??」


 確かに突拍子もないことを言ってるとは思う。ルカが驚き声を大きくするのも予想していた。けれども悪くはないはずだ。


「あたしの支援で酒場なんて経営できない? 初期費用はナイとヨルとルカでダンジョンで稼いだことにすればいい」

「は? お前何言ってんの?」

「悪くない案だと思うんだよね。酒場には情報が集まるわけだし戦えない者を雇用できる場でもある。すぐは難しいけど食料なんかの素材も幾らかはあたしが提供できるし」


 魔物素材は食料にもなる。それ以外であっても最悪あたしが創ればいいだけだ。


「ある程度は怪しまれないように仕入れはいると思う。金銭での支援も可能だよ?」

「確かに悪くねえ案だな。ルカ達の酒場なら俺は通うぜ?」

「そうねえ、安定収入にも繋がるし子供たちもお手伝いできるわね」


 ナイとヨルが納得したように頷く。


「ナイとヨルとはパーティーを組んだこともあるみたいだし、こんなところまでついて来てくれるぐらいの信用はあるんでしょ? だったら最初にダンジョンは三人が見つけたことにすればいい」


 その一回で全て稼いだと言うのはおかしいことになるだろう。それでも数回、ダンジョンの情報を隠していたことにすれば何とかなるんじゃないだろうか?


「それとも、外でルカの仲間が店をするって大変なの?」

「……楽、ではないだろうなあ」

「んー、ルカの冒険者としての腕は?」

「中の中ってとこか?」

「ナイとヨルは?」

「あたし達はまだそこまで活動していないから」

「本気も出してねえしなあ」

「三人で功績を上げて、強い冒険者のご用達の店ってことにできない?」

「おー、それいいな。だったら早く階級を上げるか」


 ナイはあたしの案にやる気なように顔を綻ばせる。


「そうねえ。それなら私たちの支援している店ってことにして、私たち自身も魔物の食材や果実を直で卸すってことも手よね」

「それいいね。ヨルの案、採用!」

「何を仰ってるんですか主様!」


 乗り気になっていたあたしをガストの声が止める。後ろを振り返り見ればその顔には怒りが浮かんでいた。


「人の味方をするだなんてどうゆうことですか」

「さっきも言ったけど人の味方をするわけじゃない。それにこれはダンジョンの為でもある」

「何を仰ってるのかわかりません。人に協力し、人に金品を渡すなど許されるはずが」

「人の情報って侮れないんだよ、ガスト。地図はどこまでできているのか、どこまで攻略が進んでいるのか、どこに溜まりやすく魔物をどう攻略しているのか。他にも様々な情報はあればそれだけ助かる」

「そのためにナイとヨルを創り出したのでしょう?」

「確かにそうだけど二人だけでは足りなくなるのはわかってたことだ。それに酒場ってのは便利なんだよ」


 稼いだ人はその分使う。荒事に準じしている人ほど酒や享楽に使う傾向は高い。そして酒が入ればその分舌は滑りやすく、己の武勇伝を語りたくなる。


「売春宿なんかもできれば情報源としてはいいけど、この世界でも扱いがそんないいことじゃないのは知ってるから却下かなあ」

「酒場はたいてい宿か売春宿を兼任してるぞ」

「じゃあ宿もやってしまう?」


 ルカににっこりと笑って言ってみるけどルカは嫌そうな顔をした。


「協力するかもまだ決めてねえ」

「確かにそうだったね。けど、悪い案だとは思わないでしょ?」

「それでも酒場を仲間たちにやらせるのは危険だ」


 亜人、それも血の濃いものと言われる獣人や欠陥品と呼ばれるどこかしらが欠損している人、それに子供たち。確かにそれだけでは危険な事に変わりない。


「けどダンジョンに行くよりかは安全だと思うよ。後はルカと、それにナイとヨルしだいじゃないかな?」

「強くなって後ろ盾になれってことか」

「それが手っ取り早くない?」


 偏見と差別はどこにでも付きまとう。それを消すことなんてあたしにはできない。けれども、仲間がいるのなら居場所作りの手伝いはできる。


「あたしは他の導き手がどこにいるかも何をするかも知らない。けど中にはとんでもないこと考える人もいると思う」

「とんでもないこと?」

「それこそ魔王と言われ国を興す者。それはいる可能性がある」


 真っ直ぐにルカを見て言う。


「場所にもよるだろうけど、その場合近隣は荒れるだろうね」

「そうなったときには街で店やってても危険だろうが」

「それでもあたしの支援があって、強者の後ろ盾がある店ってのは強みになるよ」


 あたしの支援があれば物資が不足してもあたしから滞ることなく支援される。店として続けさせることができる。何なら仕入れ値も最悪要らなくなるので高騰化しても問題ないわけだ。


「ルカの仲間の強さはどうなの?」

「幅はあるが強いやつもいるぞ。獣人は人間族より身体能力に長けてるやつが多いから」

「だったらその人たちは酒場の用心棒をやればいい。ルカがダンジョンで稼いで残りのみんなは酒場を経営すればいい」


 血の濃いものと言われる者ほど身体能力が高かったり聴覚や嗅覚に優れている者は多い。それが人とは違う獣人としての血で能力だ。


「ルカは仲間を誰も失いたくない。あたしはルカに死んで欲しくない。そしてあたしにもメリットがあってルカにもメリットはある。そう悪い案だとは思わないけど?」

「やはりそれは主神様のご意思に反しています。許されません」

「どちらにせよいずれは情報源を増やす気でいたよ。最悪、奴隷を使ってでも」


 ガストの言葉に冷えた声で返す。


「ナイとヨルの二人だけじゃ足りなくなる。あたしはそう簡単に終わる気はないんだ」


 冷たい目でガストを見る。

 ガストにはあたしの考えをちゃんと話したことなど一度もなかった。それはガストがあたしをちゃんと見ようとしたことがなかったから。ただのモデルケースとしか見なしていなかったから。それも刹那的な。


「ガスト、ルカとの話を終えたら一度きちんと話をしよう。今はルカだ」


 そう言ってあたしは視線を前に向け笑みを見せた。


「ガストのことは気にしないで。こっちの問題だから」

「そうもいかねえだろ? それで足元救われてちゃ俺にもとばっちりは来る」

「確かにそれもそうか。それにルカも考える時間は欲しいよね」

「ああ、欲しいな。全てにおいて」


 どこか疲れたように息を吐きながらルカが言う。

 確かに様々な情報、ダンジョンのことや仲間のこと、簡単に考えられるものでもないだろう。何よりも、自分自身のことについても。


「ルカが元の世界に帰りたいと思っても、今のところ帰れる保証はない。あたしができるのはルカの思いを神側に伝えること」

「保証はねえ、か……」


 何とも言えない響き。それは様々な思いを含んでいる。


「それと最後にこれだけは伝えておく」


 そう言った瞬間に何かを悟ったのかガストに緊張が走った。


「あと2週間も経たずにテリトリー、あたしのダンジョンは顕現する」

「主様っ!!」

「どうせもうすぐだ。今言ってもまだ世界に顕現してないテリトリーに影響はない。けれどルカ達は少しは備えられるでしょ?」

「……ああ、助かる。それが始まってもねえってことか。けど、もうすぐなんだな」

「うん、そうだね。気を付けたほうがいい」

「ありがとな、色々考えてみる」

「答えはナイかヨルにでも伝えて、また来てくれてもいい。ここに住みたいってのもありだよ」

「一週間程度で簡単に答えが出るとも限らねえぞ」


 ルカが苦笑気味に言う。

 守りたいものがあると言ったルカ。そう簡単に身の振り方なんて決まらないだろう。


「そんときはそんときだね。できちゃう物はできちゃうし。一応は仲間には言わないでくれると助かる」

「そんなんでいいのかよ?」

「口約束したって縛れるものでもないでしょ? それにあたしには確認のしようもない」


 そう笑って言えばルカは苦笑した。


「言ったって誰も信じねえよ」

「さあ、仲間の言葉だからどうだろうね」


 ルカがこの世界で家族にも等しいと思う仲間。その仲間の言葉はどれほどの重さだろうか。


「他に聞いておきたいことはある?」

「……今のところはねえな」

「ならまた浮かんだらナイかヨルにでも聞いて。あたしに直接聞きに来てくれてもいいし」

「何から何まで悪いな」

「逆の立場なら詰め込まれて困るぐらいだもん。リツ、お土産の準備は?」

「ああ、出来てる」

「そ。なら今日のところはこのくらいで。ナイとヨルは送ってあげて。あたしはこれからガストと話をするから」


 そう言ってガストを見る。その目は禍々しく歪んでいた。言いたいことを溜め込んでいるんだろう。

 その様子にナイとヨルが心配そうな顔をする。


「さすがにリツに付いててもらう。ルカを送ってあげて」

「……わかった」

「無理しないでね」

「わかってる。ルカも良かったらまたね」

「ああ、またな」


 そう言ってルカは片手を上げて、そしてナイとヨルは後ろ髪引かれるように部屋を出て行った。




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