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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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 どうしても嫌な顔になってしまう。どうしても棘が出てしまうが気にする気もないと言い切った。

 心底溜息吐きながら言えばルカが何とも言えない顔をした。


「……お前も苦労してんだな」

「今のところはまだルカさんよりマシですよ。まだ始まってもませんから」


 そう、まだ準備期間であって本当の始まりはまだやってきていない。今はまだのほほんと暮らせている。


「他にも魔王、連れて来られた奴がいるって言ってたな」

「会ったこともありませんけど、神からそう聞いてます」

「主様!!」

「さっきもすでに言ったことでしょ。今更気にすることなんかない」


 ガストの止める声は気にする気はない。ルカには伝えるべきだ。


「あたしは他の人たちがどこにいるかも何をするかも知りません」

「何をするかって、魔物を強くするんだろ?」

「その方法すら自分で考えろと放り投げられましたから」


 あはは、と笑う。本当にあの神は全部丸投げで寄越しやがったから。


「神からは役目、魔物の導き手となれと言われそのための力、創造魔法を貰いました。それだけです」

「は? 具体案は?」

「何一つありません。いい言い方をすれば自由ですね。魔物を保護し力をつけさせ繁殖させ、人と拮抗させる。大まかに言うとそれだけです」


 自分で言っててもおかしくなる。どうしろって言うんだか。あ、エネルギー資源問題があったが今は関係ないからまあいいか。


「他の導き手と会ったことも話したこともありません。その情報すら何一つありません」

「なあ、ガストって奴は神が創った目付け役ってわかった。なら残った三人は?」

「……あたしが、あたしのために創りました」


 視線が自然と下に向く。

 我儘だと知っている。冒涜だと知っている。それでも欲したもの。


「なるほどなあ。それで、始まってもないってのはどうゆうことだ?」

「そうですね、その辺りをお話しする前にもう少しルカさんの話を聞いていいですか?」

「俺の?」

「はい。貴方はこの世界で完全なるイレギュラーなんです」


 はっきりと言い切ったあたしの言葉にルカの目が見開かれる。持っていたサンドウィッチがポロリと落ちた。

 けれど何一つ間違っていない。神側から情報を求められているくらいだ、その存在は認識、確認されていない。


「本来この世界に黒髪黒目は存在しません。それは神の定めたルールであり理、絶対のものです」


 ルカはあたしを凝視したまま動かない。


「そして、……貴方の存在をこの世界の神は認識していなかった」

「主様っ! その言い方では主神様が……」

「事実だよ、ガスト。認めるべきだ」

「……はっ、本当に俺は神に見棄てられた存在ってか」


 吐き捨てるように、どこかやさぐれた目で呆れたようにルカが言う。その響きには様々な感情が含まれているんだろう。

 それを表すように次の瞬間にルカが強く拳で机を叩いた。

 ドンッ! と部屋に響く音。揺れたコップからジュースが零れた。


「それで、それでそんな俺に何の用だ?」

「ナイとヨルのおかげで貴方の存在を知ることができました。神にも報告することができました」

「それで元の世界に戻してくれるってのか?」

「いえ、まだ確認中で何も言えることはありません」


 神の間でもまだ確認が取れていない、そんな不確かな存在であるルカ。この先どうするとも、どうなるともあたしは言えない。


「なんなんだよ神って! なんだよ魔王って!! 訳わかんねえとこに勝手に連れて来られて、そんでもって神すら俺の存在を知らねえだと!? じゃあ、俺って何なんだよっ!!」


 ルカの心の叫びだろう。聞いたのはルカがこちらに来てからのほんの少しの経緯だけ。それだけでも壮絶だ。それは言葉からも読み取れた。

 本来あたしと同じ世界の、それも同じ国の人なら、きっと命など失うことを考えることなど稀だ。それも他者に脅かされることなど簡単に考えないだろう。

 そして黒髪黒目の存在。この世界では有り得ない存在。それだけでルカが過ごした日々は想像を絶するだろう。

 その上で神すらその存在を知らなかったとなれば、ルカは何のためにこの世界に来たのか。


「あたしにも、それに答えることは事はできません。それでも貴方はさっき仲間がいると、あたしの家族のようなものがいると言いましたよね」


 ルカの激情を孕んだ眼があたしを見据える。それを真っすぐに見返しあたしは言葉を繋ぐ。


「今あたしにできたのは貴方の存在を神に伝えること、ただそれだけです。そして貴方がどうしたいのかを伝えることはできます」

「それでどうなるって言う? 帰れるって言うのか?」

「まだ正直わかりません。あたし自身神と直接連絡が取れるわけじゃない。それでもあたしは貴方の存在を知りました。こうして顔を合わせ話をしました」

「同情でもしてくるってかっ!?」

「……同情、そうかもしれません。あたしと似ていながら、全く違う貴方の境遇に」


 あたしの言葉でルカが止まる。その目が強い激情だけでなく一瞬の戸惑いを伺わせる。


「あたし自身、力があるとは言え勝手に連れて来られた存在です。それも最後は壮絶な死に方と決められて連れて来られた存在です。そして、面倒な役目まで与えられています」


 ルカの目から激情が少し薄れ、その目が真正面にあたしを捉える。


「これから先、あたしは人を傷つけ殺すことを進めなくてはいけません。しなければ、ならないんです。そんなあたしはきっと、あなたの境遇に似た匂いを感じ同情したのかもしれません」


 はっきりと言葉にすれば、ルカの目が凪ぎいていく。その目が真っ直ぐにあたしを見据え、そして見逃さないと見つめてくる。


「同情で、俺に何してくれるって言うんだ?」

「まだ確定したことは言えません。ただこれからあたしがしようとしていることなら話せます。その上でここに住みたいと言うのであれば迎え入れます」

「主様! 何を仰る気ですか!?」

「先ほども言ったように他の導き手が何をするかはわかりません。ただミタルナに近い、あたしのテリトリーのことなら話せます」

「いけません! 人などにその話は!!」

「お目付け役は認めてねえ見てえだぞ?」

「知りませんよ。あたしも神の被害者の一人だと思ってますから」

「その言い方は何ですか!? 主神様に対して!!」

「ガスト、これが勝手に連れて来られた人の本音だよ。例え力を与えられようとも、あたしはそんな力も役目も欲しくなかった」


 リツとナイとヨルの前で言うのは一瞬躊躇った。それでも、これが紛れもないあたしの本音。


「戦争も知らない、戦うことも知らない、そんなあたしが魔物を導き強くさせ、そして人と拮抗するように仕向けろ? 馬鹿じゃないのか、そんなこと本当にできると思っているのなら。ガストだって、本音で言えばできるだなんて思っていないからあんな態度だったんでしょ?」


 そう言ってやればガストは驚いたような顔で押し黙る。

 ばれていないとでも思っていたならこっちが驚きだよ。


「今でもガストはあたしに懐疑的、ううん、できるとも思っていないでしょ。その上にこの色味だ。ガストがあたしを受け入れてないことぐらい態度でわかるよ。すぐ死ぬと思ってるんでしょ」


 疑問ではなくはっきりとした言葉で言う。

 いい機会だった。いつかは言わないといけないと思っていた。ガストともきっちりと話はするべきだと思っていた。


「けどね、ガスト。あたしだって壮絶な痛みをもって死ぬのなんて嫌なんだ。勝手に連れて来られて勝手に役目を決められて、それで動く駒じゃないんだ。意思のある人なんだ」


 後ろを振り返りガストを見つめ言う。


「役目をこなさないといけないことは理解はしている。させられてる。それでもね、意志のある、知恵のある人なんだ。感情のある生き物なんだ」


 神の知識は勝手だ。決定事項の指示を押し付けてくる。

 どれだけ嫌でも期日が来ればあたしのテリトリーはこの世界に顕現する。どう足掻いたってあたしはそこから出れないし世界は勝手にあたしを敵と見なし動き始める。


「世界があたしを敵と見なし襲い掛かってくる。それに足掻くしかないとしても、それでもあたしはこの人である感情を捨てきることなんてできない」


 魔物の敵である人。でもあたしも、その人なんだ。

 誰になんと言われようとも、世界が違おうとも、人として生きてきた記憶があるんだ。

 それは誰にも、神にすら否定できる物でもない。

 それが嫌なら、最初から人なんかを選ばなければ良かったんだ。

 こんな戦争も知らない、戦いも知らないような女を、人を、選ばなければよかったんだ。


「あたしはあたしができることをする。我儘だろうと、したいことをするよ」


 そのために考えたのがダンジョンだ。

 直接人を殺さず、直接その現場を見なくて済むダンジョンだ。

 魔物にも利があり、人にも利があるダンジョンだ。

 そしてあたしは、その奥深くでできるだけ平穏に暮らしたい。できるだけ息を殺して……。




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