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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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22



 静寂が訪れる。誰も声を発しない。

 目の前のルカはただその目であたしを凝視し、身動き一つ取らない。


 簡単に信じられる話でもないだろう。それぐらいはあたしだって理解している。神の知識があったからこそ、ルカの存在の異質さをあたしは理解できているだけだ。

 この世界の、それも神の知識も常識もなかったルカからすれば、理解も納得もなかなかできるものではないだろう。


「話をして少し疲れただろう? 冷たいジュースでも飲んで一息付け。ルカさんも何かいかがですか?」


 固まった空気を換えるように柔らかな声色でリツが言葉を発し、あたしの前に冷えたコップを置いた。


「先ほども言いましたがコーヒー紅茶、他にも飲み物がありますが?」


 ルカにも優しい柔和な笑みを向けるリツ。しかしルカはリツにも何とも言えない目を向けた。


「……あんたも、魔王なのか?」

「私は違います。私は縁の補佐」

「ナイとヨルは……?」

「ナイとヨルも違うよ。この三人は……」


 リツに変わり答えようとするが、言い淀む。

 この三人を創ったのはあたしの我儘だ。あたしの願いでそうしただけ。三人がどう思っているのかはあたしが答えれるものではない。

 なのに。


「俺たちは縁の家族だ」

「ええ。縁の補佐ではあるけれど、それ以上に縁の家族よ」


 ナイがはっきりとした口調で言い、ヨルまでも優しい口調ではあるが言い切る。


「私も二人と同じく縁の家族です。そしてガスト様だけが神に付けられた縁の補佐になります」


 リツまでもがはっきりと言い切り、そしてあたしに微笑んでくれる。安心をくれるように。


「縁、お代わりか菓子でもいるか?」

「大丈夫だよ。ルカさんこそ何か軽食でも」

「そうだな。サンドウィッチなどどうですか?」

「リツは食べないわりに料理上手よ、ルカも食べといた方が良いわ。縁も少し食べときなさい」

「ああ、ルカは細っこいんだし食えるときに食っとけ。二人とも肉にしてやれ」

「お肉はいいよー。ならクッキーとかで」

「栄養を考えたら野菜も取りなさい。どうせ朝食もそう食べれてないんでしょ?」


 ヨルが少し目を細めあたしを咎めるように見てくる。それから少し背けるようにルカを見た。


「ルカさんも色々聞きたいことがあると思います。少し何か入れるのもいいと思いますよ」

「……本当に、家族みたいなんだな」


 呆気にとられぽつりと呟かれた言葉。それには様々な色合いが含まれてるような複雑な声に聞こえた。

 けれどそれに何か決まったのか、ルカはしっかりとした声でリツを見た。


「俺はコーヒーを貰えるか? 砂糖があれば砂糖ありで」

「ミルクはどうされますか?」

「いや、いらね」


 ルカの言葉を聞いて準備始めるリツ。そしてあたしとルカの前に一皿に盛られたサンドウィッチが置かれた。


「野菜も肉も両方ある。卵サンドもあるぞ」


 リツの言うとおりに様々なサンドウィッチが盛られた皿。あたしの好きな卵サンドも用意してある辺りあたしにも食べろってことだ。


「わかったよ、頂きます。ルカさんもどうぞ」


 そう言ってどれにしようか迷いながらもサンドウィッチに手を伸ばす。卵サンドも有りだがヨルが野菜と言ってるしな。ナイは肉だと言ってるがいつものことだから無視です。

 そうやって適当に選び一つを取ってはむりと食べる。照り焼きと野菜のサンドウィッチだ。うん、美味しい。

 リツの料理の腕はどんどん上がっていくな。


「ルカさんもどうぞ。美味しいですよ」

「俺は、……」

「あ、まだ疑いが残ってます?」


 そうであれば一通りあたしが手を付けるべきか? そう考えていたらルカが緩く首を振る。


「ある意味こんな所に連れて来られてる時点で今更だな。ただ出来れば持って帰らせてもらいてえ」

「あいつらに土産か?」

「リツ、まだ準備できるでしょ? 多めに包んであげて」


 何かを知っているナイとヨルの言葉にリツもあたしを見てきた。


「まだあるなら包んであげて。でもお土産って聞いても良いですか?」

「まだあるからそれは二人で食べてくれ。土産は別で準備しておくから」


 はむはむと食べながらルカを見れば少し困惑気味の様子が見て取れた。

 まあ少し前まで重たい空気がだったのが今となってはどこ行ったって感じだものね。

 それでも気を取り直したのかルカはコーヒーを一口飲んでサンドウィッチに手を伸ばした。


「土産は俺の仲間、お前らの言う家族ってやつにだ」

「ヨルから少し聞いてますが、孤児もいるとか?」

「獣人が多いコミュニティーでガキまで拾ってくる馬鹿がいるからな」


 馬鹿、と言いながらもそこには好意、温もりが見えるようだ。


「どれぐらいのコミュニティーなんですか?」

「だいたい二十人強ってとこか。働ける奴はもっと少ねえ」

「子供もいるんですもんね」

「それでもできる奴は森の浅いところなんかで薬草拾いなんかもしてるけどな。あと食えるもんなんかも拾ってくる」


 あたしなんかよりよっぽど働き者の集団だろう。ここであたしは何もしてないわけですし。


「それで、ここの飯なんかはどうしてんだ?」

「調理なんかはヨルがいないときはリツがしてくれてます」

「お前は? それに食材の調達は?」

「あたしもたまに手伝いますよ、はい。食材はナイとヨルにお願いしたり、あとはあたしの力でですね」

「力? そう言えばさっき力を貰ったとか言ってたな」


 先ほどまでよりも険の取れた、それでも訝しがるようなルカの視線。それもまあしょうがないことだろう。


「はい。魔物の導き手として創造魔法と言う大きな力を持っています。それで魔法で食材を創り出すことも可能です」

「は? チートだろ!?」

「そうですねえ、本当にそう思います」


 苦笑しながらも目だけが笑えずにルカに応える。


「ただし、それに付随する役目も並半端なものじゃありません」

「……魔王、だっけか?」

「その呼び名はあたしは認めてませんし認める気もないんですけどね」


 今度こそ深い苦笑になる。それはリツ達には悲しいものに見えたのか少しばかり悲し気な顔をした三人。


「魔物の導き手としていらっしゃったんです、魔王様でお間違え御座いません」

「あたしの計画では魔王ではないって何度も言ってるじゃん」


 ガストの冷たい言葉なんて今更だ。

 あたしは魔王なんて名乗りたくもない。束ねることも、守ることもできない王なんて王ではない。

 それにあたしは王だなんて柄でもない。


「目付け役は神寄りってことか」

「まあそうですね。本人は建前上あたしのことを敬ってはくれますが。建前上」


 大事なことなんで二回言いました、大事なことなんで。


「そいつは家族じゃねえのか?」

「あたしはガストとも仲良くはしたいと思ってるんですけど、ガストからするとあたしは突拍子もないことをするようで」

「相性が悪いってか」

「相性っていうのかなあ?」


 ガストの態度からも言葉からもわかっていることだが、神を最上位者とし崇めているガスト。そして神が嫌う黒を纏うあたし。その時点でガストの中であたしを受け入れることは難しいのだろう。


「あたしも黒髪黒目ですから、神を最上位として創られたガストにとっては受け入れがたいみたいです」

「は? お前、神に呼ばれた存在だろ?」

「ええ。嫌ですけど、勝手にですけど、間違いなく呼ばれた者ですけど」





今週は月曜、水曜、金曜投稿になります。

これからこの二週ルーティーンで更新していこうかと思っております。

予約間違えなければ。

宜しくお願いします。

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