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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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20



 それからすぐにルカと会うとはいかず、情報収取や準備に二日ほどかかった。


「それでガスト、神からの返事は?」

「確認中と言うことです。主神様がすぐ動ける状態ではなく、確認に手間取っているようです」


 ガストの顔色はあの話から悪いままだ。神とのやり取りでさえ大変なことになっているんだろう。

 あの神が昼寝のまま起こされてもなかなか起きなってことだろうか? 可能性がありすぎて嫌だな。

 元々いいイメージがないのに更にイメージが悪くなる。と、いうよりも無責任すぎて嫌悪すらしそうだな。

 歪みそうになる顔を何とか無表情で保とうとする。けれど考えることが考えることだ。


「てことは、ルカの帰還はまだ未知数か」


 その言葉にガストはまた何も返さない。返せないって言うのが正しい。


「本当にあの神は、何考えてるんだか」


 ついぼやいた言葉にガストの射貫くような目が向いた。けれどあたしはそれを許したくはない。


「ねえ、ガスト。貴方が神を敬愛し尊敬し崇拝するのは構わない。止める気もない。けれどね、あの神に迷惑被ってる存在がいるのも事実なんだ。その存在の前で、そんな顔することは許さないよ」


 強い目を返してガストに言う。あたしだって呼ばれたくて来たわけじゃない。壮絶な痛みを以て死にたいわけでも苦労して魔物の導き手なんてしたいわけでもない。

 でも今回言ったその存在とは彼、ルカのことだ。


「ルカはあたしと違って完全なるイレギュラーだ。それも神の目から零れた、完全なる被害者の可能性が高い。それは理解するべきだ」


 ガストが神を妄信するのは仕方がない。自分を創った存在であり親であり、それこそ事実神なんだから。そしてそう創られてしまった存在なんだから。

 だからと言ってこれから会うルカに、その素振りは頂けない。


「しかもルカは神の理から外れた存在、黒髪黒目でこの世界にいるんだ。その苦労と被害は推し量るべきだと思わない? 神側の代表であり、神の付けた補佐として」


 今回ルカと会談することはガストを通じて神側には伝えている。まあ部下の人にだが。

 それでもまだ神側の結論は出ずどうするかも決まっていない。この会談で情報が欲しいということらしい。

 まああちらとしても情報がなく、なにより采配するべき神がまだしてるか知らないけど昼寝という不在。決めれることなど何もないだろう。


 そのくせに神側から使者が来るわけでもなく、ガストが一応の唯一の神側となる。

 あたしは神に直接連絡が取れないからね。それでいて、あたしは気持ち的にルカ寄りだ。存在としても。

 あの神に気持ち的に寄り添うことも阿ることもできるわけがない。

 勝手に呼ばれてしまった、その事実は一緒だから。


「縁、そろそろ到着するそうだ」

「りょーかい。リツはお茶の手配は?」

「ああ、ほぼ終わって後は選んでもらうだけだ」


 さすが有能なあたしの補佐、リツさんです。ガストと違って今は柔らかな雰囲気を醸し出している。


「ガストもちゃんとお客様として受け入れて。これは主として言うよ」

「……承知しております」


 不承、とまではいかないが、それでも神の目溢し、失態を認めたくないんだろうガストの顔は固いものだ。それを見てしょうがないかと思いながらも内心で溜息を吐く。


 その時ダンジョン内の王の階層に魔力の揺らぎを感じる。普段ならば気になんてしないが今日は違う。

 いつもと同じナイとヨルの存在、そして見知らぬ気配が一つ。知らずあたしも緊張してしまう。

 けれどそれに気づいてくれる優しい存在、言葉があたしに向けられる。


「縁、大丈夫だ」

「うん、あたしが緊張してたら駄目だよね」


 リツの優しい声色にぎこちなくなった笑みを返す。わかってはいても難しいものだ。

 ふー、と息を吐き体から力を抜こうとする。できれば友好的に、そのためにはこちらから歩み寄らねばならない。

 そう思っていたら応接間にノックの音が響く。


「どうぞ」

「失礼するわ。縁、ルカを連れてきたわよ」

「嬢ちゃん、ただいま。ちゃんと飯食ってたか?」

「有難うね、おかえり。ちゃんと食べてたよ」


 そう言っていつもの様子で部屋に入ってくる二人。あたしの答えにナイがにかっといつもの笑顔を見せてくれ、それにあたしは少し緊張が解け微笑んで立ち上がり三人を迎え入れる。

 二人の後ろから緊張と言うより警戒心を目一杯にした彼、ルカが静かに入ってきた。

 探るような目線を部屋中に向け、何も見逃さないと言わんばかりに警戒する様子がすぐにわかった。しかしその目もあたしを捉えると固まり、驚くように目を見開いた。

 そんな彼を見て、あたしは笑顔を向ける。


「初めまして、佐々木(ささき)(ゆかり)です」


 そう言って右手を差し出すが、彼はあたしの髪と目に何度も視線を向け固まったまま小さく零れるように呟いた。


「黒髪、黒目……」

「あれ? 説明してなかったの?」

「一応はしたぞ」

「ええ、ナイが同郷かもしれない子がいるって伝えただけだわ。それでも信じられていなかったでしょうけどね」


 苦笑しながらのヨルの説明に説明されてないことを理解した。

 本当に同郷かもわからないし、何より黒髪黒目がいるだなんて聞いただけですぐに信じれるわけでもない。

 だからそれぐらいで間違ってはないんだろう。それに。


「そりゃそうか。しかもこんなところに連れて来られたらね」

「ナイが会わせたい奴がいる、同郷かもしれないから来てくれって言って森に連れ込むのよ?」

「は? よくそんなので来てくれたね」

「ええ、本当に。一応私もフォローして黒髪黒目だから隠れているって説明したわ」

「もしかして、そのまま指輪を渡して……」

「ナイがそのまま強引に転移陣に」


 あちゃー、っとあたしは額に手を置き宙を仰ぐ。いや、駄目でしょ。最低でしょ。

 ヨルも強引なナイにどうしようもなかったんだろう、苦笑している。


「あー、もう何て言ったらいいか、本当にすいません。ナイももっとやりようがあったでしょ?」

「あ? 小難しいこと考えたってこいつは警戒するだけだ。それに森までついて来てくれるだけの信用は貰ってると思ってたからな」

「いや、その関係を大事にするためにもさあ」

「ごちゃごちゃ言っても会って話しなきゃ進まねえだろ?」

「いや、その通りではあるんだけど。ルカさん可哀そうに固まってるじゃん?」


 驚愕、困惑しながらも警戒までしながらあたしを凝視するルカさん。

 さあどうするかな、と思っていたらリツの優しい声がした。


「とりあえず、縁とルカさんは座ってくれ。ルカさん、好みのお茶、コーヒーもあるが飲み物は何がいい?」

「あたしオレンジジュースで」

「縁はわかっている。ルカさん、ジュースなんかの準備もある。好きなものを言ってくれ」


 ルカに微笑みを向けながらソファーを勧めるリツ。物腰も柔らかくルカを促すが、ルカはそれに警戒心を取り戻したように睨みつけた。


「どうゆうことだ。俺は今度こそ売られるか殺されんのか?」


 その言葉にあたしの顔が強張る。

 今度こそ、とルカは言った。言い切った。その意味がすぐに察せされ、彼のこれまでの生活が予想できた。


「違います。まず、前提であたし達は貴方に害を及ぼす気はありません。その説明をさせて下さい。そのためにも、貴方の事情を教えて頂きたい」


 それがあたしの本音。そしてルカの事情を聞かないことには話は進まない。


「あたしはさっきも言いましたが佐々木縁です。地球の日本育ちの人です。縁と呼んでください」


 その言葉に再度固まり目を見開くルカ。


「なぜあたしがここにいるのか、なぜここに貴方を連れてきたのかも説明が必要だと思います。けれど、貴方がなぜこの世界にいるのかも教えていただきたいんです」


 絶対に力になれるとは限らない。だから明確なことは言いたくない。けれど、あたしはルカに誠意は見せたかった。


「ひとまずは座って自己紹介から始めませんか? 飲み物は毒など警戒するのであれば飲まなくても結構です。必要になれば、飲んでいいと思ったときに言ってください。きっと、短い話ではないでしょうから」


  そう言って微笑んだつもりではあるが、最期の言葉にどこか寂しいものになってしまった気がする。

 それは自分の今に至る立場のせいか、ルカの立場のせいか、わからない。




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