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にこりと笑んでガストに優しく問いかける。その意味はガストにもよくわかるはずだ。
「だからこそ一度、ここに呼んで話を聞くべきだ。幸いなことにここには黒髪黒目のあたしがいるんだから」
今度は他意のない友好的な笑みを作って笑う。なのにガストにはその意味が伝わらず警戒させてしまったようだ。
「今まで黒髪黒目で忌避されてきた存在だ。まだ同じ黒髪黒目のあたしの言葉の方が通りやすいし信じられやすいでしょ?」
「……しかし、ここにお呼びするのは」
「彼はもう数年この世界で存在している。見つけた時点で動いておかないと、それこそ他の神への印象はもっと最悪なものになるだろうね」
誰も気づいてなかったのであれば、まだ知らなかったで通じるのかもしれない。それでも気づいてしまった、知ってしまったんだ。その後も放置するのはどう考えても悪手。
全て仮の話でしかないけど、それでももしも、というのは大事な話である。
「ガストだってわかってるんでしょ?」
そう言って微笑めばガストの顔は苦みで歪み、納得したくないと顔に書いてある。だが納得するしかないこともわかってるからこそ、その顔なんだろう。
「あたしもその彼の話を聞かないことには決められないことは多い。一先ず神との連絡や報告はガストに任せるよ。」
そう告げたとき、丁度いいタイミングでリツが王の間に入ってきた。
「丁度良かった。リツ、お客様を迎える準備をして」
「どうゆうことだ?」
顔色を悪くし表情を歪ませるガストと笑顔のあたしを見て戸惑い気味のリツ。
それもそうかとリツにも説明する。
「この世界にね、他の世界からの拉致被害者がいるかもしれないんだ。その人は黒髪黒目でね」
「ああ、彼のことか」
「リツは聞いてたんだ」
「縁にどう言うかって相談を受けてた」
「なら話は早い。とりあえず彼に会ってみることにした」
にっこりと笑えばリツは一度ガストを見てすぐに仕方ない、って顔で微苦笑した。
「会うのはいいが、どこで会う気だ?」
「とりあえずあたしは外に出れないし、王の間じゃ大袈裟すぎるよね。応接間なんてどう?」
作ったはいいがまだ使う予定もなかった場所。会うには丁度いいだろう。
「会う算段はどうする気だ?」
「そこなんだよねー。ヨルとナイはそれなりに仲いいんでしょ?」
「そうねえ。パーティーも組めているし、まだ友好的だとは思うわ」
「なら二人に連れてきてもらうのが一番だよね」
「どうやって連れてくるかが問題だろう?」
「そうです! 今このダンジョンの存在が知られてしまうのはっ!」
話を聞いていたんだろうガストが焦ったように突如大きな声を上げた。けれどもそれを冷めた目で見てしまう。
「ガスト、もうわってるんでしょ? 彼とあたしが会うべき理由は。そして会える場所はこのダンジョンしかない」
「しかし、今はまだこのダンジョンが知られてしまうことは」
「確かに不利になる可能性はある。彼がこちらに友好的になるかどうかわからないんだから」
忌避され虐げられてきたんだとして、この世界全てを恨んでいる可能性もある。その場合、この世界の神に呼ばれ力を与えられたあたしすら憎む対象になる可能性は高い。
それでも、会うことは必要だ。誰の為でもない、あたしのために。
「最悪、ナイとヨルにも内勤に回ってもらうかもしれないね」
「それは仕方がないわ」
どこか寂し気にヨルが微笑んで納得してくれている。その姿に少しばかり胸が痛い。
ヨルの話を聞いていてもルカには友好的、好意を持っていることは察することはできてる。あたしと会うことで、あたしと話すことで、その関係すら壊れてしまう可能性はある。
ナイとヨルの素性がばれ、外での活動ができなくなる可能性すらある。
けれどあたしが会うとなればここ、ダンジョン内でしか会いようがない。誤魔化しは効かない。
「ごめんね」
「縁が気にすることじゃないわ。それにこの話を伝えたのは私とナイの意思よ」
「ありがと。それでも、ごめん」
「謝る必要はないわ。それに全ては話し終わった後、ルカがどうするかよ」
そう、何にしてもその一言で終わる。そのルカがどうしたいのか、どう感じどう過ごしたいのか。そして神がどうするのかで大きく変わっていく。
「ガストはとりあえず部下でもなんでもいいから、その彼が帰りたいのであれば帰れるのか、すぐでも後でも、彼の意思で帰れるのかを確認して。後あたしが会って話をすることも報告しといて。ヨルはナイに彼と会うことを決めた連絡を。リツはお客様を迎える準備を」
ヨルが微笑みリツが頷く。ガストだけはいまだ苦い顔で、それでも頭を下げて動き出した。
「連れてくる方法も考えなきゃなあ」
さすがに完全にこの場所を教えるわけにはいかない。いくら何でもそれはあたしに対してリスクが高すぎる。
ガストを含むリツ達にはどこの転移陣に移動可能なように指輪を渡しているから、彼の分も準備して王の階層にそのまま来てもらうのが一番いいだろうか?
まだダンジョンを見せるには早すぎる。それに魔物の反応も怖い。
今の段階であたしと敵対する者を作りたいわけじゃない。あたしの存在を知られたいわけじゃない。
それでもある程度こちらも腹を割らないと、ルカの本音なんて聞きだせないだろう。ヨルの話からしても彼は警戒心が強いようだし。
ルカが今この世界をどう思っているのなんかわからない。本当にどうやってやってきたかも確証はない。
全てが未知数で全てが未確定。そしてリスクが高い存在であるのも本当だ。
それでもあたしはルカを放っておくことはできない。そう思ってしまった。
同じ被害者かもしれない彼を、あたしより酷い被害者かもしれない彼を、同郷かもしれない彼を、放っておくことなど誰ができようか。
偽善なのかこれを郷愁と呼ぶのかは知らないけれど、彼の話を聞いて思ってしまったなら仕方がない。
それに打算がないわけでもない。
腹を括るしかないのはあたしだ。どうなってもいいように考えなくてはいけない。
ルカが好意的になってくれるのか、それとも敵対するのか、どちらの可能性も考えなくてはならない。それはダンジョンに対しても同じこと。
そしてどこまで情報を開示するか、それを考えることも必要だろう。
これから世界は変貌する。導き手と言う意味のわからない存在が、この世界をどれほどかわからなくても変えてしまう。
他にもいるらしい導き手たちが何をするのかわからない中でも、それでも変貌することに変わりはない。何かしらの影響が出ることは間違いない。その中で人の有様は大なり小なり変わるはずだ。
その変貌の中で一番影響を受けやすいのは虐げられている弱者だろう。そしてきっと、ルカはその枠組みの中に入っているはずだ。
知らず溜息が零れた。
彼の存在、知ってしまったルカの存在が重たいのも本当だ。
それでも、選んでしまった。思ってしまった。
会ってみたいと、話してみたいと感じてしまった。それを無視することなんてできない。
それにルカに会うことで、また新しい情報も得られるだろう。神の知識にないこの世界を知ることができるだろう。
リスクやデメリットばかりではない、はずだ。メリットもあるはずだ。それにはまずルカに会ってみないことには始まらない。
「こちらがどれぐらい歩み寄れるか、か……」
零れた言葉にヨルが微笑みを返してくれた。ここでルカを知る唯一の存在。
「大丈夫よ。私が縁を守るわ」
「できれば友好的に行きたいんだけどね」
「ええ、そうなれるように私もナイも頑張るつもりよ」
「ありがと。迷惑かけるね」
「気にすることじゃないわ。貴女の選んだ道が、私たちの道よ」
その微笑みが支えようとしてくれる。あたしを選ぶと言ってくれている。
ルカには、そんな人がいるんだろうか……。
一瞬浮かんだ考えに、重い鉛を飲み込んだような気持ちがした。
今週は火曜、木曜、土曜に更新予定です。
年末年始と風邪をひき、予約投稿切れるの忘れてて慌てたのは内緒。
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