18
王の間にて、珍しく玉座に深く座りガストを待つ。ガストはそんなあたしを珍しそうな顔でやってきた。
「主様から私にお話があるとは、珍しいことで」
「まあ確かに、散々相談もせずに事を進めてきたからね」
そう言いながらも皮肉気に笑い強い目をガストに向ける。そんなあたしの姿にガストは訝しがったように目を細めながらしっかりと言葉にする。
「それで、お話とは」
「ヨルからね、面白い話を聞いたんだ」
勿体ぶったようにあたしは告げる。余裕を見せつけるように玉座の肘掛けに肘を付け手に顎を乗せた。
こてりと少し傾いた顔のまま目はガストから離さない。けれど口角は上げガストを見下ろす。
「ねえ、ガスト。この世界に黒髪黒目の者なんていないんだよね」
「何を当たり前のことを仰ってるんですか? 神が厭う色を纏う者など」
どこか小馬鹿にしたようなガストの言葉。その目が真っ直ぐとあたしに向けられヨルがぴくりと反応したがすぐに自分を落ち着かせたようだ。
ガストが最初からあたしに対してどこか嘲笑を含んでいたのは、この色味のせいもあったんだろう。
だが、だ。
「じゃあ、どうしてだろうね。ミタルナに黒髪黒目の男がいるのは」
嘲りを含むように淡々と告げる。けれどガストは本気にした様子もなくあり得ない、と言うように嘲笑する。が、あたしはそれを許さない。
目を細め、その力を強くする。
「数年前からいるらしいよ。その人は」
「は? それはありえ」
「ヨル、そうなんだよね」
「はい。黒髪黒目の青年がミタルナでハンターをやっています」
わかっていた反応など途中で遮り、顔はガストに向けたままヨルに問いかければ返してくれる答え。
玉座の斜め後ろに控えるヨルの表情は無表情で、そのまま肯定するヨルにガストの目が見開かれる。
さすがのガストですら外で、その街で過ごした者の言葉はすぐに否定できないようだ。
「いや、え? 何を……」
「ねえ、ガストには神の知識があるんだよね?」
「は、はい」
「あたしにも、神の知識が与えられてる」
「さ、さようで御座います」
「じゃあ、どうして神の知識としていないはずの、黒髪黒目の人がいるんだろうか?」
あたしの言葉に戸惑うガストの返事はない。有り得ないと言わんばかりに驚きの表情で言葉を探している。
けれどあたしはそんなことで止める気はさらさらない。
「それにね、その人には凄い噂があるようなんだよ」
にこり、と笑みをガストに向ける。それだけでガストは警戒したようだ。
それを気にせず、あたしはヨルに振る。
「ねえ、ヨル。その噂、ガストにも教えてあげて」
「その者はクナルト国の魔導士たちに召喚され、異世界から連れて来られた者だと言う噂が上がっています」
ヨルの言葉でガストの目がまた見開かれ、何かを言おうとしたのか口は小さく開いたが音が出ることはなくただ固まる。驚愕で言葉が出ないようだ。
それはそうだろう。
「ねえ、神の知識って何だろうか? あたしの記憶によると、魂の貸し借りは神どうしの約束事。契約だったはずだ」
ガストにどこまで魂のやり取りについての知識があるかなんてあたしは知らない。それでもあたしは神自身に説明されて知っている。
神自身が異世界の神の元に出向き、相談をして契約を交わし魂を借り受けたと。そうして許可をもらったと。それほどのことなのだ、と。
神同士でないとできない、契約だと。
「確かにあたし以外の魔物の導き手に黒髪黒目がいてもおかしくはない。けれど、今外に出れているのはおかしいし、今はそんな余裕もないはずだ。それに彼は数年前からこの世界にいるようだ」
「どうゆうことだろうねえ」と微笑みを浮かべガストを見る。しかし返答はないようだ。違うな、ただ目を見開き理解できずに返答できない、がやはり正解か。
だからわかるように、理解できるように、ゆっくりと言葉にする。
「もし仮に、本当にクナルト国で彼が召喚されたんであれば、それは神の知るべきところだよね? だって、魂の移動だよ。神にだって勝手できない部分だ」
神はあたしの世界の神から魂を一時的に借り受ける許可を貰った、と言った。いずれは返されるものだと言うことだ。それが前提で相談したかは知らないが、それでも双方両者の認知の元に話が交わされ契約され魂を借り受けたのは事実。
では彼の、ルカの魂は?
「あたしが貰った知識の中にはその彼の存在も、召喚術の知識でさえもない。ねえ、ガストの中にはあるの?」
にこりと微笑むが、ガストはあたしを凝視し身動き一つ取らない。
「ねえ、ガスト。神に与えられた、補佐の貴方に、あたしが聞いてるんだ」
「………」
ガストは何も言えず、その目が狼狽え若干の泳ぎを見せる。
「魂のやり取りについて、あたしが知っているのは契約だってこと。もし、それ以外で魂が呼ばれていたとすれば、どうなるんだろうねえ」
「っつ!」
そこでようやくガストの顔に焦りと言う変化が見えた。狼狽え困惑し、本当に何も、ルカの存在を知らなかったようだ。
「魂の誘拐、拉致かな? この場合。どっちにしてもだ、大変なことだと思うんだけど?」
「っっつ!!」
ガストは目を見開き狼狽え、まだ言葉が出ない。
「ねえ、ガストはあの神と今すぐに連絡が取れるのかな?」
「……主神様とはすぐには」
知ってる。記憶が薄れる中で「もうすぐ昼寝できる~」って声を聞いてるから。
あの神のことだ、様子なんて見ずにすでにお休みモードだろう。
しかし主神ってことは、確か部下って人がいることも言ってたな。
「じゃあその部下には? すぐに連絡が取れて確認できるんだろうか?」
「……できないことは、ないと、思いますが」
ガストの顔は苦そうで、その言葉ははっきりしない。
たぶん魂のやり取りについてはあたしの予想通りに主神、神自身にしかできない事柄なんだろう。だからあたしの魂のやり取りにも、あの面倒臭がりの神自ら動くことになった。
「どちらにせよ、だ。あたしはその人を保護するなり何なりしようと思う」
「なっ!! ここに呼ぶと言うことですか!?」
「だって、正規ルートでなくただ拉致された被害者だ。それも、黒髪黒目の」
最後を強めガストに冷たい視線を向ける。
有無を今言わせる気はない。意見を聞いているのではない。聞いてはいけない。
今ガストに考える隙なんて最初から与える気はないんだ。
それになんでわざわざ忌避されている黒髪黒目なんかを召喚するかな? 神も黒が嫌いならあたしじゃなくても良かっただろうに。あの世界じゃ金髪碧眼選びたい放題だろ。なんでわざわざ。
あ、引っ掴んだのがあたしの魂とか言ってたな。あの神、何も考えてないだけだ。てか、本当に暗い色を嫌ってんのか? なんとなくその時の気分で明るい色を選んだだけじゃね?
本気でそんな気がしてきて呆れそうになるが、そんなことはおくびにも出さずにあたしはガストに強い目を向ける。
「神を敬愛し、尊敬してるガストもわかってるよね。この世界での黒の意味」
ガストの顔色が悪くなる。
「その人はこの世界でどんな目に合ってるんだろうか。突如連れて来られ、どんな生活ができてるんだろうか……」
「し、しかし、まだ召喚されたとはっ!」
「神の知識があり、この世界に黒髪黒目がいないことをわかって言ってるのかな?」
神の知識にあることは絶対だ。神が定めたルールは絶対だ。それは誰にも覆らせることはできず、有り得ないこと。
「もし、ガストの言うとおりに突然変異だとしたならば、神の知識にないとおかしい。その存在を神が認め、許したことになるんだから」
神の定めたルールを変えれるのは、神だけだ。もし突然変異種が認められるのであれば神の知識にないとおかしい。
あたしの知識にはルールを変更したとはない。突然変異種が生まれる可能性は今のところ零だ。黒髪黒目の人種なんてできるわけがないことを示している。突然変異なんて、有り得るわけがない。
「もしかしたらその人はあたしと同郷かもしれない。もし、あたしが元の世界へ帰ったときにあたしの世界の神がその人の存在を知れば? その扱いを知れば、どうなるだろうか?」
にこり、と笑みを浮かべ、その目はガストに真っ直ぐと向ける。
魂の記憶を確認するかどうかなんて知らない。契約内容さえ知らないんだから。この世界の神ならば面倒臭がってやらなそうだが、他の神はちゃんとしてると思いたい。というよりちゃんとして欲しい。貸すくらいだから期待はできないが、それでもそれは今わかることではない。
けれどもただでさえ神という存在に敬愛を示し尊敬しているガストだ。言葉だけで有効だろう。
「それにもしあたしの同郷でないとしても、あたしの世界の神は他の神に話すかもしれない。その人の世界の神にその話が伝わるかもしれない」
神が一人ではないことはあたしの世界とこの世界で知った。けれど神同士の繋がりがあるのかなんてあたし達にわかることではない。ただの可能性、だとしてもそれも完全に否定できない。
そこまで頭が回っているかは知らないけれど、それでもガストは絶句し顔色は悪い。
別にガストを追い詰めたいわけでもないんだがなあ。そう思いながらもそろそろ幕を引きましょうか、と口を開く。
年末年始特別毎日更新本日終了です。
時間はランダム、サイコロさんで決定12時~20時で決めさせて頂きました笑
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