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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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17



 ヨルの目がスッとあたしからずれてどこか遠くを見るように、何かを、誰かを思い浮かべるように宙を見つめた。


「私も正直ルカのことが気になるの。ルカを見ていると貴女を思い出す。ただその色味が同じってだけだけど、故郷から離された寂しそうな目を、時折するのよ……」


 そう言って視線をあたしに戻して微笑もうとして上手く微笑むことのできない、どこか寂しさが浮かぶ目であたしの頬を優しく撫ぜるヨル。

 それがどこか問いかけのようで、素直に笑うことができた。


「あたしは、あたしは大丈夫だよ。みんながいるもん。けど、そのルカって人には……」

「コミュニティーではそれなりに上手くやってはいるようなんだけど」

「心配事でもあるの?」

「亜人種のコミュニティーでも様々なの。自分たちより虐げられるものを虐げたいものもいるのよ」


 虐げられてきたからこそ、その下を見つけて鬱憤を晴らすように虐げる者。どこの世界にも捻くれ捩じれてる者はいる。


「それにルカがいるコミュニティーはそこまで強くなかったり、逆に血の濃い獣人種も多くて孤児なんかもいるようなコミュニティーなの。きっとダンジョンができ噂が広がれば……」

「財を求めてやって来る……ってこと?」

「ええ。ルカなら自分を受け入れてくれた者たちのため、それを選ぶでしょうね」


 ダンジョンに行けば森の中をあちらこちらと歩き回るよりも魔物と出会いやすいだろう。その上に確率は低くとも宝箱まで用意され、採取できる物すらある。

 森よりも実入りがいい、ダンジョンに行くのは必然だろう。そう創り出そうとしてるんだから。


 ヨルの目が心配そうにあたしを見てくる。それにあたしは何も返せずにただ俯くだけだ。

 思うこと、考えることは様々だ。

 言うなればそのルカって人物もあたしと同じく拉致被害者の可能性が高い。それも変な言い方だが正規のルートではない、裏ルート。何の力もなくこの世界に呼ばれた可能性すらある。


「ねえ、……ルカって魔法は使えるの?」

「使えるわ。それでも強いもので中級ってとこかしら? 魔力量も多いと言えるほどでもないわ」

「使えるだけマシ、ってことかあ……」


 自然と背中を背もたれに預け宙を仰いでしまう。


 あたしも通常の魔法が使えないわけじゃない。それも強力なものまで使える。魔力量もこの世界においてとんでもなく豊富で、そういった意味では存在チートである。まあ、創造魔法のためにそうなってるわけだが。

 それでも、そのルカを思えば……。


「会って、みたいな……」


 ぽつりと零れた本音。それは弱く小さな音。それでもそれを拾ってくれる人がいる優しさ。


「縁は、会ってみたいのね?」

「……うん。そのルカ自身を知らないと何も言えないし、もし本当に召喚されてきた被害者なんだとしたら」


 同じ立場だ。あたしと同じ立場で、あたしとは全く違う苦労をしている人。


「ヨルが心配していたように、やっぱり気になるよ。きっと急に見つけたらそれこそどうしていたかわからない」


 この世界に黒髪黒目はいない。他の導き手は知らないが、今あたしが知るだけではあたしだけだ。


「もしかしたらあたしと同じ被害者。それもあたしよりも酷い被害者だ」


 あたしからしたらあたし自身拉致され誘拐され連れて来られた被害者だと思っている。それに強制労働させようとしている神なんて極悪人だ。

 けれど拉致されたと言ってもあたしは神自身に呼ばれ力を貰い、そして終われば元の世界に戻される、と一方的だが約束された身。

 しかしルカはどうなんだろうか。

 本当にクナルト国の魔導士たちに召喚されただけなんだとしたら、神の目からも零れたそんななんの約束もない不安定な存在なんだとしたら。


 会えたとして、あたしはそのルカって人をどうするだろうか。何を話し、何ができるだろうか。

 これからダンジョンを広げ導き手となるあたしが、ルカにあって何を言うんだろうか。

 考えても答えは出ない。それでも、それでも本音を言えば。


「会って、みたいんだろうな、そのルカって人に。だってヨルから見てもナイにしても、悪い人って思ってないんでしょ?」


 ヨルを見て言えばその目を細め笑みをくれる。


「ルカは少し素直じゃないけれど、悪い子ではないわ。それにコミュニティーの子供たちにもそれなりに好かれてるようだしね」

「そうなんだ。そことは上手くやれてるんだ」

「ええ。ただ弱いコミュニティーだから日々大変でしょうけど」


 ヨルの目がまた少し弱くなる。寂しそうになる。それだけルカと接していると言うことだろう。


「ヨルとナイの目は信じてるし。ただ、どうするべきかなあー」


 会いたいからと言って簡単に会えるわけじゃない。特にあたしは外に出ることすらできない身。そして、ダンジョンマスターだ。このダンジョンの核だ。そんなあたしがおいそれと簡単に人に会えるわけがない。


「縁は、ルカに会ってどうしたいの?」

「んー、まだちゃんと決まってるわけじゃないけどとりあえず話がしたい、のかな?」


 あたしの中でまだ何も決まっていない。

 この話を聞いてから驚き以上に戸惑いや郷愁など、様々な感情が沸き起こって言葉にはし辛い。

 それにまだ何も知らない。その人自体をまったく知らない。

 どこから来たのか。なぜここに来たのか。本当に召喚されたのか。何か力を貰ったのか。そしてこの世界で何をして何を望んでいるか。

 それが知りたい。


「あたしはそのルカを知らない。何も知らないんだ。ただ同じ、似た境遇かもしれないってだけで、今はまだ何もわからない」


 似た境遇、とは言ったが全く違う。あたしは醜悪な役目を押し付けられてはいるが優遇はされている。

 けれど彼は、ルカは……。


 ダンジョンの核として、ルカに対してどうすればいいのかさえ浮かばない。そして、そのルカって人物が何を望むかすらわからない。

 だからと言って無視することも、聞かなかったことにすることもできない。

 知ってしまった、もしかしたら同じ、近い境遇の人。同じ世界の人。それをなかったことにも知らなかったことにも、何より見殺すことも、あたしにはできそうにない。

 きっと聞かされもせずにダンジョンで見つけていたら、あたしはどうしただろうか?


「縁が望むなら、私たちがここに連れて来ましょうか……?」

「それはガストが怒るってわかって言ってるよね」


 小さく苦笑しながらヨルに答えても、心配そうな目が返って来た。

 世界に顕現する前のダンジョンとは言え、様々な生き物を連れてくることができたように人を連れてこようと思えば可能だ。ただそれを、お目付け役であるガストが到底許すとも思えない。


「それでも縁が会いたいと思うなら、今しかないと思うの」


 ヨルが言っていることももっともだ。

 世界にダンジョンが顕現した後は様々な人がやって来るだろう。その時にダンジョン内で会うというのはリスクが高い。

 何よりあたし自身のリスクもそうだが、そのルカって人へのリスクも高まる。

 ただでさえ黒持ちな彼が人側ではなく、魔物側だと思う人も増えるかもしれない。


「ダンジョンが顕現してすぐ……、人が来ないうちってのもガストが怒りそうだなあ」


 どうにかできないかと思考を動かしながら呟けば、あたしの思考が一瞬引っ掛かる。


「待って、待った!」


 考えていたあたしが急に大声を出し、ヨルが驚いた表情になる。


「あたしは神の知識を持ってるんだよね?」

「ええ、そうね。そう言われたんでしょ?」

「ガストも同じく神の知識、あたしと違いがあるかわからないけど持ってるんだよね?」

「ガスト様は補佐ですもの。縁に近い神の知識を持ってるはずよ。あの神は縁に面倒だからって取捨選択せずに知識を渡したみたいだし……」


 同じくあたしからではあるがそのまま神の知識を渡されているヨル。だからこその言葉でヨルがいまさら何を、と不思議そうな顔をする。

 その言葉に、顔に、あたしは小さな確信を抱きにやりと口角が上がる。


「ガストに聞くことができた。王の間に行こう」


 あたしはそう言って立ち上がるとさっさとガストを王の間に呼び出した。不思議そうに戸惑うヨルを連れて。





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