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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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15



 そんな渦巻く思考を終わらせるように管理室にノックの音が聞こえ、ヨルが優しい笑みを浮かべ顔をのぞかせた。


「縁、今ちょっといい?」

「あれ、ヨルは外に行ってたんじゃないの?」


 微笑みながら片手にカップを持ち、現れたヨルの姿に驚いた。今はナイと外での活動中なはずだったから。

 数日はまだ帰ってはこない予定だったはずだ。


「数人連れてきたついでに縁の様子も見ておこうと思って。それにそろそろある程度の代表者の選別にも入るでしょ? それと少し報告があって」


 報告? と首を傾げながら渡された温かなカップを受け取り「ありがと」と返す。こくりと飲めば優しい甘さのハーブティだ。


「そうだね。せめてそろそろエリア長くらいは決めないとね」


 一階層も二階層も一先ず創っただけでまだ広げるつもりではある。

 現状はここで暮らす者達がある程度縄張りを作りながら暮らせる程度だ。それなりの広さはあるがダンジョンとして広くすることは必須だし、それに本当の始まりの前に階層も増やしたい。

 今のところは各群れや集落ごとの長は各自で決めてもらったがそれを束ねるエリア長、そしてその上に階層長が欲しいところだ。

 まだ既存階層も広くするし階層も深める予定だからこそある程度の管理者を立て、そうすることで各自の住処が危険になったときや何か不都合が出た場合に早急に対応できると考えている。


「今は各長に簡易の通信機を渡しているおかげで種族を超えた連絡なんかも取り合ってるようだし。そろそろエリア長を決めてもいいと思うのよ」

「自発的に交流を持ってくれてるのはありがたいね」

「ええ、物資の交換などもしてはいるそうよ」


 貢献者になった各長たちには通信機、今のところ長同士とリツ達三人にだけ繋がるものを渡している。

 あたしに繋がるものがない理由はあたしがみんなの前に姿を現すわけでもないから。ぶっちゃけあたしは話すことなんて今のところない。

 ガストは手を煩わせないため、という保険を掛けた理由だ。


「戦闘訓練や素材の提供、リツ達に対する態度なんかで決めるつもりではいるけど、ヨル的には候補はいるの?」

「そうね、有難いことに今のところみんな純粋な人種であるナイにも友好的な者が多いし、まだそこまで反抗的な態度を出さないから難しいところね。それでも幾らかはいるかしら」

「階層はまだ広げるから、エリアは中央、北、東、南、西って感じに分けようかと思ってるんだけど?」

「そうなると中央、特に動きが激しくなりそうなところは強い種族がいいかもね」

「んー、強さと言うか連携力と言うか、実績を上げそうならそれでいいんだよなあ」


 ただ強いだけでは長に向いていない。状況の見極めができるかどうかも重要になってくる。


「あたしとしては最初に発言したゴブリンなんかを押すわね」

「ああ、あのゴブリン?」


 最初に発言し、その後も質問してきたことによってあたしの中でも印象付けられているあのゴブリン。


「ええ。戦闘訓練は誰よりも真面目と言うかやる気があると言うか。それでいて自分の仲間たちも気にかけ、他の種族ともやり取りができているもの」

「なかなかにいい人材だねえ」

「そうね。生きることに必死と言えばそれだけだけど、ゴブリンとは元々弱者に近いと言われる種族だわ。その分本来は臆病で、裏を返せば慎重とも取れるわ」

「確かにあのゴブリンはそうだね。臆病と言うには慎重の方があってる気がする」


 発言をしたとき、質問してきたことを考えれば慎重で考えるだけの力がある存在だ。


「ただあのゴブリンの群れの住処は、二階層にあるのよねえ」

「あー、それを一階層のエリア長に置くのは問題があるか」

「けど戦う者を連れて一階層で戦うそうよ」

「住処は二階層なのに?」

「住処には戦えない者が多く残るからこそ隠れやすく見つかりにくく探索しにくい二階層。その分戦える者は一階層で二階層に人が行かないようにしたいみたいなの」

「それはまた考えたね。うん。あのゴブリン悪くないな」


 貢献者たちにはあたし達の住居階層と王の階層以外の禁止区域は今のところ設けられていない。各階層を渡ることも可能だ。ただしある程度の群れや集落ごとに縄張りは定められている。そうしないと食べ物の奪い合いになるから。

 その代わりではないが、人を倒すことに対しては縄張りは関係ないとされている。ただし自分たちの住処を中心に縄張りとなるからそこを基本守るものだと思っていた。

 今後によったら考えなくてはな。


「あのゴブリンは知恵があるわ。階段の位置を把握し、どの階段が自分たちの住処に近づくか確認できているもの」

「それはまた素晴らしい能力だ。他にもそういった者はいた?」

「ええ、知性が強い種族には多いわね」


 エリア長にはそのエリア内で少しばかり権限を持たすつもりだ。それは魔物達にも伝えられている。

 エリア内で襲われた住処があった場合、そこを助けたり助力するために他の者たちを動かす権限を。

 他にも監視するべきルートの指示や行動なんかもある程度はエリア長が指示できることになる。だからと言って自分のためにその権限を使いすぎれば注意からの権利剥奪になるわけだが。

 だからこそ長とつく役職にはある程度の知能があり、考え判断できる者が必要になってくる。自分の群ばかりを考えてもらっては困るんだ。

 ただその分の貢献度も高くなる。それは当たり前のことだ。


「住処を基本としてエリア長を選ぼうと思ってたんだけどなあ」

「冒険者が来始めてからでもいいかもしれないわよ? どれぐらいが奥へ、そして階下に行くかもまだわからないし」


 ダンジョンは中々に広い。二階層に行くための階段はダミーを含めいくつもあるが、それでもあのジャングルをそう簡単に行くとも思えない。


「けど、二階層は洞窟も増やすからねえ」

「洞窟と密林の混合よね?」

「せめて五階層まではその形かな。そこからまた大幅に変えることを考えてるけど」


 にやりと笑い頭の中で構想が浮かぶ。

 同じようなことばかりでは冒険者も慣れてしまうだろう。それに五階層以降ができるころには魔物も今より増えて戦いにも慣れたころだ。


「四階層と五階層には砂漠ってのも考えたんだけどねー」

「ジャングルとってこと?」

「うん。岩場の洞窟とジャングル、そしてまた違う意味で動きにくい砂地、砂漠の灼熱地獄。けど魔物が隠れられる場所が少なくなるから今のところ却下かな」

「砂漠ではなく砂地を部分的、そうすればある程度は使えるかもよ? 砂に隠れる種族はいなかったかしら?」


 完全な洞窟地帯の一階層以外、実は朝や夜といった時間変化が起きるようになっている。

 それができたからこそ砂地、砂漠地帯ってのも考えたんだ。

 朝晩の寒暖差が酷くそれだけで体力が奪われる一帯。砂に足を足られ食料も見つけにくい地域。

 悪くはないが魔物からしても戦いにくい場所になってしまうのが実情。砂地にいる魔物を創ることも考えたが、今はそこまでして魔力を使うことを考えるべきではないと思った。


「とりあえず先に三階層まで作ってみなきゃね」

「そうね。それでエリア長はどうする?」

「ヨルの言うとおりにダンジョンが始まってからでもいいかなあ?」

「冒険者の動きがまだわからないもの。それなりの数が来るとは思うけど動きがわからないし、それにどれだけが階下に急ぐかわからないわ」

「二階層には結構いい薬草や採取物も多いんだけどな」


 ジャングルなだけあって緑濃いその場所で、有難いことにこの世界の植物たちは育ってくれている。全てではないがそれなりな数が。それはこれからも増えていくだろう。


「それにこの地方では珍しい果樹なんかもあるから、人は来ると思うんだけどな」

「縁的には階下にも人を呼びたいの?」

「分散させたいんだよ、出来るだけ。ただ居ればいいって話じゃなくて、みんなに経験させることも必要だから」


 ハンターは基本的にパーティーと言う仲間を組む。少ないと二人、多くなっても十人ほどだそうだ。

 一階層では狭い道も多く人が並んでも二人が限界のようなところもある。ただし今の二階層は逆に壁は少なくが歩きづらく見えづらい地形。そういった様々なところで経験を積ませ強くなっていってほしい。


「それに一階層の魔物ばかりが貢献するのも駄目だしね」

「確かにこれから階下を基本にする魔物もいるものね」

「うん。貢献できる状況を作ってあげるのも仕事だと思う」


 貢献すれば報いると言ったのはあたしだ。ならばその貢献できる場を作ってあげることも必要で、それもあたしの仕事。


 そのときすっとヨルの手が伸びてきた。


「縁の、貴女の身の安全が一番よ?」

「わかってるよ。あたしだって死ぬ気はない」


 そう言って笑えば、不意にヨルの瞳が揺れた。



 

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