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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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 無事に出来上がったであろう王の階層と住居階層。

 住居階層は一先ず小さな転移陣の間、その扉を開ければすぐにダイニングキッチン。

 木を多く使い作られた部屋で、そこまで広くはないが五人と考えれば広めなそこ。

 カウンターキッチンにはヨルが買ってきていた物と残りの必要最低限と思われる物を創り出し、一通り揃えられテーブルと椅子が置かれたリビング部分。

 装飾品などは今は全くなく、簡素な感じではあるが使う分には十分である。


 そしてダイニングキッチンから右の扉を開ければ廊下と言うには少し奥に広い空間。ロビー的な物。

 ダイニングキッチン側からの壁伝いのには左右は出てすぐ気づかないが扉があって、そこにはナイとヨルの個室になっている。

 前の壁側の方がいいんじゃないかと言ったが二人にこの形を求められた。あたしにはよくわかりませんが。


 そしてロビーの奥の左右の先は扉があり、開ければすぐに廊下、曲がり角になっている。

 この廊下は四角を描くようにぐるりと繋がっていて、ロビーから見て右の廊下側には男湯、左の廊下側には女湯をいずれ必ず創る。これはあたしの決定事項。

 今は一応ということで各個室にシャワールームを小さく創っているがあたしとしてはゆっくりお風呂に入りたい。


 廊下の一番最奥、左右からの繋がる部分でまた廊下が伸びて三差路になっている。

 この突き出た廊下を挟みリツとガストの部屋。そしてその先にあたしの部屋が創られた。


 この造りってどう考えてもあたしの部屋が最終防衛地点じゃない? だってダンジョンからは今のところ王の階層へと続く階段しかない。そして王の階層からしか住居階層への転移陣はない。そこが王の間じゃない? なんて思っても突っ込んではいけない。ガストが納得してるんだし、これで文句を言わなかったのはガストだ。


 本音を言えばダイニングキッチンやお風呂(予定地)に近い場所にあたしの部屋が欲しかったが、ヨルの凍てつくような笑みは勝てませんでした。無理でした。

 それでも一応あたしの部屋にもシャワールームはあるので今はまあいいんだろう。たぶん場所が変わることはないんだろうけど。

 今はなぜかヨルが喜んであたしの部屋を片付けと言う名の荷物を入れていると言うか、まあ整えてくれてるわけだ。あたしではなく。

 ヨルが買いこんできた様々な物を楽しそうに運び出し快適な空間にしてくるわ、と行ってしまった。


 そして王の階層はと言えば今出来る範囲で頑張りはしましたよ。威厳威厳、と五月蠅い方がいるのでそれなりの見栄えがするように整えた。

 ダンジョンから続く階段があるホール、その扉を抜ければ広めの真っ直ぐに伸びた廊下。

 その左右にはいくつか扉が設けられているがほとんど今はダミーで、その奥に部屋はない。

 いくつか本当にある部屋は念のための応接室とあたしが一番作りたかった部屋が簡易ではあるが創られた。


 廊下の最奥には王の間があり、壁などの周囲は手を加え少し立派になった。

 少し大きく両開きになった扉に少し広くなった空間。その最奥には短い階段状の段上がりとあの酷く豪奢な椅子。それが存在感を放っている。

 まだ椅子の豪奢さに空間が負けている気はするがそれもこれから、追々だろう。

 これから先ダンジョンを広げていけば必要なものは増えてくる。それこそ魔物が増えれば、人が来るようになれば、必然的にいる物も変わるだろう。

 魔力の残量なども考えれば今はこれで十分だ。張りぼてでも体裁は取り繕えた感じで。


 簡単に一回り確認を済ませ、その出来に満足をしてあたしはあたしがこの階層で一番欲しかった部屋、ある意味一番魔力を費やした部屋、管理室に足を進めた。

 カチャっと軽い音を立てながら開かれた扉。その先には一面に広がる区切られた画面。その様子に口角が緩む。


「嬢ちゃんのイメージ通りか?」

「そうだね、そうだと思う」


 一緒にやって来たナイがあたしを見て笑みを浮かべ聞くから素直に笑みを浮かべ答え辺りを見渡した。


 そこはまだそう広くはない。けれど個人の部屋よりも広くされ、奥の壁には広がる画面。その少し前にはゆっくりと眺められるように置かれた大きなソファとテーブル。

 あたしはそこにさっそく座ると前を、画面を見る。

 いくつもに区切られた画面の中は今はほとんど動きはなくて、ただ数個映像が動いている。


「しっかしこうやって見れるのは便利だな」

「ダンジョン運営するにあたって絶対に必要だとは思ってたからね」


 動く映像、その中には先ほどの魔物達とリツの姿が見える。


「音声も拾えるんだろ?」

「できるよ」


 軽く答えながらテーブルに置かれたリモコンを操作しリツ達の映る画面を大きくして音声を再生させる。


『こちらは亜熱帯雨林と言って湿度が高い地域だ。所々に洞窟もあるのでそちらを住処にすることも可能だ』


 今は地下二階を案内しながら説明をしているリツ。音もしっかり聞こえている。リツの声と魔物達の囁くような内輪で話し合う声までしっかりと聞こえた。


「うん、大丈夫そうだね。こっちは落ち着いてるしリツの方に行ってあげれば?」

「あ? ヨルが離れてる間、縁を一人にしたらヨルに怒られるだろうが」

「おかしくない? ここ、王の階層だよ?」


 ヨルはただ今あたしの部屋を整えている真っ最中だ。いい笑顔で行ってしまったがまだ魔力の関係でほとんど家具なんかはなく、何をそこまで整えることがあるのか。あ、買ってきた物か。


「でも有難いことにガストも私室に籠ったんだよねー」

「ああ、意外だったが魔物の案内が終われば呼べって言ってたな」

「確かに魔物達の案内が終わらなきゃ話は進まないもんね」


 ナイと話しながらまったりと画面を眺めリモコンを操作して確認していく。 それはあたしの意思を反映して様々な角度、場所、それらを次々に映し出していく。

 今でさえいくつもある画面、これを一人で同時に全て操作するのは厳しいが、それでもかなり有難い、いいシステムだろう。イメージ、想像って大事。

 しかもこれからをちゃんと考えて複数人で管理できるようにコントロールパネなども完備している。リモコンは簡易的な物でしかない。

 ここはこれからもどんどん変更していかなければなぁ、とぼんやりと思いながら画面の中のリツ達を見る。


「それにリツの方も一人でそう困ってなさそうだしな」

「あの人数じゃ大変だと思うんだけどなあ」

「リツは魔人だから尊敬対象だ。そう困ることもねえだろ」


 確かに完全なる人種、人間族であるナイの方が魔物達からの目は厳しい。

 それに見ている感じではダンジョン案内はスムーズに行われているようで、数が多いため時間は掛かっているようだが質問なども聞こえてくる。それに丁寧にリツは答えていた。


「やっぱり気になるのは食料かあ」

「まあ生きることに必要だからな」

「それから住処、か」

「食と住は何よりも必要だろ。魔物なら衣は基本いらねえからな」

「けどこれからは装備なんかも必要になってくる」

「それはダンジョンに貢献する奴らだけだろ?」

「まあね、そうなんだけれども」


 そう言ってつい苦笑してしまう。

 ダンジョンに貢献する者としない者、それは時間が経てば経つほどはっきりと、明確に差が浮き彫りとなるだろう。


 あたしはダンジョンに貢献しない者を優遇する気も助力する気も一切ない。一欠けらもない。

 ただここに住んで良い、それだけのことなんだ。そして階層移動も基本は制限を設ける気でいる。

 もしある程度の群が住むことだけを希望した場合、常にその階層にはその魔物がいることになる。いつかはそれは人の知るところになるだろう。

 そうなると、それ狙いの人たちはその階層を探索することになるわけだ。そこばかりを探索するわけだ。これも一つの罠だよね。


 装備、武具の有る無しもそうだ。戦力として大きく違っていくだろう。そこから戦闘訓練まで施せば、ただ住んでいるだけの魔物達は圧倒的な弱者となる。これも人種たちに魔物は弱いと思わせるための罠となる。

 嫌な話ではあるが、ただ住んでいるだけの魔物でもそれなりにダンジョンとしては価値がある。使い道はある。


 このダンジョンにどれだけ人がやってくるかはまだ未知数だが、それでもナイとヨルの話を聞いていればそれなりに興味を示しやってくるハンターはいるだろう。

 そこから噂となり、噂が噂を呼んで、どれほどまでに膨らむだろうか。


「階層、増やさなきゃな……」


 ポロリと溢した言葉。横に座っていたことでそれ気が付いたナイがあたしの頭に手を置いてくる。


「魔物も増やさなきゃいけねえし、外の情報操作も上手くやるさ」

「それでも自然と見つかる可能性もあるからね」

「そんときゃそん時で、どうにでもしてやる」


 今ではないとしてもいつかは……、なんて考えて零れた言葉。けれどはっきりと意志のこもったナイの言葉に打ち消される。あたしはその意味を聞いてはいけない気がした。


「その前に、ある程度の訓練が先だろうなあ」


 ナイが二カッと笑い明るい声を出す。あたしはそれに乗るように笑みで答える。


「そうだね。魔物達にもある程度動けるようになってもらわないと」

「あとは動植物や生物、いろんなもんを入れるんだろ?」

「うん。そこで根付いて生態系を作っていってくれたらいいんだけどね」

「ならヨルに縁についていてもらって、リツに魔物指導をしてもらって、俺は外に出るのがいいか」

「え? 一人って危険じゃない? それにリツも一人じゃ大変だろうし」

「まあそうだけど、残された時間もなあ」


 ナイの顔に苦笑が浮かぶ。

 うん、わかってる。本当はわかってるんだ。だからこそ少し焦ってはいる。それでも間に合わせるだけの算段はある。


「ナイとヨルのおかげで素材もそれなりに溜まってるし、生物創造もするから何とかなるよ」

「自我を持った者も創る気か?」

「……そうじゃないと、間に合わない」


 問題になってくるのはあたしの魔力だけだ。


「本当なら私室はもう少し後にしたかったんだけどなあ」

「それでも創ったってことは考えはあるんだろ?」

「うん。最初の階層は地下三階まで。ただし一階と二階の弄り方も変えるかな」

「これ以上、複雑化するってことか」


 元々地下()()としてダンジョンは創っている。それをもう少し広げて複雑化し、一階層だけで何度も上下に行くように創り上げる。

 階下に行く階段はいくつかあれどあたしに辿り着く道は一本だけとして、見つかりにくい場所に配置して暫くは様子を見る。そう簡単に一階の全てを探索されることはないはずだし、暫くはこれで何とかなるだろう。


「あとはナイとヨルにも情報操作頼むかな。一階はいずれ地図を作られる可能性も考えてるし」

「それでも地図を作りにくい形にはしてんだろ?」

「それはね。真っ直ぐに見えて斜めに進んでいる道やじつは傾斜がある道。分岐点も多く創ってるし目印になりやすい物は少ない」


 いくつかの広場らしいところなんかはあるが、それでもどこを見ても岩や土の洞窟だ。景色としてそう変わらず一階と言いながらもいくつかの層、蟻の巣のようになっている。

 実は二階にも洞窟を使いこの仕組みは適用されている。


「だから簡単には地図はできないとは思うんだけどね」

「それでも時間稼ぎってことか」

「そうだね。けど、人間が入るようになれば」

「縁の考え通りなら、全ては好転するだろうな」


 そう言って頭をわしわしと撫ぜられる。


「まあ、上手くいってればの話なんだけどねえ」

「今のところ全部上手くいってるじゃねえか」


 にこりと笑みを深めてあたしを見てくるナイ。それはあたしを安心させるための笑みであたしを支えようとする笑みだ。

 それがわかってあたしも笑う。


「うん、そうだね」

「ああ、これからも大丈夫だ」

「みんな、いるもんね」

「ああ。これからもずっと一緒だ」


 力強い返事に、その笑みに、勇気づけられる。安心をもらえる。それだけで、まだ頑張れそうだ。

 まだ何も始まっていない。本当の始まりは、まだやってきていないんだ。




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