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住居階。その言葉にガストは不思議そうにしているがいずれは必要になってくると思っていたし欲しいとは思っていた。
魔力も移住してくる種族や数によって調整が必要だと保険を掛けて多めに残している。やってやれないことはないんだよね。
「最初に作っちゃった方が楽だし、集まれるようなリビング的な場所に大浴場も必要だよね」
「キッチンも必要だろう?」
「各部屋にもミニキッチンはいるよね、あとはシャワールーム。他は何が……」
「縁以外の俺たちはワンルームで良いだろ? 特に俺とヨルはそこまで広くなくても良いし」
「あたしも広くなくて良いけど、ある程度の快適さは必要だよ?」
「ちょ、ちょっと、待ってください!!」
ナイと盛り上がっていれば焦ったような声でガストが止めに入った。
「どうしたの?」
「住居階とは……、どうゆう意味ですか?」
「そのまんまだよ。あたしたちの私室を含む住居の階層」
「階層をそのまま住居にすると?」
「うん。あ、一応最奥にあたしの部屋を置く気だからそこが王の間ってことになるのかなあ?」
「……」
愕然とした表情でガストが止まった。一体何を驚いているのやら、と首を傾げてしまう。
「貴女は、……貴女は本っ当に何を考えているんですか!?」
「何って、より良い暮らしを」
「だからと言って王の間を私室と捉えるなど!!」
「けど核はあたしなわけだし、あたしがいる場所が王の間でしょ?」
「そうは言ってもリビングやキッチンなど必要ですか!? それに魔王としての威厳と言うものを……」
「だから魔王じゃないって。それにあたしは食事を必要とするし、ナイとヨルも必要とするじゃん」
「あー、そうでしたね。なぜか貴女は食事や睡眠を必要とするんでしたね!」
どこか棘のあるガストの言いぶり。まあそれも仕方ないと言えば仕方ない。本来、必要としないようなので。
それでも魔力回復に効率は良くなるし、メリットもあると思うんだけどな。
「それでも! それでもある程度の威厳ある王の間はきちんと作るべきです!!」
「そうねえ。確かにガスト様の言う通り報告を聞く為に王の間や謁見室なんかは作った方が良いわ」
「えー、ヨルもちゃんと作れ派なの?」
意外なところからの発言にあたしの顔がちょっと歪む。けれどヨルはしっかりとあたしに目を合わせ口を開いた。
「ええ。だって縁の構想ではいつかは各階層に代表者を立たせるつもりでしょ? その報告を聞く場所なんかは必要だもの」
「そう言われれば、確かにあった方がいいかもなあ」
ナイも納得したように頷き始めた。
「どちらかと言うと住居階にリビングは必要ないわ。逆にリビングと食堂を繋げて作れば魔力の消費も抑えられると思うの」
「少し広めのダイニングキッチンって感じ?」
「ええ、そう集まって話すことも少ないと思うし。だって私とナイは外にいたりするんですもの。そうなるとここにはガスト様とリツ、そして縁だけのことの方が多いのよ」
確かにこのダンジョンの主要メンバーと言えばあたしを含めこの5人だ。そして考えると今までガストに何一つ相談なく決めてきた。今更なようにガストとそう話すことなどあるだろうか?
それに確かに今後このメンバー以外にも貢献者側に代表者などを決めて報告であったり話をすることは増えていくだろう。そう考えるとちゃんとした場は作るべきだろうか。
「じゃあ応接室なんかで良くない?」
「威厳を考えればきちんとした王の間が必要です」
ガストは王の間に拘りがあるようだ。まあ通常で言うとそこが最後の場所になるはずなんだもんな。
真剣なガストの顔を見てこれを覆すような言葉は簡単に見つからない。それでも、と色々考えて頭の中を纏める。
「わかった。ならガストの言う通りにちゃんと王の間も作ろうか。ただどう創るかだよね? 必要なのは王の間とヨルの言う謁見室や応接室でしょ?」
「威厳や見栄えを考えれば、代表者なんかも王の間に行けるようにしなきゃいけねぇんだろ?」
「そうなると、やっぱりできれば住居階とは分けたいよねえ」
各階層は基本的に行き来は自由にさせないつもりだ。移動範囲もそれこそ特権、貢献者などに与える物の一つとなる。それに王の間となると余計に箔が付くわけだし、創るのならば利用方法は考えておくべきだろう。
あとは個人的にプライベート空間、自分の居住区に入ってきてほしくない。やはりそこは公私を分けたいし、息つく場所は重要だ。
「それなら住居階とは別に王の階層として創って、王の間や応接室、他にもダンジョン関係で纏めてしまえば良いわ。その階層に来れる者は識別用に何かを持たせれば良いんだし」
「確かにそれなら良いかもね。ただそうなると、階段をどう繋げるか……」
テリトリーの面倒な所は創ることに必要な魔力以外にも色々と制約があるところ。
領域創造のルールとでも言うのか、どんな形でも良いからどの階層も部屋も繋げておかないといけないところ。
壁を作ることはもちろん可能だし扉を設けるのも可能。だけど各階層で移動できる転移陣や何かしらの方法、階段や通路が必要になる。
けれど扉や階段にギミック、仕掛けや謎解き的な解ける暗号などは許される。鍵など何かしら手に入れ最終的に誰でも移動可能な手段があれば許される。謎なルールだ。まぁ世界の敵と見なされるから断絶した部屋に引き籠るなってことなんでしょう。
「王の階層の上に住居階を作れば良いわ」
にっこりと微笑んでヨルが言う。その言葉に含まれてる物を感じて少し首を傾げてしまった。
「王の階層の一番奥に王の間を作り、その玉座の裏にでも住居階への転移陣を作れば良いと思うの。そうすれば縁もすぐに王の間へと向かえるし」
「それだと気付かれたら誰でも住居階にこれるよ?」
「そうね、今後ダミーも含めいくつかは必要になってくるけど今は住居階に転移陣の間、王の階層にダンジョンへの階段と転移陣の間を創ればいいわ。すぐに王の階層に来る者なんていないだろうし、来ても貢献者でしょ?」
……住居階層には転移陣だけ? 王の階層にダンジョンへ続く階段?
ヨルを見ればにっこりと微笑み圧がある。
何となく見えてきた話ではあるが、良いんだろうかとガストをちらりと見ても何の反応もなく、特に不満はないようで口を挟んでくる様子もない。だったら良いか、とあたしは頷く。
「一先ずはそれでいいかな。後は追々考えて変更していけば」
「ええ。今すぐは簡単でいいけどダミー以外にも階段や転移陣、必要な施設なんかも今後増やしていかないといけなくなるわね」
「王の階層にも防衛的な施設、空間があるといいな」
「最悪みんなが戦いやすい場所、か」
ナイの言葉でつい顔を顰めてしまう。考えたくはないが、それでも防衛、最悪への備えは必要なこと。
魔力消費も考えるとそれほど大きなことはできない。まだまだダンジョンとして創らなければならないものは多いしそちらこそ必要なものだ。
だから今は必要最低限、それでも必要なものはしっかりと作らなければならない。
すでに魔物と呼ばれる者達、あたしとは関わりのない者達がこのダンジョンに入っている。
「最終防衛地点はリツとガスト様だろ? その手前で俺とヨルが動ける場所も必要だろ」
「それはすぐじゃなくても良いわ。ダンジョンが発展して余裕ができて、で。それまではリツ達と同じところで縁を守れば良いんだもの」
ナイに言葉を返すと安心させるようにヨルがあたしに微笑み、その温かな指先であたしの頬をなぞった。その目の奥には大丈夫と伝える光。それにこくり、と小さく頷いて息を吐いた。
「じゃあ一先ずはそれで。王の階層と住居階層。住居階層は各個室にダイニングキッチン。王の階層には王の間と応接室なんか。暫くは謁見なんかは王の間で良いでしょ?」
「ええ、十分よ」
「それでよろしいかと」
ガストにも了承は得た。本当ならもっと後に王の階層、正しい王の間を作る予定だったが、けれども先に少しばかり創っていても後から弄ることはできる。
それに自室ができるのも確かに有り難いし、今後これからも起こることを考えればのんびりできる場所の確保も必要だ。
魔力的には厳しくなるがそれでもどうにかできる範囲。ダンジョン内のことを少し予定を立て直し、いくつか後回しにはなるがやってやれないこともない。
そこからは各自が案を出しつつ空間を考えて行く。
ガストは王の間に特に拘りがあるようで装飾など注文を受けたが今は難しい。魔力的に。今後また装飾などを増やすこと、王の間や王の階層など手を入れていくことを説明し、一先ずということで今は納得してもらう。
ナイとヨルは住居階層に特に力を入れていた。このダンジョンの重要人物全てが揃い暮らす場所であたしが長い時間を過ごしたい場所。
二人にとってその階層こそが本当の最終防衛階層にする気なんだとよくわかった。言葉にはしないけど。
その為にも色々と注文を付けられあたしの案はかなり却下は頂いた。楽がしたいがために転移陣から近い場所に部屋が欲しかっただけなのに、ヨルにかなり冷たい目で見られてしまった。
まぁ核はあたしですし、しょうがないんですけども。
そんな感じで出来上がった王の階層と住居階層の図案。最低限であるがなかなかの出来ではないだろうか。
それをそのまま頭の中で描き魔力を込めれば白く眩くなる周囲。この仕様は毎回なんだろうな、なんてどうでも良いこと思いながら二つの階層を図案のまま創り上げたのだった。
本日から年明けの五日まで毎日更新スタートです。
歩みの遅い話ではありますが、宜しくお願いします。




