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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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11/45



 できるだけ優しく見えるように表情に気を付けながら言葉に感情をしっかりと込める。


「人種はね、様々な種族で群れながら各々の特徴を生かし様々な職業、役割を変え生活を回し合い生きてるんだ」

「それは俺達だって同じだ!」

「そうだ、俺達だって狩りをする者がいれば群の面倒を見る者もいる!」


 様々な所から怒声が上がる。叫びに近いような声さえある。 自分たちと何が違うのか、自分たちを追い込む奴らが何が違う、と。


「確かにそう思うかもしれない。けれど人種はもっと多種多様に細分化された役割で生活しているんだ。鍛冶師一つとってもそう。確かに全てを賄う鍛冶師もいるが武具職人、それだけでも武器専門や防具専門など。道具に至っては薬師や錬金術師、魔道具師や生活雑貨なんかはもっと細分化される」


 事実この世界だけでなく元の世界でも様々な職業があり、その生活と発展にいかされていた。

 この世界でも同じで人種と呼ばれる様々な種族が集まり暮らしながら様々な職業や役割を持ち、作り手以外においても細分化し発展させている。

 そんな中で一人の、大人の腰ほどしか身長のない全身が薄汚れたくすんだ緑色の者が一歩前に出た。


「だから、この渡された武器みたいな物が人にはあるって言うのか?」


 一本の何の変哲もない短い剣を突き出すように見せながら質問してくる。それに周りは静まり、あたしをじっと見てくる。

 その喋り言葉は思っていたのと違って流暢で、内心顔には出さずほっとした。


「そうだけれど、各集落などに渡した物は人種の中でも基本の最低限に近い品物。もしダンジョンに貢献してくれるというのであれば、それに見合っただけの数やそれ以上の武具なども融通することを考えている」


 小さく「は?」とガストの声が聞こえた気がしたが流し、発言してきた者ににっこりと笑ってからそこにいる全ての者を見渡す。

 言ったことが事実であると言わんばかりに見れば辺りがまた騒めきはじめるが、それを確認してあたしは手を上げ静まるのを待つとまた言葉を続ける。


「渡してもらったものはわかってもらうために渡した物。それだけでも貴方達からすれば良い品だろうしどう使ってもらってもいい。けれど数は足らないでしょ?」


 ざわめきが一際大きくなる。各群れで喋っているんだろうが数が数だ。興奮してているのかその声も大きくなっているんだろう。

 リツ達には保護対象に接触してもらうときに説明と説得用に道具創造で武器を作り渡していた。

 それは本当に簡単な魔力消費もそう多くない物で、人種の中では良い品でもないだろう。けれど彼らからしたら良い品でしかない。その技術がないんだから。

 それはやはりこの反応から見てもわかるし、数も各群れで一、二本や触れさせ見せるだけに留まったところもある。


「人はね、恐ろしい生き物で人種の中でも様々な種族がいる。その中には魔法に長けた種族や物作りに長けた種、そんな者を引き込んでは暮らしを繁栄させている。だからこそ武具なんかの精度も次々に良くなるし戦い専門の者も強くなってく」

「俺達もあんたがくれるって言うその武具を使えば強くなれるのか?」

「馬鹿言わないでよ、武具を渡したからって簡単には強くなれない。多少強化されても、それだけだ」


 どこか小馬鹿にしたように言えばその緑の者、ゴブリンは醜悪な顔を歪めた。


「さっきも言ったけど、人は数と知恵と経験で繁栄を続けている。武具を装備しただけではまだ知恵も経験も足りない」

「……それも、あんたらはくれるのか?」

「そのつもりでいるけど、貴方たち自身にもよる。武器を見せたときに少し使い方も伝えてもらったはずだけど、ダンジョンに貢献すると言うのであれば本格的に教えていく気だ。これから先どれだけ吸収して伸びるかは未知数。それでもダンジョンに貢献してくれると言うのであれば、貢献すれば、それ相応の対応はする」


 武器を見せる時に下地として簡単な使い方、体の動きなども少し教えるように三人には頼んだ。

 じゃなきゃ残りの短時間で戦えるだけの人材確保なんてできるわけもないし、これからのやる気、強くなる気があるのかの判断にも繋がる。

 きっと中には剣を触れずとも動きを反復した者もいるかもしれない。それなら有望だがどれだけいることやら。


 あたしの言葉を聞いて発言していたゴブリンは顔を歪めながらも思案しているようだ。

 元々ゴブリンは集落を作り群れで暮らす種族。前に出ていたことを考えれば集落の長か代表者ってことだ。みんなの命運を握っていると思えば答えなんて簡単には出せないだろう。

 だからこそ、言葉を続けよう。全てに聞こえるように。


「人間は様々な武具を器用に扱い戦いにおいても役割を変え、その時々にもよるけど前衛職や後衛職、補助職なんかもあったりする。そして連携を上手く使い、お前達を()()()行くんだ」


 はっきりと、強い言葉で明言する。


「だからと言ってあたしは集まってくれた貴方達に、強制的にダンジョンに貢献しろとは言えない。事実危険で命がかかることだから」


 今度は少し声を弱め優しく。


「だが、このダンジョンはこれから先も様々な地形や環境を創っていく予定だ。ダンジョンに貢献しなくても最低限のルールさえ守ってくれればダンジョンに住んでもらって構わない」


 どこからともなく戸惑いの声がいくつも上がり、ガストのどうゆうことだ、という強い視線があたしを刺してくる。


「けれどダンジョンに住むだけと言うのであればあたしからの補助や助力は一切なく、立ち入り禁止区域なども設ける。後はダンジョンに住む者同士で傷つけあったり殺すことも駄目だ。これから新たにルールも増えていくだろうが、それは守ってもらう」


 そこで一度区切り、全ての目があたしに向いていることを確認すると息を吸い込んで声を強くする。


「逆にダンジョンに貢献すると言うのであれば、ルールもあるけれど住まいの環境や武具の提供、他にも食糧補助など考えている。それに今後戦えない者にもできることも考えていく予定だ。けれどダンジョンにおいて前提は戦える者がいてこそ、そこを踏まえて考えてほしい。貢献度の度合いで補助や助力も変わってくる」


 また小さくざわめきが聞こえてくる。思うこと、考えること、様々にあるだろう。

 ここに居るも全てが戦える者ではないはず。だからこそそのざわめきは大きくなっていく。


「現状、今このダンジョンは二階までしかできていない。まあこれも増やしていくんだけど、とりあえずその環境を見て考えてもらってもいい。その後にダンジョンに貢献すると決めた者たちにはまた詳しい説明をするつもりだ。後はリツ、お願いね」


 あたしは言うことは言い切ったと、横にいたリツを見る。


「これからダンジョン見学に移る。そこを見てからダンジョンに住むかどうかを決めてもらっても良い」


 その言葉でリツが前に出て魔物達に説明を始めたようだ。数も多いしあれを全て連れて行くのは大変だろう。やっぱりナイも付けるべきだろうか?

 そう思ってナイを見ればガストを気にしたように見ていて、それにつられてあたしの目もガストに向く。


 その目は射貫くようにあたしを見ていて、苛立ちそれを堪え我慢しているような顔に見える。

 たぶんさっきの説明でガストの中では言いたいことだらけなんだろう。まぁ今までちゃんとした説明なんてしたことはなかったし、言ってこなかったから予想はしていたけど。この後はガストのお説教ですかねえ。


 こんなガストを前にしてナイがリツに付き合ってくれるとも、それをリツとヨルが許すとも思えず、あたしは小さくため息を吐いた。

 それにこの状態のガストを放置したままこの先に進むわけにもいかない。

 一先ずはリツに魔物達を任せ、あたしは先に暫定的な王の間、現最下層に戻ることにした。


 あたしが動き出したことで無言でついてくるガスト。その漏れ出す空気は決して良いものではなく、棘突いた重たいもの。それを分かりながらも溜息を呑み込み悠然と見えるように玉座に座り正面に立つガストを見据える。

 その目が合えば、すぐにガストが冷たくも重い口を開いた。


「あれは、どうゆうことですか?」


 静かに押さえつけた声色。思ったよりも表面上は冷静で、ただ感情を押し殺しているのがわかる表情。


「あれって?」

「全てです。魔物を守らないと言ったことから始まり武器を渡していいたこと、ただ住むだけでも構わないだとか戦えない者でもできることがあるだとかっ」


 抑えてはいるんだろうガストの語尾が言葉を繋ぐたびに強くなってくる。


「そのまんまだよ。話を聞いて信じてもらうためにも武器は必要だと思った。それにあたしは魔物を守る力なんてないじゃない。そして魔物同士傷付け殺し合わない限り数はいてもらった方が良い。それは戦えない者だろうとも、使えるものは使わなきゃ」


 聞いていたガストが手を強く握りわなわなと震えだす。怒り爆発までもう少しって感じだろうか。

 けれども、あたしは間違ったことを言った気はない。


「いや、待ってよ。ちゃんと考えてはいるし言ったこと自体は理に適ってるでしょ?」

「確かに、確かに貴方自身に全ての魔物を守る力はないでしょう。それは認めますが、魔物を導く魔王としてっ!」

「その前提がおかしいんだよ」


 ガストの目をしっかりと見つめはっきりと断言する。


「魔物を守れやしないのに魔王だなんて、無理な話じゃん? あたしはダンジョンマスター、ダンジョンの核。あたし自身を守る者だよ」


 その言葉にガストは目を見開き、驚いたように口を半開きにした。

 そんなに意外なことを言っただろうか?


「あたしが創ったのはダンジョンだ。国でもなければ魔物の楽園でもない。魔物達に頑張ってもらって、あたしと言う核を守るための施設」


 あたしはガストの目を真っすぐに見て言う。


「し、しかし、主様は魔王として主神様から……」

「確かに指示と言う使命、役割はある。けどその形すら全てあたしに任されている」

「ですから魔物を導き人間と対抗させねば」

「ああ、その為にも強くなってもらわないと困るし繁殖してもらわないと困る」

「そのためのダンジョンだと? そのために武具や食料の提供と?」

「そうだよ。それもダンジョンに貢献する者だけ、だけどね」

「貢献する者、確かに仰っていましたね。けれども何故全てをそうしないのでしょうか? 主様の管理下に置き、主様が導くことが」

「それが端から間違ってるんだよ。あたしに魔物の管理なんかする力はない。統率する力なんかないんだ」


 あたしが与えられた力、創造魔法。それは様々な物を創り出すことができる力。ただし、自分のテリトリー内に対してだけの能力だ。

 そしてその力の中に魔物を従えるような、魔物を洗脳するような力、能力はない。魔物に好かれ好まれるような能力はないんだ。


「だからこそ餌となる物は必要となる。けれど全て者に餌を与えるわけにもいかない」

「それが貢献する者、ダンジョンで働く者、というわけですか」

「ダンジョン、あたしに報いればそれなりの恩恵がある」


 ガストが俯き小さく息を吐いた。少し納得したのかその力が少し抜けた。けれどすぐに上げたその目はまだ強くあたしに怒りを持っている。


「それでは何故、貢献しない者もダンジョンに住めると言ったのでしょうか?」

「簡単な話で数が欲しかったんだよ。数に対抗するには数が必要だから」


 冷めた声が出た。それでも構わずあたしはガストを見つめる。




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