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終わりの見えない(仮)  作者: けー
一章 始まりの準備

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 「だんじょん?」


 かなり珍しくイメージになかった間抜けな声のガスト。聞きなれない言葉、初めて聞いた単語だとよくわかる。

 ガストとあたしの違い。両方この世界の神からこの世界の知識は与えられているがあたしには元居た世界、ここでは異世界になる世界の知識が在る。ガストの知らない知識があたしには在る。


「そう、ダンジョン。簡単に言えば今回は地下迷宮。ちゃんとガストに言っていた通りに迷路型だよ。そこには魔物が住み宝があり、それを求めてハンターがやって来る」

「地下、迷宮……」

「ダンジョンの中は様々で、複雑な道だけではなく細い道も多く一気に大多数が進めないようにする。そうすることで魔物にも戦える状況を作り戦う力を徐々にでも身に着けさせる」


 それだけでもないが大事なことでもある。実践をさせ経験を積ませ強くさせる。それは神がいう魔物の為になる事だ。


「他にも色々と考えてはいるけどダンジョンって迷宮だけじゃなく様々な形があってね、今いる地下一階は見た通りの洞窟型。あ、迷路仕立てで複雑な形になってるよ」

「確かに迷路仕立てとは聞いていましたが……」

「そしてさっきまでいた地下二階は亜熱帯な密林と洞窟型の複合。まぁあたしもジャングルなんて行ったことないし、ちゃんとできるか不安だったけどテレビなんかのおかげで上手くイメージできたみたいだね」

「ジャングル?」

「この世界にも気候はあるけど亜熱帯の森林はない。荒廃した土地や火山地域があっても」

「は、はい」

「そこを逆手にとってあの動き辛そうな湿度の高いジャングル、密林を創ったんだ。それに魔物なら隠れ住む場所も多く作れるだろうし」


 多少その場に適応できるか観察も必要だろうが魔物の体はそう弱くはない。それに岩場も作り洞窟なんかもあるからジャングルでも生きやすそうな魔物達は徐々に体を慣らし活動範囲を広げれば良い。


「確かに地上にあんな気候変動な場所を創ればそれこそ世界を壊しかねない。けど、ここは遮られた地下空間。そこの気候を変えたところで外には影響はないし外に影響を及ぼすよりも魔力は抑えられる」


 地上に気候変動するような土地を創ろうと思えばどれだけ魔力がいる事か。それに暫く、もしくはずっとそれを維持するために魔力が必要となり難しい。

 けれどここは広いけれども空間を区切られた地下だ。外部からの影響もなく、一度創ってしまえばそのまま維持される。維持魔力も一度創ってしまえばほぼいらない。


「保護した魔物の様子を見ながら少し手を加えて、それでもテリトリーが世界に現れる前にはまた階層を創れるはずだよ」

「こ、これで終わりではないと?」

「当たり前じゃない。簡単に痛みなんて感じたくないもん」


 驚愕、唖然、困惑。そんな何とも言えない表情のガストににこりと笑みを向けた。


「どう、ガスト。これが異世界、あたしの世界の知識だよ」


 書籍にゲーム、テレビにネット環境などあったあたしの世界。だからこそ様々な知識が在り、様々な想像ができる。

 そこにまたこの世界の知識が加わり、考え創り出せるものがある。ガスト達この世界の知識だけの者よりも、多くの選択肢がある。


「ま、待ってください。ダンジョンが様々な地形、環境で、まだ広がることは理解致しました。けれど先程宝があると」

「ああ、付加価値だね」

「付加価値?」


 意味が分からないと珍しいほど素直に首を傾げるガスト。その姿に少し笑いそうになるがそれを堪え口を開く。


「簡単なことであたしのテリトリー、ダンジョンを潰すのは惜しい、潰したくないと思わせるための物」

「潰させない、ための物……」

「なぜ魔物が狩られるのか。それは魔石のためだ。ダンジョンに行けば魔物がいる。けれどそれと共に他にも何か手に入るとすれば?」

「……手に入る品にもよりますが、有用で価値がある物であればダンジョンを」


 このテリトリーが出来上がる森もそうだ。魔物の住む森として木々の伐採など制限が掛けられている。隣国との約定をしてまで保護しようとしている。


「まぁできる限り最下層、あたしの居場所には来れないようには創るつもりだけど、世の中に絶対なんてものはないからね。保険はいくつあってもいいよね」

「保険として魔物以外に宝を準備すると?」

「世界はあたしを敵と見なし流れ動き出す。放っておいてもあたしのテリトリーにも大勢の簒奪者がやって来るだろう。宝が在ろうとも無かろうとも」


 皮肉気に歪む口角。宝のせいでその流れは加速するかもしれない。それでも必要だと思ったし、それを上回る可能性はある。


「だからこそ、利用するんだ。このダンジョンを、最大限に利用する」


 この世界には地下迷宮やダンジョンと呼ばれる物はなかった。それに近い場所もない。

 ハンターは基本魔物を狩り魔石と素材で稼ぐ者達。あたしはそこに付加価値を付ける。ダンジョンに行けば魔物から魔石と素材だけではなく他にも何か手に入る、と。可能性を広げる。


 その話が広がれば稼ぎが変わる人もいるだろうし無理に魔物を狙う人も減るかもしれない。それにその話が大きく伝われば、ただのハンターだけでなく国々もダンジョンを無視できなくなるだろう。

 そのうねりがどんな事を引き起こすかはまだ分からないが、その前にも様々な問題にはぶち当たる。今はまだガストに言わない方が賢明だな、と自信有り気な表情を作りガストに向ける。


「少しは納得してくれたかな?」

「……」


 まだ理解しきれていない、まだ頷くことができない、けれども神の意思に背くことなく価値、有用性はあるかもしれない。ガストの表情から読める考えはそんな所だろうか。

 今はそれを見れれば十分だろう。今するべき説明はした。また疑問や分からないところがあればガストから聞いてくるだろうし残りはそれからでいい。

 だって、テリトリーとなるダンジョンは出来上がったばかりだ。まだ何も始まっていない。まだ何もしていない。枠だけではダンジョンと呼べない。

 さぁ、ここからが本番だ。

 あたしはガストに背を向けると歩き出す。これからの勝負のためにも、胸を張って前を向く。


 薄暗い洞窟の中を進んで行けば後ろからガストもついてくる気配がした。きっと辺りを見渡しながら進んでいることだろう。

 地下二階とは全く違う粗削りな岩と土の洞窟。あたしもつい興味が沸き辺りを見てしまう。

 思ったようにイメージ通りにできている。階段のある少し広がった空間から細くなっている通路のような空間。時折飛び出した岩などもあれば壁が抉れたように凹むところもある。

 出来る限り自然な雰囲気に見えるように創った。それを確認しながら足を進めれば少しずつざわめきが聞こえてきた。だからこそあたしは小さく深く息を吐き、覚悟を決めその空間へと足を進めた。


「嬢ちゃん、来たか」

「ナイ、久し振りだね。おかえり」


 広場のような広い空間に出ればすぐにナイがあたしを見つけ、快活な笑みを浮かべながら片手を上げてくれた。

 ヨルはリツと交代などして何度かここに戻ってきていたが、ナイは全く戻ってきていなかったから会うのは本当に久し振りだ。その姿に、その笑みに、なんだか安心する。


「ただいま。ちゃんと飯食ってたか?」

「ずっとリツかヨルがいたしちゃんと食べてたよ。ナイこそ怪我とかしてない?」

「俺は見たまんま、元気そのものだ」


 大きな手でわしわしと頭を撫ぜられ、それにつられてあたしにも笑みが浮かぶ。

 ナイも本当に元気そうでよかった。


「それで、一先ずはこれで全員?」

「今のところ、先発ってことでわな」

「思ったよりも人数が多かったんだ」

「それでもまだ声を掛けた奴ら全てが来たわけでもないけどな。それに全員が()()とも決まってない」


 ナイから視線を外し広場を見回せば様々な魔物がいる。二足歩行の人型種や上半身だけ人型で下半身が様々な獣の姿やその逆の半人種、それから全身が獣型の獣種まで本当に様々だ。


「それにしても蜘蛛とか蛇、他にも鼠や鳥なんかもいるけど?」

「ああ、そりゃ眷属として連れて来られてる奴だ」

「あれが噂の眷属ですか。助かりますねぇ」


 ほう、と思いながらも視線を送る。

 この世界にも魔石の取れない生物はいる。魔力の器が小さく内包魔力が少ない生き物。元の世界での動物や昆虫などそれに近いものだ。

 会話をすることもできず知能としては低い。ただしその種に近い魔物と意思疎通できるらしく眷属として扱われることもある。

 分かりやすく言うと上半身が人間と変わらないのに下半身が蛇であるラミア。その周りには蛇がいる。何匹もいる者もいれば一匹しか連れてない者など数は様々だ。


「元々集めるつもりだったし、手伝ってもらえれば助かるんだけどな」

「それもこれもこれからだ。縁次第だろ」


 リツが優しく言えばナイとヨルも笑みを浮かべる。その目の奥には強い光。これからが勝負だと分かっている瞳。

 あたしが頷き笑みを見せれば、リツが騒めいている魔物達に顔を向け声を張り上げた。


「各種、集落の長や代表者などは前に出てきてほしい。我らが主より説明がある」


 その声でしん、と静まり返る広場。その中から辺りを窺いながらや堂々とした姿で前に出て来る者達がいる。それを確認してあたしは一歩前に出た。


「集まってくれてありがとう。ここのダンジョンマスターの縁です。今日集まってもらったのは、もう説明されてるとは思うけど最終確認のためです」


 言葉を区切り広場を見渡す。真剣な目や懐疑的な目、様々な目があたしに注目している。


「これから先、このダンジョンを住処にして頂いて構いません。ただし、このダンジョンにも皆さんを狩るハンター、人種たちはやってきます。それに対してあたしは貴方達を守ることはできません」

「は?」


 ガストの間抜けな声がした。それと同時に騒めく魔物達。それを気にせずにあたしは声を張る。


「変わりにあたしは貴方達が戦いやすい状況を作り、貴方達に戦う手段を与え、強くなる道を示します」


 各種族の向き不向きはあるだろうが、それでも様々なことは考えられる。


「それから、このダンジョンに貢献してくれた者たちに対しても報いるつもりです」

「貢献ってなんだ!」

「守ることもせずに俺達に何をしろって言うんだ!」


 怒鳴るような声がいくつも上がり、それは怒りを含み大きくなっていく。それに合わせてリツ達三人があたしの前に出ようとするからそれを手で押さえた。


「簡単な話です。ダンジョン運営に対する貢献度に合わせて貴方達に武器などの物資を渡したり住処の環境を良くしたり、他にも食料などの配給なども考えています」


 考えていることは様々あるが、ここで全てを言うわけにはいかない。それにまだ成功するかどうかも決まっていない。けれどもここでその関心を引かなくてはならない。

 様々な怒りの目で怯みそうになるが、それを表に出すことなくにこりと笑う。ガストの殺気の籠った目や侮辱の冷たい目よりマシだ。


「また今ここにいる皆さんはあまりに自分たちの力を知らないように思う。それに健康状態や生活状況も良くないようだ」


 その言葉で騒めく周囲を物ともせずに、視線をゆっくりと動かしその反応を見る。その顔は困惑したように目を泳がせるもの、意味が分からないと疑問に満ちているもの、怒りを覗かせるもの、様々な姿が見える。


「本来、貴方達は神が人間と対抗できるように生み出したもの。それが何故、こうまで人間に押されているのか」


 できるだけ感情を消した声を一度区切り、視線を流すように広場にいる全てを見る。


「簡単なこと。数と経験と知恵の違いだ」


 静かになった広場に、静かに強くあたしの声は響いた。


「ここに居る貴方達のほとんどが各コミュニティー、それも種族事、少数での集落で暮らすことがほとんどだ。特に力の強い者は単独など少数で暮らすことを望むものが多い」


 今ここに居ないものも含め本当に多種多様な種族があり、その生態や暮らし方、なんなら寿命までもが様々に違いすぎる。

 それが一概に一緒に暮らすなどできず、そんなことを強制的にさせれば最後、相反する種族同士で殺し合うか共倒れのどちらかになるだろう。

 それに力有る者ほど尊ばれやすい傾向にあり、それを誇り単体や少数で暮らす者も本当にいるから力とは不思議だ。

 けどそれができるだけの実力がある、ということでもある。


「だからと言って本当であれば協力できないわけではない。各々の暮らし方を守りつつ、他種族ともに協力できる環境を作り経験を重ねていけば、人間と同様に繁栄できる」

「そ、そんなことできるわけがない!」


 どこからともなくそんな声が聞こえると、それはまた連鎖するように数を増やす。


「確かに簡単なことではないよ。ただ、できないわけでもない。特にこのダンジョンでは」


 あたしは無表情から一転、にこりと微笑み言葉に感情を含める。




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