婚約解消は殿下にしてやられたそうです
わたくしは今どうしようもなく逃げたい。
逃げたい
逃げたい
その笑ってるのに笑ってない殿下から逃げたい
あぁ……オーラが……圧が……
まさに魔王です!
「それで?あの愚弟は何をしているって?」
「いや…あの……」
「ミーア嬢」
ひぃぃぃ。怖い。怖いですわー。
わたくしの目の前にはこの国の王太子殿下
オーランド様がそれはもう魔王のような笑みとオーラで見てくる。
このような状態にいたったのには訳がある。
まぁよくある婚約者の浮気です。
わたくしの婚約者は第二王子殿下であり
その殿下が鼻の下を延ばして男爵家のご令嬢との
みだらな行為をしていたのを偶然、たまたま見た。
というのが事の発端。
王子妃教育もあり、その日は登城して
婚約者になってからも月1のお茶会には顔を出すけれど
誕生日や舞踏会などに贈り物もエスコートもしない
婚約者に愛情もわかなかったけど
一応婚約者。それに相手は王子殿下。
婚約破棄?誰かに相談?
どうしましょう。と悩んでいたら
目の前に現れたのがオーランド殿下。
浮かない顔をしているならお茶でもどう?
と声をかけてくださったのでお言葉に甘える事にし
少しばかり相談したら顔が魔王になってしまった。
というのが今の流れであります。
殿下に相談するのも間違ってたと今さら思う。
でも遅い。話してしまったからには遅い。
よそよそしている私を見て殿下は頭を抱えながら
ため息をついている。
「ミーア嬢はどうしたいの?」
「…え?」
「このまま愚弟と婚約関係を続けるつもり?そもそも身体の関係まで作ってるバカと婚約関係は続けれないでしょ。アレクだってそう思うでしょ?」
「そうですね。私が女性ならバカを殴りますね」
愚弟もなかなかだが、バカもなかなかだ。
アレク様までバカと呼んで…しかも殴るって。
ふふ。何だかスッキリしてきたわ。
「婚約関係は続けられませんわ。…ふふ」
「……何を笑ってるのさ」
「だって……ふふ。殿下もアレク様もバカ呼ばわりにしていらっしゃるのがおかしくて」
「あれはバカでいいんだよ」
この件は僕に任せてほしい。と仰られたので
殿下にお願いすることにし、お茶会は終わった。
王子妃教育はせず、そのまま帰宅していいよと言われたのでそのまま帰宅することにした。
それからしばらくたち
私と王子殿下は婚約者のまま学園の卒業パーティを迎える事になった。
もちろんドレスの贈り物もなければ
エスコートのお話さえない。
私がいったい何をしたのかとどんどん腹が立ってくるほどに何もないのだ。
「お嬢様」
「あら、もうそんな時間?準備お願いね?」
「お任せ下さい!うんと綺麗に仕上げます!」
「???」
何だかものすごく気合いが…
そんな疑問も抱きつつあっという間に準備が終わる。
相変わらず凄腕だ。
「ねぇ……このドレスお兄様から?お父様?お母様?見た事ないんだけど…」
「このドレスはオーランド殿下からでございます」
「へぇ…オーランド殿下から…………え!?」
「さすがでございます。お嬢様をふんだんに引き立てる色合いに殿下の独占欲が強いドレス!まさに最高でございます!!」
「そういう事じゃないわ!どうして殿下が……」
婚約者なら分かる。だけどオーランド殿下は婚約者でもなんでもない。
あれ?……そういえばどうしてオーランド殿下には婚約者がいないのかしら?
時間がありません!と言われ、ドレスを着替える時間もなくそのまま殿下に贈っていただいたドレスを身に着けて行く事にした。
家族とは会場で待ち合わせだ。もちろんエスコートはお兄様。婚約者な訳がない。
学園の卒業パーティには家族も出席することもあり
かなり盛大なのだ。
お兄様と会場で会うとすごい目で見られため息をついた。「……もはや自分の所有物だな」
ボソッと何か言ったか聞こえず
お兄様もそのまま入場した。
会場に入るなりすごい見られる。
そりゃそうよね。婚約者が違うご令嬢を連れているんだもの。学園でも散々見てきた光景だわ。
ドレスだって揃えてある。王族にしか使えない色まで使ってある。
「色まで使って……とんだクズだね」
「えぇ、クズですわね」
お兄様とそんな会話をすると陛下とオーランド殿下
王妃様がご入場されるとアナウンスがあり
私たちは礼をとる。
顔を上げるとオーランド殿下と目があいニコッとされる。
思わず目を逸らしてしまった。
そこで陛下からお言葉をいただく。
「学生の諸君、卒業おめでとう。このような素晴らしい時に私からも素晴らしい発言をしようと思う。王太子のオーランドには婚約者がいなかったがこの場をもって婚約者を伝えようと思う」
会場はざわつく。当たり前だ。未来の王妃になる人がこの中にいるのだから。
でもどうして今なのかと疑問にも思う。
あの日からお茶を共にし、話してきた殿下に婚約者が出来るって思うと悲しくなる。
……聞きたくない!
「ミーア・サンセスト公爵令嬢をオーランドの婚約者とする」
会場がざわつく。
ミーア様って第二王子殿下の婚約者じゃないの?
いつ婚約解消したんだ?
実はしてなかったとか?
エスコートされてるの見た事がないしな
と、次々に話はじめる
当の本人は口が空いて呆然としている。
パニックである。
「父上!ミーアは私の婚約者です!兄上と婚約って聞いてません!それにいつ婚約解消したのですか!?」
第二王子殿下の発言を聞いて陛下は怒りだす。
「……”婚約者だった”の間違いだバカタレ!お前は今も違うご令嬢を連れているではないか!認めてもない令嬢に王族の色まで使わせおって!」
「好きにしろと仰ったではないですか!」
「お前がそんなに阿呆だとは思ってもなかった!お前はきちんと読まず婚約解消の書類に名前を書いたではないか!私の前でな!!ミーア嬢はオーランドにしてやられたけどな。お前は婚約者でも婚姻関係でもない令嬢と関係を作っておる!よってミーア嬢との婚約は解消!ガーディアス第二王子は本日をもって廃嫡とし隣にいる男爵令嬢と婚姻をしろ!!お前は騎士団にでも入って根性から鍛えてこい!!」
「…そ…そんな…」
膝から崩れ落ちる第二王子。
そんな王子をよそに私にオーランド殿下が近づいてくる。
さっきの陛下の言葉は何?
してやられたって何??
いつ解消していたの?
「聞きたい事がいっぱいのようだね。ジェニス、ミーア嬢を借りるよ」
「ダメだと言ってももう無理ですね。ミーアを頼みます、殿下」
「やめてくれよジェニス。君とは昔からの友なんだ。今までのようにしていてほしいな。さぁミーア嬢、手をとっていただいても?」
私はいつから殿下にしてやられていたのかしら?
聞きたい事が沢山ある。だけど時間も沢山あるからゆっくり聞いていこうとも思う。
お兄様にも後でお話を聞かないとダメね。
私は殿下の手をとって歩きだす。
その後殿下から婚約者が居なかった理由を聞き
悶絶することになる。
1年間留学している間に弟と婚約してて
傷が癒えるまではしないと言ってたら
その弟が婚約者になんにもしていないと聞いた時には
陛下に賭けを申しこんでいたとか。
婚約解消の書類も巧みに仕込まれていたそう。
殿下と約束事をする時に署名したのだ。
私のと自分のと2枚署名してほしい言ったときに
2枚目の書類は同じ内容だからと署名する所だけずらしてあり、私は疑いもせずに署名した。
その2枚目が婚約解消の書類だったそうで。
婚約継続なんてまっぴらごめんだったので解消出来て良かった。
父と兄はしばらく仕事もせずに家に居たことがあったけど、あれは陛下への嫌がらせだったみたい。
あれは陛下と仲のいい父だから出来た事である。
私が知らない事がいろいろあって驚いたけれど
賭けに勝った殿下は私をやっと婚約者に出来ると
幸せそうに笑ったのだった。