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空飛ぶクラゲは何で飛ぶ?

作者: 目音

もしこんな夢を見たら貴方はどうしますか?


――少し少年のように、だけど不思議な空間に迷い込んでください。

 もしも、あの空に浮かぶ月に行けたら、それはそれは素敵なことではないか? クッキーで作られた船に、水あめで張られた帆、スポンジで作られたオール、そんな夢のようなもので行けたらいいよな?

 だが、現実は夢を打ち砕いて、私たちに過酷で辛いものを目の当たりにしたのだ。それでもガガーリンが言ったあの言葉は忘れない。

「地球は青かった」

その言葉に私という人物はどれほどの夢を持っただろうか、いや持たない訳がない、それは人として生きる意味として一つの意義に成りえることであるからだ。

だから、私は何気ない空の下、何気ない教室の一角でこう呟いた。

「神はいなかった…か」

ため息、一息、またため息。

 窓から見える昼間の月は、ただ私を見て笑っている。

 そんなことに落ち込んでいても仕方がないのは知っている。だけど、私はそんなに利口ではない、いつまでも「夢は見たい年頃」なんだ。

「青い、蒼い、地球は青くても俺たちは黒い」

なんてことを机に伏して呟く。別に深い意味はない、深い意味はないが多分、言う意味はあったに違いないだろう。

「そう、僕たちは黒い」

机を挟んだ私の友人の声は、そんなに面白いことじゃないだろう? それがどうした、と、きっぱりと答えている。

 だが私はそれに反論はしない、この友人はそういう思想の元に動いている、ものだと思っているからだ。むしろ「そうじゃない」と反発を受け、その先延々とうんちくを語られるよりましだからだ。

 私は友人の顔をこっそりと見つめる。

 そこには言葉とは裏腹に、私と同じように笑う月を見つめる友人の姿がある。もちろん同じ事を思っているかどうかは本人に聞くしかないが、そこは暗黙の了解というもんだ。

 もう一度机に横顔を着け、長年使われた優しい香りを堪能すると、暫し目を閉じる。

 呼び起こされるのは遠い昔の記憶、子供の頃日記帳に書いた不思議な記録、私は曖昧な境界線の間に落ちていく。

昼間の頭上を通り過ぎるトンビ、その声を聞くたびに子供の私は少し興奮していた。

 夕方カラスが鳴けば、私は暮れる世界に寂しさを覚えていた。

 畦道を走る私はどこへ向かっていたのだろうか。

 子供の頃というのは何かしら無理をしていた気がする。でもそれはあの頃の私自身には気づけないことばかりで、今になって思えば首を傾げることばかりだ。

 だから。なのだろうか、私は少しばかり変わった少年だった。いや大いに変わった少年だ。

「おはよう、やっとすり替わったね」

聞き覚えのある声に私は目覚め、首筋をぽりぽりと掻きながら草むらから身を起こす。

肩の高さまで伸びた草が、夏の暑くて焦げた匂いが一瞬ここはどこか解らなくさせる。

「いや、何がなんだかわかんないけど……すごく遠い夢を、見てた気がする」

少し痛む頭を抑え、ゆっくりと立ち上がる。そしてそこがやっと廃材置き場の横に面した放置された空き地だ、と理解した。

「そっか、でもやっと起きたんだ、よかったじゃないか、このまま目が覚めないかと思ってたよ」

心配そうに見つめる友達、でも深く被った麦藁帽子のせいで顔がいまいちはっきりしない。

 それから、少しの間友達の順序の落ち着かない必死の説明を受け、私は廃材の上に上る途中、足を滑らせてここに倒れこんだらしい。なるほど頭が痛い理由はよく解った。

「でも、なんで俺上ろうとしたんだっけ?」

「ん? 覚えてないの? だって僕が冗談半分で「ジェットコースターをつくってあの月まで行こうよ」って言ったら、じゃぁ廃材置き場に集合、なんて言うから……だから、それの材料探し」

友達がガムテープと鋸を私に見せ、鋸で昼間に浮かんだ月を指した。

「あぁ……そっか」

私は風で飛んでいかないよう、麦藁帽子のゴムを首に掛け、鍔を上げ、太陽のせいで目立たない月を見つめる。

 何故ジェットコースターかと言うと、この当時私とこの友達は遊園地に行ったことがなかったのだ、だからジェットコースターが「とんでもなく早いもの」としか認識がなく「じゃあそのスピードなら宇宙までいけるよね」なんて話していたのが、原因だ。

「そういえば、夢の中でもこうやって月を見てたよ」

「えっ、本当かい!? それじゃぁそれはいい夢だったね……」

そう言って笑い、友達も月を見る。

 その時、幼い頃の夏の余韻を掻き消すかのように、横の廃材置き場で、ガシャン、という大きな音がした。

「行ってみよう!」

驚いて固まる私を、友達のその声が動かした。

 少し走ればどこか故郷を感じさせる風が肌に当たり、廃材置き場独特の誇りっぽいにおいが鼻を突く。

「……なんだ、ただのトースターじゃん」

私はその時心底がっかりした。もちろん想像したのはありもしない摩訶不思議な出来事だ。

「いや! まって、もしかしたらこのトースターで作れるかもしれないよ!」

友達が地面に転がるトースターを「さも大発見をした時のアインシュタインような顔」をして見つめる。まぁ実際どんな顔かわからないけど……

「いや、できるのはギャグの出来損ないやろ、「ジェットトースター」笑えないよ、噴出すのは炎じゃなくてパンですか?」

何を言い出すのかと思って期待した私は首をがっくり落とす。

「違う、そういう意味じゃないよ。僕が言うのはトースターの熱を発する構造を利用してエンジンが作れないかな、って言っているんだよ!」

 今の私なら、こうも真剣に無理難題を言う友人を全力で否定するだろう、だが、この時の私はまだ子供だ、少し小難しいことを言われると“それっぽく聴こえてしまう”から不思議だ。

「……す、すげぇ! お前すげぇよ、大発見じゃん! ほ、他には、他になにかないかな?」

感嘆の声を上げる。その顔は希望に満ち溢れているのだろう、今にはないものだと、心の中で舌打ちをする。

「ん~っとね、あっ! 電子辞書の自動で言葉を絞る装置があれば、月までの最短距離を探すことができるかも!?」

その言葉で私の限界は臨界点を有に超えていた。友達の次の言葉を待たずにトースターと電子辞書を廃材置き場から必死に探し始めた。

 もちろん、そんな二つだけで宇宙まで行ける筈もなく、ましてやジェットコースターすら無理だろう……と、思った人はどれだけいるだろうか? これができるのだ。不思議なことに――

 日はすっかり傾いていた。蝉の鳴き声はひぐらし一つになり、少し寒い風が吹き付ける。

「さぁ! できたぞ! ジェットコ……ジェットトースターの完成だ!」

友達が両手を挙げる。ああ相変わらず記憶というのは曖昧で実に都合のいいものだ、昔に行けば行くほど薄れて、ぼやけて、やがて現実味を失ってくる。

 目の前に置かれた子供一人乗れるかどうかのジェット、いや「箱舟」は私たちの都合のいいように作られここに居る。

「さあ、君が乗るんだ!」

「いや、ここはお前が乗るべきだ!」

私は体中泥まみれの姿で、友達もまた泥だらけで、箱舟を挟んで向かい合っていた。

「何を言っているんだい? 僕は博士で君は助手兼パイロットじゃないか! 僕は飛び立つ船をちゃんと見届けなくちゃいけないんだ! さぁ!」

そう言って、友達は私の後ろに回り背中を押した。

「そ、そんなことできない! じゃあ、今から二人乗り用に作ろうよ」

「いや、それはできない……だって、君が必死で探した材料はあれで全部だったじゃないか……それに、僕は君が旅立つところを見たいんだ」

がし、と後ろから肩を掴まれ私の背中に友達の顔が当たる感触がする。

 彼は、泣いていた。

 なぜかはわからない、これも私が作った記憶だろうか、だけど背中に当たる友達の頭はとても温かくて、でも言葉には少し悔しさとかが混じっていて、とても夢とも思えなかった。

「…わかった、でも俺は一人じゃいかない」

「だから、もう二人乗りの材料は…!」

友達の言葉を遮るように私はこう叫ぶ。

「だから! お前の“気持ち”と一緒に月まで行って来るよ」

友達は背中に悔し涙と、嬉し涙を流し、私の背中に顔を押し付け、笑い、最後の一押しを私に送った。

「じゃぁ、いってらっしゃい」

「うん」

私がそれだけ言うと、箱舟は線路もなにもない道をゆっくり進みだし、目の前に浮かぶ三日月目掛けて動き出し、段々とカタカタと音を立てて、私が居た町を見下ろし、山を越え、雲を突き抜け、上に上に昇っていく――

 最後に見た友達の顔は、たぶんあのお月様のように笑っていた。

 と、そこで私の記憶は消えてしまう。厳密に言うと「覚えていない」だ。

 実際あったのかどうか……いや、誰がなんと言おうとこれは確かにあったのだ。少なくとも私はそう思いたい。

「やぁ、おはよう」

突然肩が揺らされ、月を見ていた私は飛び起きる。

 寝ぼけたような薄らぼんやりした意識で辺りを見渡す。

 目の前には机を挟んで、いつもの友人が心配そうな顔でそこに居た。

「どうだった? 夢の中の記憶の夢と夢の世界は?」

友人は、私の安否を確かめた後、窓の外を見ながら、奇怪なことを一言呟いた。

 それに私はぼんやりした意識を頭を振って覚ましこう言った。

「ん? 楽しかったんじゃない? 月にも行けたみたいだし」

私はため息をつきながらそう言った。だって楽しくないだろう? そんなことを聞いても。

「へぇ、宇宙そらには何があったんだい?」

「ん~、そこらへんよく覚えてないんだけど……あぁ、確かくらげっぽいの見た気がする」

私は妙に痛む頭を抑え、そう答えた。別にふざけて言っているのではない、実際に見た“気がする”から言っているのだ。

「…へぇ」

友人は興味が無さそうに答える。当たり前だ。

 でも、その言葉に、この夢に私という人物はどれほどの夢を持っただろうか、いや持たない訳がない、それは人として生きる意味として一つの意義に成りえることであるからだ。

だから、私は何気ない空の下、何気ない教室の一角でこう呟いた。

「神は居なかった」


ショートショートで本当にすいません。

長いお話を書こうとするとどうしても、変な方向変な方向へ流れてしまうので、ちなみにこれは小説を書き始めて……覚えてないや(汗

 これを気に他の作品もちまちまと読んでいただけると光栄です。

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