チュートリアルはもう終わり?-セーミニの街-
3話 4分の3
明るく綺麗な森の中で、彼らは……全員が地面に座る、または倒れ込んでいた
「死ぬかと思ったぁ…」
「私なんて独自系統魔法…実戦中に作り上げたんだぞ」
「あの独自系統魔法やっぱり途中で作ったのね…」
『対魔法使いみたいなことしてたし』
「壊す対象をちゃんと解析し終えたうえで、何か物に付与しないといけないのでそこまでだぞ」
「そうだろうか…」
「それにしても私ほとんど何もしてませんね…」
「水戸さんは色々やってたでしょ…俺は何もできなかったけど」
『いや、夢宗は僕の命を救ったんだよ?』
「お前の魔法の力を借りてからだけどな?」
「まやたんは最後目立てたから文句なーし☆」
「剛射疲れるし、腕痛めるわ…」
『僕が倒れる前に…街に行こうよ』
「そんなまずいのか?」
『この補助魔法とまやにかけた補助魔法を何回か延長してるから…そろそろ魔力切れそう』
「おっけ急ごう」
夢宗が立ち上がり、それに続くように全員が立ち上がる
すでにヒノミに言われた直進の方向は覚えていないが、きっとそれを覚えていなくとも街に行けるようにしてあるはずだ
「今頃気づいたんだけどさ…俺らリュック背負ってたな」
「確かに…存在忘れてたな」
『逸人が忘れていた…だと』
というように、全員がリュックを背負っていることを忘れていたという出来事があったが、彼らはついに森を抜け…
「おぉ…」
「すっごぉ…」
『異世界だ…』
「雄大ですね…」
広がった景色に…足を止めた
『ん?』
皆が景色を見ているなか、森の外が丘の上であったこと、広がる丘のその先に街が見えたこと、一気に視界が広がったということ…それら全てを忘れ刹那は思った
『あれ、これ…街まで耐えられるかな』と
ちなみに結構限界である
『…』
ただこの景色に見惚れているような友人達に急いで移動しようなど…言えるだろうか
今の自身の状態がわかっていないのに、魔力が切れて倒れるなんてことになったらどうなるかはわからない
リュックを漁ってみる
中身が拡張されているそれの中身にはヒノミが言っていた、食事、寝袋などが入っていた
食事はヒノミが『クッッッソまずい』と言っていた保存食であることに少しイラッと来たが、そこは重要ではない
そして目的のものを見つけた
隠しポケット、そしてその中に魔法製の特殊容器に入った黒色の液体…
魔力回復薬である
『…はぁ』
蓋を開け、容器を咥え、上を向く
黒色の絶対にやばい液体を強引に流し込む
ものすごい苦味が口の中を支配した
強引に喉を通し、飲み込む
少し感じる血の味がとても美味しく感じる程の苦さであった
『ケホッ…』
死ぬかと思いつつ、咳き込んだ
魔力回復薬は入っていても、普通の回復薬、魔法薬は入っていなかった
「…何してんだお前」
『ヒノミさんなら絶対入れてると思ったから探したらあった…から飲んだ』
「感想は?」
『死ぬ』
「ダメじゃねえか」
刹那と逸人が漫才を始めると全員が見惚れていた状態から帰ってきた
その後、なるべく急ぎながら歩き、街の門の一つに到着した
門の前にヒノミが立っている
「待っていたのじゃ…ん、首刈りの気配?」
「わかるのか?」
「誰が……刹那か、おぬし強引に補っておるな?」
『はい』
「テフィヌ」
「わかりました、すでに名前は聞いてますから問題はないです」
「助かる」
ヒノミが指を鳴らす
視界がブレて、壁に装飾が彫られた綺麗な白い部屋に変わる
「ウォレイ、ネイレン!」
ヒノミが人の名を呼ぶと、ドアが開かれ、男性と女性が1人ずつ現れた
「治療ですね、わかりました」
「…中傷者は2人、緊急治療者1人…先輩、私が緊急治療を」
「ええ、私は他の方を担当します」
「聖より歌え“聖力”」
『え?』
「暴れないで怪我をするわよ」
女性と男性が次々と素早く会話し、流れるように魔法を使った女性が刹那をお姫様抱っこして、部屋から出ていった
あまりの急展開に誰も声を出せなかった
「安心してください、ここは教会…その特別治癒室です、私は司祭のウォレイ、先ほど彼を連れていった女性は武神官のネイレンです」
「チキュウでいうところの病院と考えれば良いらしいぞ」
「な、なるほど」
「あの、なぜ刹那さんが連れて行かれたんでしょうか」
「ああ、彼は今すぐにでもつきっきりで治療が必要でしたので…いやぁ、あの状態でよく耐えられていましたね」
「そうなのか…」
「では皆様の治療をいたしますね…聖命の金花よ異常を直せ“聖花の抱擁”」
部屋の天井に人の頭くらいの大きさをした金色の蕾が現れ…ゆっくりとその花弁を開く
完全に開ききると夢宗達へと光が降り注ぎ…その体に暖かさと治癒をもたらした
「ふむ…」
逸人が考え込むような動作をする
「どういたしました?」
「これでもあいつは治せないのか?」
「あぁ…彼ほどの怪我を即座に治した場合、欠陥が発生してしまうんです…例えば『認識の欠落』、『反応の遅延』、『続く痛み』、『脆弱化』などがあげられますね…欠陥を起こさずに治せるのは本当に一握りの人だけですよ」
「ふうん…」
「で、あやつはいつ治りそうなのじゃ?」
「明日の朝には…ですね」
「ふむ、あやつだけ明日かの」
「?」
「ではご支払いは要りませんので…」
「払うと言っておろうに…」
ヒノミとウォレイの会話が進む
「なぁ逸人、ヒノミさんは俺らと何をする気なんだ?」
「なぜ俺に聞く?」
「お前なら知ってるだろうと思って」
「知らね、おそらくクレアードに行くんだろうがな」
「あなたも興味はあるのね」
「私は逸人らしいと思ったぞ」
「なんだお前ら揃いも揃って」
彼らがそんなふうに盛り上がると、ヒノミの話が終わったようだ
「おぬしら行くぞ」
「うーい」
「気力が感じられんのう…」
教会の治療室の扉を開き、外に出る
ワイワイガヤガヤザワザワと…思いつく限りの人声の擬音語を並べられるような程に活気のある街に出た
「ここはセーミニの街、四方に森、湖、谷、丘の違う地帯を持つ特殊な土地の真ん中に存在する街じゃ」
ヒノミの説明を聞きながら周りを見れば、たくさんの露店が並び、さまざまな人々が大通りを歩いている
耳をすませば、そこかしこから値段交渉の声や値段を告げる声、買うことを決めた声などが聞こえてくる
「ここは大通り、商人やレーダルが主に使う場所じゃ、基本住民は大通りから少し離れたところに住んでおる」
「すごいもんだ…馬車が二台通るスペースを完璧に開けて商売してやがる」
「まぁここまで盛り上がっておるのは…おぬしらのこともあるのじゃぞ?」
「え?」
「ワタシの弟子になったじゃろ? で、ワタシがぬしらのことを話したらこうじゃ」
「えぇ…?」
「今日言ってこれな訳はないよな…いつ言ったんだ?」
「9日前じゃ」
「初日じゃねえか」
「今後しばらくはこうじゃろうな」
「あぁ、情報の伝達に時間がかかるからですか」
「だが、いい街じゃぞ」
「まやたんもそう思う☆」
その後大通りを歩き、馬車が来たら横道へ避け、通り過ぎたら大通りに戻るを繰り返しとある建物の前についた
「セーミニクレアード本部」
看板にはそう書いてある
「…クレアードの本部はここなのか?」
「ん? 違うぞ、セーミニは大きな街じゃからクレアードがあと四つあるのじゃが、それらを統括しとるのがここじゃ」
「なるほど」
「(クレアードの本部がここであったら、この街はもっと盛り上がっておる)」
ヒノミが小声で彼ら以外の周りに聞こえないように呟いた
何故小声なのだろうかと全員が疑問を抱いたそのとき…
「なんですか、なんでしょうか…冷やかし、冷やかしですか?」
金髪に長く尖った耳の少女が現れ、ヒノミへ話しかけた
「チッ、現れおったなニリシナ」
「私に聞こえるように、聞こえるように話しましたね」
「さぁ、なんのことだかのう」
「えぇ似合ってません、似合っていませんよ…あの方の真似をしてもあなたはあの方にはなれません、なれないのです」
「ワタシよりも20年はやく産まれたくらいで姉ぶられても困るのじゃ、これは追ってるわけではない…もう…ただの…癖じゃ」
「…老けて見えますよ、老けて見えますね」
「ただの人であればすでに老人じゃ、老けていて当然じゃろう」
「はぁ、どうしてこんな子になってしまったのでしょうか、どうしてでしょう」
「貴様の子ではない!」
ヒノミがキレながら、手で相手に何かを伝えている
それを見た彼女は、夢宗達の方を見て、にこりと笑い、話し始めた
「私のことを知らない人もいるので、自己紹介致しましょうか、話しますね…私はニリシナ・ヴァエント…ご覧の通り森人族にございます、森人族です。私はここでセーミニの街のクレアードのまとめ役をさせていただいてます、クレアレンをしております」
こちらを見た彼女の目の下にはくまが見え、顔色も悪く…明らかに体調が悪い見た目をしている
だと言うのに、しっかりと地に足をつき、その手にはしっかりと書類を……おそらく仕事の書類を持っている
どうやらヒノミの知り合いはヤバい人なのかもしれない
ちなみに、クレアレンはクレアードの支部のトップ…つまり冒険者ギルドのギルドマスター的な枠である
「まぁいいのじゃ、はやくこやつらをレーダルにするのじゃ」
「すでに…書類はできています、できていますよ」
「ほお?仕事が好きすぎてついには未来の仕事まで先んじてやっておったか」
「ええ、素晴らしいでしょう?素晴らしいですよね?」
「はぁ…貴様はそれさえなければ…まぁ良い、なら早く探究証を渡すのじゃ」
「あなたはそこまで忘れたのですか、忘れてしまったのですね…角兎を討伐した後です、後なんです」
「覚えておるわ! こやつらが森の試練を超えたからそんなものがいらぬと言っておるのじゃ!」
「規則です、規則なんです、諦めてください」
「なら、レーダルについての説明だけ頼むのじゃ、それが終わったら転移で西のクレアードに行くのじゃ」
「しょうがありません、しょうがないですね、説明いたしましょう」
彼女の特徴的な喋り方のせいでわかりにくいため
要約して説明すると
活躍を夢見て『レーダル』となるものは多いが…実際はほんの一握りだけが夢を掴む…厳しく苦しいものであるということ
その願った夢を叶えるものの少なさから…『叶わぬ夢に魅入られたもの』とまで言われるということ
そして、『レーダル』として動く中での、怪我も死も自己責任としかいえないということ
誰もが、夢宗達のような鍛錬をしてきた状態では始まっていないため…自分たちの尺度でものを語ってはいけないということ
が主な内容であった
最後の言葉に関しては、語る相手によって内容が違うらしい(後から聞いた)
「…まぁそうじゃのう、西のクレアードに行けば、自ずとわかるじゃろうな」
最後の言葉の意味を聞かれたヒノミはそう言って…クレアレンから受け取った資料をしっかりと片手で持ち指を鳴らした