表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
導きのない新天地  作者: 風雷 刹那
第2章 セーミニの街
20/20

その眼が観るもの

クローア生活21日目


…大変遅れました。

書き進められなくてとても大変でした。

初の湊メインの話だと思う。




「…はっ…!」



バンッ!と音が響く


間髪入れずに矢筒から矢を一本掴みとり、弓につがえ…弦を引く



「すぅぅうう……」



数メートル先の鳥型にした訓練人形の頭にしっかりと狙いを定め…



「はっ!」



手を離す


放たれた矢が、頭に思い浮かんだ通りの軌道を辿り…

ザッ!と音を立て、人形の頭へ突き刺さる



「……アーチェリーやった時はこんな簡単には行かなかったんだけどな…」



地球でアーチェリーを体験した際のことを思い出しながら呟く



「風に乗れ“風翔(カザトビ)”…繋いで‘戦技:真一歩(しんいっぽ)’」



白い狼耳野郎と金髪に教わった魔法を用いて素早く前に跳躍し、あのヒノミから教わったどんな場所であろうと一歩を歩める戦技で空中跳躍をし、人形の前に一瞬で着き、その頭から矢を引き抜く



「止まった獲物ならば、確実に当てられるようになった…か。わけがわからんな」



訓練用の人形だけに、突き刺さった矢が全く変形していないことを確認し、矢筒に入れる



「…やっぱ持ちたいのは銃だな」



いくら弓が上手く扱えるようになったからと言って、趣味と憧れは捨てられない

レーダル仲間曰く、たまに使っているレーダルや実力者がいるらしいがやはり銃はこの世界でまともに作り出すことのできるものではないらしく迷宮で手に入ったものを使っているのが基本なのだとか

または魔法で再現するか…だそうだ


魔法で再現できると聞いたときは、刹那と茉里に半日程度粘着し、ついに実験させることには成功したが……実験自体は成功しなかった


ちなみに、この世界は完全に銃を作れないわけではなく、銃のようなものを作れたことはあるらしい

ただ、オレらやヒノミ…さんやその知り合いではどうしても作れないのだとか…



「はぁ…今日の狩りに行くか」



ヒノミ…さんが言うには、セーミニの街で20日程度依頼などをこなしたら、俺らを迷宮に連れてゆくらしい

だから今は、それに期待して狩りをする毎日である


例えば今手にあるものがSRだと想定して射ってみたり、矢を5本程度掴んでSGの気分で矢をばら撒いてみたり…色々した



自室に戻り、ポーチを巻きつけ、邪魔にならないリュックを背負う

防具を身につけ、2時間ほど前(朝起きてふらふら家中を散歩していた時)に刹那に突然渡された試作品だという鞘付きの短剣を腰のベルトに固定する

…俺、短剣の使い方知らないんだが



「さて、行くか」


「頑張るんじゃぞー」



家主の声が玄関に聞こえてきた

今日は一回目の昼あたりから用事があるらしく、それまで珍しく家でだらだらしている家主に応援されるのは腹が立つな



「はぁ…」


「なぜため息なのじゃ!?」


「行ってくる」



対応もめんどくさいので、足早に玄関から飛び出し、庭を超え、森に飛び込む

おし、街が見えた

あ…



「ん」



背中から弓を取り出し構え、矢をつがえる

狙うは、レーダルの男と魔物の戦闘に乱入しようとする鳥の魔物



「すぅうううう…」



空から急降下でレーダルに攻撃を仕掛けようとする鳥の未来位置を予測する



「はっ!」



矢は弧を描くように飛び、急襲する鳥の魔物の翼に突き刺さる

翼に矢が突き刺さったことによる重さの変化、翼へのダメージによる飛行難度の上昇により、鳥の魔物はバランスを崩し、狙ったレーダルへ攻撃を行うはおろか、その横の地面へと急降下で加速したまま、頭から墜落し、白く光る血を周りにぶちまけ死に絶える



「次だ…」



二本の矢を矢筒から取り、同時につがえる



「…すぅぅうううう」



狙うはレーダルの彼と戦う魔物

おそらくだがあれはここ、西の丘の浅い地点の魔物ではない

そして、彼は依頼を終えて帰るところだったのか、疲労が目立つ



「はっ!」



まず一本



「ふっ!」



すかさず2本目を放つ

即席な速射だ

実はこれ戦技の速射よりも矢と矢の間隔が短く射れる

とはいえ、戦技のように3本は無理なのだが


全身鋭い形状の謎の魔物が矢を弾く

そこに彼が攻撃を仕掛け、注意がそれたところで矢が頭(と思われる部位)に突き刺さる


突き刺さった矢に反応した魔物へ、彼は真上に構えた大剣に雷を纏わせ…勢いよく振り下ろした

雷撃纏う大剣は魔物の体に触れると、激しく反応し雷光を発生させながら腹部まで左右に断ち切った


なるほど、大剣のそれも大技使いか…それはあのすばしっこそうな魔物とは相性が悪そうだ



「風のように駆けよ“風走(ヘフス)”」



移動速度を上げ、レーダルの彼の元へと進む

どうやら相手もこっちが近づいていることに気づいたようで、手を振っている

近くまで走ると…彼から話しかけてきた



「すまない、助かった」


「いや、レーダルとしては当然…だったか?」


「はっ、それを実行できるやつは少ないぞ? っと、俺はデーファだ。アンタは?」


「オレは、簱矢 湊…いや、こっち的にはミナト・ハタヤか? まぁとりあえずミナトでもハタヤでも好きに呼んでくれ。あと貴族じゃないからな」


「お、おう…そうか……ん? その流れ知ってるな…アンタあれか! ヒノミ様の弟子っつう異世界人の1人か!」


「まぁ、そうだな」



ちなみに、デーファが知ってると言った流れは『苗字 名前で名乗ったのちに、名前・苗字で説明し…貴族ではないと否定する』…というものである

昔から一部の異世界人はこの流れを使うと有名なのだとか…



「いやぁほんと助かったよ。新しい大剣の試用に来たんだが…あんなのに出くわすとは思ってもなかったからよ」


「それは…運が良かったな」


「あぁほんとだよ。アンタ…いや、ミナトが来なかったら死んでた…流石に…西の丘で死ぬのは嫌だわ。よし、ミナト死体持ってくぞ」



どこか遠い目をしたデーファが魔物の死体を大きな鞄に入れ、背負う



「こっちの鳥は…いらないか」


「カネセはなぁ…流石に脆すぎる。それから原型を留めてないから肉にもならん」


「すまん」


「何を謝ってるんだ? あの状況で正確な対処をしたミナトに非はない。あと、コイツの肉売れるとは言え…そこまでだぞ」



白く光る血と肉片と羽が破裂したようにぶちまけられている様子を見て、これを素材にしようと思う者は流石にいない

こんなグロい光景も、弱い魔物のうえに受肉していないため、魔力に変わるか、魔物の食糧として1日も経たずに消えるだろう


歩き出した2人は、ほどほどに会話しながらセーミニの街へと到着した



「あ、金梟くーん!」



優しげだが、騒々しさを伴ったような声が…特殊な渾名で湊を呼ぶ

見れば…門番のレウネが笑顔でこちらを見ている



「あぁ…アンタかぁ…」


「レウネさんが…特別な呼び方を?」


「君は大剣使いくんだね! 大丈夫だった?」


「え、えぇ。問題なかった…っす」


「デーファどうした? なんでそんなに縮こまってるんだ?」


「バッカお前、レウネさんだぞ!? 長命種なんだぞ!? そら縮こまりもするだろ!」


「べ・つ・に! レウ姉は気にしないから仲良くして欲しいなー!」



長命種…それはその言葉の通り長き命を持つ種族を示す言葉

…なるほど、この門番レウネは長命種なのか

知らなかったな

だからと言って…遠慮することあるか?



「うっ…す、すんません」


「別に長命種は敬われたり、恐れられたりすることを目的に生きてるわけじゃないんだからねー!」


「…ふむ、じゃあアンタは…なんの種族なんだ?」



昨日刹那が言っていた

門番レウネの種族がわからないと

それを調べるために解析の魔法でも作ってやろうかと



「ふっふーん…それはねぇ…ひ・み・つ」


「うっざ」


「ちょっ、おま!?」



おいデーファ、コイツ恐れる必要も敬う必要もねーぞ

つーか、オレらの持ち物検査は他の門番が無言で終わらせてくれてんじゃねーか

はぁ…無駄な時間を使わされた



「行くぞデーファ、この人に関わってっと時間がなくなる」


「あ、あぁ…」


「金梟くん。まったねー」



強引にセーミニの街へと入ってゆくなか…



「それと…多分白犬くんが言ったんだろうけど…ヒントだけあげる。レウ姉は、森人みたいに耳は長くないし、魔人みたいな角や尻尾もないし、妖人のような《逸話》もないよ。…ふふ、覚えてたら白犬くんに伝えてあげてね」



離れたはずのレウネの人を惑わすような声が、明確にオレの耳元でそう告げた…気がした








怪我をしているところをチームを組んでいるメンツに見つかり問い詰められるデーファを放置して、クレアードにやってきた

大路地に面した側の壁の殆どをなくして作られている入り口から中を見れば、暇そうな受付に、暇そうなレーダルたちが視界に入る

…いやお前ら働けよ


とりあえず諦め、中へと入る



「ミナトじゃねーか。順調か?」


「ここでサボって酒飲んでるお前よりはな」



酔っ払いが絡んできた

めんどくせぇ



「かっははは! そらそーだ!」


「というかなんで昼前から飲んでんだお前」


「そいつ、フラれたんだよ」


「へぇ、そうなのか…どんまい」


「おい軽いぞ!? もうちょっと励ませよ!?」


「お前の恋愛とか知らなかったしな」



知らないものをどう励ませと?

というかそろそろ離れろ

身長差の問題で肩組まれるのキツい

あと酒臭い



「そうですよアドラグさん、あなたの恋愛に興味がある人なんていません」


「レミネさぁん!? 流石に酷くないか!?」


「そんなことよりもセツナくんの尻尾を触る方法を考えていた方がよっぽど生産的ですよ!」


「そんなことはないだろ」



あの優秀な受付嬢の……いや、特に優秀ではなかったな? 

とりあえず、あのレミネサンも壊れたことは確かである



「でも、ネイレンちゃんもミリィちゃんもリィエさんも、それにティアちゃんだって触ったらしいんですよ!?」


「どう考えてもセツナより実力のあるメンツじゃねえか」


「…というかですね、突然生えた尻尾に困惑しつつもなんとか受け入れた少年…の尻尾を強引にもふもふして骨抜きにする……ってよくないですか!?」


「アンタの趣味の問題かよ!?」


「ネイレンちゃんはやったって聞きました!」


「セツナに同情してきたわ」


「それより依頼を受けさせてくれ…」



そろそろここにきてから5分経つんだが?














「失礼しました。取り乱しました」


「取り乱すなんてレベルじゃなかったが」



きっかり30秒でレミネは復活した

これでやっと依頼を受けられる



「レミネ先輩…真面目に仕事してください」


「む、後輩ちゃん。私はしっかりと仕事してますよ?」



いやどう考えてもしてない



「ほら、そこの…ミナト、さん…も困ってますよ!」



名前うろ覚えなら呼ばなくて良いんだぞ



「あぁ! ごめんねミナトくん。いつも通り君向けの依頼は選別しておいたよー」


「ども毎回毎回助かります」



選別されてはいるが割と大量にあるんだよな

後輩らしい受付嬢が呼ばれて別のところへ行くのが見えた



「あ、そうだ。セツナくんが今北の森にいるらしいんだけど、帰ってこないから様子を見てきてほしいな」


「めんどくさ…ならこの〔緑鼯〕デア・シドでもやるか」


「〔緑鼯〕なら他にももう一個くらいできるんじゃないかな?」


「…確かに、だとすると」


「うーん。なら、この〔黒狼〕の異常の調査…とかどうかな? 2日前の異常事態に関しての痕跡を出来る限り集めてほしいんだよね」


「あの刹那と夢宗が大怪我したやつか」


「そう。暴走したセツナくんの氷の魔力と魔法で森の一部が凍りついてたりするけど、逆にそれのおかげで痕跡が探しやすいかもって言われてるの」


「?」



どういうことだ?



「つまり、セツナくんの暴走した魔力が森の魔力とぶつかり合って、普通は消えるはずの異変の原因になりそうな魔力が残ってるって可能性があるの」


「ふむ、刹那はこれの調査に?」


「ううん。なんか作った武器の調整って言って討伐系を受けていったよ」


「なるほどな。わかった任せてくれ。出来る限りはやってくる」


「ありがとうミナトくん! はい受領証!」


「…それ事前準備しただろ」


「気のせいだよ?」



この人いつも受領証の事前準備禁止ってルール無視してんな

そろそろあのクレアレンに問題視されたりしてないか?



「あ、ミナトくん。ついでにセツナくんに建物の上を走るのはやめようね…って言っておいて」


「あいつは子供か」



やりたい放題にも程があるだろあいつ



「あと街馬車に乗るなら大通りより、テグ店舗路地前の方が早く着くと思うよ」


「今日は大通りの方で何か?」


「うん。空から魔物が落ちてきて、その対処に時間がかかってるの」


「わかった、助かる」


「じゃ、今度こそ行ってらっしゃーい」


「うぃ」



満面の笑みで大きく手を振り見送る彼女に、小さく手を上げて返し、彼女の言っていた通りにテグ店舗路地へと向かう

彼女のすごいところは持っている情報の量だ

ぼんやりとしていて、ふざけているように見えるが…持っている情報の量がレーダルを救っているらしい


この前の北の森の異変はたまたま北の森に行っている人がおらず情報がなかった故に起こった事故らしく、ものすごく気にしていた

いくら北の森が不人気とはいえど普通はそうならないのだが…街の外へ出る依頼が多くそれが理由で事故が起きたのではと言われているらしい


その原因をオレも調べに行くわけだが

とはいえあれから90時間程度は経っているわけで…すでに取れる情報はもうないと思うのだが



「っと…ついたな」



テグ店舗路地前に着き、馬車を待つ

お、来たな



「北門まで頼む」


「お客さん運がいいね。大通りを通るヤツは今止まってるんだ」


「レミネにそれを聞いてここに、な」


「あー…あの人か。相変わらず情報の入手が早えなぁ」



ほんとにな

それなのに、依頼の整理やらが苦手なのわけわからん

あとポンコツなの

…つうか街馬車いまオレしか乗ってないのか

ふむ…この馬車………

それより街の中央はいつもより騒がしいし、割と大きな魔物が落ちてきたのか?



「お客さん、もうすぐ着くよ」


「おーす」



雑に返事を返し、ポーチの中で王銅貨を4枚手に取り…いつもの街馬車と違うことを思い出す



「そういや、いくらだ?」


「400エルだよ、中央の街馬車と一緒さ。ま、お客さんはヒノミ様の弟子だし、値引きしてもいいがね」


「ならっ…」



周辺の音や風から場所を判断し、馬車から飛び降りる



「値引きしてもらおうかな」



道に降り、王銅貨を少し驚いた様子の御者に軽く投げる



「“風よ(ヘテ)”…っと、どこが値引きですかい。しっかり4枚あるじゃないですか」


「200エル払った、残りは本来500エルのところを400エルと嘘をつき、さらに半額に割引いたアンタへの施しだ」


「あれま、バレてましたか」


「それと残りの100エルはツケにでもしておいてくれ。アンタとは今後も関わりそうだ」


「そうですかい。それではありがたくその縁、もらっておきますね。あっしは、いや私はミトスロ。テグの馬車乗りさ」


「了解だ、んじゃ」



馬車の制御と魔法による補助があり得ないほどに上手かったことを考えて、縁を繋いでおいた

今度この街を出て活動することがヒノミに許されたら手を借りよう



「さて、と…」



北の門の前に立つ

ここはいつも人気がないな…

そんなことを考えながら門を抜けようと近づいてゆくと



「ん…? お前は…ヒノミ様の弟子…の……あー、誰だっけ?」



中身がだいぶ減った酒瓶を持ち、だらしなく椅子に座り、だいぶ気崩した門番の格好をした男が話しかけてきた

不審者か…?

ふと右手が腰の左側につけられた短剣に伸びる



「ちょっと待て待て待て! 俺はここの門番! 門番のアルフレッド!」


「…もん……ばん?」



もう一度、男の姿を見る

右手に酒瓶、なぜかある椅子にだらりと背中をくっつけ手も足も力を抜いており、門番の証であるはずの本来きっちりとしたはずの気崩された服装…と視界の端にテキトーに置いてある取り外された鎧部分


やはりただの不審者では?

もう一度短剣に右手を伸ばし、止められた



「ま、まぁ俺がまともに仕事をしてないのが悪かった。だからその、な? すぐに武器に手を伸ばすのをやめてな?」


「…門番証はどこだ」


「門番証…? あ、あぁ! ちょっと待ってろ」


「おい待て動くな!」



門番証の提示を求められたから逃げたか?

いや、オレの反応よりも遥かに早く動いたことを考えると実力差は圧倒的…あいつが嘘をつく理由はないのでは?

…帰ってきたし



「ほれ、門番証」


「あぁ、確認した…が、すまん…とは言わんぞ


「だはは! まぁそうだな。この街(セーミニ)にいるやつには大抵知られてると思ってた上に、北の森に外部の奴が行くなんてそうそうねえからな…改めて自己紹介といこう。門番兵として働いて6年、それまでは21年間レーダルを続けていたおっさんこと…アルフレッドだ。歳は42…だがまだ体が衰えねえときたもんだ。とはいえ、レーダルの夢追主義に飽きちまったもんだから門番になった…これでいいか?」


「酒飲んでることの説明どこだよ」


「それはサボりだ」


「アウトじゃねえか」


「ま、俺は一応門番の中で最強を名乗らせてもらってる。だからこんなことも許されんのさ」


「…レーダルの最高到達ランクは?」


「ν+だな」


「…まじかよ」



地味にこの街にいるレーダルの最高ランクより高い



「ま、セーミニは平和だからな。俺みたいな高ランクは生まれにくいもんさ」


「はぁ…通してもらうぞ」


「おうよ。森に行ったらセツナに遊ぶのは程々にしろよって言っておいてくれ」


「あいつ伝言多すぎだろ」



なんでオレが伝えなきゃいけねえんだよ

そう考えつつ、門を抜け…北の森へと進んでゆく


多数の魔物のいる北の森は普通に考えれば良い狩場である

だが、森ということで見通しが悪いということ、厄介な魔物が多いということ、基本火力の高い属性の魔法が大抵使えないということ…などの理由から嫌われているため、狩場にされることはほぼ全くと言っていいほどない



「…はぁ。ここはいつ来ても空気が悪く感じるな」



北の森に来るのは4回目だが…そんな言葉が出た

刹那はここに割と通っているとかなんとか

木漏れ日が幻想的な雰囲気を醸し出し、木々が怪しげな雰囲気を纏っている



「…戦闘音」



北西側…この音は魔物と魔物の戦闘音じゃない

人と魔物の戦闘音だ

だとすると刹那か

…運良く〔緑鼯〕デア・シドと戦ってねえかな

あのムササビ全然矢あたんないんだよな

まぁ、その分鍛錬には良いが


地面に落ちている枝や葉を踏み、音を立てないよう慎重に進みつつ、時には木を蹴って強引に先へと進む

そして、戦闘音が目の前に近づき…



「頭を下げろっ!」



鹿の魔物の角に紐のようなものを巻き付け、地面へと引いている刹那の姿を見た

なんだこれ



「りゃあっ!」



次に右手に持ったナイフを刹那が引っ張ると鹿の魔物の体が浮き上がった

…は?



「だぁぁ!」



そのまま地面へ叩きつけると、その首へ体重をかけてナイフを刺し…



「…あぁぁぁ!!」



数多の魔法陣を纏いつつ、引き抜いた

鹿の魔物の首に大きな傷ができ、勢いよく白く光る血が流れ出る

何してんだあいつ



「返しの耐久性よし。刃本体の耐久性…悪し。思ったより脆かったな…師匠にもっと錬金魔法教えてもらうか」


「何やってんだお前」


「あれ? はたさん? どうしてここに?」


「レミネから伝言『屋根の上を走るな』」


「…う」


「アルフレッドから伝言『遊ぶのは程々にしろ』」


「…そ、そんなに遊んでませんけど!」



明らかに目を泳がせながら否定するな

あと、ながら作業で手早く解体して、素材を鞄に仕舞い込むな



「…と、と言うかそれ伝えるためだけにここへ?」


「いや、普通に依頼」


「ですよねー、はたさんが伝えるためだけに来てくれるなんてことはありえなかったね」



そこまでオレのこと悪く言う必要あるか?

まぁ別に伝えるためだけに来るなんてそんな非効率なことするわけないけども



「で、お前は何してたんだ?」


「試作品の検証だよ。今朝、はたさんに渡したその短剣とかと一緒に作った試作品の検証」


「…随分とはちゃめちゃしてたが、この短剣になんか変な効果はないだろうな」



さっきの様子を見ている限りありそうで怖い



「んー。特にはない、はず…だけど、ギルドにほんのすこーしだけもらった『大地喰ライ』の素材が入ってて、僕が試しに持ってみたら魔力を割と持って行かれたくらいかな」


「めちゃくちゃあるじゃん」


「ちなみに、その魔力がどうなってるのかはよくわかってない」


「そんなもん渡してくるな」


「僕が考えもなしに渡すわけないじゃん」



そんなことないと思う

いつも『ノリと勢いでやった、後悔はしてる』とか言ってるし

…あぁこれ聞かないと先に進まないパターンか



「…はぁ、で、その考えは?」


「ふふん! 聞いて驚け! 属性相性だよ!」



…何言ってんだこいつ



「まず、僕は基本属性全てが大体得意なんだけどその中でも特に得意なのは氷と水と風…そして土!」


「…おう」


「そして、はたさんの得意な基本属性は土と火、そして風。『大地喰ライ』の属性は土と火…そして土と火の派生属性である『砂』」


「お、おう」



つまり?



「属性的にはほとんど問題はないとみた!」


「…おい、お前一応全ての属性得意ではあるんだろ」


「多分だけど、水や氷が嫌なんじゃないかな…って」


「……朝持った時にお前は魔力持って行かれなかったのか?」


「その鞘が封印装置的な感じになってましてですね」


「ここまで全て説明してから渡せよ」


「い、いやぁ忙しかったもので…」



嘘つくなよ

お前朝めちゃくちゃ暇そうだったじゃねえか



「ってことでちょっと鞘から出してみて」


「…嫌だよ」


「なんでよ! はたさん僕より魔力あるんだから良いでしょ!」


「…なら、お前にやってもらいたいことがある」


「は、はい。なんでもやらせて頂きます」


「銃作ってくれ」


「かしこま……り…っていやいやいやいや無理無理無理、普通に無理!概念的に許されてないから、どれだけ中身を一緒にしても弾の発射できない模型ができるだけだよ!?」


「なんでもやるって言ったよな?」


「あぁくっそ! この軽い口が憎い!」


「今度協力すっからよろしくな」


「だぁぁぁぁ!! 任せやがれこんちくしょう!」



おし、覚えたからな

ならば仕方ない、この短剣を抜いてやろう

鞘を左手で握り、右手で柄を握り…ゆっくりと引いてゆく



「…ん?」



一瞬、魔力が乱れたような…



視界が歪み、直前まで森だった場所は一面の砂漠に変わっていた


…いや、これは幻覚だ

この場所は現実じゃない


手の中を見ると、短剣は完全に引き抜かれている



「…」



その刀身は陽炎のように歪んでいるように見える

なるほど…オレがこの武器を持つに相応しいかを試していると言ったところか

そんなの。



「知ったことじゃない」



魔力が欲しいなら持っていけ、オレの限度まで食わせてやる


なんだ、6割程度で満足か?

違う? 今はこれだけで満足しといてやる…か


いいだろう、ただ…お前が下でオレが上だ

間違えるなよ駄剣


砂が巻き上がり視界を隠すと…気づけば再び森の中にいた



「はたさん、もしかして契約した?」


「契約?」


「うん、契約。魔物の素材を使った武器で稀に起こることらしいんだけど…武器が相応しいと思った相手であり、持ち主が力を見せたら契約が成立することがあるみたいなんだよね…あと、魔物を倒した本人が持つ分には最初から契約みたいなものがあるらしいよ」


「オレも本人では?」


「んー最終的にトドメを刺したのは逸人だし…」



つか、契約ってなんだよ

格付けしただけだぞ

それからそんなもんするなら短剣ではなく最低でも弓が良かったわ



「ってことで、その短剣の性能調査しない?」


「しないが?」


「ちぇっ…」


「お前は街に帰れ」



この短剣を今使うのは非常に嫌な感じがするから…やめさせてもらう

刀身を完全に露出させた短剣を鞘にしまう

また今度活躍させてやる



「…その前にみるものがあるから」


「この短剣か?」


「ううん。2日前の現場」



はぁ、こいつ…しょうがねえ



「オレもついていくか」


「うん、頼んだよ。どーせレミネさんのことだ、あの依頼ははたさんに受けさせてるでしょ」



なんでわかんだこいつ

まぁとりあえず行くか……って場所わかんねえよ



「案内するねー…っと」



地面から生えた氷が飛びかかってきた〔緑鼯〕を捕らえる

え、きも

本当にそれ魔法か?



「ギリギリ魔法だよ、師匠と作った魔法具の力も借りてるけどね」


「心を読むな」


「目が言ってるもん」



『もん』っていうな高校生男子の『もん』ほどキモいものはないだろ…いや、成人男性以上の方がキモいか

あとお前がそれを捕まえたってことは



「デア・シドはオレが貰うぞ」


「あれ? 今日そいつの討伐依頼あったっけ?」


「レミネに渡されたが」


「なるほど、後から来たのかな…それかレミネさんがキープしてたか」



氷に捕まりもがいている〔緑鼯〕の頭に短剣の柄を振り下ろし、意識を奪う

素材の鮮度的には生きたままの方が良いだろうと素材鞄に突っ込む



「ちょおまて、それ途中で起きたらどうするのさ。どうせそれ受肉してないから殺して処置しちゃった方がいいよ」


「だるいからいい」


「こいっつ…」



起きたらこの素材鞄ぶん回して木にでもぶつけるわ

それでいいだろ



「ねぇはたさん、今考えてることぜっっっっったい実行しないでね!? わかった!?」


「? わかったわかった」



なんで考えてることわかったんだ



「っと、ほら見えてきたよ戦闘痕」



木に刃のような鋭さの完全に透明な氷が刺さっている

その周りには半透明で青白い色付きの氷が転がっているのが見える



「……氷片か。一応今は春なんだが…溶けてないな」


「これはやった僕でさえわからない。魔力が繋がってる訳でもないのに全く溶けないんだ…一応昨日よりは溶けてるけどね」


「……」



この氷、見たことがある…?

オレは…



「——ッ! はたさんッ!」



刹那に腕を掴まれ、ハッと意識を取り戻す



「魔力を纏わずに触れたら…その腕、無くすよ」


「…すまん」


「…はたさんがどうしたのかはわかんないけど」

『…君のその目が何を見たのか知らないけれど』



視界がブレ、銀髪の和装女性が刹那の姿に重なり、同じように声も重なってゆく

視界に映る現実とそれに重なる景色…掛け離れた様子のそれらは自然に重なっていく



「『強すぎる力は、芸術品よりも人を惑わすんだよ』」



重なっていた情景が、ほどけるように離れてゆく

オレは、どこかで同じことを経験したのか…?



「はたさん、はたさん!? 大丈夫?」


「…あ、あぁ…問題ない」


「ほんとに? なんかぼんやりしてたけど……帰る?」


「大丈夫だ」



自身と情景に疑問を抱いただけだから

……いつかあれが何かを知る日が来るのだろうか




その後、刹那との調査で気付いた複数のことをクレアードに報告し、生け取りにした〔緑鼯〕の受け取りを拒否られかけたりし、何事もなかったかのようにその日は過ぎていった



だが、あの短剣の持つであろう異常な力と重なった情景、そして自身という存在に抱いた疑問はこの日が終わろうとも消えることはなかった


そうして悩んでいたからだろうか、風呂場の鏡に映った自らの茶色の瞳が、一瞬金色に見えた気がした







この話の後の話が全く書き進められなくて、その付属としてこの話を作って見たんです

途中までは良かったんですが、途中からこっちも進まなくなって大変でした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ