チュートリアルなんてきっとない
めちゃくちゃ時間かかった
ちなみにこの後、2.3話と2.5話という名の小話?を出す予定ではあります
16000文字は自分でもアホだと思ってます
まぁ、3話はそこまで…伸びないといいな
作中時間 1日目(????年??月??日)
突然現れた大きな狼は、その大きな体で刹那たちを見て唸り、威嚇をしている
「どうする? 戦う?」
「…俺らの3倍はあるぞ? どう考えても無理だろ、異世界チート系の読みすぎだ」
「…でも、見逃してはくれないみたいだよ?」
刹那が言うように後ろへ下がろうとすると、巨狼の威嚇はより強くなる
『ウゥウウウゥゥゥゥ!』
「……さてどうしようか」
「対話という道は………なさそうですね、牙が出てます」
「委員長、そもそも狼と話せるか?」
「あ、そうで
灯莉がそれを言い切る前に狼が消え
『ガァウ!!』
「あぅグッぅ…」
「「委員長!?」」
「灯莉!!」
灯莉の右肩に噛みついていた
威嚇で見せていたその大きな牙が半分隠れるほど深く噛みつかれている
彼女は痛みを堪え、薙刀のような木の枝でもって狼を殴りつける…が、力が抜けてしまったのか…木の枝を手から離す
まやが走り、狼の胴へ渾身の突きをお見舞いし、同時に逸人が投げた大きめの石が後ろ足に当たった狼がふらつき…灯莉から牙を離す
「う…ぁああ…」
「委員長!」
茉里が灯莉へと近づき、倒れ込んだ彼女を優しく運ぶ
「血が溢れ出てくる…まずいわね…腰を抜かしてる場合じゃないわ」
運ばれてきた灯莉の傷を玲が見て、右肩の傷にポケットから取り出したハンカチを巻きつけながらそんなセリフを呟く
『ガァアアア!!』
狼が吠え、再び姿が消える
「ガッ…ぅ…あああああ!!」
刹那が呻き声を上げながら…
その手に握った石を狼の左目へと全力で振り下ろした
『ガァァアウ!?』
石が狼の目に当たり、悲鳴のような声をあげて狼が刹那の左腕を口から離す
「ふぅううウウウゥ…」
左腕から血をポタポタと垂らしながら、刹那が痛みを堪えるかのように息を吐く
「…はぁぁ…かかってこいよ!! クソオオカミィ!」
息を吸い、怒気を込め叫ぶ、自らを威嚇する狼へ、お前を傷つけた獲物は健在だと伝わるように
『グルゥ…』
左目から血を流しながら、憎々しげに刹那を睨みつける狼が…呻き声のようなものを漏らすと
「トカゲちゃん達が動いたよ☆」
「チッ、なんとか抑え込む」
トカゲが波のように動き、全方位から彼らへと襲いかかる
まやと逸人が前に出て、対処に動き出す
先程まで持っていた木の棒を置き、灯莉の落とした木の棒を拾った逸人が薙ぎ払うように振るい、大量のトカゲを弾き飛ばし、まやは1匹ずつリズム良く森の奥へと弾き飛ばしてゆく
「くそ…狼めェ!」
右手で逸人の置いた木の棒を拾った刹那がトカゲを弾くが…それでは抑えきれずゆっくりゆっくりと後ろへ下がらされる
痛みで鈍った刹那を狙い、トカゲが刹那に襲いかかるが
「そこだ」
後ろから飛んできた石が撃ち落とす
「…ハタさん、ありがとう」
湊に感謝をしつつ、後ろへ下がる足を早める
「多すぎる…だろっ!」
「まやたんもそう思う!」
「もう止められねぇぞ」
トカゲを弾き飛ばす3人だが…いくら弾き飛ばそうともまるで無限に現れているかのように止まることなくトカゲ達が襲い掛かり…追い詰められてゆく
「…刹那っ! 上ぇ!!」
「っ!?」
夢宗が焦ったように叫び、刹那へと危機を伝える
驚いた刹那が見上げると
狼がトカゲを飛び越え、刹那へと飛びかかってきていた
「だぁあ!!」
逸人が刹那から木の棒を奪い取り、狼を受け止め……狼は噛み付いた木の棒を掴む逸人ごと、トカゲを飛び越え、連れていった
「うっそだろ」
「まずいよ、刹那! もう抑えられない!」
逸人が減ったことにより…トカゲの侵略を抑えられなくなり…ついに刹那達は追い詰められ
全方位をトカゲに囲まれ、逃げ道がどこにも無くなった
「近づくんじゃあ…ないわよ!!」
玲が…灯莉や茉里達を庇うようにしながらそう叫ぶと
透明の球体に彼女が包まれ……
それが拡張されるかのように広がり…近づいてくるトカゲ達を弾きだした
「…れ、玲? これって?」
茉里が思わず彼女に問いかけるが
「…な、何かしら、これ」
彼女本人もわかっていなかった
「…刹那さんも、噛まれ…ちゃったんですね」
「委員長…落ち着いた?」
「…狂犬病とかが怖い…ですね」
「あぁ、いつもの委員長だね」
右肩を庇うようにしながら、灯莉が刹那に話しかける
「…刹那、さんは…これが…ずっと続くと、思いますか?」
「いや…玲の表情を見てればわかるよ…多分そろそろダメなんじゃないかな」
「で、すね…」
玲は平静を装っているが、顔色が少しずつ悪くなっており…茉里が心配しているのが見てわかる
「でも、そうだなぁ…玲がファンタジーできたんなら、僕達だってできると…思わない?」
刹那がまるで悪戯を思いついた子供のように笑いながらそう言う
「ふふ、最後の、足掻き…見せちゃいますか?」
灯莉がそう告げるのと
玲の結界もどきが“パリン”と音を立てて割れるのは同時だった
夢宗が、湊が、石を投げ、まやが木の棒でトカゲを追い払おうとするが…その数を前には…意味をもたらさない
そんな中で
刹那が何も持たずに、トカゲの大群へ飛び込んでいった
「刹那!?」
夢宗の驚きの声に…なんの反応も返さず…刹那は、拳で、足でトカゲを殴り、蹴り飛ばす
囲まれ、トカゲがひっついて…ゆっくりと刹那の動きが重くなり…
ひっついたトカゲが刹那へと爪を立て…刹那の傷がどんどんと増えてゆく
「…くそっ、あいつっ…」
誰も刹那を助けに行こうとしない…いや、助けに行くほどの余裕がない…彼らの後ろには…青い顔をして倒れた玲と大怪我をした灯莉がいるのだから
そうして振り向いた夢宗は
灯莉がいないことに気づいた
「玲…いや、茉里! 水戸さんは!?」
「あれ、い、いない?」
焦ったように周りを見回した茉里は、蹴りだけで戦う灯莉を見つけた
トカゲの大群の中で
「な、ど、どうして」
刹那と同じように…傷だらけになりながら
そんなことを考えていれば…当然トカゲから意識は遠ざかり…
彼らは完全にトカゲの波の中へ飲み込まれた
トカゲの群れの一角が突然、“ゴウッ”と白い炎に包まれ…
雪のような物が白炎を鎮め
その中から狼のような耳と尻尾を生やした傷だらけの刹那が…現れた
「…あ、はは、起死回生の一手に…なれたのかな」
まるでそれに共鳴するかのように、別の場所で光が輝き、月のような球体が現れ…トカゲを吹き飛ばし…その中から兎の耳と尻尾を生やした灯莉が現れた
「…だと、いいですけどね」
銀の風が吹き
金の輝きが集まり
虹の煌めきが弾けた
「まやたんはちゃーんと受け取ったよ」
「これは…どういうことだ」
「…なんかすごい力を感じる…いや、なんか知らない感覚がある!!」
銀の風を纏ったまや、金色の瞳の湊、虹色の光を弾けさせた茉里、それぞれがトカゲ達を吹き飛ばしながら立ち上がった
「…これどういうこと?」
「私、だけじゃなかった、わけね」
トカゲが吹き飛ばされて現れた汚れはしていても傷の少ない様子の夢宗がよくわからないと呟くと、玲は安心したように微笑む
そこへ…
何かが高速で飛んできて…
空中を蹴り、減速し…地面へと降りた
逸人だった
「なんかよくわからねえが…どうにかできそうだな」
服がボロボロで体も傷だらけの逸人がそう呟く
トカゲはそんな刹那たちを見て、蜘蛛の子を散らすように森へと逃げていく
『ガウウウウゥゥ!!』
そうして見えたのは…ありえないほどの怒りを片目に宿した巨狼だった
「チュートリアル…かな?」
「ゲーム脳だなお前」
「まやたんが、いっちばんのりー!!」
まやが銀の風を纏い、狼へと急接近するとその手に持った木の棒を頭へ振るうが、それに反応した狼が
『ガァア!!』
小さく吠えると木の棒に食いついて、振り回し…まやを地面へ叩きつけようとする
「あわわっ!?」
「何をしてるんだお前は、棒から手を離せっ!」
まやの後を追った刹那が、右手でまやの首根っこを掴み、木の棒から手を離したまやを右手に持ったまま、狼の顎を蹴り上げる
『ガウッ!?』
「石を投げるくらいしかできることがない」
「もっと早く投げてやれよ」
顎を蹴り上げられ、一瞬動きを止めた狼の傷ついた片目へと手のひらサイズの石が飛び、“グチュ”という嫌な音と共に…
『ガァァァァァアア!!?』
狼が悲鳴のような鳴き声を上げた
「…目を潰したの?」
逸人たちの位置まで戻ってきた刹那がまやを掴んだまま湊へ聞く
「多分? よくわからないけど」
「…少し、かわいそうですね」
「委員長、その大怪我はあの狼のせいだって忘れてる?」
『ウワォオオオオン!!』
狼が遠吠えをあげる
そこには何かに伝えるという意思は見えず…
刹那たちへの怒りだけがこもっているように見えた
狼の体毛が白色から黒へと変化し、左目の傷跡から流れる血が消え失せ、時間が経った傷跡のように変わる
筋肉が膨れ上がり、体格がよりがっしりし、牙はより鋭く巨大に
爪は赤黒く血で色をつけたかのように
影からは深く黒い闇が広がり…辺りを照らしていた木漏れ日がゆっくりと消えてゆく
「まず、そうだね?」
「…おいどうする」
「ごめん、まずい以外の感想が出てこない」
「…私たちこれ生き残れるか?」
「これがチュートリアルってのはないだろ」
逆転劇を決めたと思ったら…さらなる逆転劇が起こりそうになっている
そんな現状に……悩む時間はなさそうだ
『GAAAAA!!』
「た、たいひー!!」
先程よりも高速で襲いかかる狼から全力で逃げる
まやが玲を背負って
逸人が夢宗を掴んで
飛び掛かるように襲いかかった狼は一度停止した後、彼らを追いかけ始めた
「なんかさっきまで全能感に包まれてたけど、それよりあいつヤッベェ!!」
「誰だチュートリアルとか言ったやつ!!」
「フラグ建てましたごめんなさーい!!」
「刹那、お前はもう何も言うな!」
「なぁ! 逸人、もう少し持ち上げてくれね!? 体すりおろされるんだが!?」
「自分の足で逃げてない奴が文句言うな」
命の危険が迫っていると知っていながら…いや、知っているからこそ彼らはいつも通り騒がしく逃げた
知らない森を…森に慣れているわけでもない彼らが全力で駆け抜ける
木々の隙間を抜け、後ろより迫る暗黒の大狼から逃げる
「はあっ…はあっ……世界はそんなに甘くないよね」
「諦めるなよ」
「はあ…はぁっ…まずいですよ、このままでは」
「私、インドア少女だから運動苦手なんだけど…」
「息が荒くもなってないくせによくいうよ…茉里」
だんだんと狼が加速してきているのを感じながら…とにかく前へと走る
「…! なぁ」
夢宗が何かに気づいたのか、声を上げる
「どうした」
「俺が右って言ったら、右に行ってくれないか?」
「……わかった」
もうそれに賭けるしかないかというような顔をした刹那が頷き
全員が同じように頷く
ゆっくりと狼が走る音が近づいてきている
数人が息を荒くしつつ、走る
まだかまだかと…夢宗の合図を待ちつつ走る
そして、その時はやってきた
「右っ!!」
全員が右へ進路を変え、狼が驚いたように停止し、再び刹那たちを追いかけようと走り出す
が、そこに既に刹那たちの姿は無かった
「…ここどこ?」
そんな彼らは草原にいた
「森を出たら草原だった件」
「さっき木漏れ日で先見えなかったけど…草原じゃなくて森続いてたよな?」
疑問を口に出し、共有し、不安を取り除こうとする
そんな彼らに
「そうじゃのう…森は続いておったぞ」
知らない声が語りかけた
玲を除く全員が立ち上がり、声の方向を見ると…
狐色の髪に、狐耳と尻尾の生えた少女…いや、幼女?が立っていた
「…誰だ」
「ワタシか?」
「あんた以外に誰がいる?」
「くふふ、そう警戒するでない、ほれ」
彼女が腕を振るうと、優しい光が彼らへ降り注ぎ…
傷だらけな彼らの体を癒してゆく
「ま、魔法?」
「そうじゃ」
「…これには感謝をするが、それとこれとは話が違うぞ」
「そうじゃのう…ならば、ここがワタシの家であるといえば良いのかの?」
「証明する手段がないだろ?」
「ふむ、そうじゃのう」
「回復してもらったんだから話くらいしなさいよ!」
警戒を続ける逸人に後ろから玲の怒号が飛んだ
「……?」
「私たちは何も知らないのよ? だからと言って…全てを疑って生きることなんてできないわ」
「うん、まぁそうだね…僕らは基本インドアだからね」
「例えそれが罠であっても踏む、というか踏み壊せばいいじゃない…アンタたちの得意分野でしょう?」
「…くふふ、ワタシの前でする話かの?」
「目の前だからしてるのよ」
立ち上がった玲が真面目な顔をして話している
「流石に堂々としすぎでしょ」
「僕はいいと思うよ」
「ワタシも良いと思うのじゃ」
「…はぁ、森の中で感じた視線はアンタか?」
「気づいておったのか?」
「いや、明らかに獣しかいないというのに…人が人を探るような視線を感じたからな…気になっただけだ」
「ほぉ」
逸人が彼女への警戒を諦めたかのように語り出し、彼女へ接近すると
「…アンタを信用してやる変わりに問う、なぜもっと早く出てこなかった?」
そう小声で問うた
「そうじゃのう……隠さずに言うなれば、懐かしいものを…見たから、じゃろうな」
彼女は心底懐かしそうに、それでいて涙が流れてきそうなほどに悲しそうに、そして嬉しそうにそう小声で返した
「そうかい」
それに何も聞くことなく、逸人は彼女から離れた
「ふふ」
彼女は後ろを向き、空を見上げ、零れ落ちる涙の雫を無視し、何かを慈しむような表情で笑い
1秒にも満たない時間で彼女は振り向くと
「そうじゃ! 忘れておった、ぬしら疲れておらんか? ワタシの家に案内しようと思うのじゃが」
「え? いいの? やった☆」
「疑わんのか?」
「もう疑う必要なんてないだろ?」
「くふふ、ふははは! ぬしらはおかしいのう! 気に入った、気に入ったのじゃ! 自信を持って我が家へと招待しよう」
彼女が虚空へ腕を振ると、陽炎が立つかのように周りの景色が歪み、豪邸がポツンと建っている景色へと変化していた
「…光学迷彩?」
「光による迷彩? いいや違うのじゃ、ワタシはあそこと我が家の前を重ねただけ…すなわち、転移というやつじゃ」
「…ファンタジーだ」
刹那達が驚いているなか、彼女は豪邸の扉を開き、彼らを手招きする
当然招待すると言われたのだからそれについてゆき、玄関で彼女が靴を脱いだため、それに従って全員が上履きを脱ぎ、導かれるがままにリビングと思わしき部屋へと入る
立派なソファーに皆が座ると、彼女は立ち上がり
「くふっ、ワタシはこの世界クローアを支える【六の楔】が1人【森の賢者】ヒノミ・フィレアート、歓迎しよう異世界からの転移者達よ!」
仰々しくその名を名乗った
ヒノミの語るその二つ名がどんなものだか、彼らは知らない
知らないけれども彼女が、ヒノミが何か特別な地位にいることを理解した
「うむ、ワタシのことはここまでにして…ぬしらのことを聞かせてもらおうかの」
彼女は慈しむような笑顔で、彼らのことを聞いた
「なるほどのう、気づいたらあの森の中におり、ああなっていたわけか」
「そこからはアンタ見てたろ?」
「まぁのう、ぬしらが傷つくところも見とったし、セツナとアカリに耳と尻尾が生えたところも見ておったぞ」
「え? 耳と尻尾?」
「耳と…尻尾?」
「あぁ、そうであったそうであった、ワタシが違和感が生まれないようにしておったのだった…ほれ」
ヒノミがそう言って、2人へ手をかざすと淡い光が彼らに降り注ぎ…
「んえっ、なんか感覚が鋭敏に!?」
「ちょっ、ちょっと刹那さん、あまり大きな声を出さないでください」
全員の視線が刹那と灯莉へと向かい…ヒノミ以外の全員が彼らの頭の上に明らかに人のものではない耳が生えていることに今、気づき驚く
「えっ…」
「い、委員長? 耳が…」
「みみ…?」
「…委員長、ウサ耳だ! うん、なんていうかその、似合ってる!」
「きゃあっ! び、びっくりしました、急に大声を…うさみみ?」
再び刹那が大きな声を出したことに、驚きつつも…気になることを聞いたため、灯莉は自らの耳の位置に触れ…そこに耳がないことに驚き、頭の上へと手を動かし……もふりとしていて温いそれを見つけた
「…え、え?」
「…セツナ、おぬしあまり驚いておらんな?」
ヒノミが自分と灯莉に声をかけたということから彼女と同じように手を動かした刹那は…頭の上の耳を触っているがあまりに静かであった
「…いや、驚いてはいます、が…まぁ自分に生えてもなぁって」
「…よかったな刹那、ケモミミだぞ?」
「自分に、生えてもぉ! 嬉しくないんじゃい!!」
刹那がそう叫びながら、ポケットから取り出した紙を“パァン”と音がなるくらいの強さで地面に叩きつけた
そこには…
『ケモミミを讃えよ』
とだけ、手書きで書いてあった
ちなみに刹那の字ではないため、おそらく彼の同志(ケモミミ推し)の誰かが書いたものなのだろう
「なんだその紙」
「…だから灯莉の耳を即座に褒めたのね」
「尻尾はどうなんだよ」
「尻尾は自分のでも嬉しいかな、いつでももふもふできるし」
「…へん…たい?」
「おい逸人?」
「ぬしらは…なんというか、騒がしいの?」
「「「「「「よく言われます」」」」」」
「よく言われるね☆」
「よく言います」
「なぜ内部完結しとるのじゃ…」
ヒノミは即座に答える彼らに呆れつつも話を変える
「ここまででぬしらはチキュウからの転移者で、この世界クローアに関して何も知らないということがわかったのじゃ」
「さっきも転移者って言ってたよね☆他にもいるの?」
「まぁ、たまにおるのじゃ…だから、驚かれはするがそれだけじゃぞ」
「ほええ」
「今は、俺らの他にいるのか?」
「…過去の転移者が生きている可能性はあるが…新しい転移者は聞いておらんな…10年ほど前に転移者が現れたという話があったくらいじゃの」
「結構頻繁に転移してくるんですか?」
「いや、基本は数十年に一度程度じゃ、それも個人でじゃの…ぬしらのように複数人というのはなかなかないのう」
「はえー」
「僕と委員長に耳と尻尾が生えた理由ってわかりますか?」
「…うぅむ、確証はないが魔力の覚醒に伴って、この世界に馴染む際に種族が人から獣人に変わった…可能性があるのう」
「…んんん?」
「まぁこれは仮定の一つじゃ、それにぬしらの魔力の覚醒は異常じゃった、魔力の覚醒は本来ああではなく、体が淡く光る程度じゃ…ぬしらのように多種多様ではないのじゃ…まぁすなわち、なんらかの力を持っている可能性がある…と覚えておけば良い」
「なるほど」
「え、俺は?」
「ムソウは魔力に覚醒してないのう、というかあの状況で覚醒する方がおかしいのじゃ」
「え? つまり俺らピンチだった?」
「そうじゃぞ? だというのに、助けようとしたらおぬし以外魔力に覚醒しおってのぅ」
「…」
夢宗は無言で天井を見上げた
流石に1人だけ、置いていかれると寂しいものがある
「まぁそれは良いとして…全員ワタシの弟子にならんか?」
「ん?」
ヒノミは再び話を変えた
それもだいぶ変えた
誰もヒノミが何を言ったのか、一瞬理解できないほどに
「…弟子?」
「そうじゃ、弟子じゃ…ワタシがとりあえずぬしらをこの世界で生きられるまで育て、その後は保護者になるわけじゃ」
「ちょ、ちょっと待って…今頃になるんだけどさ、ヒノミさんって何歳?」
夢宗が思い出したかのように…年齢を問う
別に話を変えたかったからではない
純粋に今気になったからである
「くふ、いくつじゃと思うのじゃ?」
「68☆」
「そうじゃ、ようわか…いや、おかしいじゃろ! マヤおぬしなぜわかった!?」
「なんとなく☆」
「はぁ……ということでワタシは68じゃ、こんな見た目だがしっかりぬしらよりも生きておるからの」
「ちょっと安心した、流石に俺らより年下に保護者と言われると気まずいと思ってたんだ」
「ワタシはやっぱり幼く見えるのか…?」
「いや、大人びた子供の可能性が怖かっただけだと思います」
「そ、そうか」
それ、弟子の話よりも重要なことだったのじゃろうか…とヒノミは考えつつも、再び話を振る
「で…じゃ、弟子になるのかの? ちなみに弟子になるとこの家を拠点として使わせられるのじゃ」
「…ふむ」
「あ、ついでに朝昼夜の四食もついてくるのじゃ」
「おお! …ん? 四食?」
「ああ、説明しとらんかったか、クローアはチキュウと違うて1日が48時間あるのじゃ」
「え、すご」
「チキュウは昼12時間に夜12時間と聞いたが…クローアは昼36時間の夜12時間じゃ」
「はえ?」
「それが理由でチキュウとは色々違うのじゃ、植物の成長速度ものう」
「24時間で3食の僕らですけど、48時間で6食とかにはならないんですか?」
「問題ないのじゃ、クローアは魔力が近しいゆえにえねるぎー?の消費の数割を空気中の魔力が立て替えてくれるため、問題ない…と過去の転移者が研究しておったぞ」
「転移者にも適応されるのか? この世界の人間が持つ器官ではなく?」
「そうじゃ、適応されるのじゃ」
「はえー、わからん」
「…衣食住のうち、食と住が手に入るわけね」
「ん? 望むなら服も用意するのじゃが…」
「はいもう完璧もう言うことがありません!」
「落ち着け、なぁアンタ…これはアンタに利益がある話じゃない…何故俺らにそこまで施そうとする?」
「そうじゃな、懐かしいということと…ワタシの立場が理由じゃの、ワタシはこの世界を支える実力者じゃ、自分で言うのもあれじゃがな…そんなワタシはのう…今困っておる」
「おん?」
「この家が寂しいのじゃあ!! 前まで何人もこの家に住んでおったのじゃ! ワタシ1人になってしばらくは確かに寂しかったがここまでではなかったのじゃ…ただ、しばらくするとそれにも慣れてきて寂しくなくなったのじゃが………またしばらくしたら最初よりも寂しさが増してしもうたのじゃ…」
「つまり?」
「ワタシは1人での生活に飽きたのじゃ、それに金だって無尽蔵と言えるほどにある…だから、金持ちの道楽とでも思って暮らして欲しいのじゃ」
言葉がスラスラとヒノミの口から流れ出てくるかのように連ねられる
「弟子の話よりこっちのが説明量多いな!?」
「正直弟子の話とか半分くらい言い訳じゃ、寂しくてのぉ…」
「言っちゃったよこの人!?」
逸人の疑いを持った質問はヒノミの印象をすごい人から、残念な人に変えるほどの力を持っていたようだ
「悪い話ではないと思うのじゃ、ワタシとしては金の使い道にもなるしの」
「立場はどの辺に関係してたんだ?」
「立場が理由でおぬしらみたいなものか、同じような立場のものでないと住んでくれないのじゃ…同じような立場のものとなれば大抵自分の家があるゆえ…訪問してくるぐらいになってしまうのじゃ…」
「…あぁ、うんなんか悪かったよ」
「僕としてはここに住んでいいと思いますが…この家いくら豪邸とはいえ、部屋数足りませんよね?」
この家は外から見て部屋数が多そうであり、豪邸だと思えたが…いくらなんでも全員分の個室なぞ用意できるほど部屋数があるとは思えなかった
「あぁ、それに関しては問題ないのじゃ…この家、空間の拡張によって、外と中じゃ広さが違うのじゃ…というか、たまに部屋が増えておる」
「へー…ファンタジーだなぁ…魔法すご」
「…なぁ部屋が勝手に増えてるみたいな言い方しなかったか?」
「勝手に増えておるのじゃ」
「え、怖…私迷路とか苦手なんだけど、迷わない?」
「迷いはしないじゃろうな」
「…ふむ、1日4食個室付き、無料…か…破格じゃない?」
「破格じゃぞ? ついでに、この世界についても教えるのじゃぞ?」
「僕はヒノミさんのとこに住む!! 魔法気になる!」
「私も! 魔法気になる!」
刹那と茉里が同じようなことを言って、手を挙げて立ち上がる
立ち上がった後にハイタッチまでしている
魔法に憧れている2人が揃ってこんな反応になることを
「刹那と茉里はまぁこうなる気がしてた」
玲は想定していた
「…働かずに過ごすのはありか?」
「ハヤト、流石にじゃが、ワタシも教える価値くらい欲しいのじゃ…それに…いや、これは後にするのじゃ」
「…まぁ乗ってやるよ、案外俺も異世界ってのに興奮してるみてえだ」
次に逸人がヒノミの弟子となることを決めた
「…俺もそうだな、魔法が使ってみたいし、物語のキャラのようにカッコよく戦ってはみたいな」
「こいつには無理では?」
「お? なんだ逸人喧嘩か?」
「おう」
「コイツッ!」
夢宗も賛同した
ちなみに、喧嘩は起こらなかった
その後、湊以外の全員が決め…
その湊は…
「銃ないのかぁ…」
クローアでは銃が作れないと聞き、悩んでいたが、この直後にヒノミが迷宮で手に入るかもしれないと告げた瞬間に弟子になると即答した
そうして、全員がヒノミの弟子になることを決めた…いや、決めさせられた
「では、ここからこの世界についてを語ってゆくぞ」
ヒノミの説明を要約すると
この世界の名はクローア
魔法などのファンタジーなものが実在する世界
そして、命が儚く、価値が低いものであることを知らされる地球よりも残酷な世界
世界ができ、神が生まれ、神々はとある理由から戦いを始めた
という神話があり
その後に戦いを終わらせた
創盛神 メテリエーナ
聖命神 カーラエット
時空神 ネツェミニア
の3人の女神は大女神と呼ばれて、主に信仰されているのは彼女らである
とは言うが、神が世界を作ったのではなく、世界が神を作ったと言われている
神話でも神より先に世界が生まれているという点からである
まぁこの話は今後でもいいだろうとヒノミは言っていた
次に、この世界の生き物に関してだが、
まず植物は地球と似ているものがある程度は存在していると過去の転移者が言っていたそうだ
そして、動物なのだが…
まずあまり体の小さな生き物は植物以外には存在しない
その理由として、体が大きければ大きいほど、空気中の魔力への接触量が増え、エネルギーの消費が減り、存在しやすくなるからであり…小さな虫はほとんど存在しない
さらに言うなれば、普通の動物も存在していない
どういうことかというと、この世界における動物とは魔物のことを指す言葉であるということだ
ちなみに魔物とは、あの巨狼やトカゲもどきなどの人ではない生物で魔力を使うものを指す
過去に、獣人などの純粋な人以外は魔物とされて迫害が起こったこともあったようだが…すでに解決されている
魔物の強さには72のランク付けがされているらしく、α-からω+まで存在する…が、今のところ最高ランクの魔物は決められていない
このランクは過去の転移者が作ったようで、彼はある程度以上のランクの魔物は自分には見つけられなかったと空白にして、人に託したのだが…
その後もある程度以上のランクの魔物は数体増えたが…ほとんど増えていない
ランクを作った転移者は同時に冒険者ギルド的なものを作ったようで『クレアード』と言い
そこに所属する冒険者のことを『レーダル』と呼ぶ
レーダルもランク制はあるようで、こちらも魔物と同じ72ランクあるが、最高ランクに到達したものはいない…と言われていたり、ランクを作った転移者が最高ランクであると言われていたりするとのことだ
次に魔法についてだが、先人たちが簡潔に作り上げた文言を詠唱し発動させる、または自分で作り上げた文言を詠唱し発動させる詠唱魔法が今の基本魔法だそうだ
魔法陣を描き発動させる魔法や、想像から詠唱も無しに魔法陣を作り出し発動させる魔法もあるようだが…難易度が高い
ちなみに詠唱式の魔法も魔法陣は描かれる
魔法には、いや魔力の変化系統…には属性が存在する
基本属性は8個存在しており
火 水 風 土 雷 氷 光 闇
となっている
人によっては苦手な属性や得意な属性がある
そして、なんらかの属性に関する何か特化したものを持つ派生属性と呼ばれる存在や特異的にその人だけが持つ特異属性という特殊な属性も存在している
最後に、近接戦闘についてだが
魔法があるなら近接戦闘はいらなくなる
というわけはなく、近接戦闘にも魔法のような力存在している
‘戦技’と呼ばれるもので、世界に認められた技がそこまで昇華する…が、これはヒノミもよくわかっていない
だが、魔法並みに強力なのは確かであり、実力がある程度ついた段階で自らの戦技を作ることも可能なため、自由度が高い
「と、ざっとこんな感じじゃの」
「すごい詰め込まれた」
「正直、知識は後からでも説明できるからある程度省略してるのじゃ…魔物とか全く説明になってないから専門家が聞いたらキレるくらいの説明じゃぞ」
「…なぁ、アンタ、いやヒノミさんよ…もしかしなくとも、俺らが地球に帰る方法は…ないんだな?」
「…ッ、気付いてしまったか」
「あぁ別に俺は何とも思ってない、どんな場所であろうと生きられるならそれで十分だ」
「ハヤト…?」
「…ヒノミさん、話が早かったのはそういうことですか」
「ち、違うのじゃ…騙そうとしたわけじゃないのじゃ」
「いえ、別に僕は悲しくありませんよ? 今後家族に会えないと考えると悲しい…確かに悲しいですが、友人がいて、憧れた魔法があって、憧れた幻想がある…だから、僕はこれからが一番楽しみですよ!」
「セツナ…」
「それに…帰れないというならば、帰れるようにすればいいんです」
「それは…どれほどの時間がかかるかわからぬぞ」
「それでもやりますよ」
「…過去の転移者が幾人も挑んでは挫折した道じゃぞ」
「先人たちの検証があるなら心強い限りです」
「だが、他の者たちは…」
「まぁ、聞く必要はないでしょう、どーせ僕らはアホ達です、まぁ委員長がちょっと可哀想ですが」
「ちょっと!! 刹那! 私もこいつらに巻き込まないで!」
「そうだそうだ! 私は玲よりもこいつらから遠いからな!」
「ほら、文句はないようですよ」
「どう見ても文句言ってるんじゃが!?」
ニコニコと文句はないようだと言う刹那にツッコミを入れつつ…ヒノミは再確認を行う
「おぬしらは、それでいいのか…?」
ヒノミの問いに対して、静かに全員が頷いた…少し顔色が悪いように見える灯莉も
「くふ、ふふふふふふふ、ならばもう遠慮する必要はないのう! さぁどんどん行くのじゃ! まずは…」
ヒノミがそれを見て、何を思ったのか…
それは刹那たちにはわからないが、何かが変わったこと、それだけは確かにわかった
「ヒノミさん、これ重いです」
「いやおぬし何持っても重いっていうじゃろ」
「俺もしかして魔力バフかかってない!?」
「それはないだろ」
誰がなんの武器を持ちたいか…という話からヒノミの訓練武器貯蔵室に舞台は移り、木製だが魔法効果で実物と変わりない重さとなっている訓練用の武器を触り、何が持ちたいかを各々で決めている
「…まぁムソウだけ魔力に覚醒してないのが悪いのかのぅ?」
「え?」
「魔力に覚醒していない者はそう見れんのじゃ、たまに魔力に適正のないものは生まれるのじゃが…大抵武を極めたり、知を極めたりするが故にようわかっとらん」
「えぇ…?」
「…なぁそれもなんか隠してるだろ」
「はぁハヤトは隠し事に敏感じゃのう…単純で最悪な話じゃ、魔力の適性がないものが生まれたら基本捨てるのじゃよ」
「だろうと思ったわ」
「ワタシは残酷だと思うが、親の気持ちもわかってしまうのじゃ…この世界で魔力に適性がない者は普通まともに生きられん…じゃから情が生まれる前にどうにかしようとしてしまうのだろう」
「まぁ夢宗には適性あるんだろ?」
逸人がヒノミの言葉で重くなった雰囲気を吹き飛ばすかのように問いかける
「ん? 当然じゃよ」
「これで捨てなくていいわけか」
「え、俺捨てられそうだったわけ?」
「そうだぞ、適性があったことに感謝しな」
「よ、よかったー…って、んな訳あるかァ! そろそろ俺泣くぞこの野郎!!」
「おう泣けよ」
「しくしくしく」
「わざとらしすぎる、減点」
「茉里はどの立場なんだ…?」
誰も意識しているわけではないが、いつも通りにふざけ、重い雰囲気を、そして伝えられた現実にあまり触れないようにしている
ただ、刹那と逸人にその意思があるかは不明だが
「…うーむ、ムソウがまともな武器を持てないとなると…先に鍛錬からするべきかのぅ?」
ポツリとヒノミが呟き、夢宗がなんで俺だけこんな目に? と言う顔をする
きっとそれは誰にもわからない
「なぁ刹那何持つんだ? 私はこの魔法使いがもつ本にしようと思ってさ」
「へー……ほ、ん?」
「ヒノミさんに魔法使いが何持つのか聞いたら、魔法を強化する本、または魔法の発動の補助をする杖を持つって言われてさ」
「へー…杖にしなかったの?」
「ふふん、それは私が火力至上主義だからだ!」
「でも、訓練用の本で効果あるの?」
「…無いよ?」
「でしょうね、というか僕らまだ魔法使っても無いじゃんか」
「明日になったら教えてもらえるだろ?」
「…本で近接いける?」
「そ、それは魔法でなんとか?」
「ほー…」
「じゃ、じゃあ刹那は何にしたんだよ! 杖でも本でもないんだよな?」
「僕は…別になんでもいいって、逸人と同じでなんでも使えはするらしいから使いたいものを使おうかなって」
「器用貧乏以下じゃない?」
「まぁ、飽きないってのは大事だよ」
「それはお前にとってだろ?」
「そりゃそうよ…あははは!!」
「ふふ、ははは!」
夢宗と湊以外は基本楽しそうに武器が決まっていった
その夢宗もギリギリ持てる直剣(訓練武器)を見つけ、なんとか武器を決めたのだが…
「…銃ないのか」
「訓練武器にも、普通の武器でもこの家には…ないのう」
「くっ! 失念してた」
「ハタさん妥協してよー」
「そうだそうだー」
「うるさいぞお前ら」
「弓いいって言ってなかった?」
「…なんというか足りない」
「さっき弓道部レベルで弓使えてなかった?」
「アーチェリーくらいしかやったことなかったんだが…こんな使えなかったぞ」
「…銃が迷宮で手に入る可能性を信じるならそこまでの間、持つ武器を決めねばならんぞ?」
「……うぐ」
湊は屈辱を感じつつ…その手に弓を持った
ちなみに弓本体は訓練用ではなく、矢が訓練用である
「やってやらァ!」
やってくれるらしい
ということで、武器は決まった(刹那と逸人は例外)
刹那:基本なんでも持つが、メインは魔法
逸人:基本なんでも持つが、メインは短剣、ナイフ
夢宗:直剣(細身で軽めだが、レイピアなどではない)
湊:弓…手に入れたら銃
まや:刀(木製の訓練武器なのに鞘付き)
灯莉:薙刀
玲:杖…本人談『これなら殴ることもできるじゃない』
茉里:本(魔導本)…いざという時は本の角で殴る
「今日は振り方持ち方の矯正からするかのぅ」
「魔法は明日?」
「…うーむ、そうじゃのう、そうするのじゃ」
「俺の魔力の覚醒ってのは?」
「今やるのじゃ」
ヒノミの姿がブレると、夢宗の背後に現れ、その背に手のひらを当てる
「…ん、ぐ…あうぐぅ…」
「外部魔力を弾いている様子はない、魔力による変質は…微かにあるの……なんじゃこの痕跡…何かが眠っておる? …いや、それよりもこれは? どういうことじゃ…?」
「あ、あのヒノミさん?」
「おぬし、神にあったことはあるかの?」
「い、いえ、ないですけど…」
「なればこそ何故…神気が? …これが軽く妨害しておるのか、なればその力を利用するのみじゃの」
「え、俺どうなってんの?」
「知るか」
「ひでえ!」
「ワタシにもわからぬ」
夢宗とヒノミの様子を三人称視点で見ると、少年の背中に両手を当てブツブツと何かを呟きながら、手を動かしている幼女…という全く訳のわからない状態になる
「夢宗は魔力の覚醒ってのできそうですか?」
「できるじゃろ、たぶん」
「不安!」
後についた『たぶん』という言葉が不安を呼ぶ
刹那たちは暇なため、武器を振り、どんなものかを確かめている
茉里は『この本白紙じゃん、ははは!』などと笑っているが
「…接続はできたのぅ、お、魔力が動き出したのじゃ…ムソウ、これでいけるはずじゃぞ」
「え? 何すればいいんですかこれ」
「集中し、意識を鋭くさせ、自らの深層を覗くのじゃ…さすれば魔力の門は開かれん」
「…?」
夢宗はヒノミが何を言っているのか、半分ほどわからなかったが…集中して自分の意識を鋭くしようとしてみる
目を閉じると
暗闇の中を自分が歩く姿が見えた
光もなく、真っ暗なそこでただ何処かへと歩きつ続ける自分を見た
暗闇の中を歩く自分は必死な顔をしていた
いつのまにか、少女が現れ…そんな彼の手を引き、先ほどまで見えなかった明るい光へと導き出した
自分の上で絡まっていた紫色の糸がほぐれ、その全てがどこかへ繋がっているのが見えた
顔の見えない少女に手を引かれ、彼は笑顔で光へと足を踏み入れ
「ハッ!?」
「ほう、覚醒しおったか、案外早かったのう」
「え? え?」
周りを見渡すと、目を閉じた瞬間から様子は何も変わっていなかった
「え? 俺、どれくらい目を閉じてました?」
「ん? 1秒以下じゃの…何か不思議な体験でもしたのかの?」
「…ええ」
「あぁ、言わんで良いぞ、魔力の覚醒で見える光景はそやつの本質だとか、なんだとか騒がれておるのだが…ワタシは何かの啓示であると思っておる…語る必要はない、ただ記憶に留めておくがいいぞ」
「はい…ありゃ? なんか、剣がすこし軽くなったような?」
「ふむ……何故じゃ? っと、セツナにハヤト! 勝手に戦い出すでない! 怪我するじゃろうが!」
「「でも(だが)こいつが!」」
「2人揃って他人のせいにするでない!」
そう怒りつつ、自らから離れてゆくヒノミの姿を見ながら…先ほど見たあれは、なんだったのだろうと夢宗は考え…
「ムソウ! おぬしも素振りじゃ! 矯正するからこちらへ来るのじゃ!」
「はーい」
また今度考えることにして、楽しめる間にこの世界を楽しもうとヒノミのもとへ移動するのであった
説明を簡単にするためにちょっと内容を詰めすぎました、後悔はしてます