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導きのない新天地  作者: 風雷 刹那
第2章 セーミニの街
18/20

深い暗黒を打ち払って

クローア生活19日目


勢いで書き上げられたから出せなかった8月分として出しておきます

来月分は今から書きます


カーテンを閉めきり、外からは何も見えない広い部屋で1人…ただひたすらに筋トレをし、剣を振り、魔法を使う


周りの奴らを見ていたら…自分の努力が否定されたような気がして…この部屋に引きこもった

いまだに簡単な魔法しか使えず、戦技も使えない俺と…独自の魔法を生み出し、独自の戦技を扱うアイツらは決定的に何かが違っているのだろう


小さな劣等感が、置いていかれる苦しさが…俺を苦しめた


引きこもったこの3日間と今朝…ずっと1人で鍛錬をしてきた



誰かのいる訓練場では…できない限界まで鍛錬を続けた

1日目は…体力の使いすぎで倒れた

2日目は魔力の使いすぎで倒れた

3日目はそのどちらもで倒れた

そして今日、何一つ変わらないままにヒノミさんが転移で送ってくる食事を食べて…鍛錬を始めた


倒れても起きるたびに体力、魔力を消費していたが故に…今日は最も早く起きた


これまでの3日間と同じように、鍛錬をしようとし…



「でやぁあああああ!!」



そんな声と共に窓が開かれ、カーテンも開かれた

その先には、むかつくヤローがいた



「依頼行くぞ! 夢宗!」


「あぁ! くっそ、分かったよ!」


「っしゃあ! じゃあ準備してここ集合で!」



頭をガリガリと掻いて、イヤイヤ了承する

コイツはめんどくせえんだ

今了承しなければ、ドアを蹴破って部屋の中に入ってきた可能性がある


気分は最悪だが…何故か、心は少し軽くなった気がした


胴体に軽防具を纏う…こんなに軽かったかと心配になった…3日つけていなかったから感覚がおかしくなったのかもしれない

次々と他の防具も身に纏う

他の誰よりも筋力の低い俺が、誰よりも防具を身につけているのには…誰よりも頑丈ではないという切実な理由がある

ベルトポーチの中のクッソまずい魔力回復薬と魔法薬、探究証を確認し、身につける

刹那(あのアホ)が露店で買ったらしく、渡してきた首を守るための魔法布を首に巻き…たった少ししか守れない頭防具を身につける


机に立てかけてある鞘に入った剣を手に取り、背中側の防具と鞘をパチンと止める


何故か心は軽く…この3日間の成果を確認するチャンスだとまで考えている自分がいた



「はぁ…気が乗らねえ」



集合場所だと言われた家の外に…他の誰にも見つからないように行き、そこで刹那(あのアホ)を待つ

数秒経つと、扉が勢いよく開き…白髪の獣人が現れた



「待った?」


「いや今…おい、やめろ」


「ははっ! ごめんごめん」



笑うそいつの格好は、明らかに俺よりも軽装で…その上ベルトポーチだけでなく、肩からかけるタイプの鞄までつけている

皮でできた鎧を動きの邪魔にならない部位に装着しているが…頭は守っていない


その装備のどこにも武器が見当たらないのが流石というべきか、恨むべきかはわからない



「何をする気だ?」


「さっき言ったでしょ? 依頼だよ依頼」


「そうか」


「ってことで、早速行こう! 導け“白の風”」



俺と刹那の体を風が覆う

おい、才能を見せつけてくるな…いや、コイツのことだからきっと早く依頼に行きたいだけなんだろうけど

軽くなった体で、先走るアホの後を追う



「話を聞けよ馬鹿が!」


「あっはっはっ! 今のお前にはこのくらいに無茶苦茶してた方が良さそうだけどね!」


「…っ」



分かった上でかお前

流石に少し気持ち悪りぃぞ

地球でも知り合いの悩みを聞いたりしてはいたが、ここまでメンタルケアができるとは思わなかったな

これが意外な才能ってやつか?


いや、これメンタルケアじゃなくね?



「にしても、夢宗はしっかりと鍛錬してたみたいだね」


「ふっ…ふっ…はぁっ…はぁっ…」



いつの間にか並走していた刹那が話しかけてきた

うん、すまんが話す余裕はない

にしてもコイツほんとに気持ち悪いな…なんで鍛錬してたってわかんだよ



「いくら僕が自分自身にかけた強化魔法を切ってるとはいえ…筋肉のつきにくいお前が…獣人の僕にたった少しの強化で追いつけるんだよ? そこんとこわかってる?」


「ふっ…ぐっ…はぁっ…ふぅっ…」



わっかんねえよ!

こちとら頭に酸素回ってねえんじゃい!

テメェに追いつくので精一杯だわボケナス!

ってかお前息切らしてもねえじゃねえか、ぶん殴んぞ



「うん、筋力だいぶついたっぽいけど…あとスタミナかな?」


「ぐっ…ふぅっ…はぁっ…」



るせー!

お前が何言ってっかほとんど聞いてねえけどうるせー!



「あっはっはっ! 小さな癒しをここに“青の息”」


「…くっ…うるっせえよお前ェ!」



あ、叫べる

コイツ魔法使いやがったな…

クッ…殺せ……じゃねえよなんで「くっ殺」してんだよ

にしても情けをかけるな、お前にかけられる情けが1番ムカつくわ

いやごめん嘘ついた、逸人の情けの方が嫌だわ



「ほら、もうセーミニだよ」


「だからなんだよ」



ニヤニヤすんなきめえ

お前が何を言いたいのかわからんが…ケンカなら買うぞ

俺以外が



「さて、門番は誰かなー」


「誰でもいいだろ」


「1人会いたくない門番いるからさ」


「へぇ、誰のことなんですか?」


「ん? レウネさん」


「誰だ…?」


「あぁ、よかったです…私じゃなくて」



ん? なんか自然と会話に入ってる人いない?

なんか、この声聞いたことあるような



「今、テフィヌさんなんだ…よかったぁ」


「そんなにレウネ嫌いなの?」


「うん…騒がしいから」



テフィヌって人、あれか…俺がくる時によく門番してる女の人か

なるほどな…

ってか騒がしいから嫌いって同族嫌悪じゃねお前



「今日は早いですね、セツナさん」


「メルティアさんがウチに来たので、時間潰す必要無くなったんですよ」


「なるほ…どぉ!? ティアと一つ屋根の下ぁ!?」


「言い方に難あり…ですよ」



ん? メルティアさん、あの家に来たの?

まじ?

引きこもってたから全然知らんのやけど



「だというのに、ティアは連れてないんですね」


「起きなかったので諦めました」


「でしょうね」



クスクスとテフィヌさんが笑う

うん、俺…話に入れないんだが

いや、入らなくていいのか?

今の間に息を整えておくか……いや、アイツの回復魔法のせいで整ってるわ息



「それで、ムソウさんを連れてこちらへ?」


「ま、そうだね」


「あれ、俺の名前知ってるんですか」


「ええ、もちろん。そこの獣人ほどじゃないけど、あなたもよく門を通りますから」



なるほど…なんか途中、そこのアホ獣人に棘刺さらなかった?



「テフィヌさん、今褒めた?」



刺さってねえわ、弾き返してるわ



「まったく」


「しってた」



なんだこれ



「はいどうぞ、今日も依頼頑張ってきてくださいね」


「いつも頑張ってますが?」


「あなたには言ってないです」


「酷くない?」



俺なんかいちゃつくダシにされてたりする?

あ、そんなことない? そっか


そのまま、テフィヌさんに見送られてセーミニの街に入る

うん、まぁ3日引きこもった事実さえなければいつも通りだな



「よっす」


「おはよ」


「今日は男連れか…」


「なんだそれ」



突然コイツが話しかけられたもんだから反応に困った

え、コイツ置いてっていいか?

あ、だめ?

ですよねー


とりあえず静かに話でも聞いておくか

有用な話かもしれんし



「いや、お前が昨日『眠り姫』と『澄み兎』の2人と遊んでたって聞いたからな。見に来たわけだ」


「え、委員長『澄み兎』って呼ばれてんの? まじ?」


「あ、お前は『白の風』な?」


「おい誰だそれつけたヤツ、連れて来い」


「教会のミェンリィだけど」


「頭上がんねえ!」



全く有用な情報じゃねえし、状況もわかんねえ

なんだこれ



「お、よく見たら連れてるのムソウじゃねえか」



ん? 俺のこと知ってる?

っと、よく見たらこの前のクソ強鳥から逃げてる時に助けてくれたレガハさんじゃんか



「あの時はありがとうございました」


「いや確かにお前らが逃げてこなければ俺らに襲い掛からなかったはずの脅威だが…あのクソ鳥が悪いのであってお前らは悪くないからな?」


「ですけど、俺らを庇って怪我をした人もいるじゃないですか」


「何を言うかと思えばそれか…別に後悔してるやつは………1人くらいしかいねえぞ」



その流れでいるんかい



「いやいるじゃないですか」


「…いや、うちの神官なんだが」


「ん? あの人怪我してましたっけ」



思い返してみる

あの時にいた人は…レガハさんたちが最初に来てくれて、次に色んなレーダルがいたわけだけど…

レガハさんたちのところの神官は…あぁあのなんかふわふわした美女って感じの人か…すげえ綺麗な服着てて武術も強いのに…服が全く汚れないとか言う

…あれ? やっぱあの人怪我してなくね?



「なんの話…?」



あ、今度はアイツが置いていかれてる

いい気味だ、そこで理解できずに待っていやがれ



「あぁ、まぁ怪我してなかったわけなんだが……その。」



なんか言いづらそうだな…実は怪我してたりしたのかな



「自分も年下の男の子を守るために怪我したかったとか喚き出してな?」


「………?」



ごめんもう一回言ってもらっていい?



「ごめんもう一回言ってもらっていい?」



考えたことがそのまま口から出たわ

普通に動揺してるわ



「おう…アイツ、年下の男の子を守って怪我をして、心配してもらいたい…むしろそのまま抱きついて欲しいとか言ってたぞ」



おい情報増えてんじゃねえか

より怖くなったわ

なんであんな清廉潔白な見た目でそんな欲望マシマシなの?



「まぁ俺もわけわかんねえんだが…うん。とりあえずアイツに近づかない方がいいと思うぞお前」



俺もそう思うわ

こわ



「が、がんばります」


「ってことで俺は離れるわ…気づかれたら確実にアイツ来る」



そう言い残して、レガハさんは走って去っていった

普通にいい男すぎん?



「…夢宗、よかったね。モテて」


「いや嬉しいより怖いの方が上なんだが…?」



普通に怖えよ

これモテたって言うより相手の性癖の都合だろ



「あ、白風(しらかぜ)? 今日何狩るん?」


「知らんわ、あと白風いうな」


「昨日は両手に花だったな」


「どちらも僕の方を見る花じゃないけど?」


「どうだか」



目を離すと会話してんのやめろ

進めねえだろうがアホめ

クレアードと門普通に近いんだぞ

実はさっきからクレアード見えてっからな?


お、話終わった



「ん」



なんか、黒いローブを身に纏った変な人出てきた…しかも長すぎて引きずってんじゃねえか

しかも刹那(アホ)に球体みたいな何かを渡してる



「灯の魔法具?」


「悪い、印、ある」


「占いか」


「そう、だから、これ」


「わかったよ、ありがとう」


「ううん、感謝、いらない」


「それでもありがとね」


「んぅ」



ローブの主の頭をアイツが撫でる

するとローブがずれて、中から黒髪の幼い女の子が出てきた

まさか…ロリコン!?



「おい、夢宗違うからな?」



なぜ考えていることがバレた



「じゃあね」


「また今度もよろしく」



別れの言葉を言うと、女の子はローブを被り直して、細い路地へと走って去っていった

うん、わけわからん



「どゆこと?」


「あの子は占いが得意で…たまにああやって教えてくれるんだよね。色々」


「はー…」


「あの子と話すのはこれが3回目かな」



お前どんだけ色々起こってんだよ

トラブルメイカーかよ



「よし、クレアード行くか」


「お前…もしかして、わざわざ会話したな?」


「当然…あんまり会いたくないレーダルもいるしね」


「好き嫌いはダメだぞ?」


「枠的にはお前とレガハのとこの神官さん的な」


「それはしょうがないな」


「手のひらドリルかな?」



うん、好き嫌いとかじゃないなそれ

すごいわかりやすい例えだね

分かりやすすぎて震え止まんねえや

すなわち手のひらがクルクルしてもしょうがないわけよ


とか、思ってたらついたなクレアード

3日ぶりなのに毎日見てたかのように感じるぞ


おい、壁から片目分だけ出して中の様子を窺うな

目立つだろうが

いやいつも目立ってるわ


会いたくないレーダルいなかったんだな?

安心したように息を吐きやがって

いや、俺も吐いてるわ

レガハさんのとこの神官さんいなくてよかった…


ってか、朝っぱらから酒飲んでる奴らいるんだけど

大丈夫かクレアード…いやレーダル



「はぁ、行くよ」


「あいよ」



刹那がクレアードに入っていくのを追う

割と見られてるな俺ら



「あいつ今日男連れてね?」


「『眠り姫』にフラれたに50000エル!」


「いーや、女より男に興味があるに51000エル!」



刹那キレてもいいんだぞ

もうそれ我慢できてないから

圧でちゃってるから



「いや、新たな女を捕まえ「でぇええい!」ぐほぉっ…」



あ、キレた



「変な賭けしてんじゃねえ! この酔っぱらいどもが! ぶっ飛ばずぞゴラァ!」



キレたりストレス溜まると気性が荒くなるのは前からか…あともうぶっ飛ばしてるぞ

うん、アイツがキレたの見て、さっきまで賭け事してた酔っぱらいども大爆笑してるわ

だめだこりゃ

とりあえず近くの椅子に座って、刹那が落ち着くのを待つか


とりあえずいつも騒がしいクレアードの会話でも聞いて暇を潰すか…

なんとなく、依頼板の方を見る…



「…んにゃー、この大鳥狩り悪くないにゃんね」


「ですが、こちらの響虎も悪くないですよ?」


「お二人には、響虎の方がおすすめですね」


「んにゃー…でも鳥食べたいにゃん」


「後で買えばいいじゃないですか」


「…リシア、一旦口閉じるにゃん」


「なんでですか!?」



小さな体に不釣り合いの大剣を装備した猫の獣人の少女と…かっこいい弓を持った女性が仲良く会話している

…俺らが狩れるレベルじゃない魔物の話で

ってか、猫の獣人か

そもそもこの辺って結構獣人いるらしいけど合わないんだよな…

いや、クレアードにはいるか


う、やばい…猫に触りたくなってきた

別のところを見よう


白い…虎? クマ? の獣人の少女が目に入った

こっちも少女か…いや、獣人ってなんかそういう存在だとかあったような?

とりあえず、耳を澄ませてみる



「嵐亀ね、任せて」


「よろしくお願いします」



ありゃ、会話終わっちゃった

まぁいいや…



「よし! 粛清完了!」



終わったみたいだな…周りの人たちが拍手している

…なんの拍手だよ、いやまぁ俺もしておくけど

一瞬、チラッと周りを見た刹那が『なんの拍手?』って顔をしてるけど…無視しておこう



「夢宗」


「うい」



もう何が言いたいかはわかっているから受付に向かう刹那の後ろを進む



「あ、やっと来たねセツナ君!」


「不届きものを粛清してたんで」


「暴れすぎはだめだぞ〜?」


「知ってますよ」


「ってことで、ムソウ君も含めて依頼の話に移りましょう!」



うわ、なんかレミネさんテンション高いな

あ、刹那も顔が引き攣ってる

これあれだ、なんかめんどくさい依頼とか来るやつ



「はい、これ〔黒狼〕討伐の依頼だよ!」


「〔黒狼〕…? ってことは1匹じゃないでしょう?」


「まぁセツナ君ならわかるよねー。群れだよ、殲滅しちゃってね…〔黒狼〕だから人気がないんだよね」


「場所は?」


「聞く必要ある?」


「ないですね」


「ふふ、いつも通り北の森だよ」



とんとん拍子で話が進んでくなぁ…

俺が口を挟む余裕ないんだけど



「…まぁいいか。受けます」


「はい受注証」


「「事前準備じゃん」」



受注証の事前準備はダメなんじゃなかったっけ?



「あ、ムソウ君になんだけど…〔黒狼〕のランクはβ、〔大顎亀〕と同じだから気をつけてね」


「ありがとうございます」



おいマジかよ

あの亀と同じかぁ…剣通るかな

いや、あの亀は物理耐性が高かった

大丈夫だろうか…



「さて、北の門に行くかね」


「馬車待つか?」


「んー…お金もったいないし、走ってこうよ」


「は?」


「導け“白の風” よし、いっくよー!」


「おいお前っ」



地面を蹴って、屋根の上へと刹那が跳び、その上を走ってゆく

アイツを追うようにして屋根の上へと跳び上がり、後を走る

くっそ、アイツ

逃がさんっ!


屋根の上をぴょんぴょんと跳ぶようにして走る刹那を同じように駆けて追う

あぁ!

むかつく!



「お、北の門見えた」



そんな声が聞こえ、刹那が姿を消した

…まぁおそらく下に降りたんだろうな

それを追って地面に降りる



「ね、これでいいでしょ?」


「良くねえよ馬鹿か」


「そうだよそいつは馬鹿だよ」



知らない声が入ってきた

誰…



「あ、今日はアルさんか」


「『アルさんか』じゃねえんだよ、他のレーダルに影響されて屋根の上走るのやめろや」


「いつもサボってる人が言えることじゃないと思うんだけど…」



アルさんとやらの声の方を見れば…そこには酒瓶を片手に持って椅子にだらしなく座る門番が………っておい、何してんだ

門番としての仕事どこいった



「あ、夢宗…この人、アルさんは一応これでもなんとか実力のお陰でこういうことができてるんだ。だから、あまりにも態度とかが酷いからってあんまり悪く言わないであげてね?」


「「お前が1番言ってる…」」



どう考えもこいつが1番悪く言ってるじゃねえか

まぁ、様子見てる限り全く擁護する気がわかないけど



「ってことでヒノミ様の弟子のムソウ、俺は門番のアルフレッド…北門は基本俺が門番してるから、よろしく」


「えーっと、よろしくお願いします」


「あー酒うま」



なぁこれ話聞く気あるん?

普通に酒カスなんだけどこの人

大丈夫?



「夢宗、顔に出てる…こいつ完全に酒カスなんだけど門番なんてやらせていいの? って出てるから」


「そこまでじゃねえよ」


「初対面から俺そんなこと思われてんの? なんで?」


「「どう見てもその態度と酒瓶の所為でしょうよ!」」



喋っていても疲れるだけなので、アルフレッドさんは無視して北の森に向かうことになった

というより、諦めて2人で無視した

あの人ツッコミどころしかないからダメだわ


森が近づいてくるにつれて…何やら刹那の顔が険しくなっていっている気がする

俺、セーミニ北の森来たことないんだよな


なんか違うのか?



「…明らかに暗い」


「そうなのか?」



暗いか?

いや、確かに…真っ暗で中の様子が全く確認できないな

周りくらいは普通明るいよな



「夢宗、警戒して入るよ」


「了解」



刹那が肩掛けカバンに手を入れ、先ほど幼女からもらっていた灯の魔法具を取り出し



「…流石は占い師。ほんと、助かるよ」



そう言って、魔法陣を展開し…握る

すると、ゆっくりと魔法具が輝きだし、ふわふわと刹那の周りを漂い始めた



「夢宗…行こう」


「前は任せても?」


「任せて」



刹那が右腕を伸ばすとその手の中に氷の大剣が握られていた

うーん、それカッコよ

俺もそういうのが手に入ったらやるわそれ

背中の鞘から直剣を取り出す


暗闇に包まれた森に踏み入る

大剣の刃が地面を滑る

引きずるように大剣を持ちながら刹那が先に進んでゆく



「……」


「……」



俺らに会話はない

すでに踏み入ったのだ

何かを話すよりも警戒が重要だ

周囲を見ながら前へ前へと進んでゆく


“パキッ”


小さな音だった

それに俺らは獣道を進んでいるし、枝は見つけていない

つまりその音は…



「ふっ」



刹那の左手に現れた氷の槍が音の方へと投げられる



『ギャン!』



いる

確実にいる

〔黒狼〕ってやつだろう



「…照らせ!」



その言葉に反応して魔法具が光を強くした

周囲の木々が見えるようになり…大量の狼たちも見えるようになった

さらには、光る二つの目が…その奥にいくつも見える



「こりゃ…大変だね」



そう言った刹那が灯の魔法具を掴み取る

まずいっ!

目を閉じ、下を向く


“カッ!”と閉じた瞼も貫通するかの如き強い光が煌めいた



「逃げるぞ、むそ…ッ!」



俺にそう言って逃げようとした刹那が吹っ飛んでいった

いや、吹き飛ばされていった

大剣を盾にはしていたが、周りの〔黒狼〕よりも3回りは大きな狼に飛びつかれ森の奥へと連れて行かれた…



『ヴゥゥゥウウ…』



…まずいな、確実に気が立ってる

あの大きな狼が理由だったのか…この付近は先ほどよりは明るくなった

灯の魔法具を見ると、さっき砕け散ったはずだが…しっかりと球体で存在している


攻撃すれば閃光を出せるか?



『ワォォオオオン』


「チッ!」



時間をかけすぎたか…


四方八方から狼が襲いかかってくる

前から素早く迫る〔黒狼〕の鼻に蹴りを入れ、怯んだのを見て前へと転がり、剣を地面へ突き立て〔黒狼〕の首を両手で掴んで、先ほど自分がいた位置にその狼を投げ飛ばす



『バゥッ…ワウッ! ワオウッ…ガ、ゥ』



投げ入れた狼は噛まれ、引っかかれる、体当たりされとボロボロになり、力無く倒れた

剣を地面から引き抜いて立ち上がる



「極限すぎるな」



だが、これでしばらく集団で襲いかかることをしなくなるはずだ

こっちからすれば相手の数は未知数

あっちからすれば俺の実力は未知数


今の相手の指揮は弱り気味、だが数の差という点でそれは少しの弱体化にすぎない


更にコイツらは魔物、それもおそらく自然発生型…群れの仲間に情なんて存在しないに違いない

警戒はするが恐怖はしない、厄介だな



『ウウウゥゥゥゥ』


「警戒よりも恐怖してくれるとありがたいんだけどな」



本当に


左側の近い狼に切り掛かる

突然のことに驚いたのか、そのまま剣を受けたが…


チッ!

やっぱり全然切れないか

この3日で片手で持てるようになったとはいえ、片手じゃあ足りない

それも左手だったら…


なら



「こうするまでだ!」



振り切って持ち上がった剣を逆手に持ち替え、右手と左手の両手で持って、しゃがむように狼の頭に突き落とす

抵抗がなくなり、ぶち抜いたと感じた



『ガッ…』



大当たりだ

狼が力を失い、崩れ落ちる



「ふぅっ…」



立ち上がり、剣を頭から引き抜き、血を払う

相当強気に立ち回って見せてるが…どうだ


“ぴちゃり”と足元から音がする


血か…それもうっすら白色を纏ってる、まだ世界に馴染んでない


つまり、この後は…



『ワオォォォォォォオオン!!』


「だよな! 当然だ!」



こっちが対集団に向いてないことは今ので理解されちまうよな!

これだから、知能の薄いやつは!

今まで人間以外では、知能の薄い奴としか戦ってきてないんだけどな!


人間が相手だったらまだ警戒してくれてたと思うけどなぁ…はぁ



「くそっ!」



飛びかかってきた狼の頭に鎧のついた腕を差し出し、鎧を噛ませ



「だぁぁぁ!!」



地面に叩きつけてその首を思いっきり踏む

“バキリ”と音はしたが、それを確認することなく

次に飛びかかってきた狼の頭に膝蹴りを入れ、その右の狼に右手に逆手で持った剣を突き立てる



『ギャンッ!』


『バォッ!?』



後ろから飛びかかる狼の首の下あたりを左腕で掴み



「風よ押せ“(ヘテ)”」



弱い魔法を工夫して、少しの力で大きな力を生み出すように、周りからこっちを見ている狼にぶん投げる

ほら、ストライク



「はっ! 見てるだけが許されるのはスポーツ観戦だけだぜ?」



自分が半分ほど何言ってるかわからないし、狼がわかるわけないと知りながらも煽りたくなった

絶望的な状況だからこそ、ふざけて自分を鼓舞するのだ

にしても煽り方、刹那とか逸人みてえだな



「こいよ」



今度は単純に煽る

俺の顔は、今笑ってるに違いない


4匹の狼が向かってくる

最初の体当たりを避けると、読まれていたのか鎧のない左肩に牙が突き刺さる



「がっあぁ!!」



いってぇ…なァ!

血が溢れてきている

勢いよく噛みついた狼の体が俺の体の後ろ側へと倒れ込もうとし、より牙が食い込む



「がっ…てめぇ!」


『ウゥゥゥウ!』



噛みつきながら唸るとは、なかなかやるなお前ェ!

左肩の狼に右手を伸ばそうとし、足に重みがのしかかる


2匹の狼が足の鎧に噛み付いていた



「だぁァ!」



肩の痛みを堪えながら、右手に持った剣を左肩の狼の喉へ突き刺し、引き抜く

それだけで先ほどまで唸っていた狼が黙り、熱を持ったうっすら光る液体が体の上を流れてゆく

力を失った狼の体が崩れ、肩の傷が広がり…より血が溢れ…狼の体から流れる血と混ざり合う


死んでも邪魔をするか…


次に足に張り付く狼を排除しようとした時、ふと感じた嫌な予感に従って、左側へと重い体を動かす



「右肩かッ!」



狼が顔の右側を飛んでいく、狙っていたのは右肩だったか

強引に動いたことで左足の鎧に噛み付いていた狼はぐるりと回転するように地面に転がったため…その喉を思い切り踏みつける



『ガ、ギ…』



何かを折った感覚を感じながら、軽くなった体で狼の攻撃を避けながら、剣で左肩の狼をどかしてゆく

というか、早く回復しないと…左腕が使い物にならなくなるかもしれない

さっきから痛みが理由で左腕を動かせていない


早く魔法薬を使わねばならない


だから、



「どけ!」



右足の鎧に噛み付く狼が邪魔になったから、ジャンプして右足の…いや、狼から着地し、全体重で持って圧迫する

よし、力がなくなった


右足も解放された後は左肩

諦めて、痛みの続く左手で剣を握り、右腕で強引に引き剥がす



「がっ、あぁ!」



壮絶な痛みと共に外し、ベルトポーチから取り出した魔法薬をかける

うん、痛みが少し…弱まったな


傷が全て癒えたわけじゃないが、応急処置はできたし左腕も使える


が、万全じゃない

すでに右足の鎧は変形し、使い物にならないし…何かあればこっちへと牙を向く


狼たちの襲撃の1ウェーブ目をなんとか凌いだ


さぁ、変形した右足の鎧と変形しかけの左足の鎧を外して第2ウェーブと行こうか



『ワォォオオオン!!』



最初の最初にやったあれのおかげで、一気には襲いかかってはこない

やらせてよかった味方殺し


前から迫る狼の頭へ剣を振り下ろす

やっぱり切れない

ならば、棍棒として扱うまで…痛む左腕を無視して両手に変えもう一回



『ガゥ!?』



およ、力任せのおかげで少し切れちゃったみたい

かわいそうに…じゃあそのまま殺してあげ



「ぐ…」



後ろから右足に噛みつかれた

その痛みに動きが止まる


まずいと思ったがすでに遅く、次の狼の体当たりで体が地面へと倒される

強引な動きにより、右足に噛み付いていた狼は離れたが…傷が広がり血が流れ出している


襲い掛かろうとした狼を剣の柄で殴りつけ、怯ませ…別の狼には左手の鎧を噛ませておき、右手の力で立ち上がる

立ち上がると同時に左手の狼の喉に剣を突き刺し、殺す


もはや何も感じない

死体となった狼を転がし、魔法薬の中身を全て右足の傷へ強引にぶちまける


その直後に先ほど剣の柄で殴った狼の頭に肘打ちを入れ、抵抗のない首へ剣を突き刺す

…くそ、これじゃあ剣である意味がない


そんな文句を言う前に



「あッ!? がっ!!」



背中側から右肩に噛みつかれた

それも鎧と右肩に爪を立てて



「こな、くそっ!!」



痛みとか傷が広がるとかは全て無視し、狼をどかすことだけ考え、跳ぶ

空中でくるりと周り、狼を…右肩を下敷きにするように着地する



「がっ…」



意識が飛びそうなほどの痛みが体を襲うが、狼は意識を失っていたため…傷を広げつつも素早く取り外し、魔法薬をぶちまける


取り外した狼に恨みの意味も込めて、膝を首の上に起き、のしかかることで…“ゴキリ”と音を立てて首を折った


襲われないことを不思議に思い、周りを見ると…再び警戒状態に変わっている


何が条件だった?

わからねえ…


おっと、ふらついた…血を流しすぎたか?

狼たちの動きが変わった


今回の警戒は俺の跳躍についてか

なるほど、普通に考えて獲物が逃げ出そうとしたならば警戒ではなく、追いかけるはず

つまり、まだ隠れてる狼がいる…可能性がある


俺のふらつきを、演技と見たか、本物と見たか…どうだ?



『ワォォオオオン!!』



おお、この遠吠え

本物と見たな



だが、狼…俺を甘く見たな

見つけたぞ司令塔



一方向からならば仲間割れはさせられないと考えたらしく、大量の狼が前から迫ってくる

俺が見るのは…その1番奥

この狼たちをまとめている司令塔



「あぁぁぁぁぁぁ!!」



痛む体に鞭を打ち、迫り来る狼の波を超えてゆく

地を蹴って、狼の上を跳ぶ

跳んでくる狼にはお祈りを、俺が足をつかなきゃいけなくなる距離の狼には踏み付けを


狼から狼へ跳び、次の狼から次の狼へ跳ぶ


この体のどこにこんな力があったのかと疑問に感じるほどの動きで…波を超え、たどり着いた先の狼へ剣を振るう


空中だし、俺が剣を振っても…切れない

だからどうした



「風よ押せ“(ヘテ)”」



俺以外の力を使えばいい!


強引に力が入り、体が悲鳴を上げる

だが、その剣はしっかりと狼へ向かい…その首を飛ばす



「…やってやったぞ」


『ワォゥ』



ふっ、心なしか…やられた、と言ってるように聞こえるな



『ワォォオオオン!!』



そうして次の咆哮は上がった



「あぁ…そうじゃねえか。何やってんだ俺…司令塔が死んだから、動かない? そんなわけねぇだろ…アホかよ」



さっきの無茶で体の傷が開き、血が出てきている

もう魔法薬はない

…血が足りなくて思考力も鈍ったか



「はっ…」



再び襲いかかる狼の波を見て…声が漏れ出した



「ははっ…」



いや、笑みがもれた



はははは…



ははははははは!



…ふざけるなよ



方法がないのなら、今までしなかったことをすればいいだけだ!



「風の思うままに——導け」



そよ風が…頬を撫でた気がした



「“纏い風(カフィニ)”!!」



風が剣へと集いゆく


“ウウウゥゥゥ”とうるさいほどに風が鳴く


チラリと見た剣は…風を纏っていた


は、はは!

この土壇場で使えるようになるとか…


ふざけやがって

もっと前から使えてろよ


微笑みながら…そう考える



「だぁぁぁぁあ!!」



迫る10匹ほどの狼に向け、剣を一閃


なんの抵抗もなくすり抜けたそれに違和感を覚え、前を見れば…


複数の上下両断された狼の死体が目に入る

うわ、臓器見えてる

気持ちわる


狼よりも強く唸っていた風が“ヒュゥゥゥゥ”という若干弱気な音に変わる

そういえば、これって初撃だけ威力高いんだっけなと思い出す



「今までの俺は…刺殺と…首へし折ってしか殺してないが…ここからは剣士だぞ」



くっそだせえ台詞を言いながら狼どもを見る

いや俺ほんとに剣士してねえな

魔法使ってる時しか切れてねえじゃん相手

剣士名乗るのやめよっかな


いや、そもそも名乗ってねえわ


狼は再び警戒状態に移行する

こっちは血が足りない上に、また流れ出してる

短期決戦しかないな…


突っ込むか



「あぁぁぁ!! だぁっ!」



若干ふらつく足で、距離を取った狼との間を無くし、胴体を右前足から左後ろ足まで断つ

うわ気持ちわる


じゃなくて、次!


さらに下がろうとする狼の足を切り飛ばし…可哀想だから介錯

うん、いいことをした


じゃない、次!


って、距離取られたな



「んだよ、面白くね…ぇな」



視界が歪み、ふらついて…倒れかけた

なんとか剣を杖のように使い…耐えたが…この万能感を感じているみたいな今も長くは続かないと伝えてくれたのだろう


最悪だ

剣についていた魔法も消えた

魔力は余ってる


魔法なら使える

でも、そんな余裕はなさそうだ…


ここぞとばかりに狼たちが襲ってきている

なのに、体が重い…瞼が重い…



あぁ…ここで死にたく、ない





















気づけば暗闇の中にいた


俺は死んだのだと…確信した


だからこれはきっと走馬灯なんだ


……生きているはずがない、あんな状況で意識を失って生き残れるはずがない


あぁ……もっと…異世界を……満喫したかったなぁ


今回の俺が死んだ責任は誰にある?


俺か? 刹那か? それともヒノミさんか? またはレミネさんか…


まぁ責任は誰にもないだろう、悪かったのは…きっと運だ





運、運…か


昔から俺は運が良かった


それがこんな運が悪かったで済むような終わり方をするなんて…笑いものだよな…はは


あぁ、涙も出ない…きっと俺に相応しい死だったんだ


‘…ほんとに?’


あぁ、運に踊らされ運に死ぬ俺らしい終わり方じゃないか


‘……まだ、終わってないよ’


幸運は俺を捨てたんだろう


‘そんな、こと…ない’


死んだから俺はここにいるんだ、終わってないも何もないだろう?


‘ううん…死んで、ないよ…’


は? それはつまりどう言うことだ?


‘——なら…できる’




…励まされるような言葉と共に暗闇の世界から追い出されてゆく


君は誰だ?

なぜ俺を知ってる?




そんな疑問は記憶と共に溶け消えて…












…数え切れないほどの狼どもがこちらへと向かってきているのが視界に映った


消え失せたと思った風が剣に集い出し“ゥゥゥウゥゥウ”と小さく鳴いている


不思議と…今ならばできる気がした


ゆっくりとした視界の中で…近づいてくる狼どもを視界に収め



「………戦技:扇刈(おうぎが)り」



青い光が灯り、弱々しい風を連れ、軽く振るわれた剣により…沢山の狼を扇状に薙ぎ払った



土壇場でばっか成功しやがる

でも…俺、やっぱり成長できてたじゃねえか


既に喜ぶ気力すら残っていない

あとは残りの狼に蹂躙されるだけ…


もう力は残ってない


俺は…最後まで、抗ったぞ!


自分にもわからない誰かへと…声をかける


足に力が入らなくなり…狼の死体と血と内臓の転がる地面に膝をつく


倒し切れなかった狼たちがこちらへと屍を超えてやってくるの見て



「ははっ…」



乾いた笑いが出た

こんな場所で死にたくないなと、下を見た

血の海の中に…灯の魔法具を見つけた


最後の最後に…賭けと行こうか


迫り来る狼たちを見て…両手で剣を握り…灯の魔法具である球体の上に剣の刃を置く



「最後に、吠え面かかせてやるよクソ狼ども!!」



剣へと体重を込める

魔法具にヒビが入り…


白が世界を支配する










柔らかな風がふわりと吹いた

体に少しの暖かさが訪れた


戻った力を使って、目を開けば…



「…間に……あった」


「…お、そい。ぞ」


「わかってるよ…」



画質の荒くなったような視界に映る刹那は…ボロボロで服や鎧、白い髪が血で赤に染まり、胴体を右上から左下に袈裟斬りにされたような傷がある



「わかってる」



いつもの明るい雰囲気が消え、どこか苦しそうな辛そうな、それでいて憤怒を抱いているような声だった

その手に握られた完全に透明な氷の大剣が異様なまでに気になった



「…()の居場所を奪おうとするなら、死ね」



その台詞を聞いて…わかった

こいつ相当にキレてるわ

居場所ってどういうことよ

わけわからんわ


刹那がその大剣を一振りすれば、触れた狼が断たれ、瞬時に凍てつく

その刃に触れずとも、刃から生まれる冷気に触れた狼も凍てついてゆく



「…戦技:剛断」



冷たいいつものアイツとは全く違う平坦な声の後、大剣が振るわれ、狼が、木が、草が斬られ、その全てが凍てついた



「はっ…俺…いらなかったんじゃ…ねぇかな」



ついそんな声を上げると



「そんなことない…逆だ。こんなとこに連れてきた…()が悪い」


「なんか今のお前、非力なお姫様を危険な場所に連れてきてしまっためっちゃ重い恋心を抱く騎士みてえで怖いんだが」


「…?」



あ、いつもに戻った



「たとえの状況が狭すぎるんだけど…」


「しょーがねーだろ血が足んなくて思考回ってねえんだから」


「あっはは! 面白いことを言うね、どちらかと言うと思考が回りに回ってそうな答えだったよ?」


「んなことねえよ」



いつもに戻ったな、なんだったんださっきの



「そだ、魔力回復薬ない?」


「ある、持ってけ」


「せんきゅ」



俺のベルトポーチを開き、魔力回復薬を刹那が取り出す

黒い液体の入った瓶を開き、一気に飲み干し…顔を顰めた

うん、相当苦いんだな

俺それ飲んだことねえからわかんねえや



「…木漏れ日の如く癒しをもたらせ“陽の花”」



森に指す木漏れ日が別れ…俺らの上で蕾となる

それがゆっくりと開き…完全に開花した



「ん、怪我はほとんど治ってないけど…体力は戻ったな」


「そう、イメージはそれだよ。ほんとは怪我を治したかったけど、それはネイレンとかの神官に任せるよ……まだ、ね…」



刹那がふらつき、膝をつく

おい、今度はお前かよ

目の焦点は合っていない

まずいか…?



「あ、はは…巡る風に…乗って、伝われ“伝え風”」


「は?」


「北の森……たす、け」


「おい刹那!」



刹那が倒れ、刹那の手元に集っていた風が散る

まるでそれが、コイツの命のことを指しているかのようで…

どうしようもなく、怖くなった


視界の端の景色が歪む…

何事かとそこを見ると…それは見覚えがある現象で



「なんじゃあれ、イタズラ魔法じゃったんか? って、ムソウにぃ!? …セツナァ!?」



もう見覚えしかない人が現れた

今ので大体わかったわ…刹那が何をしたのか

ってかイタズラ魔法ってなんだよ、イタズラ電話じゃねえんだぞ



「え、あっ…えっと」



あ、ダメだわこれ

人選ミスだわ

おい刹那俺ら死んだぞ



「と、とりあえず転移!」



あ、生きたわ



視界が歪み…見覚えのある白い部屋についた

うん、見覚えしかないですねこれ

刹那ならもっと見覚えありそう


あ、そういえば刹那は…呼吸してるな

おし、生きてる

ふぅぅ……



「何をしとるんじゃ」


「あぁ、刹那の息を確認しただけです」



なんて言ってたら扉が開いて…見覚えのある人がやってきた



「えっ! セツナ!?」


「ネイレン、ウォレイも呼んでくれ…仕事じゃ」


「またなの!?」


「またじゃな」


「うっそでしょぉおおおお!!」



ネイレンさん…なんか、最初に会った時とキャラ違うな

ん?

教会

神官


う、頭が…なんだ、何を忘れてる

俺は何を忘れてる!?


“ガチャリ”と音を立てて、扉が開く



「お、ネイレン早かった…の、う?」


「ムソウくんが、怪我をしたと聞いてきました」



アッ

これかぁ…

なぁるほど



「あの、俺帰るんで…ヒノミさん転移してもらっていいですか?」


「いやその怪我で何を言っとるんじゃ」


「いいから早く!」


「ムソウくーん!」



ヒィッ

特殊性癖の人怖っ!

抱きついてこようとしないで!


レガハさんのパーティの神官…リャーミさん

ほんわかしてる美人で……年下好き


〔嵐鳥〕の件から…俺にとんでもねー感情を抱いている人


そんな彼女から、病室の部屋で逃げる

逃げる、逃げる、逃げる、ひたすらに逃げる

うん、体力尽きるわ

普通にこっち怪我人だぞ

それも血が足りてない


さっきから思考回ってねえのお前のせいかよ血

あっ


力を失って倒れた



「危ない! ふぅ〜危ないところでしたね」


「はい、追いかけ回してる人と助けてくれた人がリャーミさんじゃなければ惚れるところでした」


「じゃあもう惚れてるってこと!?」


「この人皮肉通じねえ!!」



くそ、変なこと言うと切り取られて曲解されそうだ

下手なこと言えねえ

いや、言ってんじゃねえか変なこと既に


あ、ってか俺も…刹那も…血だらけ……だけど………部屋とか…………服…とか……だい…じょう……ぶ…………なの………かな……………















気づいたら夜で、治療がある程度進んでいた

ちなみに俺の治療担当はリャーミさんらしい

変なことされてないか怖いんだけど


え、なに? 抱きつきはしてた?

変なことされてんじゃん


え、刹那の方はネイレンさんで…尻尾を枕に寝てた?

…俺、刹那が男じゃなかったらそれしてもらいたかったわ


何言ってんだ俺、疲れてんのかな?

疲れてるわ

まだ血が足りてないってさっき言われたばっかだわ



その後、クレアードからも謝罪され…迷宮に行けるくらいまで俺の評価も上がったらしい

どーいうこっちゃ

別に謝罪とかしなくてよくない?

なんて思ってたら…異常事態で全く想定してなかったけど、土地支配型の魔物がセーミニの近くに現れるのは初めてだったんだとか

はえー…って感じ


俺の見舞いにレガハさんがきて全力で謝ってた

こっちの謝罪もしなくていいと思った

というか、レガハさん…あなたの後ろのリャーミさんの目、やばいっすよ

何かミスると殺されそうですよ? 大丈夫ですか?


刹那の方に占いの子が来てたから感謝をしておいた


そうしたら逃げられた


なぜゆえ








病室での会話


「あん時のお前なんであんな怖かったん?」


「ん? んー…んんん? あの時っていつ?」


「俺助けに来た時」


「そう? そんなに怖かった?」


「おう」


「…そっ…か……なんでだろうね」


「………わかってないなら、いいけどな」

メインメンバーの中で最弱の夢宗があれだけ首を折れるのには理由があって


ヒノミが特別に夢宗だけにそれのやり方を教えたからです

〔角兎〕で練習させられまくった結果、普通にトラウマになってて精神状態が平常だと使えないんですけどね

ただ、緊急時になると高確率で夢宗はヤケクソになって…《ヤケクソ状態》に入り、トラウマなんて無くなって首は折れるし、能力も上がります


ちなみにこの《ヤケクソ状態》は天青家特有のものなので…今後も重要になるかも


《ヤケクソ状態》とか、謎の声が気になると言う人はブックマークと評価、お願いします…なんちゃって

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