セーミニ観光をしようwithメルティア
クローア生活18日目
途中詰まってたけど、色々変えたらかけた
もう少しセーミニについて書きたかったところではある
『メルティアさんって、セーミニのこと詳しいですよね?』
『そうですけどー…ヒノミ様ほどではないですねー(小声)』
『観光したいからガイドして欲しいんですよね…ヒノミさんに明日は絶対に休めって言われちゃったので…』
『いいですよー、では明日はそうしましょうかー』
と、いう話をしたのが昨日
そして、今日
「え、観光に行くんですか…私も連れて行ってください!」
想像以上に早く起きたので、他に起きている人達に予定を話したら、料理にハマり込みすぎた人が乗ってきた
「委員長が、観光? もしかして料理を食べに行きたいってこと?」
「違いますよ! それは1人でできるじゃないですか!」
「…じゃあ、なんだろ」
「わからないんですか?」
「わからない」
灯莉が少し寂しげな表情をして、刹那へ問う
が、一瞬にして肯定の返事が返ってきた
「そくと…え、ほんとにわからないんですか?」
「え? うん、わからない、けど…」
「中1の時の自己紹介で旅行と料理が好きって話をしたじゃないですか」
「あ、うーん? うーん…」
灯莉が答えを言うが、刹那の反応はあまり芳しくない
「覚えていないんですね」
「私は覚えてるぞー、あれだよな? イタリアとかに行って現地の人と交流しながら観光したいって言ってたよな?」
「そうです、それです! 茉里さんはやはり素晴らしいですね!」
「うーん…?」
「え、まだ思い出せてないんですか?」
「………ごめんなさい、全く思い出せません…あの時の自己紹介とか緊張しまくってて、他人のものを聞いてる余裕がなかったから…」
「自己紹介の意味…」
「…おぬしらは、あさからなんの話を、ふわぁああ、しとるんじゃ……」
刹那、灯莉、茉里の3人で会話をしているところに、物凄く眠そうで言葉も辿々しくあくびまでしている、明らかに寝起きのヒノミが現れた
「あ、ヒノミさん…寝癖がありますよ」
灯莉がサッとヒノミの横に移動して、どこからか取り出した櫛でヒノミの髪を整える
「すまぬの」
「朝のお茶はいかがですか? ヒノミさんのお好きな『精霊の気まぐれ』がありますけど」
「じゃあ…それを、たのむのじゃ…ふぁぁあ」
ヒノミが灯莉に世話を焼かれている様子は、貴族の子女とその侍女のように見える
ヒノミの注文を聞いた灯莉は厨房へと静かに移動していった
「…委員長、従者か何かかな?」
「じゃよな、ワタシのかんちがい…でなければ、あやつ、ワタシのこと…こどもあつかいしとるよな?」
「…まぁ寝起きのヒノミさん初めて見たけど、そう言う扱いされてそうではあるよね」
「それどういういみじゃ!?」
「それは私も思った」
「マリまで!?」
ちなみに刹那の中では、貴族の子女が朝に弱く、ふにゃふにゃしているのを自らの従者と家族にしか見せない…といったふうにストーリー展開されているため、そう言う扱いされていそうという言葉が出てきたのである
茉里も茉里で似たようなことを考えていたが
「…ふわぁぁあ、にしてもおぬしら今日は早いのう」
「まぁ昨日、茉里と魔法で遊んでたら魔力がギリギリになっちゃって早めに寝たので…」
「…少し遊びすぎたよな」
2人が早く起きた理由を聞いたヒノミが薄く笑う
「相変わらずじゃのう…ところで、今日は休暇なんじゃろ? 何をするのじゃ?」
「僕はメルティアさんとセーミニ観光ですね、委員長もついてくるらしいですけど」
「私は露店を見ることにした」
「…ほぅ、おぬしら休暇という言葉の意味わかっておるか?」
「休むことでしょ? わかってるわかってる」
「だから依頼行く気ないしな!」
「…はぁワタシが会ってきた魔法研究者たちと同じ顔をしておる」
刹那と茉里の顔を見たヒノミが呆れたようにため息を吐き、椅子を引いて座る
「ヒノミさんできましたよ、『精霊の気まぐれ』砂糖多めです」
「…言わんでいいじゃろ」
お茶を持ってきた灯莉の言葉に少し顔を赤らめながらヒノミがお茶を受け取り、華麗な所作で口をつける
一口味わい、美味しかったようで笑顔になった彼女は、刹那と茉里が自身を見ていることに気づいた
「なんじゃ…」
ヒノミが不満そうな顔で2人を見る
「「いや、別に」」
「…『別に』じゃないのじゃが、そんなに見られると少し飲みにくい…の、じゃが?」
「ふふ、ヒノミさんのお姿が大変愛らしいからではないでしょうか」
「ちょっと待つのじゃ、アカリおぬしワタシのことそんなふうに考えておったんか!?」
「あ……そ、そんなことはありませんよ?」
「最近やけに世話を焼かれるなぁと思っておったし、気づいたら色々と終わっておると思っておったが…おぬしか!」
「べ、別に、洗濯も食材の管理もお世話もやっていませんよ?」
「おぬしは侍女か! 年頃の女子であろう!? 洗濯に恥じらいを持ったりせんのか!?」
「特には…ですね」
ちなみに、刹那も茉里も『え、委員長が洗濯してるの?』という顔をしている、というか少し恥じらうような表情をしている
刹那に至っては特に恥じらっている…『これもうどっちが女子だかわからぬな』と内心ヒノミが考えているくらいには状況がおかしい
ちなみに刹那は今度から脱ぎ散らかすのをやめようと考えていたりする
「ふっふっふ、刹那さん…私はあなたの弱みを握っていますよ」
「弱みっていうか、めんどくさがりが現出しただけなんだけど」
「あぁ、理解したのじゃ…確かにあれは…」
「ヒノミさんテメェこのやろう!」
「ちょっ、ワタシにだけ容赦がなくないかの!?」
「待ってめっちゃ気になるんだけど!」
「貴様にだけは何も教えん!」
「つまりガチの弱みじゃん、今度教えてもらお」
満面の笑みの茉里が刹那の反応に食いついた
「貴様ァ! 貴様に知られる頃には直しておくからな! 覚悟しろよ!」
「どんな宣言だよ!」
「…直そうとする気はあるんじゃな」
「刹那さんもちゃんとやんちゃな男の子なんだなぁって思いました」
「おぬしはどの立場じゃ!?」
こうして、カオスな1日は始まった
…朝の4時から
雑談をしたり、魔法談義をして時間を潰していれば…ゆっくりと他の人たちが起き出す時間がやってくる
「くぁあ……なんか今日多くねぇか?」
「あ、逸人おはよ」
「逸人か…おはおは」
「こいつら、うぜえな朝っぱらから」
「あ、あはは、あ、おはようございます逸人さん」
「お前はいつもだな、水戸」
「お、次はワタシか? ワタシか?」
「さて、飯でも食って依頼行くかな」
「ちと待てい! せめて何か反応をするのじゃ!」
「はぁ…『迷宮』に行ける条件忘れた、教えてくれ」
「レーダル登録後20日経過、そして依頼、魔物討伐履歴に問題がない場合…じゃの」
「あれ? あの、レーダルのランクがγ-って言うのは?」
「それは、そのランクさえあれば、基本問題ないという指標じゃの…その迷宮によるが」
「なるほどねぇ」
「ところでじゃ、ハヤト」
「なんだ?」
「今日は…休暇…じゃろ?」
「あ? あぁ」
「忘れておったな? 依頼に行くというのならば、強制転移じゃからな」
「チッ…ところで、夢宗以外は条件満たしてるんじゃねえか? 時間以外」
「そうじゃのう…あ、リーミナもじゃな」
「うげ」
「それに、まぁ活動にも金は必要じゃ、あとは登録からの経過日数だからといってサボるでないぞ」
「今日はサボりでは?」
「適度な休息は、必須じゃ!」
結局逸人は拠点で訓練することにし、ヒノミに休めと怒られていた
その後も続々と起きてきて、休暇の今日の予定を決めてゆく
そして6時、刹那と灯莉は…というより、刹那は灯莉に促され、朝食を食べ…セーミニへと出かけた
朝食を食べていない茉里を連れて
「それにしても私たちも慣れたものですよね」
「な、私なんて片手間で魔法使って弱い魔物片付けてるもん」
「いや、茉里はちょっと違うでしょ」
「何がだ!?」
驚きの表情で見てくる茉里を無視し、刹那が話を変える
すると、茉里も何もなかったかのように話についてくる
「そう言えば、ヒノミさんは言ってないけどさ…今後、新しい武器って必要じゃない?」
「この中だと委員長だけじゃないかそれ」
「いや、魔導本も品質は存在するけど?」
「つまりこの中で武器を変えないのはお前だけってことか?」
「…茉里さん、そもそも刹那さんは武器がありませんよ」
「作れはするけどねー」
刹那が透明な氷の直剣を作り出して右手に持つ
「それじゃあ攻撃力が足らなくなる時が来るんじゃないか?」
「そうだね、そうしたら色々やってみるよ」
「そのときは私も協力しますよ」
5日前に初めてセーミニの街へ行った際と違い、彼女達には緊張も焦りも存在していない
森の試練は終わり、森の中を永遠と歩くことなく、即座に森の外へと出れるようになり、危ない魔物はセーミニ西の丘にほとんど現れないことを知っているからである
「街着いたらメルティアさんが起きるまで何する?」
「寝てるのは確定なんですか?」
「うん、メルティアさんは寝てる、絶対ね」
「…聞いてよかったのでしょうか」
「まぁ、あの人『こんな時間まで寝てしまうとはー』って14時にレーダル向かってたしな」
「…なんかそれ記憶にあるんだけど」
「そう、昨日だ」
そう昨日である
茉里が言ったようについ1日前の出来事である
「え、あの…それ私本当に聞いてよかったんですか…?」
「まぁ…あの人『眠り姫』とか呼ばれてるし」
「…あぁ、いろんな人に知られているんですね」
「まぁ、あの人割と目立つしな」
「それにしても…」
灯莉が少し溜め
「刹那さん、顔広くないですか?」
「あ、それは私も思ってた」
「そう?」
「とりあえず地球にいた時より広いよな」
「まぁ…うん、街に来てからほんとに色々あったからね…」
「教会で暴れたって話は聞いたぞ」
「私は楽しそうに(無駄な)買い物してたって聞いてますね」
「えぇ…」
自分の噂が知り合いに知られているのは…なんと言うか恥ずかしいと言うか…表現のし難い気持ちを刹那は感じつつ、いつものようにセーミニの街の西門前に着いた
「レウ姉こうりーん! おっはよー! 白犬くんに、うさちゃんに…えーっと、誰だっけ?」
「伊春 茉里…魔法使いだぞ」
「おおー…じゃあ、んー……魔女ちゃんだね!」
「なんでそうなった!?」
「諦めろ茉里、この人はいつもこうだ」
「茉里さん、諦めてください…こういう人なんです」
「あっれー? レウ姉なんか悪いことしたー?」
刹那と灯莉の2人に冷たい反応をされたレウネが頭をポリポリとかきながら、疑問を口に出す
「急に妹さんに合わせようとして、門番の仕事を放棄しようとしたり…」
「ぼーっとしていたら違反物が持ち込まれかけたり…」
「「悪いことはしてますよね?」」
「…ちょ、ちょっとわからないかもー」
「は、はは…」
他の門番が呆れ、レウネを急かしたことで刹那たちは少し時間がかかったもののセーミニの街に入ることができた
「さて…と、本当にメルティアさんが起きるまでどうしようかな」
「なら、私と一緒に図書館行こうぜ」
「魔導図書館なら…」
「無理に決まってんだろ…」
「だって普通の図書館じゃあ…ヒノミさんの家の書斎で済むくらいじゃない?」
「そんなことないぞ、ヒノミさんの家にない資料があったり、伝承に関することを知れたりと…行く価値はあると思うぞ」
ちなみに『魔導図書館』とは国に認められた者しか入ることのできない特殊な図書館であり、普通の図書館よりも圧倒的に価値の高い情報が保管されている
まぁ…魔導図書館の本は他にないというわけでなく、普通に貴族の家にあったりする
「わかったよ…じゃあ図書館に行くか」
「え、私はどうしたら…?」
「委員長もついてくればいいんじゃないか?」
「あのー…」
「ん?」
刹那の後ろから聞き覚えのある声がした
振り返る…茶髪の少女がいる
「…あ、あれ? メルティアさん? なんで?」
「そのー起きたと言いますか、起きてしまったと言いますかー…」
「なるほどぉ…」
どうやら図書館に行く話はなくなるようだ
だが、刹那としてはそんなことよりも気になることが一つある
「メルティアさん…よくこんな時間に起きれましたね…」
相手がメルティアでなければ確実に悪い意味の言葉である
が、寝坊してばかりの彼女ならばこの言葉は…
「はいー、セツナくんを楽しませてあげようと頑張って決めていたら、いつの間にか寝落ちていてー、起きれましたー」
褒め言葉になるのである(?)
「えぇ…」
灯莉はドン引きだ
茉里は苦笑いである
刹那は…感動、と言った表情である
どう考えても一つ上の相手にする反応ではない
「ところで、マリさんとアカリさんもご案内した方が良いでしょうかー」
「私は図書館行くので大丈夫です」
「では、アカリちゃんにセツナくん…行きましょー」
メルティアが2人の手を掴み、駆け出した
茉里はそれを笑いながら見送り、図書館へと歩いて行った
一方、手を掴まれている2人は
「ちょっ、メルティアさん…落ち着いて!」
「こっ、こけるっ…」
テンションの高いメルティアは二人の言葉が聞こえていないようで…どこかへ向けてどんどんと進んでゆく
彼女が止まったのは…とある雑貨屋に着いた時だった
「ふぅ、着きましたー」
「メルティアさん…離して」
「あらー?」
ようやく気づいたようで、メルティアが2人の手を離す
「こ、こけるかと思いました…」
正直、ヒノミの鍛錬がなかったら確実にこけていただろう
「で、メルティアさん…こちらは?」
「ここは『木漏れ日の風』…雑貨屋ですが…店主が森人族でして美しい大樹のような店の見た目が気に入られています」
メルティアが説明したように、目の前の雑貨屋は緑や花に装飾された美しい大樹の中に店が広がっている様子であり、とても幻想的であった
「このお店は魔法によりある程度離れると観測できなくなるんですよー」
「へー…」
「おしゃれですね」
「折角ですし寄りますかー?」
「はい!」
灯莉が嬉しそうに声を上げ、恥ずかしそうに下を向いた
ただ、刹那も寄ってみたいと思っていたため…3人で入店する
「おお…」
「すごい…」
「ですよねー」
「ん?」
店の内部の綺麗さと売られているものの美しさ、不思議さ…そして、その幻想的な様子から思わず声が出る
それに頷いたメルティアに店の奥の静かな声が反応した
「また来たのかネ「メルティアです!!」…そうだな」
黒いローブに身を包んだ金髪の美女が店の奥から現れ、メルティアと会話をする
「で今日はなんだ…って、そこの2人は、もしかして噂の子狐の娘の弟子か?」
「…それがヒノミ様の弟子ということを指しているのであればそうですよー」
「ほぉ、なかなかに面白いものを捕まえたじゃないか…あの小娘も」
「「??????」」
刹那と灯莉が何一つ理解できないままに話が進んでゆく
「今日は二人に観光させてあげるためにここに来たんですよー」
「ふむ、こんなところが観光になるのか?」
「ええ、あなたのお店は綺麗ですのでー」
「はっ…あのネ…いや、メルティアがそんなことを言うようになるとはな…何かあったか?」
「何もございませんよー」
「そうか、ならよい…貴様らも好きに見て回れ」
刹那と灯莉が完全において行かれている中、話は進み…店主は店の奥へと帰っていった
「…メルティアさん、どゆこと?」
「んー? このお店を楽しんでくださいってことですよー?」
「なるほど?」
「そう、ですかね?」
とにかく、疑問は山盛りだったが店内を見て回ることにした
木製の〔角兎〕型のマグカップ
何かの女神様を模っているっぽい小さな石像
捩れ合う枝のブレスレット
羽の生えた女性の木像
魔法の付与されたおしゃれな木の短剣
「…すごいな、今度魔法に詰まったらここに来て、店主さんに聞いてみようかな」
「私には聞いてくれないのですかー?」
「メルティアさんは寝てるじゃないですか…」
「…うっ」
刹那がポツリと呟くとそれに反応したメルティアが話しかける
一方、灯莉は無言で可愛らしい像やアクセサリーを見ている
刹那が、無音で灯莉に近づき、彼女の見ているものを見る
彼女の視線の先にあったのは…
永遠花の髪飾り
と書かれた
真っ赤な花がそのまま髪飾りにされたものであった
その花の名は書かれておらず
どんな花かはわからない
「…委員長?」
「はい…?」
「それ買うの?」
「いや、私には似合いませんから」
「似合うと思いますけどねー」
「お金足りなくてもメルティアさんが貸してくれるよ?」
「そこはセツナくんじゃないんですかー!?」
そんな話をしていると、店の奥から再び人影現れて
「買いたいなら言え、あの小娘の弟子だ。安くしてやる」
「え…でも」
「お前が何に引き寄せられたかは知らんが、それは魔法装飾品だ。それが持つものを説明する気はないが…少なくとも悪いことはないと言っておこう」
「…なら、買います」
「ふむ、そうだな……おい小僧」
「はえ?」
突然話しかけられた刹那が情けない声を出す
話の流れ的に自分に言葉が飛んでくるとは思っていなかったからである
「お前、創盛神に関するもの…持ってるな?」
「あれ、本物だったんだぁ…」
「見せてみろ」
刹那が割とごちゃついた鞄の中を漁り、例のスカーフを取り出した
「これですけど…」
「よし」
スカーフを受け取った彼女は、それに向かって魔法陣を展開し、何かを行う
その後…そのスカーフを持った手を刹那に伸ばし
「能力を喰え」
「え?」
「チッ、小狐も小娘も…これが必要ねえからって知らねえのが仇になったか」
突き出されたスカーフと…能力を喰えという言葉に刹那は困惑を隠せていない
ちなみに、メルティアと灯莉も困惑しているので…おかしいのは店主である
「あ? メルティアも知らねえのか…なるほど、もうそんな時代じゃねえってか? だが、小僧…お前の才能は喰ってこそ育つ…だから、教えておいてやる」
彼女はその美しい顔に獰猛な笑みを浮かべ、告げる
「術具の喰い方ってヤツを」
そう言った彼女は、メルティアと灯莉に他の物を見ておけと言うと、笑いながら刹那の手を掴み、強引に店の奥へとつれてゆく
「よし、小僧…まずお前は特殊だ。わかるか?」
「陣の並行起動数が多いこと…ですか?」
「いや、それだけじゃない、それに加えて魔法に後付けをしてるんじゃないか?」
「はい、してますけど」
「お前は分かってないようだが…後付けは一つの魔法しかつけられない」
「え」
「お前の能力を最大限に活かすには…特殊性が足らん。だから喰う。例えば、そのスカーフの創造の力を」
手に持ったスカーフを刹那に見せながら、店主は語る
「まずさっきアタシがやったことはわかったか?」
「…解析、ですか?」
「それだけじゃねえ、分解、概念の表出、それから準備だ」
「店主さんも…並列起動数が多いんですか?」
「あ? まぁ、ある意味お前と同じだ。アタシは喰らいまくった結果だがな」
「なるほど…」
あまりよくわかっていない様子で刹那が納得の声を上げる
それを見た彼女が、ため息を吐いて
「そうかお前。まだ魔法に触れて一月経ってねえのか」
「はい、そうですけど…」
「ダッハッハッ! そりゃあわからねえだろうな。3週程度で、基礎から自己的に発展した小僧がアタシの解析を認識したってことに気付くべきだったな」
「は、はぁ…」
刹那はなんの話かわからないと言う顔をしている
「決めた、お前今後も余裕があればアタシんとこに来い」
「割と来るつもりでしたけど」
「あの小娘が教えるよりアタシが教えた方が絶対にお前は面白くなれる」
「う、うぅん?」
「つうことで…」
彼女の左手が刹那の頭を掴む
「え?」
「観光らしいからな、今回は強制学習だ」
その呟きを刹那が聞くと同時に…彼の頭に大量の情報が流れ込んできた
「あ…ぅく……」
「…」
彼女が見ている中で…刹那の意識は暗闇へと落ちていった
『あの女…あの子を苦しめましたよね? 良いですか? やってしまってもいいですか?』
『やめろ、負担がでけえんだよアホ』
『あなたにだけは言われたくありません!』
暗闇の中、仲の良さげな会話を聞いた気がした
引き寄せられる感覚と共に…刹那は目を開いてゆく
「!」
「起きたか、思ったより抵抗が強かったから…思いっきりやっちまった。すまんな」
「はぁ……ところでさっきのって」
「お前に術を覚え込ませた」
店主の言葉に刹那が疑問符を浮かべながら、先ほどの術のことを思い出すと…
頭の中に陣と術式が現れる
「…ん?」
「しっかり自分でその魔法を解析してから使えよな」
「えぇ…」
「ほれ…喰え」
店主が渡してきたスカーフを受け取る
先程まで知覚できなかった自分の体に溶け込んだ魔力を感じ取る
スカーフを持つ右腕の魔力を意識して活性化させ、思いっきりスカーフを握りしめた
“パキン”と何かが割れるような音と共に自らに何かが増えたことを実感する
「ん…んん?」
「どうだ、実感は?」
「ありますね」
「ならよし、ほれ戻るぞ小僧」
「わかりました店主さん」
店の奥の奥から売り場まで近づいてゆくと…
「アカリさん、こちらもどうですかー?」
「これは値札ついてます…よ!? 高すぎます高すぎます! こんなの買えませんよ!」
騒がしい声が聞こえてきた
「そうですかー?」
「おい、ネ、いや、メルティア…アタシの店で暴れんな」
「暴れてませんよー?」
「はぁ…とりあえずそこの兎の娘…さっきの髪飾りは無料でくれてやる」
「え、いいんですか!?」
「その代わり、あの小娘…ヒノミにはアタシのことを話すな」
「え、なんでですか?」
「アタシとあの小娘にも事情があんだよ」
「わ、かりました」
「私はいいんですかー?」
「は? もちろんここにいるお前ら全員の口止めだが?」
「え、僕も?」
「特にお前だよ。これから定期的にうちに来い、色々教えてやる」
「はぁい」
その後、刹那たちは店主の『わかったなら早く別のとこ行け。観光なんだろ』という言葉で店から追い出された
「メルティアさん。あの、次は?」
「そうですねー…露店と教会を見に行きましょうかー」
「どちらも見ましたが、もしかして何やら見方があるんですか?」
「はいー。セーミニの露店は前からすごいのですがー、最近はより栄えているんですよー」
忘れているかもしれないが、その栄えている理由は刹那たちである
ヒノミが弟子を取ったということで非常に盛り上がっているわけである
その後、数々の露店を見て回り…無駄遣いしそうになる刹那とメルティアを灯莉が止め、何故か偶然出会った茉里の無駄遣いを灯莉が止め、4人で『自由の鳥』という名の店で昼食を取ったり、教会に正面から入って祈り神官に怒られたり、時計塔を見に行ったり、防具店に行き刹那たちのつけている防具を作った人を知ったり、図書館に行って再び茉里に遭遇したり…とその後も様々なことがありつつもセーミニの観光が終わった
「いやぁ、楽しかったですね!」
「僕はだいぶ疲れたよ」
「セーミニはいい街ですからねー」
そんなことを話しながら…ゆっくりと西の丘を進んでゆく
刹那の両手には複数の荷物があり、灯莉とメルティアも片手に荷物を持っている
ちなみに刹那が買いすぎたということではなく、2人の荷物を刹那が持っているだけである
「これって森どうなるんだろ」
「メルティアさんは客人ですし…問題ないんじゃないですか?」
「森…もしかして森の試練というものですかー?」
「多分ないと思うけどね」
森の前に到着した
どうなるかわからないということで、メルティアが灯莉と手を繋いで…森へと進んでゆく
「お?」
「ここがそうなんですねー…」
「問題なかった…ですね」
この頃何故か外観まで変わってきている気のする豪邸が目の前にあった
いや、内部が変わる時点でおかしいのだから…問題はないだろう……いや、問題しかないの間違いだろうか
「じゃあメルティアさん、ヒノミさんのところに行きますか」
「わかりましたー」
灯莉は買ってきた物を整理したいようで、自らの部屋に帰って行き…メルティアの荷物などは一旦刹那の部屋に置き、ヒノミのいる部屋に向かう
扉を二回ノックする
「入って良いのじゃ」
「失礼しまーす」
「失礼します」
部屋に入った瞬間、ヒノミとメルティアの視線が交差する
刹那が違和感を感じて2人を見たとき…ヒノミが話を始める
「…やはりおぬしじゃったか…メルティア・ネ「私は、ただのメルティアですー」そうか。それは仮面か? そやつを自分に依存させるための仮面かの?」
「いえ、違いますよー」
「え、ヒノミさん? メルティアさん?」
一瞬の間に、一触即発の状態に変わった2人を見た刹那が2人の顔を行ったり来たりするように視線を動かす
ヒノミの目は鋭く、疑うようにメルティアを見ており…メルティアの目はいつものような柔らかさの中にうっすらと鋭さが見える
「ヒノミ様、わたくしはただのメルティア…彼と仲が良くなっただけのただのメルティアですわ」
「…あのおぬしがこやつと? 嘘も大概にするのじゃ。セツナを利用しただけ、そうなのじゃろう?」
「わたくしがそんなことをする必要はありませんわ」
「…………」
刹那はメルティアの口調が変わったことで…困惑を深める
それはいつもののほほんとして、のんびりとした口調と違い…はっきりと強い力を持って自身の意見を主張するもので…ヒノミの言った刹那を騙しているという話が、正しいのではないかと思えてしまうほどの違いである
「ならば何故、こやつに近づいたのじゃ」
「それを…わたくしが、ヒノミ様に語る必要はありますか?」
「ほぅ、確かにそうじゃな…」
「わたくし、いえ、私はただセツナくんに誘われてきただけですよー」
「…いまは、それでいいじゃろう」
メルティアの口調が元のそれに戻る
彼女の語る理由に不満がありそうだが、ヒノミは諦めたように認める
「…あぁ、あとそやつに説明をしておいた方が良いぞ?」
「あらー?」
ヒノミの指差した方向を見たメルティアは…
「??????」
状況が理解できずに疑問符を大量に浮かべて、混乱している刹那を見た
「せ、セツナくーん!?」
「たまたま空いておる、そやつの隣の部屋をメルティアの部屋とするのじゃ…ほれ、行ってこい」
「あ、ありがとうございますー!」
そんな刹那を連れてメルティアがいなくなり、1人になった部屋でヒノミは呟いた
「『水精の神童』…か。一体何を考えて、あやつと関わっておるんじゃろうか」
その疑問は、誰にも届くことなく…静かな部屋に泡沫の如く弾けて消えた
「その…ですねー。騙してたわけではないんですよー…」
「うん」
「セツナくんに知られたくなかったというのは…そうなんですけど…」
「まぁありますよね。他人に知られたくないことくらい」
「そ、そうですー」
「でも、それならなんで…ここに住むことにしたの? ヒノミさんと顔を合わせたくなかったんじゃないの?」
「いえ、依頼に行くに当たっていつもセツナくんを待たせてるじゃないですかー」
「ん? うん、そうですね」
「その、セツナくんに起こしてもらえばそんなことにはならないかと…思いましてー」
「…んー。あの、この家一応許可ないと女子の部屋入れないです」
「なんでですかー!?」
「こっちがなんでなんですけど!?」