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導きのない新天地  作者: 風雷 刹那
第2章 セーミニの街
13/20

騒乱の1日-48エル-

3分の2



「んんん、ぁあ」


「あ、起きましたね」



刹那が目を開けると、商人の女性が目の前にいた



「え…っと、これは?」


「お客さんが急に倒れてしまわれたので…急遽、私の馬車に運びました」


「えー…ありがとうございます?」


「いえ、どういたしまして」


「えっとその、ラウさん…でしたか? 迷惑をかけてしまったようなので何か買わせていただけませんか?」


「そう言ってくださると思いましてご用意いたしました!」



そう言って彼女はカバンから立派な本を取り出して、説明を始める



「こちらの魔導本はいかがでしょうか! 水や氷の魔法の補助に優れ、自動詠唱に魔法保存、そして年代物で意思持ちまで後少しと言われた存在ですね!」


「おぉ、いいな…いくらなんですか?」


「なんと6000エルです!」


「…おかしいな、意思つきレベルに至りそうな魔導本なのにその値段? 桁があと6個足らないんじゃない?」


「なぜなら、今までの所持者が連続6回、川に身投げをしてきた特別品だからですね!」


「訳あり品じゃんか、そんなのいらないですよ…怖」


「えー別に何かの呪いがあるというわけではないんですけどねー」


「他は?」



そう刹那が問いかけると彼女はカバンの中を漁り始め…



「えー…ではこちらのイヤリングはいかがでしょう?」



青い宝石のついたイヤリングを取り出した



「…えぇ」


「こちら魔法装飾品でして装着者の受ける火の魔法を吸収するんですよ」


「へーすご」


「ですよね? さらにそれを魔力に変換して装着者に渡してくれます」


「おぉ…」


「まぁその代わり装着者が撃つ魔法も全て吸収するんですけどね、しかも魔力は返してくれません」


「おい」


「そして魔法を吸収できないと装着者の魔力をどんどんと吸収します」


「また呪いのアイテムじゃん」


「最後には魔力が枯渇しても魔力を吸い取られて死んでしまうんです」


「なんで売れると思ったの?」


「いや、いけるかなぁと」


「ほかは?」


「この呪いのローブとか?」


「もう呪いって言ってる…」


「…他には、簒奪者の指輪とか?」


「嫌な予感しかしませんが?」


「…く、じゃあ、創盛綴ル者のスカーフは」


「……もしかして創盛神関連のアイテムですか?」


「そうですね、とはいえそこまで確証があるわけではありませんので…7000エルでいかがでしょう」


「…効果は?」


「……わかりません、解析魔法でも名前のみがわかりましたから」


「……なのに、創盛神に関係するアイテムと言い切るんですか」


「ふふ、買うか否かはお客さんの意思に委ねますよ」



…刹那の持っているエルは現金で1000エルと探究証で払える6048エルの合計7048エルとなっており…これを買った場合持ち金の全てを失うようなものであるのだが…

なぜか、そのスカーフが異様に気になっていた

呪いがない呪いの魔導本より呪いのイヤリングより呪いのローブや怪しい指輪よりも…気になった



「…7000なら、買うよ」



刹那はそれを買うことにした



「まいどありーじゃあお客さんは今度から常連さんですね! 私はいや、私たちはこの西街の2番通りで店を開いていますので今後もよろしくお願いしますね!」



躊躇しつつもお金を払って…スカーフを手に入れ、それを腕に巻き、商人ラウの露店と馬車から離れる



「…今の時間は…ふむ、11時24分くらいかな? そろそろメルティアさんとの集合場所に……………集合場所ってどこだ!?」



そういえば集合場所の話をしていなかったということを思い出した(ちなみに集合時間も細かく話していないが…昼の前といえば大体伝わるし、この世界で正確に時がわかるのは難しいのでしょうがないのである)

…少し間抜けだったかもしれないと考えたところで…もう一つ思い出した

昼食代すら払えない今の残金に…



「……とりあえずクレアードに行こう」



『10分くらいでできる昼食代が稼げる依頼ないかなぁ』などと考えながら、西街のクレアードへと向かって歩いて行った













「10分でできる依頼って…そんなのないですよ、どうしたんですか一体」


「ですよね」


「あ、そうだ昨日の魔物の素材の売却金額がわかりましたが、一部防具にするんですよね? ヒノミ様と相談することになりました」


「…はい」



刹那は上げて落とされた気分を味わった

受付嬢レミネと刹那は受付ではなく、その横にあるレーダルや依頼人が話す机で話していた



「あらー? セツナくん早いですねー」



メルティアが現れた

どうやら、待ち合わせ場所はクレアードであったようだ



「あ、メルティアさん」


「セツナくんはもうお昼ご飯食べましたかー?」


「い、いえ、まだです」


「よかったですー」


「あ、そうだ」



レミネが何か思い出したように声を上げる



「お二人の連れてきた〔角兎〕ちゃんなんですけど、ここで飼うことになりましたよ」


「なんで?」

「なぜですかー?」


「人やその他に怯えない性質が希少だということで特殊な個体なんじゃないかと飼うことになりました」


「へぇ」


「確かに怯えてませんでしたしねー」


「ということでお二人に名前を決めていただきたいのですが…」



少し申し訳なさげにレミネが2人のことを見る

ちなみにメルティアは刹那の隣の椅子に座った



「んー…レウエ、なんてどうでしょうか…古代ハテット語で『望み』という意味ですが」


「『望み』は違う気がしませんか? 『癒し』とかでいいんじゃないですか?」


「…そうですねぇ『癒し』ですと…癒し…癒す……『メイルア』? 『ヒエニ』?」


「…二重翻訳かかっちゃった」


「前がメイルアが『落ち着く』で、ヒエニが『治す』ですよー」


「んー…なんかなぁ、もしかして造語の方がいいんですかねぇ?」


「ですよねー…意味を聞くとそう思いますよねー」


「どうしましょうか」



レミネが悩むように少し首を傾げた瞬間



「…レミネ先輩? そんなことに使ってる時間ありませんよね?」



レミネの後輩と思われる受付嬢が彼女に話しかけた



「え、えぇっと…でもあれだよ? これからクレアード(ウチ)で飼うことになった〔角兎〕ちゃんの名前の話だよ?」


「…はぁぁあ、それって職務中にやることではありませんよね? つまりサボりですよね?」


「…はい」


「ではちゃんと受付に戻ってください!! えーメルティアさんに…白い獣人さん、レミネ先輩が失礼しました!」



流れるようにレミネが受付に戻されたので、2人は薄く困惑しつつも、名前を考えるという苦行から脱することができた

おそらく後々決めねばならないだろうが



「行っちゃった…」


「行っちゃいましたねー…お昼ご飯食べに行きますかー」


「はい! ……あ」


「どうしましたー?」


「…お金がないんです」


「貸しますよー?」



メルティアの単純で純粋な優しさが刹那を苦しめる

ここに来る直前で持ち金のほとんどを使い切ったせいとは言い出せない…それゆえにより罪悪感が膨らむ



「ぐ」


「それとも奢りにして…私と組むことを承諾してもらいましょうかー」 


「ぬぅ…って、僕はメルティアさんと組もうと思ってますよ?」


「…え? そうなのですかー? では、どうしましょうかー」


「借りさせてもらって、依頼が終わったらすぐ返すので…借りてもいいですか?」


「…別に返してもらわなくても良いのですがー」


「…ぬぅう」

 

「ふふふ、では行きましょうかー」



メルティアが立ち上がり、刹那の手を引いてクレアードの外へと向かう

大通りに出た2人は…



「そうですねーあそこなんてどうでしょうかー?」


「いやですよ!? あそこ絶対高級店じゃないですか!」


「ふふ、ではあそこですかー?」


「なんでそんな高そうな店ばかり選んで指さすんですか!?」


「その方が楽しそうだからですねー」


「ひぇえ…」



メルティアに遊ばれながら移動し、一つの店に着き…中に入って椅子に座り…食事を注文するために刹那がメニューを見ると



「…あの、結局高級店なんですが」


「セツナくんは騙されてしまいましたねー?」


「見た目は…見た目は普通の店だったのに…」


「大丈夫ですよー緊張する必要はありませんからー」


「緊張ではないんですけどね…これ」



と色々あったが昼食が終了し、2人並んで歩いてクレアードへと向かう



「さぁ働きましょうねー」


「おかしい…昼食だけなのに7250エルだなんて」


「私への借金ですねー」


「…48エルしかない自分が憎い」


「次のお昼ご飯も同じところに行きますかー?」


「いやです!」



仲良く…? 話しながら歩いていれば…クレアードについた



「さて、どんな依頼に行きますかー?」


「メルティアさんは何がいいですか?」


「私は、セツナくんの選んだものにしますねー」


「じゃあ僕はメルティアさんが選んだものにしますね」


「む、セツナくんは私よりランクが低いのですからーきちんとしなければいけませんよー」


「いやいや、ランクが高い方がきちんとするべきだと思いますけど?」



どちらも依頼を探しに行きたくないだけである



「いやもう2人で行けよお前ら」


「いやでも、セツナくんはまだレーダルになったばかりですよー? そんなセツナくんを行かせることはできませんよー」

「メルティアさんはふわふわとしすぎていて、こんなに危なっかしいんですよ? そんなメルティアさんを行かせられるわけないじゃないですか」


「…二人揃ってなんで相手を庇うんだよ、自分庇えよ…仲良いなお前ら」


「「………」」


「おい二人揃って照れるな」


「んん、あなたは一体?」


「おい誤魔化せてないからな?」


「この人は…この人はー…誰でしょうかー…?」


「あぁ、こっちから話しかけたことはなかったな、俺はオルケ、一応ここでレーダルやってる奴だ、お前らのことは知ってるぜ…水の令嬢メルティアに自由奔放な転移者セツナだろ?」



オルケと名乗る体格の良い男に二人はようやくまともな反応を返した

すると、二人のことを知っているようで…彼ら自身も知らない呼び名で呼ばれた



「私、水の令嬢なんて呼ばれてるんですかー」


「自由奔放な転移者…そんなに自由奔放かなぁ…」


「そうだと思ったやつがそう呼び出したのさ、同じようにそうだと思う奴が複数現れれば…そう呼ばれるようになるわけだ」


「私、そんなに令嬢という感じでしょうかー?」


「…あーそうだな、今はさほど思わんが、2ヶ月前は令嬢だったな」


「…へぇ、そんなメルティアさんも見てみたかったですね」



刹那がワクワクとした表情でメルティアを見るが、彼女は刹那と目を合わせようとしない



「だから今は、水嬢だとか、メルティア嬢と呼ぶ奴もいるな」


「私そんなに令嬢でしたかー……」


「え、落ち込んじゃうの? 喜ぶ物じゃないの?」


「にしても、自由奔放とはいうがお前はあまりそうは見えないな」


「そうですか?」


「なんで嬉しそうなんだ…」


「ところでその呼び名の出所って…」


「教会だな」


「…あっ」


「おい、心当たりあるんじゃねえか」



刹那の心当たりは…

治療がある程度すんだ際に医療室から逃げ出し、回復魔法を見にいったこと

魔法談義している神官達がいたためそこに混じらせてもらい、魔法の性能向上を手伝ってもらったこと

ふらついているのに庭の花を見たいとネイレンに杖の代わりになってもらい見にいったこと

体術訓練をしてる神官達からコツを教わり、自らもやろうとしてネイレンに追いかけられたこと

医療室に魔法に詳しい神官を呼んで教えてもらいたいといって迷惑をかけたこと

などなど大量に存在していた



「俺が聞いた話だと、ネイレンちゃんを口説き落としたって聞いたんだが」


「事実無根です、ある意味では逆は正しいかもしれませんが……あ」


「あ? 逆ってこたぁ…ネイレンちゃんに口説かれたか?」


「いや、ある意味ではですよ? ある意味ですからね?」


「どういう意味だよ」


「私も気になりますー」


「さぁーて! 依頼探してきます!!」



色んな意味で失言をした刹那が逃げるように受付に行き、レミネに良い依頼がないかを問いかける



「…なぁお嬢ちゃん」


「なんですかー?」


「もし、もしだが、あんたがもし本当に令嬢なら…あいつを守ってやれ…ヒノミ様が守っているとはいえだ、このままだとあいつは悪意に害される」


「えぇ、わかってますよー…それに私が彼を守らないことはあり得ませんー」


「……はーん、口説き落とされたのはあんただったわけか」


「…どうでしょうかー」



真実を覆い隠すかのようにニコニコと笑みを浮かべたメルティアがオルケのそばを離れ、刹那へと近づいていった



「…誰がいまのお嬢ちゃんと………結びつけられるってんだよ」



オルケはそう呟くと、刹那達と違い、受付ではなく依頼板へと向かっていった

…どちらかというとこちらの方が正しく、刹那のやり方は高ランクのレーダルがやるものなのだが







「ふふふ、ふふっ、セツナくん、セツナくん…これとかどうですかー?」


「なんでそう西の丘以外の依頼ばっか選ぶんですかねぇ!?」


「私もセツナ君ならティアちゃんが選ぶものでいいと思いますけどね、馬車で早く行けますし」


「…お金がないんですよ」


「大丈夫ですって」


「…48エルしかないです」


「…あ…じゃあ馬車乗れませんね」


「ふふふ、私が払ってあげますよー?」


「…うーあーいやだぁ…メルティアさんにこれ以上借金したくなぁい」


「これ以上ってもう借金してるんですか?」


「ええ、高級料理店に連れて行かせていただきましたー」


「…ティアちゃんえげつないことするね」


「え、で、でもセツナくんと親交を深めたかったのでー…」


「親交を深めたい人は借金を増やすようなところに連れて行かないよ?」


「……あ、謝ったら許してくれますかー?」


「じゃあ今度、ヒノミさんのところに連れて行きます」


「…そ、それはどういう返答ですかー?」


「僕は知りません、じゃあ東の湖のこれにしますか…ええ、メルティアさんが払ってくれるみたいなんでね」


「せ、セツナくんが悪い子になってしまいましたー…」


「では、東の湖の〔蒼大蛇〕の討伐ですね、頑張ってきてくださいね!」


「…いや、受領証もらってないです」


「…あ」



セーミニの街西側にあるクレアードの受付嬢レミネは割とポンコツである



「はい、受領証です」


「ありがとうございます」


「で、では東の湖に行きましょうかー」



割とグダグダな感じで、東の湖に行くことになった


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