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導きのない新天地  作者: 風雷 刹那
第2章 セーミニの街
11/20

必然は偶然を騙る-全員での初依頼-

刹那とメルティアがセーミニの西門へ到着すると、当たり前のようにレーダルの試験で角兎の可愛さのあまり殺せずに連れてくる人を何人も見てきたという門番により笑いながら通され、クレアードへと進む

が、近づくにつれて、何やら騒がしくなっていき…



「おいカミリィ! 素材がボロッボロじゃねえか! 何してくれてんだテメェ!」


「こっちは大変だったんだからね!」


「嘘言え! 後輩にいいとこ見せたかっただけだろうが! あァ勿体ネェ…!」


「まぁ今回はカミィが悪いわね」


「テメェもだよリィエ! 頭を吹き飛ばすな! 毎度毎度、価値が下がるつってんだろうが!」


「なんでウチはいつもいつもキレられなきゃいけないの!」


「テメェの姉を見習え!」


「エリねぇは頭がおかしいから無理! ウチは拳で戦えないもーん!」



騒がしいなんてもんじゃなかった

亜竜の死体の周りに人が集まっている

その中心にはカミリとリィエミリエと立派な髭の生えた男がおり、男はずっとカミリ達にキレている

よくみると集まった人の中に逸人がみえた



「…見なかったことにしません?」


「そうですねー…早くセツナくんにレーダルになってもらうことにします」


「ちょっと2人、聞こえてるから」



リィエミリエが、集団を無視してクレアードに向かおうとする2人をジト目で見ながらそう呼び止める



「あ、てぃーちゃんにつーくん!」


「…メルティアさん、行きましょう」


「そうですねー」


「えーー!? 助けてくれないの!?」


「おいカミリ! んなことより無事な鱗を取んの手伝え!」


「クゥァ!! 嫌だァ! 素材選定員にやって貰えばいいじゃん!」


「テメェは痛い目見ねェとわかんねェだろ!」


「反論できないよぉ!」



刹那もメルティアも目を逸らして、クレアードへとむかった

逸人からなんらかの意味の込められた視線が送られた気がしたが…気のせいだと思う


クレアードの中に入ると、外ほどではないが騒がしかった



「現地で売ってきた、ほら証明書」


「わかりました、では依頼達成で…こちら報酬金です」


「ありがとよ、あとで飲み行かね?」


「…仕事が終わってから言ってくれ」


「俺は終わったがな! ハハハ!」


「喧嘩か?」


「いーや、じゃ…いつもんとこで飲んで待ってるわ」


「…昼間っから夕方まで飲むつもりか」


「そりゃあな!」



一際大きな声でクレアルと話していた男のレーダルがクレアードの入口兼出口へ向かってくる



「お、メルティアの嬢ちゃんに……坊主は?」


「あー刹那です、よろしくお願いします」


「…セツナ……あぁ! ウォレイ爺がいってた坊主か、また会おうな!」



挨拶をすると彼は去っていった

割と怖い見た目をしていたが、中身はとても暖かかったな…などと刹那は失礼なことを考えている


メルティアと共に受付に向かう

刹那の姿を見ると1人の女性クレアルが出てきた



「ミリちゃんから聞いたよ、セツナ君結構危ないことになったんだってね」


「メルティアさんのおかげで生きてます」


「私もセツナくんのおかげですよー」


「んーお熱いね! じゃなくて、ティアちゃんが持ってるその子でいいんだよね?」


「はい…なんか寄ってきましたけど達成ですか?」


「まぁそれでも達成にはなりますね…ん? この子怯えてもないんですか…それに可愛い、このクレアードのペットにしましょうか!」


「「レミネさん?」」



メルティアから角兎を受け取ったクレアルのレミネが何か少し暴走しだしたので、呼びかけるとメルティアと言葉が重なった



「あ…はい! 依頼達成です…えーっとこちらが…あれ? ない、セツナ君の探求証がない!」


「奥に置いてきたんじゃないですかー?」


「さ、探してきまーす!」



クレアードの奥へレミネが走っていった

何か後ろから視線を感じた刹那が後ろを向くと…いつものメンツ(転移者組)と目があった

中でも1番すごい目で見てきているのは灯莉だ

なんというかガンギマった目をしている


いや、よく見てみると刹那を見ていない…彼女が見ているのは…受付の机の上に座り込んだ角兎だ

それに気づいたのか、玲が飛びつくように灯莉の目を覆い隠し、茉里が腰あたりに抱きついた


刹那は後ろを見るのをやめた

知らない間に、1番まともだったはずの灯莉がおかしくなっていることを信じたくなかったのかもしれない


それから男メンツが絶対にそっちを見ないようにしてるのも明らかに何かがあったのだろうということが想像されて…触れることはやめようと思った

逸人とまやと湊でさえそうなのだから…絶対に何か変なことが起こったに違いない



「メルティアさん、どうもありがとうございました」


「こちらこそですー」


「今日は友人達と依頼に行くので…」


「では、また明日ですねー」


「ええ、またあし、明日!?」



ニコニコとした笑顔のメルティアに当たり前のような流れで明日の予定を作られ、そのまま頷きかけて…驚くと…



「…おっとっと、セツナ君! はい探求証! これで君もレーダルだよ!」



少し息の荒いレミネが走ってきて、刹那の手を取り、その上に探求証(見た目は綺麗なカード)を乗せる



「ありがとうございます」



探求証をヒノミから渡されたベルトポーチに仕舞い込み、受付から離れる



「では、セツナくん…明日一緒に依頼をやりましょうねー」


「わかりました…いつですか?」


「最初のお昼の前にしましょうかー」


「わかりました…えーっと、また明日!」


「はいー、また明日ですねー」



刹那とメルティアも別れ、刹那はあまり気は乗らないが仲間のところへ戻る



「なんかお前、主人公やってる?」


「あ? なんだ夢宗お前ぶん殴るぞ」


「おい、おかしいだろ!」



気は乗らないなどと刹那は思っているようだが…顔はとても笑顔で、楽しそうであることに本人は気づいていない



ちなみに、灯莉の状況は変わっていなかった

すでに角兎はクレアードの奥に連れて行かれたというのに…



「とりあえず、次のお昼ご飯行って、色々話さないか?」



灯莉に抱きついたままの茉里がそう言った

刹那と灯莉以外の全員が頷いた



「……そうだね」



刹那は本当に何があったのかを聞きたかったが…やめておいた、何か命の危険を感じたからである

騒がしいクレアードの中で、ここだけ明らかに雰囲気が違っていた


静かに立ち上がりクレアードを出てゆく

ちなみに灯莉はなすがままにされている










セーミニの街にあるリノラーナという飲食店にやってきた

机一つを彼らで囲んでいるが…とても静かである



「と、とりあえず飲み物でも頼もうぜ」


「そ、そうね」



茉里と玲が気まずそうに声を上げ、それに乗るように皆が飲み物を頼む

灯莉も落ち着いてきたのか、飲み物を頼み…

食事も皆が皆頼んだ


飲み物が届いた頃には玲と茉里が灯莉から完全に離れていた



「僕がいない間にあったことを聞いてもいい?」


「あの人から聞いてないのか?」


「うん、みんなから聞いたほうがいいかなって思ってさ」



飲み物を飲みながら話を始める

ちなみに、お酒は頼んでいない

16歳から飲んでいいらしく、ほとんど16歳みたいなものの刹那達は嘘をつけば頼めるが…別にそこまで飲みたい人はいないし、地球での認識的にもやめた



「まず、逸人が魔物から女の子を助けたんだ」


「ほーん…逸人が、ねぇ?」



刹那がチラリと逸人を見て、話をする夢宗に視線を戻す

逸人が『なんだ』と今にでも不機嫌そうな言葉を発しそうな表情をしていたのが理由である



「で、俺らも角兎を討伐だとか捕獲をして、逸人は功績でレーダルに認定されたんだ」


「へー、功績でもなれるんだ……亜竜やれてたらなれたのかな?(小声)」


「まぁそれで色々あったけど簡単にレーダルになれたんだ」


「で、その後にね、まやたん達は依頼に行ったんだ☆」


「うん」


「おっきな羊さんを斬ったんだ☆」


「…うん」


「そいつ弓が通じなかったんだ、やっぱ銃が欲しい」


「こいつらが説明下手すぎるから、説明すると…毛が異様に固い羊のような魔物と戦ったんだが、俺ら個人の力ではどうにもできなくてな…連携をしてみたんだが、あの森の時のようにはうまく行かなかった」


「ほうほう」


「それでやり方を変えたのよ…全員が全力を叩き込めばどうにかなるじゃないかってね」


「…え、脳筋なん?」


「でもなんとかなったんだぜ? 主に私の魔法のおかげでな」


「違うよ、まやたんが斬ったんだよ☆」


「はぁ? 斬れたのは私の魔法のおかげだろ?」


「と、まぁこんな風にこの2人が騒がしかったのよね」



いつも通りである



「で、昨日は終わり?」


「いや、それがな…逸人が助けた子がヒノミさんの家に増えたんだ」


「……」



刹那は逸人の方を見ないようにした



「で、終わりか」


「そうだね、そっちは昨日どうだった…って寝てたか?」


「いや、治癒の魔法学習してたし、神官さんに色々教えてもらった」


「へー例えば?」


「…これとか」



刹那の手の上に透明な氷でできたフォークが現れる



「…《無詠唱》、私もまだできないのに早くないか?」


「いや神官さんに協力してもらったことで魔法陣が簡略化できてさ…氷刃(コオリギリ)だけは簡単になったんだよね」


「なるほど、簡単であれば確かに《無詠唱》も簡単になるな」



と、昨日の話が終わったところでちょうど料理が届いた



「メフネルの直火焼きステーキ大盛りどうぞー」



メフネルは先ほど逸人が説明した羊のことである



「はいはーい☆」



まやが手をあげると、めちゃくちゃ大きなステーキが彼の前に置かれた



「えぇ…でか」


「これは想定外だけど多分大丈夫☆」



次々と全員の料理がやってきて、話すことより食べることがメインになる




そうしてほとんどが食べ終わるとデザートを頼み、再び話を始める



「で、今日はどうだったの?」



刹那がそう聞くと



「最悪だった」

「最悪でした」

「ほんとに最悪」

「最悪にも程がある」



夢宗、灯莉、玲、逸人が同時にそう答えた



「えぇ…何があったの?」


「へんなしかとたたかったの☆」



ちなみにそう言うまやはまだステーキを食べている

食べ終われはしたが、量が想定外に多すぎたと後にまやは言っている



「鹿? 何をしてきたのその鹿」


「身体能力でゴリ押しよ、こっちの攻撃のほとんどを避けてきたのよ…」


「でもって、逃げられたんだよね」


「俺らの苦労を返して欲しいよ」


「…逃げられたんだ」


「だから、諦めて帰ってきたんだけど…そっちはどうだった?」



刹那は茉里にそう問われ、店内を見渡しまだデザートが来ないと判断すると…午前中にあった出来事を語り出した



「…亜竜ね、そのメルティアって人とか、助けがなかったら死んでた?」


「死んでたかも…それくらい危なかった」


「…じゃあ俺らが帰るためにはそいつらを余裕で倒せるくらいまで頑張らなきゃいけないか」


「そうだね」



説明が終わったとともにデザートがやってきた

店員はこちらの状態をしっかりと確認して持ってきているのかもしれない


結局刹那は灯莉について聞くことはできなかった





全員が食べ終わり、これから依頼へ向かうため、クレアードにきた



「ってことで僕らにちょうどいいような依頼ないですか?」


「あっちの部屋で探した方が良いと思いますけど」



知り合いになったクレアルのレミネのいる受付に行って、良い依頼がないかを聞く



「レミネさんなら良いもの渡してくれそうだなーって思って来ました」


「はぁもう…君たちは8人でみんなαだから…うーん…γ+くらいまでいけるかなぁ…だとするとー…北の森は違う、西の丘もダメー…東の湖も…じゃあ南の谷かなぁ…南の谷にあるのはー…」



レミネはとても悩んでいる



「準小災害指定の嵐鳥…は、ダメダメ! θ+は危なくってダメ…うーんセツナ君達がセーミニを出ても良いならあるんだけどおそらくダメですよね……」


「ヒノミさんからは迷宮に行けるようになるまでこの街以外に行く依頼はやるなって言われてますね」


「その方針は正しいんだけどなぁ、セツナ君たちの強さでちょうど良い依頼なんて………あ、あった!」


「ほんとですか?」


「数が増えて食料がなくなり、共食いまではじめて気が立っている〔大顎亀 ロッハウ〕ランクはβですけど、たくさんいて気も立ってるようなので気をつけてくださいね」


「ありがとうございます! じゃあ受注証を待つ間にみんなを呼んできます」



そう言って一旦受付を離れ、いまだに依頼を探している逸人達に話しかける



「レミネさんがいいの見つけてくれたよ」


「どんな依頼なんだ?」


「大顎亀の群れの討伐」


「言われてもわからねえ」


「ヒノミさんの家の資料にあったよ? 非常に固い甲羅があるが…とても凶暴で低ランクの魔物と油断してはいけないんだって」


「ほー」

「へー」


「そいつって、あれじゃない? 土を飲み込んでそれに含まれる水分を吸い込んで…砂として周りに放出するんじゃなかった?」


「違うよ茉里、それは〔大喰亀〕…僕の言ってるやつより凶悪で環境を変化させるから最優先討伐対象でもある…だよ」


「そうだっけ」


「甲羅…斬れるかな?」


「矢が刺さらなかったら弓捨てていいか?」


「え、俺何もできないんじゃね? 戦技も魔法も使えないんだけど?」


「薙刀…通るでしょうか…」



仲間の言葉を無視した刹那が受付に戻ってゆき、受注証を受け取って戻ってくる



「よし、行こう!」



そうして彼らは刹那に無理矢理連れられ、セーミニの南の門へ歩いて向かい、南の谷にやってきて



「はえーすごぉ」


「谷…谷?」


「まぁあそこに渓谷あるし」



素晴らしい景色に目を奪われた



「ねぇねぇそんなことより早く亀を斬りに行こう?」


「怖えよ」



まやに急かされ、移動を開始する

場所は渓谷の少し奥にある、池らしい



「見て見てあそこに戦ってる人がいる☆」


「え、んー…あれか、よく見えたな」


「なんか目が良くなったんだよねー☆」


「私と刹那さんは耳が良くなりましたね!」


「委員長は……なんか残念な感じになったね」


「ま、待ってください! 今の私そんな風に思われてるんですか!?」



茉里と玲が後ろで静かに頷いているが…本人には伝えないことにした

この世界に来てから灯莉は残念な感じがよく見えるようになっていた

学校で関わるだけならきっと優秀な委員長という印象で終わっていただろう



「ん?」


「どうした?」


「あれ?」


「耳が良くなったお二人さんが反応した?」


「……し、た?」


「え、それってどうい『オォォォォオオオオ!!』



突然地面が爆ぜ、夢宗の言葉が止まり、さらに遮るように咆哮が響いた



「ごめん気づくの遅れた!」


「いや、俺も気を抜いてた」



刹那が氷でできた籠手を生み出し、手に取り付け

逸人が鞘から短剣を抜き、構える

土煙のせいで刹那と逸人は他のメンツの姿を確認できない



「逸人、他のみんなの返事がない」


「地中に落とされたか、あれで飛ばされたか…どちらにせよ…ふっ」



逸人は言葉の途中で腰のベルトに刺してあるナイフを一本引き抜き、横へ投げる


ナイフが飛び、土煙の中へと入ると“カン”と小さな音を立て、地面へ落ちる



「相手は逃す気がないみたいだぞ」


「粉塵の硬化…ねぇ? 茉里も僕もできないから…高位な魔物か、人か…」


「で、やることは?」


「当然」



刹那が籠手を見せつけるようにしながら、力を溜めだす



「ハッ」



逸人が笑い、腰(背中?)につけられた入れ物から剣を引き抜き、左手に持ったナイフを鞘にしまう

剣を両の手でしっかりと握りしめ、中段に構える



「単純だな」


「…ふうぅぅぅ、見様見真似の…白闘——‘メイカ’!」



刹那が想像するのは戦技を使う、武神官の姿

彼女が得意と言った戦技を見様見真似で使おうとして、強引に理解も無しに使おうとしたから本物の6割ほどの威力ではあるが…その拳が粉塵の壁へ突き刺さる



「弾けて散らせ“発風(はっぷう)”」



刹那の拳が粉塵の壁を揺らし、できた隙間で逸人が風が弾けさせ、亀裂を作り



「だ、ぁぁ!!」



そこに剣を差し込み広げると、次に刹那が籠手のついた腕を差し込み、強引に広げ



「飲み込み含んで大きく流せ“流水の導き(ながれにきえよ)”」



籠手が一瞬にして溶け、水へと変わり、周りの粉塵を巻き込んで流れてゆく

大きくなった隙間に刹那が飛び込み、それに続いて逸人も飛び込んだ



「ぐ…」


「やぁっ!」



その先には傷を負った夢宗と灯莉がおり、何かと戦っていた



「輝き、綴れ…“影祓い”」



この場の全員の体が輝く

透明な槍を持った刹那が灯莉の隣に行きながら、彼女の戦う相手へと突き出す



「傷は」


「問題ない、けど、俺じゃあ勝てない…」



逸人に問われた夢宗は答えながら、小さな傷が無数にある巨大な亀を指差した


一方、刹那と灯莉は…



「委員長、大丈夫?」


「えぇ…問題はありません、が…私も夢宗さんと同じで…あの亀の防御を超えられません」


「多分…物理耐性が高いと思うんだよね」


「はい」


「だから…」



刹那の右手に魔法陣が生まれ、冷気が集う、パキパキと音を立て、空気中の水分が氷に変わる



「一気に潰さない?」


「そうですね!」



刹那が灯莉の薙刀に右手で触れる

刃から霧が発生しているように見えた

刹那の持つ槍の先が淡く輝いた


瞬間、2人に陰がかかる



刹那が右へ跳び、灯莉が左に跳ぶ


ドオオオンと大きな音を立て、巨大な亀が降って来た


が2人は既にそこにいない


灯莉が粉塵の壁を蹴って、亀へと跳び

刹那は地面から生やした氷の槍を蹴り、亀へと翻るように跳んだ



「…跳兎(とびうさぎ)——‘風薙(かざなぎ)’」


「回れ回れ一点へ回れ“力よ集え(いってんとっぱ)”」



キキキキキキキ…カキッ…



「くぅっ…」



亀の甲羅が薙刀に触れ、凍りつき、その表面を削るが、その硬さに刃がなかなか通らない

一箇所、ヒビのようなものが甲羅に入ったところで、灯莉は諦め、ローリングで離脱する



「頼みます」



灯莉が小さくそう呟くと…氷の槍が甲羅へと突き立った



「まか、せて!」



氷の槍はたくさんの亀裂が走っている上に、明滅し、その異常を周りへ訴えているがそんなことなど知ったことかと空中に現れた魔法陣を蹴り、槍を甲羅に押し込み…


突き抜けた



『オォオ!?』



驚いた亀が甲羅から体を外に出し…



「私は兎、あなたは亀…何か運命なのですかね? ですが…狼さんの力を借りた兎は…負けませんよ?」



白い軌跡が亀の首をなぞり、落とした



「…委員長ってあれだよね、割とメルヘンチックだよね」


「ちょっと待ってくださいどう言う意味ですか!?」



灯莉がそう言いながら刹那へ詰めよろうとすると…亀が後ろから飛んできて



「あーなんだ、その邪魔したか?」


「違うが?」



逸人がニヤニヤと笑いながら問いかけてきたので、否定する



「他の皆さんはどこにいるんでしょうか」


「おれ、何もできてねぇ…」



灯莉が疑問を口にし、夢宗が嘆くように呟く



『“対抗(カウンタースペル):魔法破壊(マジックブレイク)”』



聞き覚えのある声が聞こえ、粉塵の壁が…ただの粉塵へと変わり、四つの人影が見え



「全員揃ったわね」


「まやたんとハタさんだけでも問題ないのに☆」


「私の強化が入ってること忘れるなよ!」


「ふっ!」



途端にうるさくなった



「ははは!」



刹那が笑う

緊張感が全くないことがいつも通りに思え、笑いが漏れ出してしまった

しかし、それでも気を抜くことはなく湊が矢を射た敵影へと明滅する氷の槍を投げた


逸人が駆け、灯莉がそれに続く



「もっと大きな亀…?」



粉塵が消え、見えた敵の姿は…先ほど戦った亀よりも2回り3回りほど大きな亀でなぜか後ろ足で…立っていた


氷の槍が巨大な亀の腹に突き刺さり…爆ぜる



『オォォォォオオオオ!!』


「傷はなし…かぁ」



亀が亀とは思えない声を上げるなか、逸人が空へと跳び、灯莉が斬りかかる

帯びた冷気が動きを阻害させる…が、その程度だった



「…刃が通りませんね」


『オォォオオ!』


「ッ! 逸人さん任せました!」



巨大亀の叫び声に方針を変え、灯莉が2本の指で刀印を結び、円を描く

その直後に、彼女を狙うように地面から鋭い岩が何本も生え、貫こうとするが、地を蹴り、くるりと上下前後を空中で変えると亀の腹を蹴って、刹那達の場所まで離脱することで回避する



「まやたんもいるよー」



地面から生えた岩の上をぴょんぴょんと跳んで、まやが巨大亀へと接近し………抜刀する



『オォォォオオ!?』



左下から右上に向けて、切り傷が生まれ、赤く滲む



『オォォォォオオオオ!!』


「たいさーん!」



傷つけられて怒ったのだろうか、大きく叫ぶと逃げていくまやを追いかけるように二足歩行から四足歩行に変わり、歩み始める



「動くな! “妨害(ディスターブスペル):」



魔導本がパラパラと音を立て



放電鈍化(ディスチャージスロウ)”」



進み出した巨大な亀の前に魔導本から白い光が飛んでゆき、前足がそれを踏むと“パチッバリバリバリ!”と音を立てて、白雷が亀を襲い、動きを止める


矢が右目へと飛び、地面から現れた岩に止められるも、別角度から飛んできた矢が右目へと突き刺さる

電撃の影響で、動きを妨害され、声を出すことすらも亀は妨害されているなかで、ゆっくりと口を開こうとしている



「目は柔らかいだろ」



湊がそう言うと、“タンッ”と小さな音がして…


亀の首が飛んだ



「…俺は一体なんだと思われてるんだ?」


「えー、3人で強化いれたし、委員長も亀を弱体化させてくれたし…何が不満なの?」



血の溢れ出す亀の首の後ろから逸人が不満を言いながら現れる



「全部だ全部! ふざけるなよ…ほんとに」


「いいじゃんか、かっこよかったぜ? 逸人」


「何も嬉しくないが?」


「ねぇねぇ」


「透明な結界の上にずっと立っていたのが嫌だったのかしら?」


「違うが?」


「ねぇねぇ」


「なんか美味しいところだけ持っていってしまったことに罪悪感があるとか?」


「違うが」


「ねぇねぇ」


「「「じゃあなんなんだろう」」」


「こいつらに聞いた俺が悪かったか」


「ねぇねぇってば!」


「さっきからうるせぇぞお前!」


「だって亀さんたくさんきてるよ?」


「は?」



逸人がまやの声のする方向を見る

それに続くようにして全員がそちらを見た


全員で協力して倒した巨大な亀…ではなくその前に戦ったもの…よりも一回りほど小さい亀が大量に、『彼らの目的である森に囲まれた池』の方向からこちらへ向かってきている



「…あの亀が今回の討伐目標だね」



あの亀が今回の討伐目標の〔大顎亀 ロッハウ〕なのだが…



「気が立っていて、数が多い…でしたっけ?」


「………多すぎじゃない?」


「…残りの矢が心許ない」


「撤退だな、街の他のレーダルに力借りるか」



逸人が撤退を指示し、即座に荷物を片付け始める

流石に、巨大な亀で消耗した彼らが40くらいはいそうな亀と戦える気はしなかった

ただ、せっかくの苦労を無駄にされたくないため、逸人が巨大な亀の死体を引き、まやもそれに倣い引っ張るが…ゆっくりとしか進まないため、玲に強化をもらって運ぶか?と逸人が考える中で、茉里が刹那に近づき…



「なぁ刹那…合わせ技しようぜ、どうせ今組んでるそれ、使い道がないんだろ?」



そう問いかけた



「…まぁそうだね」


「それ、私に貸してくれよ」


「…どうしてわかったの?」



そう言って、刹那が手のひらを空へと向ける

すると、そこに空色の輝きを放つ、緻密で幾重にも重なりあい、ゆっくりと動く魔法陣が現れる



「…んー? 勘」


「勘かぁ」


「でも、刹那今日ほとんど攻撃魔法使ってないだろ? 亜竜の話でも使ってなかったみたいだし、さっきも使ってなかっただろ?」



茉里が刹那を見て、笑いながらそう語る

それは『刹那は攻撃魔法が好きなのに使ってないのはおかしいからな』と無言で伝えてきてもいた



「だから、気になってさ……まぁ、まさか()()独自魔法を生み出してるとは思ってもなかったけどな」


「まだ未完成だけどね、並列起動数が足りないんだ」


「…うへぇ、お前…自分のおかしさを分かってから言ってる? 同時起動数8とかほんとにおかしいんだからな?」


「ちなみにこれは9個使ってるよ、少し起動をずらすことでうまーく陣数増やそうとしてるんだけど難しくてさ」


「…で、これに込められた力は?」


「『共鳴』」



刹那が一言呟いた

当然、茉里は訳がわからないという顔をする



「どういうことだ?」


「光と闇で、『複製』して、水と風で『混合』、火と氷で『保存』、そして雷と土で『成長』…で、最後に『起動』」


「…それで、完成してないのか?」



刹那の説明を聞き、抱いた一つの疑問を問う



「うん、これ一つで魔法を作ることができるようになったら…完成なんだけど、今は他の魔法への補助パーツにしか使えなくてさ」


「…はは! 私にピッタリじゃないか! 任せろ、お前の作ったこれの力を見せてやるから」


「あっ、待って! それ攻撃魔法との接続が難しくて…」


『できないんだ』…そう刹那は刹那の手から魔法陣を奪っていった茉里に…言おうとして…

でも君なら…簡単なのかな

心の中でそう唱えた



「何やってんのよ2人、逃げるわよ」


「いや、私は逃げない」


「はぁ? あなた何を言って「お楽しみはこれからだぜ? 陽明収束、熱力変換」



呼びにきた玲に反抗するように、茉里が前に出る

玲の言葉を遮るように茉里が笑って、堂々と立ち…詠唱を始める

魔導本が茉里の左手から離れ、浮かび、パラパラパラパラと忙しなく音を立ててページが移り変わる

伸ばした右腕の先に大きく緻密な魔法陣が描かれてゆく



「一点集いて業火と成せ」



茉里が右腕を、大きく緻密で芸術のようにも思える魔法陣を、亀たちへと向け



「“攻撃(オフェンシブスペル):熱線(ブレーゼ)



その魔法名を告げる


魔法陣へと力が集いゆく中


茉里の左手が動く


描かれた魔法陣に最初から存在していた、何かと接続しそうであるのに何も描かれていない…その場所に


あまりにも緻密で、陣が幾重にも重なり、異様でいて、周りに馴染む、空色の魔法陣が組み込まれた



「『共に鳴け』」



重圧が広がり、その声が場を支配する

それは魔法陣が発した圧だったのか、彼女の発した圧だったのかは誰にもわからなかったが…逸人たちは動きを止め、茉里に、茉里の魔法に動きを止めた


“キィィィィィイイイイ”


と高音が響き渡り


熱線(魔法)が発現し


それ(熱線)を支えるように二つの熱線が発現し、周りで螺旋を描き、一つと成った


その高熱で風景を揺らし歪ませ、進んだ熱線が大量にいた亀たちを穿った



「は、はは! さいっ…こう……」



1人笑った茉里は…その言葉を口にして…倒れた



「ちょっ! 茉里っ!」



自分の作り出した魔法陣が、どれ程の力を発揮するか想定しており、驚いてはいたが動けた刹那が急行し、彼女が地面へぶつかる前に受け止める

受け止めた刹那は、彼女に意識がなく、保有する魔力もほとんど無くなっていることに気付いた

だが、彼女の表情はとても楽しそうな…笑顔であった



「はぁ…僕ももっと、頑張らないとね」



茉里の魔法が穿った亀の死体と幹を抉られ倒れた木々と地面に開いた小さな穴をみて、刹那はそう呟き、今後どのように自分の魔法を作るかを考え出した



「知ってるなら説明しなさい」



青筋の浮かんだ玲にそう詰められるまで















「つまり、あなたは本気で戦ってなかった…ということでいいのかしら?」


「…いや、ちが」


「言い訳無用!」



正座しながら、玲の言葉を否定した刹那が“パァン”とビンタされた



「いったぁ!?」


「茉里ほど確信があった訳じゃないけど、私も少し疑問に思ってたのよね、だからそれはまだ調子が戻ってないのかと思って心配してた分よ!」


「はい、申し訳ありません」


「玲さん、それくらいで…」


「なに!?」



刹那に助け舟を出そうとした灯莉が振り返った玲の表情を見て黙った…が



「…わ、私の槍に、特殊な強化も…してくれましたから」


「…そう、まぁそうね」



なんとか、と言った様子で助け舟を出した



「それにしてもどうするのよ…これ」



そう言って玲は…

なんとか(地面に寝かされた)茉里と(茉里の様子を確認していた)玲以外の全員で集めた亀たちの死体を見た



「どうしようもなくないか?」



逸人がめんどくさそうにそう言う



「街にこの大きいのだけ持ってって、他は放置…とか?」


「魔物の死体が放置されてると魔物が発生するんじゃありませんでしたか?」


「受肉できてるなら発生しなかったような?」


「街に戻って協力を呼ぶのは?」


「いーや、まやたんが全部運ぶね☆」


「…馬鹿かお前は、一体何往復する気だ」


「まやたんなら一回でいけるよ!」


「…こんなことになるなら解体の仕方を学んでおけばよかったなぁ」



結局意見がまとまらなかったため…持てる限りを街に持っていくことにした



「あ! 刹那お前ズルすんな!」


「いいじゃんか、僕は1番大きなやつなんだからさ」


「それで全部運べばよかったんじゃね?」


「そんな簡単じゃないですー」



氷の板のようなものに乗せ、刹那は巨大な亀の死体を引っ張っていた

当然のように他の人たちから文句が出たので、全員分用意する羽目になり、刹那は泣いた

玲の『1人だけサボってたんだから、余力はたくさんあるでしょ?』という言葉には勝てなかった










その後、彼らは街を騒がさせた

戦った巨大な亀が『大地喰ライ』と呼ばれる特殊な個体であり、生まれた場所が砂漠であれば数多の実力者たちが協力し、討伐しにいくような魔物であったことを教えられ、亀の死体が残っていることなどを説明し、依頼の報酬などを受け取り、素材の価値確認や剥ぎ取りを頼み終えたところで、驚いた様子のヒノミがやってきて、誰も大きな怪我をしていないことを確認し、安堵の表情をすると…その日はヒノミの転移で拠点へ、家へと帰った


ちなみに茉里は魔力切れであり、ヒノミに魔力を分け与えられたことで起きたのだが最低限度の魔力しか与えられなかったせいで体調がとても悪そうであった

『少し魔力を分けてもらえただけでも感謝すべきじゃぞ? 本来なら魔力切れになった場合、自分1人でどうにかせねばならんからのう』と言ったヒノミには誰も文句を言えなかった



その日の夜に、食事のために部屋から出てきたリーミナと刹那が鉢合わせ、彼女の大きな獣耳を見た刹那が崩れ落ちるといった珍事があったが…


その後、互いに自己紹介をし終えると…何もなかったかのように元の生活に戻った



そんな彼女を見たヒノミが



「そろそろ…じゃろうな」



誰にも聞こえないように、静かにそう呟いた

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