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導きのない新天地  作者: 風雷 刹那
第2章 セーミニの街
10/20

必然は偶然を騙る-多くの出会い-

実は6日前にできてた…分けるのめんどくさくて出してませんでした


「わかんないから今後も通うことにしようかな…」



刹那は自らに治癒の魔法を使っている女性の目と手のひらに浮かぶ魔法陣を見て、そう呟く



「…私の仕事増やさないでほしいのだけど」


「なら僕が大怪我負ってくる分には問題ないでしょ?」


「問題大有りよ!! 身体を大事にしなさい!」


「…はい」



怒られた



「それに私の仕事も増えてるじゃない!」


「そうですね…」



武神官であり、治癒の魔法に長けているネイレンは刹那の扱いに困っていた



「治癒の魔法は独学で進めてもらうしかありません…私どもとしては教えてさしあげたいのですが…」


「先輩」



今年で70になるが薄く森人族の血を引いているために30代にしか見えない神官のウォレイが申し訳なさそうに刹那に言った言葉にネイレンが反応する



「わかっていますよネイレン」



教会の治癒の詳細な魔法知識は…秘匿されている

使われる魔法も、魔法陣の一部が秘されており、解析できないようにされている

そんな魔法陣から刹那は治癒の魔法を学ぼうとしていた



「まぁ、僕としては見て学べるだけでも嬉しいですから」


「私の時と態度が違う」


「ネイレンさんは…こう、威厳が……ね?」


「セツナ、もう治ったわね? 武術の訓練でもしないかしら?」


「やめておきます」


「ふふふ、そう言わずに」



ネイレンが笑って、刹那の首根っこをつかみ…



「威厳が…までしか言ってないのにぃいい!!」



引き摺るようにして部屋から出ていき、扉をバタンと閉じた



「一夜で随分と仲が良くなりましたね」



残されたウォレイがそう漏らせば…



「違うから、セツナが弟みたいだっただけだから!」


「……あぁそうでしたか」



扉が開き、そこから頭だけ出したネイレンが全力で否定する

その言葉に、ウォレイは納得したように深く頷き、優しく微笑んだ






教会の外庭に2人の姿はあった



「ほら…来なさい」



ネイレンが対面する刹那を煽るように笑う



「…じゃあ胸を借ります」


「ええ」


「…はっ!」



左足を半歩後ろへ下げ、体重を左足へと傾ける

地を蹴って、前へと跳ぶ


直前で左足を地につけ、強引にそれを軸とし、勢いをそのままに回り…回し蹴りとする



「たあっ!」


「は」



不意をついたはずの回し蹴りを手のひらで易々と受け止められ、少し動きが遅れた刹那の足を彼女は掴み、引き寄せ、次にその腕を引いて投げの要領で地面へと転がす



「実力で負けてるぅ…」


「そうでもないわよ? あそこで回し蹴りをしてくるとは思ってなかったし…」


「あれ技術ある人に対抗するための一発芸みたいなんもんなんですぅ…」


「あれで止まらなければ私はもう少し苦戦したわよ?」


「ぅ…」


「ふふ、まぁそうよね…あなたには難しいわよね」



ネイレンがうっすらと笑い、憐れむような同情するような表情で刹那を見てそう呟く

決してその表情は刹那の技術を嘲笑っているということはなく、技術以外の理由で無理なことを言ったと分かりきった上でのセリフであった



「…ッ」


「一つ、謝っておくわ…ごめんなさい、私はあなたの(きず)を見た」


「疵…」


「あなたは怖がってる、自分の知り合いが傷つくことを…そして、その後ろに死が見えることを」


「…」


「間違ってないでしょう?」


「…う、ん」


「あぁ、ほら泣かないの…私はいじめたいわけじゃないのよ」


「でもっ…」


「もう、私はあなたの(トラウマ)を知ってる…だから、そうね、心が疲れたのならここに来なさい…いくらだって、聞いてあげるわ」


「…あ」



優しい表情のネイレンがそう言って刹那へと微笑む

彼女を見た刹那は…抑えきれない感情が溢れ、ポロポロと落ちている程度だった涙が溢れ出す



「あらら…その、ごめん…ね? 私ってほら包んで話すのが苦手でしょう? また新しく疵をつけちゃったりしてないかしら?」


「いっ、え…たす、か、りました」


「そんなに泣いちゃって…可愛い顔も台無しよ?」


「…ふふっ、なん、で口説いてる、みたいなセリフなの?」



溢れ出す涙がゆっくり止まってゆく

刹那の顔には笑みが浮かんでいた



「あら、あなたは耳を褒められた方が嬉しいかしら?」


「…しっぽもだよ」


「じゃあ…模擬戦もう一回やって私が勝ったら撫でさせてもらうわね」


「待って! そんな話は」


「さぁ行くわよ!」


「んにゃあああああああああ」



涙が止まり、すっかりいつもの調子に戻った刹那とネイレンの模擬戦が再び始まった


建物の影から顔を覗かせ彼らの様子を見ていた数名の神官たちは…



「あの娘って年下好きだったかしら…?」


「セツナ君の魔法ってすごいんだよねー」


「属性複合数が多いからたくさんの種類が作れる…才能ってずるいよな」


「…だからレンちゃんは魔法禁止にしてるのか」


「先輩たち、1日で患者さんと仲良くなりすぎです」


「あなたもでしょう?」


「ええ、まぁそうですけど」



ネイレンにボッコボコにされながらも、なんとか応戦している刹那を見ながらそんな会話をしていた








「…で、じゃ…ウォレイにい…いや、ウォレイ兄さん、彼らをどうしろと?」



刹那の治療室であった白い部屋で、ヒノミとウォレイは親しげに会話をしていた



「彼らのしたいようにさせよ…だそうですよ」


「くはっ、彼らは公認で好き放題できるわけか! さいっこうじゃのう!」


「ええ、これから大きく…世界は()()()でしょうね」


「ワタシ達も…そろそろもう一度集うべきじゃろうな」


「メイエやルナス、ハカテには私が呼びかけますよ」


「他はワタシとニリシナでなんとかするとしよう」


「リエファやサツキがいないのは少し寂しいかも…しれませんね」


「…そうじゃのう」


「ところで…」



少し言い淀むようにウォレイが言葉を紡ぐ



「彼を迎えに来たのでは?」


「…ワタシには対処できないことを対処してくれとるんじゃ、行くのもどうせニリシナのとこじゃ焦る必要もあるまい」


「相変わらずニリィには厳しいのですね」


「姉気取りが鬱陶しいんじゃ、ワタシがあやつに求めとるのはそれではないとゆーとるのに」


「はは、それだけ末っ子の君が気になるんだろ」


「あ、それは昔のウォレイ兄さんっぽい……のじゃ」


「はは、それにしても君の『家族』は…どうなるんだろうね?」


「すでに愉快じゃよ…」



少し疲れたように、そして楽しそうにヒノミはうっすらと笑顔を浮かべる



「…彼らは…きっと名を残す」



ウォレイが真剣な顔をして話を始めた



「それも裏で…や、一部で、じゃない歴史に、だ」


「…じゃろうな」



ヒノミもそれに同意する



「そのことで、君に頼みたいことがある」


「ワタシもあるのじゃ」



2人は他に誰も現れないその部屋でしばらく会話をしたのちに…揃って庭へと向かった






「あぁあぁぁあうぁあぁあうぁあぁ」


「うん、いい触り心地ね」


「どういう状況じゃこれ」


「…どういう状況なんでしょうか」



若干ボロボロで倒れている刹那…の上に座りネイレンが彼の尻尾を撫でていた


本当にどういう状況なのだろうか…



「あっ、ヒノミ様…どうしました?」


「いや、ワタシの方が『どうしました?』なのじゃが」


「色々あって尻尾を撫でてました」


「省略がひどい」



本当にひどい


















「なるべく遠くには行かないようにするんじゃぞ?」


「大丈夫ですよ、死ぬ気はないですから…あと教会にまたお世話になる気も…お金もないですし」


「正直ワタシの名がなくともぬしならあの教会タダで治療してくれそうなんじゃが」


「はははっ、そんなことはないですよ!」



そう言って刹那は丘へと駆け出した



ネイレンから解放されたのち…

ヒノミに連れられ、神官たちに見送られながら教会を出て

セーミニのクレアード本部に行き、夢宗たちと同じようにクレアレンに出会い…

西の丘のクレアードで角兎の討伐依頼を受けてきた

流石に今日は他のレーダル研修生はいなかった



そして今、刹那は…


角兎の討伐を無視して、西の丘の探索に飛び出した

(ヒノミも許可しているため、問題はない)



「うーん…雄大な大自然って最高! 獣人になったからか、なんか少し活動的になれてる気もする…うん、今僕結構健康的なのでは!?」



そよ風が通り抜け、肌を撫で、髪の毛、耳、尻尾がふわりと揺れる

別に健康的ということはないと思う()



「っと、メモしないと」



草原に座り込み、ポケットからメモ帳を取り出して、過去の転移者が作り普及させた消えるボールペンもどきで目に映る情報を書き出す



『草原には〔角兎 メッレ〕と純白の鶏?←あとで調べる』

『そよ風が心地よく、ここから旅立つ時は追い風として背中を押して気持ちよく旅立てそう』

『生えている草には3種類←たまに違う草が2種類くらいある』

『虫は…いない?』



「っと、草原はこんなものかな…」



刹那がそう呟いて、デフォルメされた角の生えた兎と純白の鶏を描いたメモ帳から目を外すと…



「わっ!?」



〔角兎〕と鶏に囲まれていた



「え…え?」



寝ている角兎と鶏もいる

なぜかはわからないが懐かれたのだろうか…



「この愛くるしいのを討伐しろと…?」



きゅきゅっと可愛らしく角兎が鳴き、兎のまんまるな目と刹那の目が交差する

兎の動きが止まり…



「キュッ!?」


「なぜ驚く!?」



驚いたような鳴き声を上げた兎はぴょんぴょんと可愛らしく逃げていった


それでもまだ周りに集まってきていた兎と鶏達に包まれて、暖かいどころか、暑いレベルまで到達しそうになってきたので立ち上がる


すると

「わー!?」

「なにごと!?」

「たすけてー!!」

と言った様子で兎や鶏が驚き、逃げていった



「…おかしくないか?」



少しニヤけながら刹那はそう言って、場所を移動する



「次は森…セーミニには『セーミニ北の森』と呼ばれる森があるけれど…他の場所にも大体森はある…だったかな」



元レーダルの神官から聞いた話を思い出し、呟きながら目の前の森へと向かう



「割としっかり森だね」



森なのだから当然である

一体彼は何を言っているのだろうか



魔物が数体いたため、特徴をメモする

兎と鶏ほど緩くはないであろうから、足を止めず簡潔に記してゆく



「特に…メモすることはないかな、よし、丘に行こう」



何か寂しいなと感じながら、淡々と探索してゆく



「うん、丘もこんなもんでいいかな…じゃあお昼ご飯でも食べるか」



いいサイズの岩の上に座って、リュックサックから教会でもらったお昼ごサンドイッチを取り出して食べる



「うま」



少ししょっぱく感じたが、おそらく刹那が探索すると言ったのを覚えていて塩分を多めにしてくれたのだろう

少し教会の人達に助けられすぎな気がしてきた



「もー少し奥行ったら危ないかな」



ヒノミの家を囲っている森が少し進んだ先の右側に見える

そもそも西の丘は安全な初心者エリアで危険はほとんどないが…奥だけは別なのだと元レーダルの神官に聞いた



「どれくらい危険なのか教えてくれなかったんだよなぁ」



どれほど危険なのかを教えてくれなかったため、逆に好奇心が湧いてしまっている、だからこうして奥が少しでも見えそうな岩の上で昼食を摂っているのだが



「特に何かが見えるわけでもないんだよねぇ」



独り言を呟いて、サンドイッチを一口二口齧る

視界に映る景色はとても綺麗である

ぼーっとしながらサンドイッチを食べ、景色を見ていると…



「—————————」



人の声のようなものが聞こえ

何かが壊れるような音が近づいてきた



「え」



嫌な予感がしたため、残ったサンドイッチを急いで包み、鞄にしまう



「ガァァァァァア!!」



恐怖を振り撒く咆哮と共に現れたのは…竜だった



「りゅ、竜!?」



急いで岩から飛び降りる

その直後に竜が岩にぶつかり、砕けて人の頭ほどの岩の欠片が周りに散らばる

欠片に当たったら危ないので



「導け“白の風”」



教会で魔法に詳しい神官に協力してもらって作り出した強化魔法をかけて走り、距離を取る



「ガァァァァア!!」


「うんにゃあ!?」



後ろから迫ってくる熱を強引に左へローリングして回避する

炎が先ほどまでいた地点を通り過ぎた



「あっぶあぶあぶ…」



おそらく食らっていたら重症では済まなかったであろうことを想像し、恐怖で言葉が詰まりに詰まった



「ガァァアアアアアア!!」



真後ろから声がした

死を確信し、抗おうと強化魔法に残った最後の力で自分を前へと吹き飛ばす

ただ、全く距離は取れなかった



「…くら、げ?」



まるでスローのようになった視界に透明な水色の小さいクラゲが写った

それを目で追うと奥へと飛んでゆき、今まさに開いた顎を閉じて刹那を噛み砕こうとする竜に向かっていて



「“高潔であれ”」



声が響く

綺麗で透き通った声が


目で追っていたクラゲに変化が起こる

一瞬煌めくと、刹那よりも大きくなり、竜から刹那を隠し、盾となった



「は、えっ!? っ!」



驚いて動きを止めたが、思い返して再び足を動かして逃げる



「こちらへ!」


「は、はいっ!」



突然視界の中に手が現れる

驚きと焦りの中で、その手を取ると…


地面がなくなった



「あえ!?」



その手の主を見ると同じくらいの歳の茶髪の少女で…刹那は彼女と手を繋いで、崖から飛び降りたような状況になっている



「安心してくださいねー」



焦りや恐怖で暴れそうになったが、ギュッと手を握られた上にそう言われれば無理にでも落ち着き、現状の対処法を構築しだすが



「“奔放に揺蕩え”」



視界の端に先ほどのクラゲが写り…巨大化した

今度は刹那と少女の真下で…



「…こ、こわわ…こわわわわわ」



クラゲの上に乗り、安心したことで…先ほどの高所恐怖症とあまりにもスリリングすぎる状況が思い出され…再び言葉が言葉として出てこなくなった



「ふふふ、大丈夫ですよー」



茶髪の少女が刹那に微笑みかける

それはまるで幼い子を安心させるかの如く

……恥じらいと共に刹那の言語能力は帰ってきた



「…大丈夫です、はい、大丈夫です」


「あ、あれー?」



訂正、どうやら正常な思考能力は帰ってきてないようだ



「困りましたー…私ではあの亜竜を倒しきれません」



彼女が呟いた“亜竜”という言葉を刹那のケモミミイヤー(ケモ耳耳になるけどいいのだろうか)はしっかりと聞き取った



「亜竜…ですか」


「だ、大丈夫ですかー?」


「は、はい迷惑かけました、本当に、本当に申し訳ございません!」



刹那の顔は恥じらいが限度を超え、真っ赤になっている

が、なんとか意識は現世にいる



「だ、大丈夫なら良いんですけどっ!?」



言葉の途中で刹那が咄嗟に少女を抱え、空を飛ぶクラゲから飛び降りる


2人が落ちた直後に、クラゲへ亜竜が襲いかかり、噛み砕こうとしている



「…! 助かりました!」


「あのクラゲの再展開は!?」


「無理です! 傷つけられたので再召喚からです!」


「僕が…なんとかします! 守って!」


「わかりました」



地面まで30メートル


刹那は考える


自信なんてない

方法だってわからない

でも諦めることはしたくない


だから、魔法の構築を…する



残り25メートル



落下の力を打ち消せるのは…?

空気抵抗…それとも水?


つまり風か…水か?



「ガァァアアアアア!!」


「唸れ水渦(すいか)、回して飛ばせ“大渦の導べ(レティッシ・フェール)”!」



炎が刹那達の横を通り過ぎる

先ほどのものより弱くなり、当たっていないのは、彼女の魔法が理由であるのだろう



残り20メートル



違う!

狙うのは着地じゃない!

逃げることだ


そのあとに体勢を立て直す



残り15メートル



ならば風だ


刹那の右手から魔法陣が広がってゆく



「ガァアアアア!!」


「包んで踊れ“水渦の泡沫(エミティッシ・ネール)”!」


「ガ、グルッ! ガゴガ…ガァァア!!」



広がった魔法陣を警戒したのか亜竜が刹那達へと襲い掛かろうとしたが、渦巻く水が入っている泡に頭を拘束されたことで一時的に動きを止めた


魔法は…無茶苦茶であってもいい

現実的である必要はない

そう過去の転移者は言葉を…残した


その言葉、信じるからな!



残り10メートル



「風の導べよ、この先の道のりへ祝福を齎せ“そよ風に吹かれて(きまぐれにねがいを)”!」



風が肌を撫で、毛を踊らせる

魔法陣が輝きとともに消えてゆく



残り5メートル



「ガァァァァァアアア!!」



亜竜が迫ってきているのを感じる



「緩やかに波となせ“水明、波となりて(ルー・レシエリ)”」


「“願いはここに(かぜとともにあれ)”」



突然生まれた水の波が亜竜を襲う

うるさかった風の音が消える

魔法の真の発動句が唱えられた


少年と少女が…風に吹き飛ばされるようにして、地面と平行に飛んだ



「これ、着地できますかー?」


「…たぶん? いや、無理な気がします」



自信がないので助けて欲しいです



「ガァァアアアアアア!?」



ドゴォンと音と亜竜の驚いたような咆哮にそちらを見れば頭から地面にぶつかったようでこちらを見失っていそうだ



「再召喚します…精霊様にお祈りを、私に力をお貸しください…“水精の御力をここに(レアーナミファセ)”」



小さなクラゲが少女の近くでゆっくりと形成されていく

これは再召喚を渋るわけだ

彼女は祈りの姿勢で待っている



「…! 来た」



風を裂く音が近づいてきている



「ふぅううう…凍てつく煌めきよ惑わせ“氷晶の煌霧こんごうのちりにまどえ”」



亜竜の目の前がキラキラと輝き出す

それは幻想的な輝きで見るもの全てを魅了するかのようであり、それを見た亜竜は……地に落ちる



「…く、維持が、キツい…」



三属性の複合魔法で魔力消費が大きいというのに…設置型兼維持型のため…維持のために魔力がゴリゴリと削られてゆく

だが、効果はあり…亜竜は方向感覚を失っている


というか、流れでこっち向きに吹き飛ばしたけど…木がなくてよかったぁ!



「…呼べ、ました! “華麗を詠え”」



クラゲが巨大化し、刹那と少女を掴み…ふわふわと地面へ下ろしてくれた

流石に女性を地面に降りても抱きかかえてるのはまずいので、離す

あまりにも忙しかったせいで忘れかけていた



「ありがとうございます」


「こちらこそ、ですよー」


「ところで…アレ、どうします?」


「どうしましょうかー」



刹那が指を刺す先には、先ほどの亜竜が全力で2人へと迫ってきている姿があった

体勢を立て直すまでの間だけで2人とも相当消耗している



「私が守りますねー」


「僕が攻撃します!」



刹那の手に、氷の大剣が現れる

教会で魔法に詳しい神官に教わった、無詠唱の成果である…まだこの魔法氷刃(コオリギリ)でしか使えないが



「ガアアァァ!!」



亜竜が咆哮と共に2人に迫る

その口からは炎が漏れ出し、再び炎を彼らへ放とうとしている


クラゲが2人の前に出て…少女が発動句を唱えようとすると



「でぇえええりゃああああああああああ!!」



第三者の声が響き



「え!?」

「ミリィさん!」



2人が声をあげ


突然現れた人影が亜竜の右翼を叩き切り、亜竜の口に溜められていた力が、炎が、爆ぜるようにして消えた



「ガァァアアア!?」


「…っふぅうううう、てぃーちゃん、それから知らない男の子…無事だね?」



大きな両手斧を持った紫色の髪の女性が2人にそう問いかける



「はいー無事ですー」


「無事、です」


「よし、ウチの直感も捨てたものじゃないね!」


「直感直感って、あなた賭け事は負けてばっかじゃない…」



また別の声が聞こえてきた



「だから捨てたものじゃないって言ったの!」


「そーね、そうかも、ね!」



飛んできた矢が亜竜の左目を穿つ



「ゴァ!?」


「リィエさん!」



刹那の隣の少女が矢の飛んできた方向へ声を上げる



「メル、場所がバレちゃうからやめて」


「はいー」



帰って来た返事に少女はニコニコとして、刹那に話しかける



「もう大丈夫ですね、ミリィさんとリィエさんに任せれば問題ありませんよー」


「少しくらい、何かはしてほしいけどね!!」



大斧が亜竜の鱗を叩き割り、肉を裂く

矢がそこに突き刺さる

…亜竜の鳴き声は少しかわいそうにすら感じる

綺麗な連携であり、大斧が砕く鱗の場所と矢が飛んでくる位置が毎回毎回違っているのに必ず同じ位置を攻撃していることに違和感を覚える暇がない



「メル達に何かをさせようとするなんて先輩としての意識が足りないわよ、カミィ」


「じゃあリィはウチを下げて自分を上げるのをやめなよ!」


「ほら、行くわよ! 四魔弓(しまきゅう)——‘一ノ矢:空颯(レシエッツカ)’」



ゴォォォオオオオと異様な音を立てて矢が亜竜に向かって飛ぶ



「…もう、しょうがないなぁ」



女性が地を蹴って、矢の前へと飛んだ



「ウチらの前に姿を現したのが間違いだったね! 砕禍混絶(ギフェリッド)——



大きく斧が振り上げられ、昏い紫色がそれを覆い



大岩穿(ゼーリント)’」



女性の呟きと共に、振り下ろされた

ギ、イッ…とおかしな音と共に亜竜の体が大きく損壊する

その痛みに呻き声を上げようとする亜竜の頭を女性が蹴って離脱すると…

ゴォオオオという異常な音と共に矢が亜竜の頭を貫き、力を失った亜竜の体が倒れる



「つよぉ…」


「最下級の亜竜とはいえ…ここまで圧倒的に…」


「まぁウチらは一応ι+だし…」


「ι+って…どれくらい、ですか?」


「えーっと…まぁ下から数えたほうが早いかなぁ」



72ある中の下から27番目である



「よく言いますね、カミィ…あなたは上げる気がないだけでしょう」



緑髪の女性が話に参加して来た



「そうだ、あなたの名前は?」


「僕は、刹那……風雷 刹那です」


「セツナね、あたしはリィエミリエ・ルヌアレラ…半森人の人族よ」



リィエミリエは髪を持ち上げ、半森人族の証である人よりも長く森人よりも短いその耳を見せながら自己紹介をした



「ちょ、リィ!? そんな簡単に言っちゃ!?」


「あなたヒノミ様の弟子でしょう?」


「えぇっと…はい」


「なら、問題ないでしょう?」



リィエミリエはそう言って笑った

それ見た他の2人は少し引いているような気がする



「…えー、私はメルティア、…メルティアです! セツナくん助けてくれてありがとうございますー」


「僕が助けてもらったと思うんですけど…ありがとうございますメルティアさん」


「ちょっ、ウチより先にてぃーちゃんがするの!? もうっ! ウチはカミリ、ミリィって呼んでね」


「えーっと、よろしくお願いしますカミリさん」


「もーミリィって呼んでって言ったのにー」



簡単な自己紹介が終わり…



「とりあえずここにいるよりセーミニに帰ったほうがいいかな」


「じゃあ、カミィがあの死体持って来てね」


「はぁ…しょうがないわかったよ」



カミリが亜竜の死体を掴み上げる



「ミリィさんお助けしましょうか?」


「メル、カミィは助けなくていいからセツナと一緒にお話ししましょう」


「え、僕もですか?」


「当然」



そうして、カミリを除いた3人は談笑しながらセーミニの街へと歩いてゆく

セーミニの街が見えて来た頃に…



「あ、僕…〔角兎〕1匹捕まえないといけないんですよね」


「珍しい依頼ね」


「あー…いや、レーダルになるための最初の依頼ですね」


「えっ! セツナあなた、まだレーダルじゃなかったの!?」


「はい」


「その依頼って監督員がいるんじゃないんですかー?」


「探索したかったので…ヒノミさんに聞いたところ、探索してもいいって許可もらったんですよ」


「自由ね…」


「ってことで、僕は捕まえて来ますので皆さんは先に帰っていてください」


「あ、私セツナくんを手伝ってきますー」


「メルは行く必要ないんじゃ?」



離れてゆく2人を見送りながら、リィエミリエはそう呟いた…が、誰にも届かなかった



「何してんのリィ、2人はー?」


「他のことをしに行ったわ、カミィやっぱりあたしあなたを手伝うことにしたわ」


「助かるー」



亜竜の死体を持った2人はゆっくりとセーミニの街へ向かってゆく









「んー〔角兎〕いないなぁ」


「森に近いですからね…それに私たちは少し亜竜の気配に少し影響を受けてしまっていますからー」


「そうなんですか………って、メルティアさん!?」


「ええ、メルティアですよー」


「なんでいるんですか?」


「ふふふ、どうしてそんなことをおっしゃるんですかー…抱き合った仲じゃないですかー」


「うっ…あれは」


「私も助けていただきましたしー別に文句があるわけではありませんよー」



そういうメルティアの頬は少し赤くなっている

刹那もだが



「…そ、そうですか」


「なので聞きたいんですー…セツナくん、あなたにとっての自由ってなんですか?」



メルティアが真剣な表情で刹那を見て、そう問いかけた



「…僕は自由とは………自由を考えて、自由であろうとしてる時を指すんじゃないかと思っています」


「……そう、ですか…ふふっ、そうですね…とても面白い回答です」



メルティアが驚いたような顔をした後に、何かがつながったような、理解ができたような顔をして…微笑んだ



「えっと、これで満足できました?」


「ええ、決めましたー…私、セツナくんについて行くことにしますー」


「え?」



刹那があまりの脈絡のなさに固まる

目の前の人は一体何を言っているのだろうと言った顔でメルティアを見つめている



「これからよろしくお願いしますねー」


「んんんんん???」



刹那は困惑した

困惑のままに固まっていると…〔角兎〕が1匹寄って来た


お、なんだお前励ましてくれるのか…違うな現実逃避させてくれるんだな、ありがとうもふもふよ


そんなふうに刹那は〔角兎〕と遊び出した



「えいっ」



メルティアが兎を掴んで持ち上げる



「もう、セツナくん…ちゃんと話を聞いてください」


「…はい」


「私は真面目に言ってますよー」


「でも、今日会ったばかりで…決めるのは流石に」


「ならまた会いましょう? 一緒に依頼に行きましょうねー」



メルティアが刹那を追い詰めるかのように逃げ場をなくしてゆき、ニコリと美しく笑った



「…うぁ…はい………ところでその兎って」


「セツナくんの探究証用ですよー」



メルティアの抱える兎と刹那の目があった



「くっ、つぶらな瞳が『逃がして欲しいキュ』と呼びかけてくる」


「…そこまで状況理解してないと思いますよー?」



そんな話をして顔を見合わせると



「ふふっ」


「ははは!」



メルティアが『つい』と言った風に笑い出した

それに釣られるようにして、刹那も笑う



「では行きましょうかーミリィさん達が待っているセーミニにー」


「ですね」



2人は視界に映る西の門へと歩きだし



「ところでこの子怯えてないんですけどー…」


「…え、角兎ってビビリなんですか?」


「……セツナくんに常識を期待した私がダメでしたかー」


「えっ、ちょっ、ちょっと待ってくださいメルティアさん! それってどういうことですか!?」



自分のことを常識人だと思っている刹那はメルティアの発した言葉に動揺が隠せなかった

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