08 勘が働かなくて商売上がったりのキース
キースの目の前には六本の道に分かれていた。
キースは中央に立ち、手にしていた短い枝を立てて倒れた方へ進むことにした。
南東への道へと木の枝が倒れたのに、急にそちらへ行く気がなくなってしまった。
それは北西から砂埃を立てて馬車がこちらに向かってすごい勢いで走ってきているからだった。
「盗賊にでも負われていたらいいのになぁ〜?!」
ここ一ヶ月ばかり勘がちっとも働かない。
馬でも手に入れて、さっさとこの場所を移動してしまいたいとキースは思っていた。
馬の一頭でも手に入れられたら言うことなしだな。
馬車は車輪が外れるのではないかと思うくらいの勢いでこちらに向かってきている。
段々と声が聞こえて「逃げろーー!!逃げろーー!!」と聞こええる。
一体何に追い掛けられているのかと南西への道へと体を逃がした。
残念ながら追い掛けているのは魔物で、仕方なく馬車が通り過ぎるるのを待って、魔物をレイピアで眉間を一突きした。
魔物は勢いを消せないままキースに突っ込んできてキースを持ち上げて絶命して、勢いをつけたまま大きな音を立てて倒れた。
キースは巻き込まれないように反動をつけて、ちょっと離れたところに飛び退った。
眉間の間に深々と刺さったレイピアを魔物の頭に足をつけて引張り、折れていないことに安心して、魔物をすぐさま時が止まる空間収納へと入れた。
かなり遠くの方で馬車が止まり、こちらに引き返してくる。
「あの・・・ありがとうございます?魔物はどこに???」
御者が俺にそう声を掛けてきたので「倒しましたから心配いりませんよ」と伝えてキースは魔物が来た方へと進もうとした。
勘は働かないけど、魔物がやって来たってことでそちらに向かうことに決めたキースだった。
馬車から身なりのいい人が居りてきて、魔物から助けたことを大げさに感謝され馬車の中は女子供がいるので、御者席で良かったら向かう方向は同じなので乗っていくといいと言ってくれたので、遠慮せずに乗せてもらうことにした。
御者と世間話をしながら進んでいると小さな村があったので、そこで下ろしてもらうことにした。
「こんな小さな村に用でもあるのかい?」
「いや、村に必要なものを売って歩いているんだよ」
「そうか、本当に助けてくれてありがとうな」
御者に礼を言われて、馬車の中の人に乗せてもらった礼を言って別れた。
今年は雨が少なかったらしく、野菜や干し肉などがよく売れた。
この村の村長が空間収納持ちだったようで、大量の野菜や肉を別に買ってくれたので、俺は森の深いところに入って深い穴を掘り、先ほど倒した魔物の血抜きをした。
皮を剥いで部位ごとに肉を切り分けて、解体してそれも村長に売り飛ばした。
「この辺でこの魔物が出たけど大丈夫なのか?」
「今年は雨が少なくて作物が育たなかったから、森の中の獣も飢えているんだと思う。襲われたら襲われたときと諦めて生きていくのがこういった小さい町だよ」
「そうか、難儀なことだな」
その日はこの村の後家さんの家に色々な意味で厄介になり「もう二〜三日泊まっておいきよ」と誘われてなんとなくその気になって、三日も厄介になった。
「世話になったな」
「こちらこそ、美味しい料理を色々食べさせてくれてありがとう。近くに来たらまたよっておくれよ」
「近くに来ることがあったらな」
後家さんは少し寂しそうな顔をして、キースは後ろ髪を引かれるような気持ちになりながら村を出た。
頭の中でめくるめく夜のことを思い出しながら歩を進める。
背後から荷馬車がやってくる音がして振り返るとゆっくり動きながら声を掛けてくれた。
「ここから次の村までは一日掛かるから乗っていきな」
俺は御者席にお邪魔して、干し肉を二人でしゃぶるために差し出した。
他愛もないことを話しながら、南の方では豊作だったと聞いたので、仕入れをかねて南へ向かうことに決めた。
ちょこちょこ魔物が現れる。
その度に俺は荷馬車から下ろしてもらって魔物を倒して空間収納に入れている。
「空間収納持ちはいいね〜。俺も欲しいよ」
「そうだな。あるのとないのとではぜんぜん違うな」
「どうやって手に入れたんだ?」
「俺の仕事の師匠が持っていたんだ。師匠が引退する時に全てを俺に譲ってくれたんだ」
「空間収納は死ぬときにしか譲れないって本当か?」
「ああ、それは嘘だな。空間収納を持っている人間が譲ると決めて手順を踏まないと譲れないから、俺を殺しても手に入らないよ?」
御者は気まずい顔をして「殺したりしないよ」と言った。
次の村で下ろしてもらい少しの干し肉を分けてやった。
「あれ〜?ここの村は当たりだな。犯罪者がうじゃうじゃいる気がする。ここに来るまで勘が働かないってどういうことだろうね?」
キースは首を傾げて、村人を見つけて商品を売りに来たと伝えると、食い物をと言われたので、食品を用意した。
この国の村なんかでは、金をもらっても使うことなど殆どなく、村の中では物々交換が当たり前で、金なんぞに価値はあまり無い。
死蔵している現金で食品が手に入ると聞いて大喜びで村人は色々買っていった。
手配書に乗っている奴らも数人見つけた。
家の方向もだいたい掴んだ。
この村は半数以上が手配書の人間だった。
「もしかすると、ここは盗賊や脛に傷を持つ奴らがたまっているんじゃないか?もしかして全員が犯罪者じゃないだろうな?」
流石に全員を捕まえるとなると骨が折れると思って、気付かなかったことにしたいと思ってしまったのは、バウンティハンターの名折れだろう。
取り敢えず夜、手配書に載っている奴らから捕まえて、生き物を入れられるマジックバックに収納していく。
十人を超えたところで泊めてもらっている家に戻って、一眠りして騒ぎが起きるのを待っていた。
しかし待てども暮せども騒ぎは起きなかった。
商品を売りながら「なんだか人数が少なくなったね?」と聞くと「仕事に出たんだろう」と答えがあった。
はぁ〜・・・この村の住人全員犯罪者か。
俺は世話になっている家の住人に、森に行って肉を手に入れてくると言って、村から離れマジックバックに入れた一人を取り出して、話を聞くことにした。
「頼むからもうあの中には入れないでくれっ!!」
「質問に答えろ」
「なんでも答えるよ!!だから入れないでくれよー!!」
「お前らが住んでいる村は全員犯罪者か?」
「テンツイ盗賊団のアジトなんだよー」
「本当か?」
「本当だよ。一番若い奴はまだ現場に出たことないけど、父親を殺して逃げてきたって言ってたから・・・」
キースはまたマジックバックに入れて、遠慮なく次から次へと捕まえることにした。
骨があったのは手配書に書かれていた奴らだけで、それ以外の奴らは抵抗もなくあっさりと捕まっていった。
親父を殺したという一番若い男を最後に捕まえて、住人全員を捕まえた。
親父殺しか・・・酷い父親だったのかなぁ〜?
村の家の中の売り物になる物品を全て空間収納へとしまって、盗賊が稼いだお宝を見つけてそれらも全て回収した。
頭目の家の物はいい物が多く、テーブルや椅子も全て手に入れた。
良い稼ぎになってホクホクしていると、背後から声をかけられ、十人ほどに囲まれた。
「お前、何者だ?!」
「バウンティハンターだよ」
キースを取り囲んだ男たちが一瞬怯んだが、十対一だということを思い出したのか、強気で襲いかかってきた。
キースは頭を掻きながら「では遠慮なく」と言って切りかかってきた男の剣を持つ手を剣の腹で叩き落とし、足を撫でるように切り裂いていく。
二人ほど殺してしまったが、致し方ない。残りが少なくなってくると逃げる方へ意識が向くのか、てんでんばらばらの方へと三人が走り出した。
投げナイフを投げて、二人倒して一人を逃してしまったので、仕方なく走って追い掛けて背後からナイフを投げてうっかり首を切り裂いてしまった。
死んだ者は時間停止の空間収納へ入れて、生きているものはマジックバックへと収納した。
「四十七人にこの村の稼ぎ、良い稼ぎになったね〜」
後二〜三日ここに泊まって、帰ってくる者がいないか待つとするか。
キースは誰もいなくなった村で一人のんびりと骨休めをした。
残念ながら三日も滞在したのに、戻ってきたのは四人だけだった。これ以上待っても戻ってくる気がしないので、三日後南に向けて出発することにした。
面白いほど人気がないです(笑)
ですが・・・まだまだ続きます。